二次創作小説(紙ほか)
- 31話 北部山脈・チュリネ ( No.125 )
- 日時: 2013/12/23 14:18
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「ネロさんのサンドパンの特性はね、砂かきだと思うよ」
リコリスとの特訓、一日目を終えたレストは、ポケモンセンター宿舎にてリコリスからそう言われた。
「砂かき? 何だそれ」
「んーとねー、砂かきっていうのは、天候が砂嵐状態の時、そのポケモンの素早さが跳ね上がる特性だよ」
成程、それでネロのサンドパンは、あれだけのスピードを出せたのか、とレストは納得する。
「ってことは、あの砂嵐さえなんとかすれば、サンドパンのスピードは一気に落ちるってわけだな」
「そうだね。それでもあのサンドパンは結構速いと思うけど、砂嵐がなければ一方的に攻撃を受け続けるってことはなくなるはずだよ」
ネロ対策の一つ目は、砂嵐をなんとかするところにありそうだ。バトルを長引かせて砂嵐の時間切れを狙うのもいいが、長引けば長引くほどダメージを受けてしまうので、もう少し考えたいところだ。
「シナ姉みたいに、天候を変える技を覚えているかもしれないしね」
「だよなぁ……」
「それと」
リコリスはテールナーの身体をブラッシングしながら、テールナーとその横にいるラクライを見遣った。
「ポケモンの方もなんとかしないとね。はっきり言って、トレーナーの腕はレスト君よりネロさんの方がずっと上だよ。トレーナーの強さってっていうのは一朝一夕に身につくものじゃない。付け焼刃でちょっとやっと特訓したくらいじゃ、この差は埋まらないよ」
「う……分かってるっての」
「ならいいけどね。だからこそ、ポケモンの相性でアドバンテージを取らないと」
トレーナーとしての実力が劣るのなら、せめてタイプの相性だけでも有利にならなければ、勝つことは困難だ。リコリスが言いたいのはそう言うことだろう。
「つっても、俺が今まで捕まえたポケモンで、あの人の地面タイプに通用しそうなのはウデッポウぐらいだ。流石にレベルが低すぎるポケモンじゃ、相性がよくても勝てないだろ」
「そうだね。だから明日、行こうか」
「どこに?」
ブラシをかけ終えると、リコリスはくるくるとブラシを手の中で回し、まるでマイクを向けるかのようにそのブラシをビシッ、とレストに突き付けた。
「バタイ山脈。ポケモンを捕まえに行くんだよ」
バタイ山脈というのは、バタイシティを取り囲む山々の総称である。そのためバタイ山脈というと、一般的にはかなり広い範囲を指す言葉となり、普通は東部山脈、西部山脈といった風に、ある地域を指していう場合が多い。
そして今、レストとリコリスはバタイ山脈の北部へと足を踏み入れていた。
「へぇ、この辺は岩山じゃないんだな」
「そだよ。って言っても、かなり狭い範囲だけどね。ここら辺はわりと土壌がいいから、畑とかも結構あるんだよ」
言われて辺りを見回すと、確かにそれっぽいものが遠くの方で見えた。
「ここなら草タイプのポケモンとかもいるはず……お? 言ってる傍から」
リコリスはレストの腕を引っ張り、近くに茂みに身を潜める。その視線の先には、二匹のポケモンがいた。
一匹は、綿の塊のようなポケモン。綿の隙間からは黄色い目が覗き、体の両端には葉っぱが生えている。
綿玉ポケモン、モンメン。
もう一匹は、緑色の球根のようなポケモン。頭には三枚の葉っぱが生え、小さな体幹もある。
根っこポケモン、チュリネ。
「うわー……モンメンとチュリネだよ。この辺じゃレアなポケモンだよ」
「そうなのか? つっても、あんま俺好みじゃないんだが……」
