二次創作小説(紙ほか)

1話 新人・トイロ ( No.2 )
日時: 2013/11/30 12:39
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「トレーナー……ですか」
「うん、私はね、新米トレーナーの旅立ちを後押しする役目もあってね、具体的には最初のパートナーになるポケモンを渡したりするんだよ」
 それは知っている。各地方の博士と呼ばれる人物の中には、これからトレーナーになる少年少女をサポートする役割を担う者もいる。
「それでね、実は君と同年代の子が一人、もうすぐトレーナーになるんだよ」
「俺と同年代? また珍しいですね」
 自分も人のことを言えないが、十代半ばでまだトレーナーにならないというのは珍しいことだ。
「だからね、どうせなら一緒に旅立つのもありなんじゃないかなーと思ったんだよ。一人より二人、同時に旅立つ相手がいるっていうのは重要だよ? ちょっと変わった子だけど、レスト君にもいい刺激になると思うよ」
 前置きやら理由やらなんやら言われたが、要するにトレーナーにならないかという誘いだ。
 そんなことを聞かれては、返答は一つに決まっている。
(こっちの地方に来たら、もしかしたらとは思ったが……こんなに早く、この時が来るなんてな)
 緩む頬を抑え、少し呼吸を整えてから、

「なります。トレーナーに」

 レストは、宣言した。



 テイフタウンはホーラ地方の北東にある小さな町だ。特徴といえる特徴はなく、片田舎という感じで緑と人工が程よい割合で混在している。
 そんな中でも目立つものがあるとすれば、それはこの町で最も大きな建造物、テイフタウンの中央に鎮座するシャロット博士の研究所だ。
「ここか、研究所っていうのは」
 翌日、レストは研究所の前まで来ていた。
 昨日はこの町に建てられた新しい住まいで長旅の疲れを取り、母親にシャロットの申し出のことを話した。母親もレストが今までポケモンと触れ合えなかったことを気にしていたのか、快く快諾した。ただ、レストの送迎に関しては一悶着あったのだが、ここでは関係ないので割愛する。
「……失礼します」
 レストはゆっくりと扉を開ける。中は外観ほど広くない、と思ったが、奥にいくつも扉があり、半開きになった扉の奥には階段もあった。
 しかしそんなことよりも先に目についたのは、部屋の中央あたりで棒立ちになっている人物。背中をこちらに向けているので表情などは分からないが、服装からして女、体格からして少女であることが窺える。
「……あの」
 静かに扉を閉め、研究所の中に入っていく。そして微動だにしない少女の傍まで寄って、顔を覗き込む。すると、
「って、寝てる!?」
 少女の瞼は落とされており、閉じられていた。要するに寝ている、それも立ったまま。
 人間の境地ともいえる状態を易々と見せつけられ、レスト思わず叫ぶと、少女の目がパッと目を開いた。
「……はっ。寝てないよ」
「いや寝てただろ完全に」
 少女の言い訳を否定しつつ、彼女の容姿に目を向ける。
 年齢はレストと同じくらいだろうか。 背丈は普通だが、わりと痩せているように見える。肌は白く、少々外ハネした薄ピンク色の髪をセミロングにしており、全体的に色素が薄いこともあって虚弱的にも見えた。だがそれくらいで、大きな特徴といえる特徴は見受けられないが、ニャスパーだったかニャオニクスだったかをモチーフにしたような猫耳のフードがついた黒いカーディガンがいっとう目を引く。
 恐らく彼女はシャロットが言っていた人物だ。レストと同年代で、この日にシャロットからポケモンを受け取りトレーナーとなる少女だろう。
「えーっと、あんたがシャロット博士の言ってた、今日トレーナーになるっていう奴か?」
「うん、たぶん。そう」
「たぶんて……」
 確認を込めて言ったが、確認したらかえってそうなのか不安になった。まあ、言葉の綾だろうが。
「俺はレスト。昨日ホーラ地方に来たばっかで、この町に引っ越してきたんだ。お前は?」
「んっと、私はトイロ、だよ。よろしく?」
「何で疑問形なんだよ……まあいいか。よろしくな」
 ぼんやりしているからか、微妙にテンポの合わない。
 調子狂うなぁ、などとレストが思っていると、いくつかある扉のうち一つが開き、中からシャロットが出て来た。
