二次創作小説(紙ほか)

34話 バタイジム再終戦・砂塵のサンドパン ( No.128 )
日時: 2013/12/26 08:40
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「最後はお前だ! チュリネ!」
 レストの最後のポケモンは、新参のチュリネ。
「……はんっ、ちっとは期待してたが、ただの草タイプか。弱点を突けるってだけで、俺に勝てると思ってんのか?」
「思ってませんよ、言ったでしょう、秘密兵器だって。ま、こいつのバトルを見ればすぐに分かります」
「……ちっ、まあいい。ワルビル、炎の牙!」
 ワルビルは牙に炎を灯し、チュリネへと突っ込んでいくが、
「チュリネ、マジカルリーフ!」
 チュリネも念力を帯びた葉っぱを無数に飛ばし、向かい来るワルビルを切り刻む。
 その攻撃で、ワルビルは戦闘不能となった。
「っ……!」
 効果抜群ではあったが、まさか一撃で戦闘不能になるとは思っていなかったのだろう。ネロは少しだけ目を見開く。
「意外とパワーあるじゃねぇか、そのチュリネ。戻れワルビル」
 少しは見直した、と言うようにチュリネを評価し、ネロはワルビルをボールに戻す。これでネロのポケモンも、残り一体だ。
「砂嵐はねぇが……チュリネが相手なら問題なしか。覚悟しとけよ、砂かきが発動しなくとも、サンドパンは俺のエース、俺の手持ちでは最強だ」
 本当のことだが、レストを脅す意味もある発言だろう。しかし今のレストは、ネロに何を言われようと臆すことはない。
「でしょうね。そうでないと、面白くないっすよ」
「ちっ……後悔すんなよ。行って来い、サンドパン!」
 ネロの舌打ちと共に飛び出すのは、予告通りサンドパンだ。
「サンドパン、辻斬り!」
 両手の爪を構え、サンドパンはチュリネへと特攻。砂かきが発動していないため、やはりそのスピードは以前戦った時よりも格段に落ちている。
 そしてその程度の速さなら、チュリネでも対応できる。
「チュリネ、マジカルリーフで迎え撃て!」
 突っ込んで来るサンドパンに、チュリネは念力を帯びた葉っぱを射出する。
「何度も言ってるが、んな単調な攻撃なんざ当たらねぇよ! 穴を掘る!」
 サンドパンは辻斬りを中断し、地面にダイブするように穴を掘り始めると、瞬く間に地中へと逃げてしまった。
「来るぞチュリネ! ジャンプだ!」
 チュリネはネロのポケモンと戦ったことがないので、穴を掘るのパターンが読めない。そのため、サンドパンが穴を掘ったとほぼ同時に跳躍し、サンドパンの一撃を回避する。
「だが、跳んだな? 空中に逃げ場はねぇぞ! サンドパン、辻斬り!」
 ネロの言う通り、空中に身を投じてしまえば、身動きはできない。地中から出て来たサンドパンは、爪を構えてチュリネへと突っ込でいく。

