二次創作小説(紙ほか)
- 8話 カンウジム終戦・毒槍のスピアー ( No.59 )
- 日時: 2013/12/01 04:58
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「汝に神のご加護があらんことを——スピアー!」
毒蜂ポケモン、スピアー。
アカシアの二番手のポケモンは、またも蜂のようなポケモンだった。ただミツハニーと違い、両腕が突撃槍のような円錐状の毒針なっており、尻にも毒針が生えているなど、攻撃的な容姿をしている。
ミツハニーが蜜蜂なら、スピアーは獰猛な狩り蜂といったところか。
「なんか、さっきと打って変わってやばそうなのが出て来たが……とにかく攻めるぞ。ラクライ、電光石火!」
ラクライは地面を蹴り、凄まじい速度で駆け抜け、スピアーへと特攻をかけるが、
「スピアー、ダブルニードル!」
スピアーは両腕の毒槍を振るう。初撃でラクライの動きを止め、二撃目で突き刺すように地面に叩き落とした。
「ラクライ!」
その攻撃で、ラクライは目を回し、戦闘不能となってしまう。
「なんて攻撃力だ……戻れ、ラクライ」
レストはラクライをボールに戻す。一撃も攻撃できず、レストの手持ちも一体になってしまったが、
「でも、こいつを残して正解だったな。頼んだ、フォッコ!」
レストの二番手はフォッコ。虫と毒タイプのスピアーには有利に戦える。
「フォッコですか、いいポケモンです。しかし、私のスピアーとどこまで戦えますかね。スピアー、毒針!」
スピアーは尻の毒針から、毒素を固めた針を連射する。
「フォッコ、躱して火の粉だ!」
フォッコは毒針を躱すと、カウンターで火の粉を放つ。しかその火の粉も、スピアーに躱されてしまう。
「スピードも速い……こいつは強敵だな。炎の渦!」
「躱して岩砕きです!」
スピアーは下降しながら炎を渦を躱し、槍を構えてフォッコに突っ込む。
「やばっ、躱せフォッコ!」
間一髪、フォッコはその一撃を躱したが、スピアーの一撃でフィールドの一部が抉られた。
「っぶねえ。だが今がチャンスだ、ニトロチャージ!」
フォッコは全身に炎を纏い、高度を下げたせいで狙いやすくなったスピアーへと突っ込むが、
「スピアー、躱してください!」
スピアーは持ち前の機動力でニトロチャージを回避。さらに、フォッコが地面に着地した瞬間を狙い、
「エレキネットです!」
スピアーは尻を倒れたフォッコへと向け、毒針の先端から電気を圧縮した網を放つ。
「な、何だ?」
網はフォッコに絡みつき、身動きを封じてしまう。
「まずいね、エレキネットは攻撃と同時に素早さを下げるから、これでフォッコの機動力は一気に落ちちゃった……」
ただでえさえ素早いスピアー相手に素早さを下げられては、ますます苦しくなってしまう。
「岩砕き!」
スピアーは動けないフォッコに槍を突き刺し、吹っ飛ばす。
「毒針です!」
「くっ、躱して火の粉だ!」
フォッコは転がるように毒針を躱し、火の粉を放つが、スピアーには当たらない。
「くっそ、やっぱ飛んでる相手は厄介だ。飛び攻撃が当たらない……!」
ミツハニーはそこまで動きが機敏ではなかったが、スピアーは違う。しかもエレキネットで素早さを下げられているので、相対的にスピアーが素早くなっている。
「スピアー、エレキネットです!」
「躱して炎の渦!」
スピアーの放つ電気網を避けると、フォッコは渦状の炎を放つ。
「当たりませんよ。スピアー、躱して岩砕きです!」
スピアーは不規則な動きで炎を渦を躱しつつ、フォッコを惑わし接近。そして上空から鋭い槍の一突きを繰り出す。
「っ、避けろフォッコ!」
だが、フォッコの敏捷性も負けていない。痺れる体を必死に動かし、スピアーの一撃を回避する。
「今だ、ひっかく!」
そして鋭い爪を振るい、スピアーをひっかいた。
「やっと一撃、でもダメージは小さいな……」
効果抜群でも何でもないただのひっかくだ。スピアーに有効打を与えたとは言えない。
