二次創作小説(紙ほか)

25話 『四凶』・ビャッコ ( No.117 )
日時: 2013/12/13 20:36
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「くそっ、出て来いヤンチャム!」
「行け、アサナン!」
「まとめて吹き飛ばしてください。カエンジシ、爆音波」
 下っ端たちはそれぞれポケモンを繰り出すが、カエンジシの凄まじい爆音で瞬く間に吹っ飛ぶ。先ほどよりも威力が落ちているようだが、奇襲をかけた時の攻撃がいつも以上の力を発揮していたのか、それとも吹き飛ばしすぎるのも問題だと思い力をセーブしたのかは分からない。
「さて、ポケモンたちも解放しなくてはいけませんね。クレッフィ、お願します」
 リリエルが繰り出したのは、鉄色の輪っかにじゃらじゃらといくつもの鍵が付けられているポケモン。
 鍵束ポケモン、クレッフィ。
「クレッフィ、あのコンテナの鍵を開けてください」
 クレッフィはリリエルの指示に頷くと、スーッとコンテナまで移動し、鍵束につけられている鍵のうち、ピッキング用と思しき鍵をコンテナの南京錠に差し込み、回した。
 すると南京錠は簡単に開き、クレッフィがそれを弾くと、中から大量のポケモンが怒涛の勢いで飛び出し、どこかへ逃げ去ってしまう。
「ああ! 折角捕えたポケモンが!」
 などと叫ぶ下っ端をよそに、クレッフィは次のコンテナを開錠する。するとまた大量のポケモンが逃げ出した。
「ますます俺たちの出番がねえな」
「だね。下っ端も逃げるどころか吹っ飛ばされちゃったし」
 などと呟きながらレストたちもリリエルの元へやって来るが、その頃にはもうほとんど終わっていた。
 下っ端たちのポケモンはすべて戦闘不能、コンテナもすべて開け放たれ、彼らはもう何もできない。
「なんか終わったみたいっすけど、こいつらどうするんすか?」
「とりあえず、警察に引き渡しましょうか。そうすれば同時に、カオスについての情報も得られるかもしれませんし」
 呻く下っ端たちに、一歩、また一歩と三人は近づいていく。下っ端はじりじりと後ずさるが、その背後ではカエンジシが睨みを利かせていた。
 だが、