 しかし、その爪がチュリネに届く前に、無数の葉っぱがサンドパンを切り刻んだ。

「っ!」
 またしても目を見開くネロ。どこからともなく飛来した葉っぱの奇襲を受け、サンドパンは為す術もなく落下する。
「そこだチュリネ! 居合切り!」
 そしてチュリネは、隙のできたサンドパンに接近し、頭部の葉っぱで切り裂いて追い打ちをかける。
「ちっ、振り払え! 岩雪崩!」
 まだ体勢を立て直せていないものの、サンドパンは虚空より無数の岩石を降り注ぎ、チュリネを引き剥がした。
「今のは……マジカルリーフか」
「正解です」
 サンドパンを奇襲したのは、チュリネが最初に放ったマジカルリーフ。
 何度も言うが、ネロのポケモンで厄介なのは穴を掘るだ。ヒポポタスもワルビルも、こちらの攻撃を躱しつつ攻撃を仕掛けてくる穴を掘るを使用し、レストを苦しめたが、サンドパンも例外ではない。
 そんな穴を掘るの対策になるのが、マジカルリーフ。後からリコリスに聞いて知ったのだが、ネロのポケモンの穴を掘るは、通常のポケモンより穴を掘っている時間が極端に短い。だから攻撃を躱されてから、反撃を受けやすいのだ。しかしマジカルリーフなら、一度攻撃を躱されても、自動で相手を追尾してくれるため、打ち消されない限り最終的には攻撃がヒットする。しかも地面タイプには効果抜群だ。
「成程な、秘密兵器の名は伊達じゃねぇってか。だが、それだけで勝てると思ってんな、最終的に攻撃が当たっても、サンドパンの攻撃を躱せなきゃ意味はねぇ。サンドパン、辻斬り!」
「チュリネ、マジカルリーフ!」
 またしても特攻するサンドパン。対するチュリネも同じようにマジカルリーフで迎え撃つが、
「躱せ! 穴を掘る!」
 サンドパンは地中に潜って穴を掘るを回避する。
「すぐに攻撃が来るぞ! ジャンプだ!」
 ネロのポケモンの中で最も穴を掘るの攻撃間隔が短いサンドパン。穴を掘るのとほぼ同時に、チュリネは跳躍する。
 サンドパンは地面から這い出るが、そこにチュリネはいない。代わりに正面から、折り返してきたマジカルリーフがやって来る。
「相殺しかねぇだろうな……岩雪崩!」
 サンドパンは正面に無数の岩石を落とし、迫ってくる葉っぱをすべて押し潰す。だが、
「マジカルリーフだ!」
 今度は上空から、新たなマジカルリーフが襲い掛かる。
「ちっ、面倒くせぇ。下がれサンドパン!」
 サンドパンは一度、バックステップで距離を取り、
「岩雪崩だ!」
 すぐさま岩石を落として葉っぱを押し潰す。辻斬りで切り裂く手もあるがリスキーすぎるため、この方法で相殺するしかないようだ。
「チュリネ、成長だ!」
 サンドパンとの距離ができたことをいいことに、チュリネは自身を成長させ、攻撃能力を高める。しかも日本晴れでその効力は二倍、一気に攻撃と特攻が膨れ上がった。
「自然の力!」
 そしてチュリネは、周囲の自然地形の力を借りて攻撃を仕掛ける。ここは建物の中だが、フィールドは砂漠のような砂。その大地の力を借り、大量の土砂を噴射する。
「大地の力か……躱して辻斬り!」
 地面から噴射される土砂を躱しながら、サンドパンは爪を構えて駆ける。地中での生活にも慣れているサンドパンなら、地中からの攻撃を察知するのも容易い。
「だったらマジカルリーフだ!」
「横に跳べ! 岩雪崩!」
 チュリネはまたしても念力を帯びた葉っぱを発射する。しかしこう何度も攻撃されれば、流石にそのパターンも読めてくる。サンドパンは左に大きく横っ飛びすると、地面を転がりながら虚空より岩を降り注ぎ、葉っぱをすべて押し潰してしまった。
「そこだ! 居合切り!」
 だがその隙に、チュリネもサンドパンに接近しており、頭部の葉っぱで切り裂く。チュリネの攻撃力は低いが、成長で強化されているので決して弱い一撃ではない。
「ちっ、辻斬りだ!」
「避けろ! サンドパンから距離を取れ!」
 サンドパンも爪を振るって反撃に出るが、チュリネのややオーバーな回避動作で避けられてしまう。
 隙を突く攻撃ならともかく、チュリネが接近戦でサンドパンに勝てるとは思っていない。深追いはせず、基本的には遠距離攻撃をメインに据えたスタイルで戦っていく。
「ちっ、このままじゃ埒が明かねぇ……!」
 そんなチュリネの戦い方に苛立っているのはネロだ。攻撃はことごとく躱され、逆に相手の攻撃を必死に躱さなければならない。ただの殴り合いならともかく、この一方的な状況は面白くない。
「しゃーねぇ、ここは根性見せる時だ。気合い入れろよ、サンドパンッ!」
 ネロは怒声染みた発破をかけ、サンドパンに指示を出す。
「辻斬り!」
 サンドパンは爪を構え、チュリネへと駆ける。その動きは、心なしか勢いを増しているように感じた。
「来るぞ、自然の力だ!」
 対するチュリネは、自然の力を借りて地中から土砂を噴射しサンドパンを止めようとするが、すべて躱されしまう。
「やっぱダメか……なら、マジカルリーフ!」
「穴を掘るだ!」
 チュリネが放つマジカルリーフを、サンドパンは地中へと潜って回避。
「跳べ、チュリネ!」
 サンドパンの反撃が来る前に、チュリネはジャンプ。直後、サンドパンが地面から這い出て来るが、そのサンドパン目掛けて念力を帯びた葉っぱが折り返してくる。
「知ったことかよ! サンドパン、お前も跳べ!」
 岩雪崩でマジカルリーフを相殺すると読んでいたレストだが、ネロの指示は違った。サンドパンはマジカルリーフが追ってくることも厭わず、一直線にチュリネ目掛けて跳躍する。
「っ、マジカルリーフだ!」
 それでもチュリネはマジカルリーフを繰り出す。真正面から無数の葉っぱに巻き込まれるサンドパン。さらに前に放っていた葉っぱも追いつき、二重にサンドパンを切り刻む。
 しかし、サンドパンは止まらない。そして、

