二次創作小説(紙ほか)

10話 盗難・カンウ森林 ( No.66 )
日時: 2013/12/01 13:30
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 レスト、リコリス、アカシアの三人で囲むお茶会。レストはそのようなものは苦手としていたのだが、アカシアの対応が非常に丁寧かつ親切で、レストも気付けば話が弾んでいた。
 三十分ほど話していただろうか。リコリスがカップに紅茶を注ぎ、甘い蜜の入った壺の蓋を開けると、
「あれ? アカシアさん、もう甘い蜜ないですよ?」
「おや、もう切れてしまいましたか。流石に三人だと早くなくなりますね」
「つーかお前飲みすぎなんだよ。この数十分で何杯飲んでんだ」
「だっておいしいんだもん」
 本日何度目となるのか分からないレストの注意に、リコリスも何度目となるのかわからない台詞で返す。リコリスがおかわりするたびにこのやりとりがあるが、毎回同じ言葉だ。
 そんな二人を微笑ましく見つめながら、アカシアは立ち上がる。
「申し訳ありませんが、少々お待ちください。倉庫から新しいものをお持ちいたします。ああ、倉庫には他にも種類がございますので、よろしければ一緒にいらっしゃいますか?」
「あ、それいいですね! 行く行く、行きます! レスト君は?」
「そうだなあ、俺もポケモンを呼び寄せるっていうのには興味あるし、ちょっと覗いてみるかな」
「では、こちらへ」
 再びアカシアのエスコートで倉庫へと向かうレストとリコリス。
 教会の敷地が広いのか、倉庫は少し遠いところにあった。しばらく歩くと、それらしき建造物が見えてくる。
 しかしその時、一人のシスターが血相変えて倉庫から走ってきた。
「ア、アカシアさん!」
「どうなされました? 何か、トラブルでもありましたか?」
 今にも泣き出しそうなシスターに優しく丁寧で、落ち着いた言葉遣いで接するアカシア。こういうところが女受けするんだろうなあ、とレストは場違いながら考えていた。
 シスターから事情を聴きだしたらしいアカシアは、しかしいつもの柔和な表情はしておらず、少々険しい顔つきをしている。
「……何か、あったんすか?」
「ええ。言うより見る方が早いでしょう。倉庫へ急ぎましょう」
 と言って、アカシアはシスターに軽く耳打ちしてから、すぐそこにある倉庫へと駆ける。レストとリコリスも、それを追った。
「っ、これは……」
 倉庫は開いていた。理由はさっきまでシスターが中にいたからではなく——鍵が壊されていたのだ。
「うわ、何これ……」
 しかも、それだけではない。

 倉庫の中に貯蔵されているはずの甘い蜜が、一つ残らずなくなっていた。

「……物の見事にものけのから、だな」
 倉庫の中には甘い蜜の匂いが充満しているが、それだけだ。甘い蜜そのものはどこにもない。
「鍵は壊されていましたし、どうやら盗まれたようですね。甘い蜜は養蜂を行っている一部の地域でしか採取できないものですから、価値はそれなりにあります。盗難は珍しいことではありません」
「でも、この倉庫いっぱいにある蜜を全部盗むなんて、可能なんですか?」
 リコリスがそう尋ねると、アカシアは首を振る。
「そこが問題ですね。確かにこの倉庫はそれほど広いわけでないですし、在庫も減っていた状態でしたが、それでもここにある甘い蜜をすべて、しかも我々に気づかれずに運び出すのはまず不可能。ありえるとすれば、エスパータイプのポケモンが使用するテレポートなどを用いた方法ですが、それにしても大掛かりになるはずです」
 そろそろレストには理解が追いつかなくなってきたが、要するに甘い蜜が盗まれた、ということだけは理解した。
「って、それってやばいんじゃないんすか? この街の収入源って、この蜜の出荷なんでしょ?」
「いや、そこは大丈夫です。この倉庫に置いてある蜜は異本的に教会の所有物で、出荷するものではありませんから。しかし、放っておくことはできません」
「そうですね。何としても犯人を見つけて、絶対に甘い蜜を取り返さないと!」
「……随分張り切ってんな?」
 やたらと興奮しているリコリスに、レストが何となくそう言うと、
「だって、このままじゃ、ハニーティーをおかわりできないじゃん!」
「お前の行動原理はそこかよ!」



