二次創作小説(紙ほか)
- 7話 ジム戦1・vsアカシア ( No.40 )
- 日時: 2013/11/30 12:47
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「使用ポケモンは二体、どちらか一方のポケモンはすべて先頭不能となった時点でバトル終了です。また、ポケモンの交代は挑戦者のみ認められています」
バトル直前、アカシアは短く簡潔に試合のルールを口頭で伝える。
「それでは、私から参ります。汝に神のご加護があらんことを——ミツハニー!」
アカシアの一番手は、奇妙なポケモンだった。黄色い六角柱の底辺に顔があり、それが三つくっ付いて一対の翅が生えている。さらに中央の顔の額だけ赤い。
蜂の子ポケモン、ミツハニー。
「ミツハニー……タイプは虫と、飛行タイプも持ってるのか? てことは……」
レストは相手が虫タイプの使い手ということで、初手のポケモンをフォッコにしようと思っていた。しかし、相手が飛行タイプも併せ持っているのなら、別の選択肢も生まれる。
「こいつを連れて来て正解だった。最初はお前だ、頼むぞラクライ!」
レストの一番手は、ラクライ。電気タイプなので、飛行タイプでもあるミツハニーには相性が良い。
「行くぞラクライ、電撃波!」
ラクライは初っ端から、初見殺しの電撃波を放つ。回避不能なので打ち消すしかないが、ミツハニーがこの波状の電撃を打ち消せるようには見えない。
最初から飛ばして、バトルを有利に進める。レストはそんなつもりでいたが、
「ミツハニー、守るです」
ラクライの電撃波は、ミツハニーが周囲に張った結界によって防がれ、消滅してしまった。
「なっ……何だ、今の技は」
「守るだよ。連続では使えないけど、どんな攻撃でも絶対に防ぐんだ」
丸テーブルの椅子に座って観戦するリコリスから説明が飛ぶ。感謝より先に、ルール的にその発言は大丈夫なのかと思ったが、何のお咎めもないところを見ると、問題ないようだ。
「どんな攻撃でも防ぐ、か……厄介だな」
「このミツハニーはまだ打たれ弱いものでして。では、次はこちらから参ります。ミツハニー、風起こし!」
ミツハニーは小さな翅を羽ばたかせ、強い風を巻き起こす。
ラクライは踏ん張って風を耐えるが、あまり強い風ではない。その上ラクライに飛行タイプの技は効果いまひとつ。余裕で耐えきった。
「ラクライ、噛みつく!」
「躱して風起こしです!」
ラクライは牙を剥いて飛び掛かる、ミツハニーに軽く躱されてしまう。やはり空を飛べるだけあって、機動力は高いようだ。そしてすぐさま強風を放つ。
「突っ切れラクライ! 電光石火!」
今度は踏ん張って耐えたりはせず、ラクライは凄まじいスピードで風を突っ切り、ミツハニーに突撃。思い切り吹っ飛ばした。
「ミツハニー! 大丈夫ですか?」
ミツハニーは空中で体勢を立て直す。風起こしが威力を減衰させたからか。ダメージは少ない。
「やはり飛行技では効果が薄いですね。ならばミツハニー、虫食い!」
ミツハニーも、ラクライほど立派ではないが小さな歯を見せつけ、ラクライへと向かっていく。
「ラクライ、躱して電光石火だ!」
ラクライは横跳びでミツハニーの攻撃を躱すと、素早く地面を蹴り返し、その勢いのままミツハニーに突撃し、また吹っ飛ばす。
「追撃だ! 電撃波!」
「守る!」
ラクライは波状の電撃で追い打ちをかけるが、守るで完全にシャットアウトされてしまう。
「虫食いです!」
そしてすぐさまラクライへと突っ込んでいくが、
「躱して噛みつく!」
直線的なその動きは簡単に回避されてしまい、逆にラクライに牙を突き立てられる。
「いいぞラクライ。投げ飛ばせ!」
ラクライは思い切りミツハニーを投げ飛ばすが、空を飛べるミツハニーはすぐに体勢を立て直す。
「ふむ、やはり虫食いで単調に向かって行っても当たりませんか」
顎に手を当てて呟くアカシア。ラクライの素早さが高いため、単純な動きでは簡単に躱されてしまう。
「では、こういうのはどうでしょう? ミツハニー、甘い香り!」
アカシアが指示を出すが、何も起こらないように見える。ただ、レストの鼻孔を甘い香気がくすぐる。
「……? 何だ、この匂い……」
蜂蜜のような甘い匂い。このフィールドに入った時にも同じような匂いがしたが、それがよりいっそう強くなった。どうしても意識してしまう。
「ミツハニー、虫食いです!」
「っ、と。今はバトル中だったな。躱せラクライ!」
とりあえずこの匂いは無視し、レストは指示を飛ばす。
ラクライは少し反応が遅れ、ギリギリだがミツハニーの虫食いを躱した。
「もう一度です。甘い香り!」