なんというか、どちらもメスっぽいので、レストの琴線には触れない。どちらかと言えば、レストは格好良いポケモンを好む。
「そんなこと言わないの。どっちもすごいポケモンなんだよ。あー……それにしても、いいなぁ、モンメン……」
リコリスはキラキラした眼差しでモンメンを凝視していた。レストからすれば、あんな綿の塊みたいなポケモンのどこがいいのだろうか、と疑問を覚える。
「お前はあっちの、チュリネだったか? の方が似合ってんじゃねえの?」
「チュリネも可愛いけど、進化した後のことを考えればモンメンがいいの。決めた、あたしあのモンメン捕まえる。だからレスト君はチュリネをゲットね!」
「はあ!? 勝手に決めるなよ!」
と言うレストを無視して、リコリスは飛び出してしまった。
「出て来てププリン! エコーボイスだよ!」
ボールから飛び出したププリンは、反響する音波でモンメンとチュリネを攻撃。驚いて逃げようとする二体の動きを止めた。
「ったく、しゃーねえなあ! ラクライ、出て来い!」
あまり乗り気ではないが、ポケモンを捕まえること自体は悪くない。そう思いながらレストはラクライを繰り出す。
「俺たちの相手はあのチュリネだ。ラクライ、電光石火!」
ラクライは超高速で地面を駆け、チュリネに突っ込み、そして吹っ飛ばす。
「レスト君、ガンバ!」
「そっちもな」
互いに邪魔にならないよう離れ、それぞれの相手となるポケモンと向かい合う。
レストの相手、チュリネはむくりと起き上がると、体に力を込めるように溜めている。
「あれは、成長か……そっちがパワーなら、こっちはスピード勝負だ。ラクライ、電光石火!」
ラクライの超高速の突撃に、チュリネは対応できず吹っ飛ぶ。しかし空中で体勢を崩しながらも、頭部から無数の葉っぱを発射する。
「葉っぱカッターか? 来るぞラクライ、躱して噛みつく!」
ラクライは襲い来る葉っぱを跳躍して躱すと、牙を剥いてチュリネへと飛び掛かる。しかしその攻撃は躱される。
「ちっ、だったらもう一度! 噛み——」
その直後だ。
ラクライの背後から、さっき躱したはずの葉っぱが襲い掛かる。
「なっ、ラクライ!」
成長で威力が上がっているためか、ダメージは意外と大きい。
だがそれ以上に、レストの驚きは大きかった。
「躱したはずの葉っぱカッターが戻ってきた……? いや、そもそも葉っぱカッターじゃないのか?」
気になって図鑑を開くと、そこにはマジカルリーフと表示されていた。
「マジカルリーフ……電撃波と同じような必中技か。厄介だな」
躱せない上に、チュリネは成長で攻撃と特攻上げてくる。威力の高い必中技は厄介だ。
「なら、こっちも必中技だ! ラクライ、電撃波!」
ラクライは波状の電撃を放ち、チュリネを攻撃。しかし効果いまひとつなので、思ったほどのダメージはない。
そうこうしているうちに、チュリネは再び成長で攻撃能力を高め、続けてマジカルリーフを放つ。
「来るぞ、電撃波だ!」
ラクライは再び電撃波を放ち、マジカルリーフを相殺しようとするが、成長で威力が上がったマジカルリーフは波状の電撃を突き破り、ラクライを切り刻む。
「ぐっ、やっぱ無理か……電光石火!」
やはりスピード勝負に出るしかないようだ。ラクライを地面を蹴り、高速でチュリネへと突っ込む。
対するチュリネは、今度はただではやられない。頭部の葉っぱを振るい、ラクライを切り裂こうとする。
「居合切り! 物理技もあるのかよ」
成長は攻撃力も上げるので、またラクライが押し負けた。小柄なわりに、意外とパワーのあるチュリネだった。
「まだだ。真正面からが通じないなら——ラクライ、電光石火! チュリネを攪乱しろ!」
ラクライはまたしても高速で駆けるが、今度は直線では進まない。右へ左へと動き回りながら、チュリネの判断を惑わし、側面から一撃を叩き込む。
