二次創作小説(紙ほか)

14話 『四凶一罪』・ゲンブ ( No.74 )
日時: 2013/12/02 17:14
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「ほら働け社畜ども。給料貰ってんならその分口より手動かせ、ニートに渡す金なんざねーんだよ。ぐだぐだすんな、さっさとノルマ終わらせろよ。ただでさえ豚どもの手作業じゃあ効率悪いってのに……」
 どこか無気力だが、しかし非常に辛辣な言葉を周りの下っ端たちに吐き捨てるのは、一人の少女だ。
 病的に痩せている小さな矮躯。まったく手入れをしていないような傷んだ黒髪を無造作に伸ばしており、格好も体に対して大きい青いジャージに皺だらけの黒いプリーツスカートと、ラフを通り越してだらしなく見える。唯一皺にもならず汚れもないきっちりした服と言えば、やたらサイズの大きい白衣くらいなものだろう。周りの目など気にしていないのか、中央に鎮座する機械の上で足を広げて寝転がっていた。そもそも、下っ端たちは脇目を振る余裕もなさそうだが。
「あーあー、もうマジでめんどくせー。こんな面倒事押し付けられなければ、今頃溜まってるアニメ消化してたってのに……あ、やべ。そういや今日の分まだ録ってなかった。うわ、もうマジで最悪……円盤出るまで待つしかないのか……」
 ぶつぶつと不満げに呟く少女。一人だけ働いておらず、寝転がっている様子からしても、彼女がこの現場の指揮統率を任されているらしきことは分かった。
「じゃあ、あいつを倒すっていう方向性でいいな。まずは俺とソウマが出る」
「ならあたしはここで待機しておくよ。また前みたいに不意打ちされた時とためにね」
「それを言うなよ……ソウマ。お前はそれでいいか」
「はい、僕もそれがベストだと思います」
 満場一致で方針が決まった三人。その作戦に従い、レストとソウマはそれぞれモンスターボールを取り出して岩陰へと移動。周りの様子を覗ってから、タイミングを見計らって飛び出す。
「おいカオスども! てめえらここで何やってやがる!」
「なんか、不良みたいな台詞ですね、レストさん……」
 ついさっき出会ったばかりのソウマにすら指摘されるレストの不良っぽさだが、しかし気にしている場合でもない。それ以上に気が向くのは、少女の反応であった。
「ん、なに? 侵入者? 邪魔者? うーわ、うざっ」
 心の底から本当にそう思っているかのような、ストレートな物言いだった。さらに少女は、至極面倒そうな表情で続ける。
「なにお前ら、見ての通りここは工事中だから。消防厨房はとっとと消えてくんない?」
「何言ってんのか意味不明だが、お前らカオスだろ? また前みたいになんか悪さでも働いてんじゃねえのか。なら見て見ぬふりはできねえよ」
 レストがそういうと、少女は寝転がった姿勢のまま、興味深そうな表情を見せたと思うと、急に笑い出した。しかも純粋に笑っているのではなく、明らかな嘲笑を見せる。
「へー、うちらがカオスだって知ってんだ。それでこの人数相手にたった二人で乗り込んできたと……ぷっ、ははは! なにそれ? 正義の味方のつもり? 池沼? 基地外? テラワロス、馬鹿すぎて逆に面白いわ。ちょっとツイッターでつぶやこ。正義の味方もどきが難癖つけにきたなう、と」
 どこからかホロ・ターミナルに酷似した携帯端末を取り出し、画面を操作する少女。その少女の言動に、レストは絶句していた。
「何だこいつ……」
 言葉の端々がレストには理解できず、ソウマに視線を送るが、首を横に振られた。彼も理解できていない模様。元から話し合いが成立する相手とも思っていないが、それにしたって酷い。異星人と会話してるようだ。
「ぷはははは、ワラワラ……あー久しぶりに笑ったわ。こんな面白いもんが見られたなら、今日のアニメくらいは我慢しよっと」
 少女はそこで初めて体を起こした。
「せっかくだし、名前くらい教えといてやる。うちはゲンブ、カオス『凶団』、『四凶一罪』の一人だ」
「『凶団』……『四凶一罪』……またそれか」
 先日のセイリュウという少女も、そう言っていた。彼女たちの格好や振る舞いからして、幹部のような立ち位置。少なくとも、下っ端より高い位にあるようだ。
「さて、とりまお前らはうちらの邪魔するみたいだし、かまってちゃんの相手をするほどうちも暇じゃないっつーか、そんなDQN相手してらんねーし。おい、社畜ども!」
 ゲンブはまた気怠そうな表情に戻ると、広間に響き渡る声で下っ端たちに命令を下す。
「追加の仕事だ! こいつらの始末! できないクズは逝ってよし! つーか氏ね!」
 理解はできないが、かなり辛辣な言葉を吐き捨てていることだけは分かった。しかし逆らえないのか、下っ端たちは肉体労働で疲弊しきった体に鞭打ち、それぞれポケモンを出しながらレストとソウマに向かってくる。
「やっぱこうなるよな。フォッコ、ラクライ!」
「ポケモンを追い出して自然を破壊すような行為、許せません! 出て来てください、プロトーガ、ヤンヤンマ!」
 下っ端が繰り出す大量のポケモンに対して、レストたちもポケモンを繰り出して応戦する。
 ソウマが繰り出したのは、大昔に存在するような亀の姿をしたポケモンと、蜻蛉のようなポケモン。
 古代亀ポケモン、プロトーガ。
 薄翅ポケモン、ヤンヤンマ。
「フォッコ、炎の渦! ラクライ、電撃波!」
「プロトーガ、水鉄砲! ヤンヤンマ、電光石火!」
 レストたちは次々と下っ端たちの繰り出すポケモンを倒していく。
 下っ端のポケモンたちは、数こそ多いが大した強さではない。下っ端たち自身も疲労困憊で指示が遅く、相手が動く前に倒せることもザラである。
「つっても、数が多い……!」
「このままではキリがありませんね……」
 刀剣ポケモン、ヒトツキ。
 ガス状ポケモン、ゴース。
 人形ポケモン、カゲボウズ。
 胃袋ポケモン、ゴクリン。
 などなど。繰り出してくるポケモン自体は強くないが、いかんせん数が多すぎる。ほぼ一撃で倒せるとはいえ、こちらの消耗も激しい。このままではジリ貧だ。
「……あまりこういう場で使いたくはなかったのですが、多勢に無勢ですし、仕方ありません。レストさん、フォッコとラクライをボールに戻してください」
「は? なんでだよ? そんなことしたら……」
「いいから戻してくださ。特にフォッコは炎タイプ、これを喰らったら危険です」
「……よく分からねえけど、考えがあるんだな。戻れフォッコ、ラクライ」
 レストはフォッコとラクライをボールに戻し、一歩下がる。ソウマはヤンヤンマに何か指示を出し、広間の高い天井付近まで飛ばせた。
 そして残ったのは、プロトーガのみ。
「行きますよプトローガ……波乗り!」
 プロトーガは広間全体に渡るような甲高い声を響かせる。

