二次創作小説(紙ほか)

26話 『凶団』・スザク ( No.118 )
日時: 2013/12/13 22:57
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「さて、お望み通り手っ取り早く終わらせましたが、どうします?」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
 勝負に負けたビャッコは、弱ったように顔を歪めている。彼もまさか持ちポケモンがコジョンド一体ということはないだろう。残るポケモンで応戦することは可能だろうが、それはリリエルも同じ。
 本格的に追い詰められ、苦しい展開のビャッコ。下っ端はいつの間にか逃走しており、この状況に置かれたった一人で逃げられるわけもなかった。
 そう、一人では。

「敗北した上、逃げられずに困っているようだな、ビャッコ」

 どこか——いや、上空から声が聞こえる。
 その場にいた全員が、一斉に上を向き、その声の主を視認した。そして唯一、その人物に向かって声を発したのはビャッコだった。
「お、お前は……スザク!」
 スザクと呼ばれたその者は、掴まっていた鳥ポケモンから離れ、地上に飛び降りる。
 背の高い男だ。真っ赤な髪を肩より少し長いくらいまで伸ばしており、上から下まで黒いスーツを身に纏い、黒いソフト帽を被っている。眼つきはこちらを射抜かんばかりに鋭く、その風貌は、どことなくマフィアやギャングといった言葉を彷彿とされる。
「な、何故お前がここにいる!?」
「何故、とな。決まっている、お前の仕事があまりにも遅いから迎えに来た、それだけだ。だが……遅いどころか、失敗したようだな」
 スザクは鋭い眼光を周囲に向け、務めて無感動に言った。
「そ、それは……すまない。しかし、奴らの邪魔さえなければ——」
「言い訳はいい。それに、お前が失敗したとしても、セイリュウとゲンブも動いている。ここでの失敗は大きな痛手にはならない。とりあえず私はお前を回収するだけだ……だが」
 と言って、スザクは初めてこちらにその目を向ける。
「その障害となる輩は、排除するしかないな」
「……できるものなら」
 リリエルはファイアローを構えさせる。同時にスザクも、自身をここまで運んできたポケモンの高度を落とさせた。
 それは烏のようなポケモンだ。首回りを覆う白い毛と、テンガロンハットのような頭部が目を引く。
 大ボスポケモン、ドンカラス。
「ビャッコ、お前は先に戻れ。いても邪魔なだけだ」
「む、ぬぅ、致し方あるまいな……」
 スザクの辛辣な物言いに、しかしビャッコは反論できない。スザクの言うように逃走するためか、一体のポケモンを出す。
 暗い青色の装甲に身を包んだ、カブトムシのようなポケモン。頭部の一本の角が特徴的だ。
 一本角ポケモン、ヘラクロス。
 ビャッコはそのヘラクロスに抱えられ、飛び去ろうとする。
「! 逃がしませんよ!」
「追わせもしないがな」
 ビャッコを追いかけようとするリリエルを、スザクはドンカラスと共に制す。隙を見てレストとリコリスもビャッコを追おうとしたが、スザクの眼光で牽制されてしまう。
 そうこうしているうちに、ビャッコの姿は遥か遠くへと消えてしまった。
「逃げられましたか……仕方ありません。代わりにあなたから、いうろいろ聞かせてもらいます」
「それができればな」
 互いに睨み合うリリエルとスザク、そしてファイアローとドンカラス。
 両者、身じろき一つせず、タイミングを計っているのか、軽く言葉を交わす。
「さっきまで戦っていたそのポケモンで大丈夫なのか?」
「一撃たりとも攻撃は受けていませんので、問題ありません」
「そうか。ならばかかって来い」
「そうさせて頂きます。ファイアロー、フレア——」
 ファイアローが全身に纏うための炎を点火した、その時だ。