「サンドパン、毒突き!」

 サンドパンは爪の先端を、チュリネへと突き刺した。
「!? チュリネ!」
 真正面から攻撃を喰らったのは、チュリネもだ。効果抜群の一撃を至近距離から叩き込まれ、チュリネは吹っ飛ばされ、落下する。肺z馬手の一撃、たった一撃だが、その一撃でチュリネは戦闘不能寸前だ。
「まさか毒技を持ってたとは……!」
 完全に盲点だった。サンドパンの四つ目の技については気をつけていたが、ここまでまったく見せる素振りがなかったので、この状況では使えない技だと思い込んでいた。
「先週のジム戦は単純に出し損ねただけだが、てめぇの三体目がチュリネだと分かった時点で、この技は温存するつもりだった。あとはどのタイミングで叩き込めるかを探っていたが……無理やり突破するだけで十分だったか。ちっ、面白くねぇな」
 つまらなそうに舌打ちするネロ。その真意は分からないが、ともかくレストとしてはまずい状況だ。
 チュリネはあと一撃でも攻撃を喰らえば戦闘不能になってしまうだろう。マジカルリーフなどでサンドパンを攪乱しつつ、地道に攻撃を当てていく手も取れるが、サンドパンは無理をすれば、チュリネの攻撃を正面から受け切った上で攻撃を仕掛けてくる。
 素の実力は高いものの、戦闘経験の浅いチュリネが、自らを省みなくなったサンドパンの猛攻を躱しつつ、サンドパンの体力を削り切れるほど攻撃を繰り出せるとは思えない。恐らく、避けるだけで精一杯だろう。
 ——ならば、
「とにかく攻撃しまくる! チュリネ、マジカルリーフだ!」
 チュリネは念力を帯びた葉っぱを無数に射出する。それも絶え間なく、連続で何度も何度も葉っぱを撃ち出し、サンドパンに襲い掛からせる。
「最後の最後で賭けに出たか……ちっとは面白ぇことしやがるじゃねぇか。受けて立つ! サンドパン、毒突き!」
 突風の如き勢いで押し寄せる大量のマジカルリーフに、サンドパンは真正面から突っ込んでいく。爪の先端から毒素が滲み出しており、その毒素で多少の葉っぱは削り取られるが、そんなものは焼け石に水。あってもなくても同じ。
 チュリネのマジカルリーフがサンドパンを削り切るか、それともサンドパンがチュリネの猛撃を耐えきってとどめを刺すか。最後の最後で底力の試される競争となった。
 ひたすら葉っぱを撃ち続けるチュリネと、葉っぱの嵐を掻き分けて進むサンドパン。どちらがこの競争に打ち勝つのか。
 体感的に、長い時間が流れた気がする。そして、

 サンドパンが、無数のマジカルリーフのから抜け出した。

「サンドパン、毒突き!」
 あの嵐の中から抜け出しさえすれば、あとはとどめを刺すだけだ。チュリネは攻撃の疲れもあり、もう動くことはできない。サンドパンは爪を振り上げると、その先端をチュリネ目掛けて——振り下ろす。
「チュリネ!」

 ——ザスッ

 そんな、手応えのない音がジムの中に響き渡った。
「……ちっ、耐え切れなかったか」
 サンドパンの爪はチュリネ——の脇の地面を突き刺しており、サンドパンは前のめりに倒れる。
 サンドパンは、戦闘不能となっていた。



「俺の負けだ。最後のチキンレースで根性負けするとは、情けねぇ。自分が恥ずかしいったらありゃしねぇな」
 サンドパンをボールに戻すと、ネロは砂地のフィールドを踏みしめながらレストの元へと歩み寄る。
「負けた以上、俺はてめぇを認めざるを得ねぇ。ジムを出てった時は、また腰抜けが来たもんだと思ったが、そうでもなかったな」
「う、それを思い出させないでくださいよ……」
「気にすんなよ、んなこと。あんまうじうじしてんな、ムカつくだろうが」
「は、はぁ……」
 言葉は粗雑で、荒っぽく、喧嘩腰ではあるが、その声はどこか落ち着いており、温かみすら感じた。
「さて、御託はもういいだろ。ほらよ」
 ネロは懐から小さな箱を取り出し、蓋を開ける。そこには、材質は違うだろうが、縮小した砂の城のようなバッジが収められていた。
「バタイジムを制覇した証、デザートバッジだ」
「……ありがとうございます!」

 かくして、レストはネロへのリベンジを果たし、三つ目のジムバッジを手に入れたのだった。



はい、予告通り今回でバタイジム戦は終わりです。五千文字を超える長文となってしまいました。バトルの内容に関しては特に言うことはないですね。最初のジム戦では二番手で出たサンドパンですが、このサンドパンがネロのエースです。初戦では砂嵐が消える前に砂かきを発動させたかったので、二番手で出したという設定です。あと、グロウパンチで攻撃力が最大になったテールナーにワルビルは相性が悪いと判断した、というのもありますが。デザートバッジについてですが、まあ大抵の人は分かると思いますが、デザートとは砂漠という意味です。決して食後に出て来る食べ物ではありません。地割れを意味するクラックバッジ、という案もあったのですが、直前のダンジョンが砂丘で、フィールドも砂地だったので、砂漠を意味するデザートバッジにしました。さて、次回ですが、特に決めていません。ただ、白黒のプランではバタイシティ編はかなり長くなりそうです。まだバッジ三つなのにね。では、次回もお楽しみに。