 すると次の瞬間、どこからともなく大波が押し寄せてきた。

「うお……っ!」
 飛び散る水飛沫を浴びながら、その豪快さに思わず声を漏らすレスト。
 大波は下っ端とそのポケモンたちをまとめて飲み込み、押し流してしまった。たった一度の技で、下っ端は全滅する。
「すげえな今の技……波乗りだったか?」
「ええ、まあ……一度に広い範囲を攻撃できる技なのですが、代わりに味方も攻撃してしまうので、使いどころが難しいんです。ヤンヤンマのように、素早く遠くまで飛べるポケモンとなら、平気なんですけど」
 ともあれ、これで戦える下っ端はいなくなった。疲労もあってか、波に流された下っ端たちは立ち上がれないでいる。
 そんな下っ端たちを見てゲンブは舌打ちし、
「ちっ、マジで使えねー社畜だな。お前らは自宅警備しかできねーのかよカス」
 下っ端を毒づくと、しゃーねー、と言ってゲンブはうつ伏せに寝転がり、こちらを向いた。
「採掘にはもう少し時間かかりそうだし、その間はうちが相手をしてやる」
 そしてゲンブは、白衣のポケットからボールを取り出し、ポケモンを繰り出した。
「ログイン、パンプジン!」
 ゲンブが繰り出したのは、2m近い大きな体を持つ、奇妙なポケモンだった。
 女性的な風貌をしており、頭部からはピンク色の髪の毛のような腕が生え、口には八重歯が光る。長い胴体から続く下半身は、スカート状になってはいるが、ジャック・オ・ランタンのようなかぼちゃだ。
 かぼちゃポケモン、パンプジン。
「はーぁ、面倒だし、とっとと済ませるよ。なんならお前ら二人でかかってくる?」
「舐められたもんだな。だが」
「はい、僕のプロトーガとヤンヤンマでは、厳しい相手です……」
 パンプジンは草とゴーストの複合タイプ。水と岩タイプのプトローガは相性が悪く、ヤンヤンマに至ってはノーマル技しかないので攻撃が通らない。
「相手も相手だ、ここはなりふり構ってられないな。俺も戦う」
「すいません。お願いします」
 こうして、ゲンブ対レスト&ソウマによる、変則バトルが始まった。



というわけで今回は新キャラ、『四凶一罪』の一人ゲンブの登場です。分かる人は分かると思いますが、彼女はネットスラングを多用した口調で話します。白黒はあまりそういう隠語は知らないので、結構書くのに苦労してますね。こんなキャラを書いたのも初めてですし、上手くかけている自身はあまりないです。そのうちボロが出そうだなあ……では次回、ゲンブ対レスト&ソウマのバトルとなります。お楽しみに。