「ドンカラス、不意打ち」

 ファイアローは背後からドンカラスの攻撃を受け、吹っ飛ばされた。
「っ! ファイアロー!」
 完全に無防備な状態で喰らった一撃は、思いのほか重い。ダメージはそれなりに大きいだろう。
「かかって来いと言ったからといって、まさか馬鹿正直に突っ込んで来るとは。予想通りだ」
 淡々と言葉を並べるスザク。その口ぶりは、今の出来事がさも当然の結果だとでも言っているかのようだ。
「厄介な技を覚えていますね……」
 不意打ちとは、電光石火などと同じように相手よりも速く動ける、先制技の一つだが、他の先制技と決定的に違う点がある。それは、相手が攻撃を繰り出す寸前にしか使えないということだ。
「だったら、こういうのはどうでしょう。ファイアロー」
「挑発」
 リリエルがファイアローに呼びかけた瞬間、ドンカラスは翼の先端をくいくいっと曲げ、ファイアローを挑発する。ファイアローはその挑発に乗ってしまい、ドンカラスを攻撃的な視線で睨みつけ、リリエルの言葉が届かない。
「鬼火でも撃つつもりだったのか。残念だが、それもお見通しだ」
「っ……! なら、真正面から突破するまでです! ファイアロー、アクロバット!」
「ドンカラス、守る」
 ファイアローは超高速でドンカラスに接近し、翼を振るうが、ドンカラスの張った結界に防がれてしまう。
「電磁波だ」
 さらにドンカラスは、微弱な電磁波を放ち、ファイアローを麻痺させる。その光景に、リリエルはしまった、というような表情を見せる。
 リリエルのファイアローは特性、疾風の翼で飛行技なら先制できる。さらに素の素早さならドンカラスよりも速いはずだ。先制技同士なら素のスピードが速い方が勝つ。なので飛行技で先制し、不意打ちを潰そうと考えていた。
 しかし電磁波で麻痺させられたのではそうもいかない。麻痺してしまえば、そのポケモンの素早さは格段に落ちてしまうのだ。
「くっ——」
「ドンカラス、不意打ちだ」
 もはや指示を出そうとする素振りを見せる、その直前に不意打ちを繰り出してくるドンカラス。そもそも挑発されているためファイアローは攻撃技しか繰り出せない。そうなってしまえば、後はもう不意打ちで嬲られるだけだ。
 ことごとく動きを封じられるファイアローに、もう勝ち目は残されていない。
「……まあ、こんなところだろう。これ以上の戦いは無意味だ」
 不意打ちと挑発、さらには麻痺のせいで攻められず、リリエルとファイアローが動きを止めていると、ふとスザクはそんなことを言い出し、ドンカラスを下降させ、その足を掴む。
「いつまでも貴様らに付き合っていられるほど、我々も暇ではない。ここらで抜けさせてもらおう」
 と、言った次の瞬間。
 ドンカラスが大きく翼を羽ばたかせて突風を放ち、砂を巻き上げてレストら三人の視界を塞いでしまう。
「ぐっ……」
 思いのほか長い間、砂塵は吹き荒れていた。
 そして砂塵が収まる頃には、スザクの姿は消えていた。



「結局、逃げられてしまいましたね。申し訳ありません」
「いや、俺たちこそ何もできなかったわけですし、気にしないでください」
「そですよ。リリエルさんはポケモンたちを助けたんだし、それだけでも十分ですよ!」
「そうですか……ありがとうございます。そう言って頂けると、少しだけ気が楽になります」
 それから、レストとリコリスは、リリエルと別れた。リリエルは通行止めになっているカンネイシティ方面も気になると言って、レストたちが来た方向へと向かっていったのだ。
 そしてレストたちは、バタイシティがある西の方角へと、さらに歩を進めていく。



前回、次の街に到着するみたいなことを書きましたが、結局分けました。そのせいで随分と短くなりましたけど。今回はまた新しい『四凶一罪』のスザクが登場です。元ネタは多くの人が分かると思いますが、中国神話の四神です。なのでこれで、四神に出る霊獣は出尽くしましたね。ちなみに、スザクは中国マフィアをモチーフにして作ったキャラですが、どちらかというとイタリアンな感じになってしまっています。まあ中国モデルなのに牧師がいたりするので、さしたる問題はないでしょう。そう言えば、リリエルは既にビャッコとスザクの二人と戦っているんですよね。噛ませ犬っぽくなっているビャッコに対し、悪タイプらしい読みの強さを見せつけたスザクと、ちょっとバトルの展開が極端ですが。では次回、今度こそ遂にバタイジム到着です。ジム戦は次々回くらいでしょうが、ジムリーダーも登場させる予定ですので、次回もお楽しみに。