「ニトロチャージであれば少々危なかったかもしれませんね。ひっかくを選んだのは、隙の小ささからでしょうか?」
「いや、俺の指示ミスです。ニトロチャージは最近覚えたばっかなんで、まだちゃんと覚えきれてなくて……」
なので接近できると、ついつい指示し慣れているひっかくを選んでしまったのだ。
「つーわけで、今度はきっちり決めていくぞ。フォッコ、炎の渦!」
「同じ手が通用するほど、甘いつもりはありません。スピアー、躱して毒針!」
スピアーは再び炎を渦を回避するが、今度は接近せず、遠距離から毒針を射出する。
「くっ、躱せ!」
フォッコもその毒針を躱していくが、エレキネットで素早さが落ちてしまっているので、スピアーに動きを先読みされ、最終的には毒針を食らってしまう。威力こそ低いが、しかし運の悪いことに、
「っ、毒か……!」
フォッコは毒状態になってしまったようで、苦しそうな表情をしている。毒状態になってしまうと、じわじわと体力を削り取られてしまうので、バトルが長引くと不利だ。
「一か八かで賭けてみるか……フォッコ、火の粉だ!」
フォッコは大きく息を吸い、飛んでいるスピアー目掛けて多量の火の粉を吹き付けるが、今までの例を見れば当然その攻撃はスピアーには届かない。そして実際に、スピアーは機敏な動きでそれを回避した。
その直後だ。
「ニトロチャージ!」
フォッコは全身に炎を纏い、その炎を推進力としてスピアーに突っ込む。火の粉を避けて高度を落としたスピアーになら、素早さを下げられても十分届く。これが当たれば、戦況をこちらに傾けることだって可能だ。
当たれば、の話だが。
「これは避けきれない可能性もありますね……ならば」
スピアーは突っ込んでくるフォッコに対し、避けようとはせず、むしろ両方の槍を引いて独特の構えを取った。
そして、
「ダブルニードルです!」
その二つの毒槍を、同時に突き出す。
フォッコのニトロチャージとスピアーのダブルニードルが激しくぶつかり合い、火花を散らす。
ほぼ一瞬だが異様に長く感じられた鍔迫り合いの後、フォッコが突き飛ばされた。
「フォッコ!」
フォッコはゴロゴロと地面を転がり、全身は傷だらけ。毒のダメージもあり、体力は相当削られているはずだ。
「くそっ、まさかあのニトロチャージで押し負けるなんて……!」
ニトロチャージは今のフォッコの技の中では、威力と突破力に優れ、一番強い。それが押し返されてしまったということは、もうフォッコは力技ではスピアーを突破することは不可能だということを意味していた。
しかし勿論、攻撃を押し返したスピアーの方にも、押し返せた理由がある。
「……流石アカシアさんだ。さっきの攻撃のぶつかり合い、タイプ相性ならフォッコの方が有利で、フォッコが勝ってたはずなのに、それをダブルニードルを同時に繰り出すことで威力を一撃に集約して押し勝っちゃうなんて」
リコリスは観客席でひとり呟く。
アカシアとしては、今のニトロチャージを確実に避ける保証がなかったが故の行動で、純粋にポケモンの攻撃力だけを見ればスピアーの方が攻撃力が高かいからこそできた芸当だが。
なんにせよフォッコはもう満身創痍、あと一撃でも喰らえば戦闘不能になってしまうだろう。そうでなくても、スピアーはフォッコの攻撃を避け続けるだけで、フォッコを毒のダメージで倒すことができる。
「しかし、ここはこちらの攻撃で終わらせるのがジムリーダーというものでしょう。久しぶりの強敵でしたが、これで戦いの幕を下ろしましょう——」
そこでアカシアは一拍置き、少しだけ目つきを鋭くする。
「——スピアー、ダブルニードル!」
スピアーは両手の毒槍を構えてフォッコに突撃する。体力が限界に近いフォッコではこの攻撃を避けることは困難だ。よしんば回避できたとしても、すぐに毒のダメージでやられてしまう。
絶体絶命の危機。まさに絶望的な状況である、が、
「……ここで諦めずに立ち向かうのが、トレーナーだよな」
俯いて、ぼそりとレストは呟く。同時に思うのは、トイロに負けた時のこと。何も分かっていなかった時、トイロに惨敗したあの時のことだ。
