二次創作小説(紙ほか)
- 33話 砂嵐・砂漠鰐 ( No.127 )
- 日時: 2013/12/24 21:08
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「戻れヒポポタス」
ネロはヒポポタスをボールに戻すと、少し思案してから次のボールを構える。
「前回は出さなかったが、今回は状況が違う。こいつを出させてもらうぜ。行って来い、ワルビル!」
ネロの二番手は、砂色の体に黒いライン。直立した鰐のようなポケモンだ。
砂漠鰐ポケモン、ワルビル。
ワルビルはボールから出て来るなり、鋭い目つきと唸るような声でテールナーを威嚇する。
「メグロコの進化形か……つーか、厳ついな……」
「これは特性威嚇だっての。厳ついのは元からだ」
特性、威嚇。効果自体は単純で、ボールから出ると相手の攻撃力を一段階下げるのだ。
「地面タイプなのは当然として、特性は威嚇か……」
実は、レストとリコリスはネロのもう一体のポケモンの特性を予想していた。砂嵐状態の時に発動する特性は、回避率をあげる砂隠れや、特定タイプの技の威力を上げる砂の力などがあるため、レストはそういった特性を持つポケモンが出て来ると予想していたのだ。
しかし、実際は違った。
「俺が砂嵐をメイン戦術に組み込んでることなんざ、有名な話だ。察しのいい奴なら地面タイプ使いってだけで警戒しやがる。そんでもって、そんな俺の対策として、天候を変えるのはかなりメジャーだ。なにも対策するのはてめぇらだけじゃねぇ、俺だって挑戦してくる奴の対策の傾向を分析し、その対策の対策を練るくらいはする。このワルビルは砂嵐が突破された時のためにいる。砂嵐がなくても戦えるようなポケモンを用意するなんざ、当然だろ」
「成程な……」
つまり砂嵐戦術がメインと言っても、ネロの手持ちで砂嵐を生かせるのはサンドパンだけということになる。
「しっかし、アテが外れたな。リコリスの言う通りだったか……」
リコリスはレストの予想に対して、ネロさんはそんな単純じゃない、と言い返したのだ。結果、リコリスの言う通りだった。
「まあ、それはそれだ。どの道、日本晴れでテールナーの方が高火力で有利。一気に攻めるぞ、炎の渦!」
テールナーは木の枝をぐるぐると回し、渦状の炎を放つ。
「当たるかよ! 穴を掘る!」
しかしワルビルは地中に身を潜めて炎の渦を回避。すぐさまテールナーの背後から飛び出し、飛び掛かる。
「来るぞ、後ろだ! グロウパンチ!」
「こっちもグロウパンチだ!」
振り向き様に、テールナーは裏拳のように拳を繰り出す。対するワルビルも同様に拳を構え、突き出す。
双方の拳が真正面から激突するが、攻撃力ならワルビルの方に分があり、テールナーが押し負けてしまう。
「くっ、怯むなテールナー! 炎の渦!」
だがテールナーもただではやられない。素早く枝を構えて炎の渦を放ち、ワルビルを渦の中に閉じ込めてしまう。日本晴れで火力も上がっているため、抜け出すのは困難だろう。
「そこだ! ニトロチャージ!」
そして炎を全身に纏い、さらには推進力としても利用し、ワルビルに突貫。ワルビルを吹っ飛ばす。
「まだまだ! 炎の渦!」
空中に投げ出されたワルビルに標準を合わせ、テールナーは炎の渦で追撃をかけようとするが、
「ちっ、こんくらいでへばってんじゃねぇぞ! ワルビル、バークアウト!」
それより早く、ワルビルがけたたましい叫び声を発する。耳をつんざくようなその声に、思わずテールナーは怯んでしまった。
「この隙を逃すな! グロウパンチ!」
着地したワルビルは、一気に地面を駆けてテールナーに接近。硬くなった拳を突き出してテールナーを殴り飛ばす。
「ぐぅ、とりあえずワルビルの動きを止めねえと。テールナー、炎の渦!」
テールナーはまたしても渦状の炎を放ち、ワルビルを束縛しようとするが、
「ワルビル、バークアウト!」
再びワルビルが咆哮し、テールナーを攻撃すると同時に炎の渦を消し飛ばしてしまう。
「……?」
その現象に疑問を覚えるレスト。たかが炎の渦とは言え、日本晴れの影響で火力は確かに上がっているはず。それなのに、ワルビルの咆哮一つで簡単に消し飛ばされてしまった。
(今の技は特殊技っぽいが、ワルビルは特攻が高いようには見えない……どうなってんだ?)