再び甘い香気が漂ってくる。いや、甘いというより、甘ったるい匂いだ。流石にレストも、意識するどころではなく気分が悪くなってきた。
「う……何なんだよ、この匂いは……ミツハニーが出してんのか?」
考えられるとすればそのくらいだ。もしかしたらレストの気を散らしてミスを誘おうとしているのかもしれない。
「だったらさっさと倒さないとな。ラクライ、電撃波!」
「ミツハニー、守る!」
ラクライが放つ波状の電撃を、ミツハニーは結界で防護する。そして、
「ミツハニー、虫食いです!」
ミツハニーは小さな歯を剥き、ラクライへと突っ込んでいく。
「来るぞラクライ。ぎりぎりまで引きつけて、電撃波をぶち込んでやれ」
ラクライの機動力なら虫食いを躱すのは容易いので、レストはミツハニーを引きつけて、至近距離から電撃波をぶつけるつもりでいた。
しかし、その作戦はすぐに瓦解する。
「っ!? ラクライ!」
ラクライはミツハニーの特攻を避けられず、その小さな歯に噛り付かれたのだ。
「風起こし!」
ミツハニーはラクライから離れると、すぐに強風を巻き起こす。姿勢の崩れたラクライは踏ん張りが利かず、吹っ飛ばされてしまった。
「追撃です、虫食い!」
「くそっ、今度こそ躱すんだ!」
しかしラクライの動きは、どういうわけか鈍い。虫食いを躱し切れず、またもミツハニーの歯が突き立てられる。
「どういうことだ……? 急にラクライの動きが悪くなった……」
これまでのバトルを振り返り、原因を探すレスト。その中で、思い当たる節を一つ、見つけた。
「! まさか、この匂い……」
「ご名答です」
レストがハッとしたように呟くと、アカシアが微笑む。
「甘い香りは、ポケモンの回避率を下げる技です。あなたのラクライはもう、ミツハニーの攻撃を避けることはできません。ミツハニー、虫食いです!」
ミツハニーは歯を剥き、ラクライへと特攻する。
「くぅ、躱せないなら、迎え撃つ! ラクライ、噛みつく!」
ラクライも牙を剥き、ミツハニーに飛び掛かるが、ミツハニーはするりとラクライの牙を躱し、小さな歯を突き立てる。
「ミツハニー、風起こし!」
そしてすぐさま風を起こし、ラクライを吹っ飛ばす。
「くっそ、電撃波!」
「守る!」
吹っ飛ばされながらも波状の電撃を放つが、ラクライの攻撃は届かない。
(まずい、このままじゃやられる。せめてあと一撃でも当てられれば……!)
ミツハニーの体力だってそう残っていないはず。あと一撃でもまともに喰らわせることができれば、倒せるかもしれない。
「では行きましょう。ミツハニー、虫食い!」
ミツハニーは小刻みに翅を羽ばたかせ、小さな歯を剥き、ラクライへと突っ込んでいく。
(! これだ!)
そしてその瞬間、レストは閃く。
ラクライに指示を出そうとしたその時、ミツハニーの歯がラクライに食い込んだ。ラクライは痛みで顔を歪ませるが、まだ戦闘不能ではない。
そして、ラクライに電流が走る。
「ラクライ、電撃波!」
刹那、ラクライから放たれた波状の電撃が、ミツハニーに襲い掛かった。
「!? ミツハニー!」
何をする暇もなく、至近距離から電撃を浴びせられたミツハニーは、ぷすぷすと煙を上げながら地面に落下。三つの頭すべて目を回しており、戦闘不能だ。
「うっし、上手くいったみたいだな」
小さくガッツポーズを取るレスト。
レストが瞬時に閃いた作戦は、言うなれば肉を切らせて骨を断つ作戦だ。ミツハニーの虫食いをあえて喰らうことでミツハニーに完全な無防備の状態を作り出し、そこに電撃波を叩き込んだのだ
「どの道ミツハニーの攻撃は避けられない、ゆえの発想ですか……これは驚かされました。そのような捨て身の戦法をとる新人トレーナーは、そうはいません」
ミツハニーをボールに戻しながら、アカシアは言う。なにはともあれ、これでレストが一勝を先に制した。
「それでは、次は私のエースポケモンです。ミツハニーと同じようには行きませんよ」
ゆっくりと二体目のポケモンが入ったボールを取り出すアカシア。その表情は、どこか余裕のようなものが見て取れる。
そして、カンウシティジムの二戦目が、始まる——
というわけで今回は記念すべきジム戦一回目です。リコリスも言っていましたが、アカシアは虫タイプの使い手、牧師ならフェアリータイプとかじゃないのかと言いたくなるかもしれませんが、虫タイプです。ちなみに、ミツハニーが作中で守るを使っていますが、ゲームでは覚えられません。前作のように今作では、ある程度そのポケモンが実際には覚えられない技を覚えていたりします。まあ、頻度はどう高くないと思いますけど。さて、それでは次回、カンウシティジム戦、決着です。お楽しみに。