「こんなところで躓いてたら、いつまで経ってもあいつには勝てねえ。だから……負けてなんか、いられるかよ!」
バッと顔を上げると、レストは叫ぶように満身創痍のフォッコに指示を飛ばす。
「炎の渦だ!」
フォッコは渦状の炎を放つ。真正面から突っ込んでくるスピアーには、この上なく有効な技だが、
「しかし、私のスピアーなら避けられます。スピアー、回避——」
と、そこで、アカシアは絶句する。
確かにスピアーの機動力があれば、ただの炎の渦を避けることは可能だろう。
ただの炎の渦なら。
「これは……」
フォッコの放つ炎の渦は、今まで放ってきたそれよりも格段に大きく、そして轟々と燃え盛っていた。
「っ、しまった……猛火の特性ですか……!」
そう、これはフォッコの特性、猛火によるものだ。
ポケモンの体力が減り、危機に陥ると炎技の威力が強化される特性で、度重なる攻撃と毒によるダメージの蓄積で、フォッコの体力は限界だ。だがその状態なら当然、猛火も発動する。
「これは、避け切れない……!」
スピアーはその巨大な渦を避けきれずに飲み込まれてしまう。スピアーの機動性があっても、この炎の渦は避けきれない。
そしてここでスピアーが炎の渦に閉じ込められてしまったということは、スピアーは機動力を失ったことと同義だ。つまりエレキネットでフォッコの素早さを下げたことも無意味となり、恰好の的となってしまった。
「いいぞフォッコ、最高だ」
炎の渦から零れ落ちる火の粉を浴びながら、レストは呼びかけるようにして言う。そしてすぐさま、鋭い声と視線を放つ。
「これで決めるぞ! フォッコ、ニトロチャージ!」
地面を蹴り、フォッコは猛々しい炎をその身に纏う。その炎を推進力にどんどん加速していき、炎の渦に閉じ込められたスピアーへと特攻。渦状になった炎の中心を駆け抜けていき——スピアーを、突き飛ばした。
「スピアー!」
炎の渦を突き抜けたスピアーはぷすぷすと黒い煙を上げながら吹っ飛んでいき、芝生の地面へと墜落。その様は、見るまでもなく戦闘不能だった。
「参りました……私としたことが、フォッコの特性を見落としてしまうとは。まだまだ私も、精進が足りませんね」
スピアーをボールに戻すと、アカシアは近くのテーブルに置いてあった小箱を手に取り、レストの元へと歩み寄る。
「生きとし生けるものに与えられる神の恩恵は平等です。ゆえに、あなたが私に勝利したのは紛れもないあなた自身の力。これからもあなたに神のご加護があらんことを祈り、私に打ち勝った証として、これを授けましょう」
アカシアが小箱から取り出したのは、正六角柱を隙間なく並べてできた正六角柱で、黄金色に輝く蜂の巣のようなバッジ。
「カンウシティジム制覇の証、ハニカムバッジです。どうぞ、お受け取りください」
「……はい! ありがとうございます!」
初めて手にするバッジに感動を覚えながら、レストはそれを受け取る。
かくして、レストは初めてのジム戦に勝利し、一個目のバッジを手に入れたのだった。
「…………」
観客席にいたリコリスは、レストがジムバッジを受け取っている時も、ボーっと彼を眺めていた。
「……すごい、面白いなぁ……」
そしてうわ言のように呟く。ジッとレストを見つめながら、無意識のうちに、口をつくようにして、声を漏らす。
「あたしの求める何かがあるのかも……もしかしたら何か変わる、かな……?」
というわけでカンウシティジム、これにて終結です。アカシアのエースは誰が予想したでしょう、スピアーです。個人的にはわりとスピアーのデザインは好きなんですよね。XYだと種族値の補正も受けていますし。実用性はまだまだですが。ちなみにハニカムバッジのハニカムとは、英語で蜂の巣という意味です。もうお分かりかもしれませんが、アカシアが今まで使用していたのもすべて蜂です。つまりはそういうことです。さて次回ですが、特に決めていません。ただカンウシティでひと騒動起こそうかとは思っていますが。それでは、次回もお楽しみに。