二次創作小説(紙ほか)

6話 カンウシティ・カンウジム ( No.27 )
日時: 2013/12/01 01:09
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 カンウシティは小さな街だ。
 しかし、それでも非常に活気溢れ、明るい声がそこかしこから聞こえてくる。街の端には一際大きな教会が立ち、ちょっとした住宅街のようだ。
 街についたレストとリコリスは、ひとまずポケモンセンターでポケモンの体力を回復させる。リコリスに至ってはレストのポケモン捕獲に何時間もつき合わされていたため、ソファでぐったりしていた。
「さてと、ジム戦に臨むにあたって、やっぱり準備しないといけないよな。ポケモンはどいつを連れて行こう……」
 レストはこの道中だけで十匹以上のポケモンを捕獲しているため、選択肢は豊富だ。とはいえ、即戦力になるほどの実力がありそうなポケモンは少ないが。
「うー……カンウシティのジムリーダーは虫タイプの使い手、だから炎タイプとかが有利だよ」
「そうなのか?」
 ソファで横になっているリコリスは仰向けになって言う。
「だったらフォッコは確定だな。虫タイプなら、後は飛行タイプとかが弱点か? ポッポとかヤヤコマも連れて行った方がいいか」
「どうだろうねぇ……ジムリーダーは弱点突くくらいで倒せるほど、甘くはないよ?」
 不敵な笑みを見せ、どこか含みのあることを言うリコリス。それはどういうことだ、とレストは追及しようとしたが、
「ま、この街のジムリーダーは甘い人だけどね。詰め以外は」
「甘い人? 意味分かんねえんだけど、何だそれ?」
「会ってみたら分かるよ。あー、思い出したら行きたくなっちゃった。よっし、それじゃあ早速行こうか、カンウジムに!」
「お前復活早いな。ちょっと待てよ!」
 レストは急いで回復の終わったポケモンを受け取り、とりあえず手持ちを適当に六匹選んでリコリスの後を追う。身軽で足も速い彼女だったが、流石に本気で走ればレストならすぐに追いつく。
「ちょっと待てよ、少しはゆっくり考えさせろよ!」
「大丈夫だって、ジム戦なんてポケモン全部使ってバトルするわけじゃないんだし。っと、ここだよここ。ここがカンウジム」
「は? いや、ここって……」
 レストはその建物を見上げる。赤いレンガ造りの大きな建物で、屋根の一角には荘厳な鐘が吊り下がっている。
 そこは俗に言う、教会だった。
「ここのどこがジムなんだよ、教会じゃねえか」
「そのうち分かるって。あ、すいませーん。アカシアさん、いますか?」
「っておい、勝手に入って大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、この教会は立ち入り自由だし」
 そう言ってリコリスは、花壇に水遣りをしていたシスターといくつか言葉を交わし、戻ってくる。
「今は礼拝中だから、少し待っててだって。というわけで、中庭いこ、中庭!」
「おい! だから待てよ!」
 一人でテンション上げて、リコリスは走り出す。後を走って追おうかと思ったが、そこまで広い教会でもないので、歩いて追いかける。
「勝手知ったるなんとやら、って感じだな……」



