二次創作小説(紙ほか)

11話 カオス・セイリュウ ( No.67 )
日時: 2013/12/10 02:13
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「ふぅ……何とか運び終わったな。意外と重いな、これ」
「だがこれがあればポケモンを誘き出せるから、俺たちの戦力もアップだ」
 聞こえてきたのは男の声。数は二人だ。
「でもよ、俺たちがこれを運んでくる必要あったのか? 『四凶』様が事前にほとんど運んでるんだろ?」
「俺に聞くなよ。まあ、あって困るもんでもないし、いいんじゃね?」
 声と共に匂ってくる甘い匂い。さっきのお茶会のものとは少し違うようだが、間違いない。甘い蜜の匂いだ。
「レスト君」
「分かってる」
 甘い蜜を盗んだ犯人はほぼ確定。レストはリコリスと頷き合い、そのまま茂みから飛び出す。
「おいこそ泥ども、観念しやがれ!」
「うわっ、レスト君ってそういう台詞似合うねぇ……」
 いきなりの怒声に、二人の男は飛び上がる。
「な、何だ!?」
「まさか追っ手か!?」
 レストたちを見て狼狽える二人。対してレストは、リコリスにアカシアへ連絡させ、
「おいてめえら、痛い目見たくなかったらそこの蜜置いてとっとと消えろ。こっちはジムリーダーも呼んだ、警察だって来る。逃げられると思うなよ」
「だから本当に不良みたいだよ、レスト君。そういう台詞似合いすぎ……っていうか、消えろって言っといて逃げられると思うなって、どっちなの」
 とりあえずリコリスの突っ込みはスルー。
 そもそもレストは脅しをかけ、男たちを威嚇するつもりだった。しかし、二人が取った行動はレストの予想とは違い、
「くそ、見つかったからにはしょうがねえ」
「ここまで来ておいそれと逃げるわけにもいかねえしな」
 男たちはそれぞれボールを持つ。そして、ポケモンを繰り出してきた。
「やるっきゃねえ! 出て来いズバット!」
「やっちまえ、フシデ!」
 蝙蝠ポケモン、ズバット。
 百足ポケモン、フシデ。
 どちらも毒タイプを持つポケモンだ。
「そうなるのかよ……だったら! フォッコ、ラクライ! 頼んだ!」
 対してレストも、ポケモンを繰り出し応戦する。
「ズバット、翼で打つ!」
「フシデ、虫食い!」
 翼を広げて突っ込むズバットと、歯を剥いて飛び掛かるフシデ。
 しかし、どちらの攻撃もアカシアのポケモンとは比べるべくもない速度だ。レストに見切れないわけもない。
「躱せ! フォッコ、ラクライ!」
 フォッコとラクライはそれぞれ脇に逸れて双方の攻撃を躱す。そして、
「フォッコ、フシデに炎の渦! ラクライはズバットに電撃波!」
 フォッコはフシデを炎の渦に閉じ込め、ラクライはズバットに波状の電撃をぶつけて墜落させる。効果抜群もあり、その一撃でズバットは戦闘不能となった。
「なっ、俺のズバットが……!」
「何やってんだ!」
「しょうがねえだろ! つか、お前のフシデだって動けねえじゃねえか!」
 いがみ合いも始めた男二人。そして片方の男が言うように、フシデは炎の渦に閉じ込められているので、動くことができない。
「決めてやれフォッコ! ニトロチャージ!」
 そしてフォッコが炎を纏って突撃し、フシデも吹っ飛び戦闘不能。
「なっ、ぐっ……」
「やべえ、もうポケモンいねえぞ……」
「さあ観念しろ、こそ泥ども」
 レストはパキポキと指を鳴らしながら、一歩、また一歩と男たちに近づいていく。
 これで男たちはポケモンを失い、もう抵抗はできない——かに思われたが、
「今だ! やれ!」
「っ!?」
 突如、背後から何者かの気配を感じた。振り返れば、そこにはレストが倒した男たちと同じ格好をした男が、卵のようなポケモンを従えて立っていた。
 卵ポケモン、タマタマ。
「タマタマ、玉投げだ!」
 タマタマは白い球体を複数投げつけてくる。コントロールはでたらめだが、数が多い。フォッコやラクライだけでなく、その球体はレストすらも狙っているが、

「ププリン、エコーボイス!」

 投げられた球体は、空気の振動によりすべて明後日の方向へと吹っ飛んで行った。
「まったくレスト君は……不良気取ってばっかいないで、もうちょっと周りも見ようよ」
「リコリス……」
 レストを咎めるのはリコリス。そしてその傍らには、ピンク色の球形に近いポケモンがいた。
 風船ポケモン、ププリン。
 どうやらこのププリンが、タマタマの攻撃を防いだらしい。
「悪い、助かった」
「いいよ別に。どの道この人たちやっつけないと、あたしのハニーティーがないもんね。ププリン、もう一度エコーボイス!」
 ププリンは先ほどと同じように、しかしさっきよりも少し強い声を発してタマタマを攻撃し、動きを止める。
「レスト君、今だよ!」
「ああ! ラクライ、噛みつく! フォッコ、火の粉!」
 そしてラクライが素早くタマタマに接近し、噛みついて放り投げる。直後、フォッコの火の粉が宙を舞うタマタマに直撃し、焼き焦がした。
「お、俺のタマタマまで……」
「何やってんだよ!」
 思いもよらない襲撃に少しヒヤッとしたが、リコリスのお陰でそれも切り抜けられた。
「さあ、今度こそ抵抗はできないよな。観念しな」
 再び指を鳴らしながら男たちに近づいていく。男たちはレストに恐怖しているのか、身を竦ませている。
 一歩、また一歩とレストは近づいていき——その足を止めた。