「いいぞ! 続けて噛みつくだ!」
ラクライは続けて牙を剥き、チュリネに突き立てる。
しかしチュリネも黙ってはいない。頭の葉っぱを振り回してラクライを切り付け、引き剥がした。
「電撃波!」
後退したラクライは波状の電撃をチュリネへとぶつける。しかしチュリネもカウンターでマジカルリーフを放ち、ラクライを切り刻んだ。
さらにチュリネは、続けてマジカルリーフを放つ。
「まずい……! 電光石火で振り切れ!」
ラクライは襲いかかる葉っぱを超高速で振り切ろうとするが、必中技のマジカルリーフは止まらず、やがてスタミナの切れたラクライに襲い掛かった。
「くそっ、ラクライ!」
チュリネの体力もそう多くないだろうが、ラクライの体力も残り僅か。もう一撃も喰らえないだろう。
「……こうなったら、まだ未完成だが、あの技を試すか」
あの技。それはラクライが、テールナーのバトルを見て習得しかけている技だ。不発も多く、まだ未完成だが、もし当たればチュリネには絶大な効果が期待できる。
「行くぞラクライ、集中しろ。狙いを定めるんだ」
ラクライは大きく息を吸い、チュリネをジッと見つめる。
チュリネはそんなラクライに、マジカルリーフを放つ。一直線にラクライへと襲い掛かる葉っぱの群れ。これを喰らえば、戦闘不能は免れない。
だが、しかし、
「ラクライ、弾ける炎!」
刹那、ラクライは口腔から火炎弾を放つ。
火の粉を散らすの炎は、マジカルリーフを焼き払い、そのままチュリネへと直撃。チュリネを炎上させる。
「成功……! まだフルパワーじゃないが、かなりいい感じだ」
小さくガッツポーズを取りながら、レストはボールを構え、炎に包まれるチュリネへと投げつける。
「行け、モンスターボール!」
ボールはチュリネにヒット。チュリネはボールの中へと吸い込まれていく。
カチッ、カチッ、とボールの揺れる音が鳴り響き、同時にレストの心拍数も上がっていく。ポケモンは何度も捕まえているが、捕獲が成功するかどうかの瞬間は、いつも緊張する。それがギリギリのバトルだったのなら、なおさらだ。
モンスターボールがしばらく揺れると、ふとカチンッ、という一際大きな音が鳴った。それっきり、ボールは動かない。
「……よっしゃ!」
またしてもガッツポーズを取り、ボールを拾い上げるレスト。このチュリネはかなり強かった。このポケモンなら、ネロにも通用するかもしれない。
「よかった、そっちも捕まえられたんだ」
背後から声がする。
「リコリス……そっちは?」
「もち、捕まえたよ」
ボールを見せつけるように掲げ、リコリスは笑う。思わずレストの表情も緩んでしまった。
「最初は舐めてたが、こいつはかなり強かった。草タイプだし、こいつがバタイジムでの秘密兵器になるはずだ」
「そっか。じゃ、次はその子の調整と、コンディションチェックだね。チュリネは特に体調とかを気遣わなきゃいけないポケモンなんだから、しっかりしてよね、レスト君」
「げ、マジか……俺、そういうの苦手なんだが……」
なにはともあれ、レストはチュリネの捕獲に成功した。バタイジムに、そしてネロにリベンジをする日も、そう遠くはないだろう。
はい、というわけで今回はレストがチュリネをゲットです。ちなみに、白黒としてはモンメン、そしてその進化形の方が好きなんですけどね。そちらはリコリスに譲りました。しかしチュリネとその進化形って、覚える技が極端に少ないんですよね。俗に言うザブウェポンが少ないと、小説としては描写がし難いので、なかなか苦労しそうです。まあ、その辺の対策もいろいろ考えていますけどね。それでは次回、遂にバタイジム再戦に移りたいと思います。お楽しみに。