 先ほどレストは、そこまで広い教会でもない、と評したが、しかし中に入ってみると思った以上に大きい建物と敷地だった。
 天井は高く、奥行きは長く、横幅は広い。中庭と思しき場所に来ても、それは変わらない。
「すげえな……」
 中庭に入ると、レストは思わずそんな声を漏らす。造園には興味も何もないレストだが、その空間には何か惹かれるものがあった。
 まず広さ、とにかく広い。中庭というより、普通に庭園と言ってもいいのではないかと思うくらいには広い。そこかしこに白い丸テーブルと椅子、日差しを防ぐパラソルも立てかけてあり、客をもてなす気満々だった。他にも、天然か人工かは分からないが、芝は綺麗に揃えて刈られており、池の水はどこまでも透き通っている。
 レストが最も目を引いたのは、植物で作られたモニュメントだった。何かのポケモンをモチーフとしているようだが、何のポケモンなのかは分からない。
「すごいでしょ、ここは聖の箱庭って呼ばれるくらい綺麗で、ホーラ地方で一番美しいと言われる庭園なんだよ」
 自分のものでもないのに得意げになるリコリス。しかしあまりの凄さに圧倒されているレストには気にならなかった。
「ああ、なんか、すげえな……ここのジムリーダは庭師か何かなのか?」
 勝手に白いテーブルを囲む椅子に座っていたリコリスの所へと歩み寄りながら、レストは呟くように言う。
「ううん、違うよ。カンウシティのジムリーダーは、ここカンウ教会の牧師さん。普段はその人がこの庭を管理してるんだけど、この庭はクローバさんっていう人が一人で造り上げたんだよ。ちなみに、クローバさんもカンネイシティのジムリーダーだよ」
「へぇ、そうなのか。だったらいつか、その人ともバトルすることになるかもな」
 などと言いながら、レストも椅子に座る。が、その時、礼拝堂の鐘が、カーン、カーンという高い音を立てながら鳴り響いた。
「礼拝終わったのかな?」
「かもしれねえな」
 となると、もうすぐジムリーダーも来るかもしれない。そう思いながら待つこと十分。中庭の扉がゆっくりと開く。
「……あなた方が、教会にいらした方々ですね」
 甘い声と共に扉から出て来たのは、背の高い若い男だ。肩ほどまであるプラチナブロンドの髪、柔和で整った凛々しい顔立ち。黒いガウンに金のロザリオを首から下げていて、まさに牧師といった出で立ちだ。
「おや? リコリスさん? 何故、あなたがここに……」
「おっひさしぶりです、アカシアさん! まーちょっといろいろありまして、気にしないでください」
「はぁ、あなたがそう仰るのであれば、深くは追及しませんが……ところで、こちらは?」
 どうやら顔見知りらしいリコリスと、アカシアと呼ばれた男。そして男の視線が、レストに向く。
「俺はレストです。今日はジム戦をしに来ました」
「そうでしたか。では、なおさら待たせてしまって申し訳ありませんでしたね。私はアカシア、この街のジムリーダーで、このカンウ教会の牧師です」
 丁寧にお辞儀するアカシア。女受けしそうな容姿や声質に、聖人君子のような性格。レストはいまだかつて、ここまでの人格者を見たことがない。
「ところで、この教会がジムだって聞いたんすけど……本当ですか?」
「ええ、その通りです。建物の一角に、ポケモンジムとしてのスペースがあるのですが……今日は天気も良いことですし、屋外のフィールドを使いましょうか。こちらへどうぞ」
 アカシアは前に立ち、この広い庭園の奥にあるフィールドへ、レストとリコリスを誘導する。
「さっすがアカシアさん、優しいしかっこいいなぁ」
「はあん。女って、ああいう男が好みなのか?」
「うーん、まあ一般的にはそうかな。アカシアさんに惚れない女はいない、って言っても過言じゃないくらい。アカシアさんに挑戦しに来た新人トレーナーの女の子が、アカシアさんに一目惚れするなんてザラにあることだよ」
「なんか、色んな意味で凄い人だな……お前はどうなんだ?」
「あたし? そうだなぁ、確かにアカシアさんが彼氏とかならいいかもだけど、あたしはそういうのダメだし、どっちかっていうとお父さんがいいかな。優しくて気が利くし、今すぐにでも父親になってほしいくらい」
「おい、それ以上言うのはやめとけよ。お前の父親が泣くぞ」
 などと言いながら歩いていると、アカシアの足が止まる。同時に、レストとリコリスも歩みを止めた。
「着きました。ここがバトルフィールドです」
 アカシアの言う通り、それはバトルフィールドだ。芝の上から白い枠線が引かれ、フィールドの範囲を規定している。周りには植え込みが並んでおり、二重にフィールドを囲んでいるかのようだ。さらに、どこからか甘い匂いも漂ってくる。
(始まるのか、俺の最初のジム戦……)
 緊張や不安、同時に湧き上がる期待や勇みがない交ぜになった感情を胸に、レストは一歩踏み出す。
「それじゃあ、あたしは観戦してるから。頑張ってね」
「ああ」
 リコリスの激励に短く答え、アカシアと向かい合う。こうして相対すると、思った以上の緊張感だ。
「さて、それでは始めましょうか」

『カンウシティジム
   ジムリーダー アカシア
     ハニー・スイート・プリースト』

「はい! よろしくお願いします!」
 こうして、レストの最初のジム戦が、始まるのだった。



はい、なんだか長くなりましたが、遂に最初のジムに到着です。ジムリーダーは牧師であるアカシア。中国がモデルなのにキリスト教の牧師とはどういうことだ、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そこはスルーして頂くと嬉しいです。特に深い意味などはありません。ちなみにこのアカシアですが、名前と性格はかなり最近になって決まりました。最初は漠然と軽い感じにする予定だったのですが、いつの間にやら聖人君子になっていましたね。肩書の『ハニー・スイート・プリースト』というのも、その時の名残です。そのせいで、なんかチャラい牧師みたいになっていますが。さて、それでは次回、ジム戦開始です。お楽しみに。