 それから、アカシアはこう言った。
「先ほどのシスターの証言によると、少なくとも三十分前に倉庫を訪れた時には、まだ盗難は発生していなかったようです。となると、犯行時間はそこから今の三十分間。たったそれだけの時間なら、そう遠くには逃げていないと思われます。私は他に盗まれていないものがないかの確認と、各種警察機関への連絡を行いますので、リコリスさん。申し訳ありませんが、あなたは街の方を捜索してくださいませんか?」
 そんな頼みに対しリコリスは、
「オッケーです! でも、ギャラは弾んでくださいよ?」
「承知いたしました。最上級の紅茶と甘い蜜を振舞います」
 そんな契約を交わし、
「そんじゃーレスト君、行くよ!」
「俺も行くのか?」
「当然! 嫌なの?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
 レストの腕を引っ張って街へと駆けていくのだった。



「街を探すつっても、どこを探すんだよ。たった二人で走って探すには、この街は広いぞ」
「うーん、そうだなぁ……どうしようか」
 とりあえず教会から出た二人だが、そこで手詰まり。闇雲に探しても見つけるのは難しいだろうし、そもそも犯人の姿も分からないのでは探しようがない。
 そう思いながら頭を悩ませていると、どこからか軽快なポップミュージックが流れる。
「あ、あたしだ。はいもしもし」
 リコリスはポケットから長方形の薄い携帯端末を取り出し、操作してホログラムの画面を虚空に映し出す。
「うおっ!? 何だそれ!?」
 初めてみる科学技術に目を光らせるレストだったが、とりあえずリコリスはそれを無視する。
 端末の画面から放射されているホログラム画面に映っているのは、アカシアだった。
「リコリスさん、シスターからの情報です。入口付近にいたシスターが、ついさっき怪しげな二人組が教会から出るところを目撃したようです。何か大きな袋を抱えていたそうで、甘い蜜を盗んだ犯人と関係があるかもしれません」
「そうですか、分かりました。今教会の入口にいるんですけど、その二人組がどっちに行ったか、分かります?」
「カンウ森林の方へ向かったとのことです」
「カンウ森林ですね。じゃあ、そっちの方に向かってみます」
 そう言って、リコリスは通話を切る。
「レスト君、カンウ森林だって」
「いや、そう言われても俺には分からん」
「ああ、そっか。カンウ森林はリョフの林道を抜け切らずに、途中で脇道に逸れると入れる森林だよ。カンウシティからなら直で入れる。ここからなら、北東に直進すればすぐだよ。そうと決まれば善は急げ、行こっ!」
「お、おう!」
 ダッと走り出すリコリスと、それを追い、並走するレスト。
 すぐに着くとリコリスが言っていたように、カンウ森林にはものの数分で着いてしまった。鬱蒼と木々が生い茂るそこは、身を隠すなら適した場所かもしれない。
 二人は走るのをやめ、やや小走りながらも歩いて森林へと踏み入る。
「……なあリコリス、さっきお前がアカシアさんと話してたあの機械。何だ、あれ?」
「あれ? あれはホロ・ターミナルっていう、この地方の携帯端末だよ」
 リコリスが言うには、ホロ・ターミナルはカロス地方で広く普及しているホロキャスターという装置と、北の方の科学者が発明したターミナルという携帯端末を組み合わせたもので、簡単に言ってしまえばホログラムで画面が表示される携帯端末らしい。
「通話とかメールがメインだけど、設定すればインターネットとかにも接続できるよ。この地方の人なら大抵の人は持ってるものだし、トレーナーなら保証とかサービスとかもあるから、レスト君も買ったら?」
「そうだな。考えておこう」
 と言いつつも、レストの輝いた目つきは買う気満々であった。こんなところで田舎者の臭いがするレストであった。
 そんなことを話していると、森林の奥から話し声が聞こえてきた。



そういうわけでひと騒動、ポケモンではよくある盗難です。ポケモンをよく知る方なら、この先の展開も予想がつくことでしょう。ちなみに作中で出てきたホロ・ターミナルですが、スマートフォンのようなものだと思ってくだされば結構です。それにホログラム画面が追加されたような感じでしょうか。では次回、盗難の犯人が明らかに。お楽しみに。