「そこまでだ!」

 どこからか、鋭い声が聞こえる。その声の方向に目を向けると、そこには一人の男が立っていた。
 上下共に白いカンフー服を纏い、髪も白いショートヘアの男だ。
「お前達だな? 我々のテントを吹き飛ばしたのは。テントで休んでいたらいきなり空に放り出され、こっちは危うく死ぬところだったんだぞ! どうしてくれる!」
 男は酷く憤慨していた。確かに、テントの中にいただけで急に吹き飛ばされれば怒りもするだろう。
「それに捕えたポケモンも逃がしやがって……覚悟はできているんだろうな?」
 怒りの形相で男はこちらに近づいてくるが、ある程度歩くと足を止めた。
「俺はカオス『凶団』、『四凶一罪』の一人、ビャッコ! カオスに対しこんな舐めた真似をして、ただで済まされると、思うなよ?」
「……レストさん、リコリスさん、下がってください。ここは私が」
 殺気立っているビャッコに、リリエルは一歩踏み出る。
「リリエルさん……」
「私は、あなた方よりもカオスという組織については詳しくありませんが、彼が他の下っ端たちとは違う、強者であることは見ればわかります。今でこそ嗜む程度にしかしていませんが、かつては私もトレーナーを極めようとした者。ここは、私に任せてください」
 そこまで言われたのであれば、レストも引き下がるしかない。レストとリコリスは、邪魔にならないよう後ろに下がった。
「フー……俺の相手はお前か」
「その通りです」
「いいだろう。見たところ、お前による被害が一番大きいみたいだしな。下っ端の仇なんぞを取るつもりはないが、ここで貴様を討ち取らせてもらうぞ!」
 というより、レストとリコリスは一切手を出していないため、カオスの被害の十割はリリエルの手によるものなのだが。
 それはともかく。
「手っ取り早く終わらせるぞ。勝負は一対一だ」
「いいでしょう。では、早く始めましょう」
 リリエルの言葉を皮切りに、二人はそれぞれボールを構える。
「頼みます、ファイアロー!」
「破ッ! コジョンド!」
 リリエルが繰り出したのは、赤く猛禽類のような屈強な体つきの鳥型のポケモン。
 烈火ポケモン、ファイアロー。
 対するビャッコのポケモンは、しなやかな肢体を白い体毛で包んだオコジョのようなポケモン。
 武術ポケモン、コジョンド。
「ファイアローは炎と飛行タイプ、コジョンドは格闘タイプだから、相性ではファイアローに分があるよ」
「だな。それに飛んでる相手じゃ攻撃も当てづらい。圧倒的にこっちが有利だな。」
 外野でそんなことを言っていると、ビャッコは鼻で笑い飛ばすように言った。
「それはどうかな? 苦手なタイプの対策をするのはトレーナーの常識、俺のコジョンドが飛行タイプの対策をしていないとでも思ったか?」
 と言うビャッコは、早速その対策を披露する。
「コジョンド、ストーンエッジ!」
 コジョンドは周囲に鋭く尖った岩を浮かべると、それらを一斉に射出する。
 格闘タイプに、飛行タイプ対策として岩技を覚えさせるのはメジャーだが、炎とも複合しているファイアローにはダメージが四倍となり、一撃でも致命傷になってしまう。
 しかし、
「ファイアロー、アクロバットです」
 ファイアローは目にも止まらぬ俊敏な動きで襲い掛かる岩を躱すと、コジョンドに急接近し、翼で打ち据えた。
「鬼火!」
 さらに、今度は怪しく燃える火の玉を浮かべ、コジョンドに火傷を負わせる。
「何っ!?」
「これであなたのコジョンドは火傷状態、攻撃力は半減ですよ」
 物理技を主体とする格闘タイプに、攻撃力が下がってしまう火傷状態は辛い。ビャッコも苦しそうな表情をしているが、
「だ、だが俺のコジョンドは物理技だけではないっ! コジョンド、波動弾!」
 コジョンドは手中に波動のエネルギーを凝縮させた球体を生成すると、それを高速で射出する。
「ファイアロー、旋回してください!」
 ファイアローは飛び上がり、空中を旋回して波動弾を躱すが、波動弾はファイアローを追いかける。
「無駄だ! 波動弾は必中技、躱すことはできん! コジョンド、跳び膝蹴り!」
 波動弾を振りきれないでいるファイアローに、コジョンドは素早く接近しようとする。だが、
「ならば……ファイアロー、フリーフォール!」
 ファイアローは急激に加速すると、すぐさまコジョンドを捕え、上空へと連れ去ってしまう。それでも波動弾は追ってくるが、しかしリリエルの狙いはこれだった。
「コジョンドを波動弾にぶつけてください!」
 ファイアローは捕えたコジョンドを、ファイアローを狙って地面と垂直に飛来する波動弾に向けて思い切りぶん投げた。
「なっ……コ、コジョンド!」
 当然コジョンドは波動弾の直撃を喰らい、さらにそのまま地面に投げ落とされる始末。度重なる攻撃で、ダメージも大きいだろう。
「ぐぬぬ……コジョンド、アクロバット!」
「ファイアロー、アクロバットです!」
 コジョンドとファイアローは、互いに超高速で動き回りながら相手の隙を突いての攻撃を仕掛ける。
 だが、コジョンドの攻撃はファイアローに届かず、コジョンドが攻撃を仕掛ける前にファイアローの翼がコジョンドを打ち据えていた。
「な、何なんだこの速さは……コジョンドのスピードが、まるで追いつかない……!」
 ビャッコがファイアローのスピードに戦慄していると、リリエルは静かに口を開く。
「……私のファイアローの特性は、疾風の翼」
「疾風の翼? ……!」
 疾風の翼とは、飛行技を繰り出すとき、通常よりも素早く繰り出せる特性だ。電光石火などの、俗に言う先制技の効果を飛行タイプの技すべてに付加させると言えば分かりやすいか。
「つまり、あなたのコジョンドは私のファイアローにスピードでは絶対に勝てない。この対戦カードが決まった時から、ファイアローの勝ちは確定していたのです」
 激しいが一方的な打ち合いで、遂にコジョンドが吹っ飛ばされる。まだなんとか持ちこたえているが、もう体力はほとんど残っていないだろう。
「ファイアロー、フレアドライブです!」
 ファイアローは全身に激しい爆炎を纏うと、コジョンドの周囲を高速旋回する。尾を引いていく炎は、やがて地面に落ち、そのまま燃え続け、コジョンドを包囲する。
「ま、まずい! コジョンド、とりあえず跳べ!」
 コジョンドは炎の包囲から抜け出すべく跳躍したが、それが間違いだった。
「ファイアロー、アクロバット!」
 空中に身を投げ出してしまえば、もう逃げることはできない。迎え撃つにしても、ファイアローの攻撃は速すぎる。
「っ、しまった——」
 直後、ファイアローの攻撃が一閃する。
 ファイアローがリリエルの元へと帰った時、コジョンドは地面に落ち、戦闘不能となっていた。



今回は新しい『四凶一罪』ビャッコの登場です。また中国っぽい奴を出せましたが、こいつはポケモンもチャイナ風です。まあ、作中ではボロ負けしてますけどね。結局ファイアローには一撃たりとも入れられませんでした。では次回、とりあえず今回の騒動の収集をつけて、次の街に行きたいと思います。ジムリーダーも出せるかな? というわけで次回もお楽しみに。