募る疑念を払拭したいレストだが、ネロはそれを待ってくれない。
「ワルビル、グロウパンチ!」
「っ、考えても始まらねえか。テールナー、炎の渦!」
肉弾戦になると、攻撃力の高いワルビルがどうしたって有利だ。なのでテールナーは、ひとまず炎の渦でワルビルの動きを止めようとするが、
「なに!?」
なんと、ワルビルは炎の渦を強引に突っ切ってテールナーに接近し、殴り飛ばしたのだ。
「テールナー! 大丈夫か?」
なんとか起き上がるテールナー。しかし、ワルビルの攻撃力はもう二倍以上に膨れ上がっている。
それより不可解なのは、さっきのワルビルだ。炎の渦を強引に突き破ったが、しかしあれは、ワルビルがどうこうというより、炎の渦自体の火力が落ちていたように見えた。いや、実際に落ちている。
疑似太陽はまだ出ている。なら、何が原因でそうなってしまったのか。レストは記憶を辿り、一つの技が思いつく。
「! バークアウト……!」
「やっと気づいたか。遅ぇっての」
慌てて図鑑で検索すると、バークアウトなる技の解説が表示された。
「攻撃と同時に特攻を下げる技か……厄介だな」
もはやテールナーの特攻は半分以下に落ちている。特殊技は使い物にならないだろう。
かといって物理技で接近戦をしかければ、グロウパンチで攻撃力の上がっているワルビルが圧倒的に有利。もともとテールナーは特殊攻撃の方が得意なので、かなり苦戦するだろう。
「真正面からのぶつかり合いじゃ勝ち目はない……なら、スピード勝負だ! テールナー、ニトロチャージ!」
テールナーは全身に炎を纏い、ワルビルへと突っ込む。
「ワルビル、穴を掘る!」
しかしその攻撃も、地中に潜ったワルビルには届かない。
「来るぞテールナー!」
直後、テールナーの足元の地面が揺れ、ワルビルが這い出て来る。
穴を掘るのパターンはほぼ完全に読み切っている。テールナーはバックステップでワルビルの一撃を躱すと、すぐさま前進し、
「グロウパンチだ!」
拳を繰り出す。テールナーの拳はワルビルに直撃し、ワルビルを殴り飛ばした。効果抜群なので、ダメージはそれなりに通っているはず。
「もう一発グロウパンチ!」
「させるかよ! ワルビル、炎の牙!」
テールナーが突き出す拳を屈むように躱し、ワルビルは炎の灯った牙をテールナーに突き立てる。
「なっ……炎の牙!?」
炎の牙、名前からも分かるように、炎タイプの技だ。テールナーには効果いまひとつだが、グロウパンチで攻撃力の上げているワルビルなら、半減されてもお釣りが来る。さらに今の天候は晴天。炎技の威力が上がるのはテールナーだけではない。
「ぐっ、振り払えテールナー!」
しかし胴体に噛みつかれているので、それも難しい。ワルビルとの距離が近すぎるせいで物理技が打ちにくいというのもある。サイケ光線なら至近距離から放てるが、悪タイプと複合するワルビルには効果がない。
「ぶん投げろ!」
そうこうしているうちに、ワルビルは顎の力だけでテールナーを持ち上げ、そのまま空中に放り投げてしまう。
「バークアウト!」
そこにワルビルは、けたたましい咆哮で追撃。さらに、
「グロウパンチだ!」
跳躍して拳を振り下ろし、テールナーを地面に叩きつける。
幾度と攻撃の上がったワルビルの拳の威力は相当なものだ。まだ辛うじて立っているが、テールナーの体力ももう限界だろう。
「だが、ピンチの時こそチャンスだ! テールナー、ニトロチャージ!」
テールナーは全身に炎を纏ってワルビルに突貫。しかも纏う炎は、晴天だけでなくテールナーの特性、猛火でも強化されている。その火力は尋常ではないだろう。