 いや、止まった、のだ。

「な、何だ……!?」
「レスト君……?」
 体が固まったかのように動かないでいるレストを不審に思うリコリス。その時、向かいの茂みから何者かがゆっくりと姿を現す。
「……そこまで」
 現れたのは、一人の少女だ。袖を切り落とし、深いスリットの入った薄紫色のチャイナドレス。少々色素の薄い青色の髪を、紫色のリボンで一つに結んでいる。
 暗いがどこか神秘的な雰囲気を醸し出す少女は、男たちと、レスト、リコリスを、半開きの目で順番に見遣る。
「だ、誰だ……?」
「…………」
 辛うじて動く口を開いて、レストはそう尋ねる。少女はしばらく口を開かなかったが、
「わたしは、セイリュウ……カオス『凶団』……そして、『四凶一罪』の一人」
 カオス、『凶団』、『四凶一罪』と、聞き覚えのないワードが並び混乱するレストだが、とりあえずこの少女の名前がセイリュウということだけは理解した。
「セ、セイリュウ様!」
「……任務、ご苦労様……もう、帰ってて」
 とセイリュウが言うと、茂みからさらにもう一つの影が出て来る。
 それは、人型ではあるがポケモンだ。緑色の髪の毛のような頭部と、白いスカート状の身体。胸には赤い特徴的な器官が貫通している。
 包容ポケモン、サーナイト。
 サーナイトが何かを念じると、男たちは一瞬にして消えてしまった。
「今のはテレポート……ってことは、君も窃盗に加担してるんだね」
「……それが、任務だから」
 リコリスの言葉に、セイリュウは静かな声で答える。
「……さっきの人たちと、その任務っていう言い方からして、君たちは一つの組織なの? カオスっていうのが、組織の名前?」
「そう……でも、わたしたちは『凶団』」
 口数が少なく、あまりはっきりとものを言わないので、セイリュウからは情報が得にくい。
 リコリスは痺れを切らしてか、ポケットに手を突っ込み、ボールを一つ掴むが、
「……サーナイト、金縛り」
「う……っ!」
 そこで、体が固まったように動かなくなってしまう。どうやらレストが動かなくなったのも、このサーナイトの技によるもののようだ。
「……その甘い蜜は、返す。さようなら……」
 セイリュウは男たちが盗んだ甘い蜜が入っていると思われる袋に視線を向けると、消えてしまった。サーナイトのテレポートで逃げたのだろう。
「っ、逃げられたか……」
 金縛りが解けたレストとリコリス。体は動くが、それは同時にセイリュウたちが遠くまで逃げおおせたということも意味する。
「結局、甘い蜜はほとんど取り返せなかったよ……アカシアさんに何て言おう……」
「だな……とりあえず、ここにある分の蜜だけでも持って帰るか」
「……そうだね」
 そうして、レストとリコリスは少しだけ残った甘い蜜を持って、教会へと帰るのだった。



 ほとんど取り返せなかったとはいえ、一応は甘い蜜を取り返したためアカシアからまたお茶会の誘いがあったが、気が引けたので二人は丁重に断った。
 そして翌日。レストは次の街に向けて旅立とうとするが、
「そういや、リコリスはこの街に用があるとか言ってたな。てことは、ここでお別れか」
「え、あ、うん……」
 旅立つ間際になって、レストは思い出したように言う。
 しかしリコリスは、どこか物寂しげな表情で曖昧に答える。しばらく視線を彷徨わせていたが、やがてレストをまっすぐに見つめる。
「ねぇ、レスト君」
「なんだ?」
 そして、意を決したように、口を開く。

「あたしも、レスト君の旅について行っていいかな?」

「……は?」
 意味が分からないというように呆けるレスト。対してリコリスは、声の調子を上げていく。
「アカシアさんとのバトルを見て思ったけど、レスト君はあたしにない何かがある。あたしはそれが知りたいんだよ」
「な、いや、でもよ……」
「それに、レスト君は全然周り見てないし、ポケモンのコンディションもちゃんとチェックしないし、ホーラ地方のことも知らなすぎだし、放っておけないよ」
 一気に捲し立てるように詰め寄るリコリス。その表情、眼差しは真剣そのものだった。
 レストは、リコリスはもっと能天気だと思っていたが、その真摯な態度を目の当たりにしては、無下にはできない。半ば諦めたように息を吐くと、レストは、
「……まあ、いいか。ついて来るなら好きにしろ」
 くるりとリコリスに背を向け、ぶっきらぼうにそう言う。
「……うんっ、ありがとう!」
 そしてリコリスは、晴れやかな笑顔で、レストの後をついていくのだった。



今回はいろいろありすぎて、文字数が多くなりすぎました。まずは今作での悪の組織、カオスの登場です。今作でも悪の組織は出てきますが、今までと違い、カオスの中にも『凶団』というグループが存在します。これについては、追々明かしていきますね。そしてそのカオスの幹部にあたる少女、セイリュウも登場です。やっと中国っぽい要素が出てきたところで、今回の幹部の名称も特殊ですね。7幹部とか7Pとか七罪人とか、今までは分かりやすい名称でしたが、今回は『四凶一罪』……これは中国神話と、白黒が好きな小説を元にした名称です。まあ、これが何を意味するかも追々明かしていきますので。そして最後にはリコリスが仲間に加わりました。『リコリスが なかまになりたそうに こちらをみている』と言ったところでしょうか。それでは次回、次の街……の途中のダンジョンですね。お楽しみに。