「あ、レスト君も来てる、これで揃ったね」
 シャロットは三つの箱を抱えており、それらを適当な机の上に置くと、レストとトイロに向き直った。
「改めまして、私がホーラ地方の研究者、シャロットだよ。カロス地方のプラターヌ博士と提携して、ポケモンの進化について研究しているね」
「ポケモンの進化?」
 復唱するレスト。しかし進化が分からないというわけではない。
 ポケモンは成長途中で進化する生物だ。進化すれば、基本的にそのポケモンは強くなる。そしてポケモンが進化するためには、戦いの経験を積んだり、ある物体を触れさせたり、特定の場所に連れて行ったり、また人の手に渡ることで進化するなど、様々な条件がある。
「そう、進化。特に進化しきったポケモンの更なる進化について研究してるんだけど、まあその話は今はやめておいた方がいいかな。それよりも、君たちに渡すものがあるよ」
 レストとしては気になる研究テーマだったが、それよりも一刻も早くトレーナーになりたい、ポケモンを持ちたいという願望が勝ったのか、引き下がる。
 シャロットは机に置いた箱のうち、唯一透明なフィルターのようなもので覆われたケースを抱え、上部と下部を接続する中央の留め具を外す。中に入っていたのは、三つの赤い球体。
 中にポケモンが入っている、モンスターボールだ。
「じゃあ、この三つのボールのうち一つを選んでね」
 と言って、箱を差し出すシャロット。しかし、レストもトイロも動かなかった。というのも、
「……え、あれ。博士、あの、ボールの中のポケモンは……」
「ん、見せないよ? それがどうかしたかな?」
「いや、見せないってそうもサラッと言われると反論しづらいんすけど……えーっと、こういうのって、どのポケモンを選ぶか、ポケモンを見て決められるんじゃ……?」
 レストの中の知識ではそうだった。しかしシャロットは、
「それじゃあ面白くないよ。どのポケモンが自分の最初のポケモン、パートナーになるのかが分からないこのドキドキ感、それがいいんだよ。それとも何かな? レスト君はポケモンを選り好みするような人なのかな? 自分の趣味に合わないポケモンはどうあってもパートナーにしたくなって言うのかな?」
「っ、んなこたないですよ! どんなポケモンだって、平等に仲間にできます!」
 そこまで言われてはレストも引き下がる、ある意味では食い下がっているが。
「それじゃ、ボールを開けないで選んでね」
 計画通り、と言わんばかりの笑みを見せるシャロット。しかし興奮しているレストはその思惑を読み取れず、しばし悩んでから、直感で箱の中のボールを一つ、手に取った。
「俺はこれにします! ……って、そうだ。悪いなトイロ、俺が先に選んじまったけど——」
 思わず先行して選んでしまったが、本来なら順番はトイロと相談するべきだった。そう思って彼女の方を向くが果はたして彼女の瞼はまたも落ちていた。
「って、また寝てるし!」
「……はっ。寝てないよ」
「いやそれさっきも聞いたけど、絶対寝てただろ。もういいや、ほら、お前の番だ。ポケモン選べ」
「……うん」
 トイロはスッと箱に手を伸ばす。最終的に直感で選んだとはいえ悩む時間のあったレストとは違い、随分あっさりと決めてしまった。
「じゃあ二人とも、そのボールで異論はないかな?」
「ありません」
「うん。ないよ」
 二人が答えると、それに合わせてシャロットも満足そうに頷く。
「よしよし、それじゃあ、いよいよ君たちのパートナーとなるポケモンとご対面だよ。ボールを開けてみてね」
 シャロットに促され、レストは目を瞑り、深呼吸してから、ジッと赤いモンスターボールを見据える。
(これが、俺の初めてのポケモン)
 そして、初めての地を旅する、初めてのパートナー。
 際限なく膨らむ期待を抑え、レストはゆっくりと、ボール中央のスイッチを押す。
 するとボールは半分に割れ、眩い光と共にポケモンが飛び出した。



まだプロローグレベルに旅が始まってないのに文章が長くなってしまいますね。今回は新キャラ登場(と言うには早すぎる気もする)回でしたね。レストと同じタイミングで旅に出るのは、同年代のトイロです。立ったまま眠れるほどぼんやりとしていますが……彼女についてはこれから少しずつ描写していくつもりです。では次回、レストとトイロの最初のポケモンが明らかになりますね。お楽しみに。