「いくら威力を上げようが、当たらなきゃ意味はねぇだろ! ワルビル、穴を掘る!」
テールナーの突撃を、ワルビルは地中に身を潜めて回避。
「来るぞ!」
その直後、テールナーの背後からワルビルが飛び掛かる。それを予期していたテールナーはサッと横に逸れてワルビルの攻撃を躱し、
「ニトロチャージ!」
炎を纏い体当たり。ワルビルを吹っ飛ばした。
直撃なので、ダメージは大きいだろう。
「まだだ! 炎の渦!」
さらにテールナーは、渦状の炎を放って追撃をかける。だが、バークアウトで特攻を下げられすぎた。その火力は、猛火が発動しても微々たるものだ。
「穴を掘る!」
しかしワルビルは、この炎を地中に潜って躱す。
「後ろか……いや、下だな。テールナー、後ろに躱せ!」
下から襲い掛かってくると予想したテールナーは、バックステップでワルビルの攻撃を躱そうとする。実際、ワルビルはテールナーの足元から這い出て来た。
しかし、
「させるかよ! 炎の牙!」
突如、テールナーの背後に火柱が立つ。
「なにっ……!?」
一瞬だったとはいえ、その火柱に自ら突っ込んでいったテールナーは、体勢を崩してしまった。
そして、その隙はこの局面で大きな弱点となる。
「ワルビル、炎の牙!」
完全に地面から出て来たワルビルは、炎の灯った牙をテールナーに突き立てる。深々とその牙を突き刺し、炎で身体の表面を焼くと、そのままレストの足元へと投げ捨てた。
「テールナー!」
満身創痍だったテールナーは、効果いまひとつとはいえその攻撃で完全に戦闘不能となってしまう。
「……よくやったテールナー。戻って休んでろ」
テールナーをボールに戻すレスト。これで残るポケモンは、あと一匹。
「何だかんだ言って、思ったより大したことなかったな。結局、日本晴れの恩恵を受けてもてめぇのテールナーは俺のポケモンに勝てなかった。はんっ、つまんねぇ結果だ」
吐き捨てるように言うネロ。しかしワルビルだって、テールナーとのバトルでかなり消耗しているはずだ。そんな一方的に言えることではないだろう。
勿論、ネロのこの言葉は半分くらいは挑発だ。ネロの強い語調で、口の悪いことを言えば、小心者のトレーナーなら怯えてしまう。そうでないトレーナーも、迷いが生じる。
だがネロが求めているのは、そんな弱いトレーナーではない。何と言われても堪えることのない、強いトレーナーだ。
そしてレストは、今度はそんなネロの言葉にも動じなかった。むしろ強気に出て、一つのボールを突き出す。
「つまらない結果? だったらその結果、面白くしてやりますよ。この、俺が最後まで取っておいた秘密兵器で」
「あ?」
そう言えば、ジム戦が始まる前に、秘密兵器がどうこうと言っていた気がする。そんなことを思い出すネロは、また舌打ちする。
しかし内心では、その秘密兵器に対する興味で、これでもかというほど鼓動が高鳴っていた。
「……いいぜ。だったら、てめぇの秘密兵器とやら、見せてみやがれ!」
「言われなくても!」
レストは最後のボールを構える。
そして渾身の力を込めて、そのボールを投げ放った。
バタイジム再戦、その二です。ネロの二番手はワルビル、厳ついネロにはぴったりですね。ともかく、作中でも言及していますが、ネロは砂嵐を対策された時のために、砂嵐に関係のない特性を持つワルビルをメンバーに入れています。なので砂嵐の恩恵をまともに受けられるのはサンドパンだけですね。ちなみに、白黒は結構サンドパン好きです。あの、格好良いとも可愛いとも言える絶妙な感じがいいです。とはいえ、そこまで好きでもありませんが。では次回、たぶんバタイジム再戦、決着です。そしてレストの秘密兵器が登場。お楽しみに。