二次創作小説(紙ほか)

3話 ファースト・バトル ( No.8 )
日時: 2013/11/30 12:41
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 かくして、新人トレーナーとして旅立つこととなったレストとトイロ。とりあえず目的地は同じなので、同じタイミングで出発したこともあり、二人は一緒にリョフシティへと向かっていた。
 だが、
(会話がねぇ……!)
 レストは一人、気まずい空気に晒されていた。
 というのも、トイロが一向に話しかけてくる雰囲気がないどころか、ぼんやりと虚空を見つめながらゆったりと歩いているものだから、声をかけづらい。そもそもどんな話題を提供すればいいのかが分からない。
(こいつを一目見たときから、大人しい奴だとは思ったが……こうも口数が少ないと気が滅入る)
 さてどうしたものかと頭を悩ませるレスト。悩みに悩み、腰に手を当てて大きくため息をつく。
 その時、ふと手に何か当たる。レストはその感触が何か理解して、同時に思い立った。
「なあ、トイロ」
「ん、なに?」
 歩みを止めて呼びかけると、トイロも止まった。まったく反応しないわけではないようだ。
「せっかくトレーナーになったんだし、博士も言ってたんだ。バトルしないか?」
 レストはそう申し出る。成程、新人トレーナーの多くはポケモンバトルに憧れを抱く。その傾向は男子に多く、レストもその例に当てはまる一人だ。だからその申し出は当然のものだろう。
「え?」
 だがトイロの反応は、そんなレストの思考などまったく考えていないようであった。驚いたように小さな口を開いている。
「何をそんなに驚いてんだよ。一緒にトレーナーになったんだし、初戦も一緒に飾ってもいいだろ」
「ん……でも」
 トイロは、彼女にしてはすぐさま答える。
「たぶん、私が勝つ……よ?」
「なに?」
 少々時を含んだ声で返すレスト。そんな、最初から勝敗を告げられて気分の良くなるトレーナーはいないだろう。
「だって、私も、レストくんも、ポケモンは一匹。私は水タイプのケロマツで、レストくんは炎タイプのフォッコだから、相性では、私のケロマツの方が有利。えっと、だから、たぶん、私が勝っちゃう」
「そんなの、やってみないと分かんないだろ。相性をひっくり返すバトルだっていくらでもある」
「でも、私たちのポケモンは、まだ、貰ったばっかりだから。能力に差は、出てないし。んっと、それで、純粋に相性のバトルになっちゃう、かな?」
 トイロの言うことは正論だった。言われてレストも気づき、納得する。
 しかしだからといって、自分から持ちかけた勝負を相手に言い負かされて引き下がるほど、レストはプライドが低くはない。そのまま食い下がる。
「ポケモンの強さは遺伝だって関係してるし、経験は同じでも素の能力値は違うだろ。戦い方次第では、俺が勝つ可能性だって十分にある」
 自分で言ってて苦しいと思う。だが、トイロは少し悩んでから、首を縦に振った。
「うん、じゃあ……やろっか? ポケモンバトル」



 レストが引き下がれずに始まったポケモンバトル。使用ポケモンは当然一体。一対一のバトルだ。
「よし、行くぞフォッコ、お前の初陣だ。相手は不利な相手だが、なんとかするぞ」
 素直なのか、フォッコはレストの指示を受けてバトルフィールド(と規定している一帯)に立つ。
「じゃあ、私は……ケロマツ、出て来て」
 トイロのポケモンは当然ケロマツ。ぼんやりとした眼でフォッコを見据えている。
「えっと、じゃあ、相性ではフォッコが不利だし、先攻はレストくんにあげるよ」
「そうか、後悔するなよ。フォッコ、ひっかく!」
 フォッコは地面を蹴り、一直線にケロマツへと突っ込んで鋭い爪を振り下ろす。
「ケロマツ、かわして」
 だが、その爪は空振りする。
「はたく」
 素早くフォッコの真横に移動していたケロマツは掌を勢いよく振り、フォッコを吹き飛ばした。
「フォッコ! 大丈夫か!?」
 完全に無防備な状態でカウンター気味に喰らったためか、威力の低いはたくでもかなり派手に吹っ飛んで行ってしまった。ダメージもそれなりだろう。
「泡だよ」
 さらにケロマツは口から大量の泡を吐き出して追撃をかける。
「くぅ、火の粉だ!」
 フォッコも口から火の粉を放つが、水技に炎技では分が悪い。相殺しきれず、フォッコは残った泡を浴びてしまった。
「くそっ! 今度こそ火の粉!」
「ケロマツ、跳んで」
 ケロマツは一気に高く跳躍し、直線軌道の火の粉を回避。そして落下の勢いそのままにフォッコへと向かっていき、
「はたく」
 またもフォッコを吹っ飛ばす。フォッコは地面をゴロゴロと転がっていき、崩れた体勢のまま地に伏してしまう。また大きな隙ができてしまう。
「泡」
 そしてトイロもケロマツも、その隙を見逃さない。またしてもケロマツ大量の泡を吐き出し、フォッコはそれに反応できず飲み込まれてしまった。
「フォッコ!」
 泡が消えると、そこにいたフォッコはぐったりと倒れていた。目も回っており、完全に戦闘不能だ。
「……負けた」
 俯き呟くレスト。だがこの結果はなんとなく予想できていた。しかし、まさか一撃も攻撃を入れられずに敗北するとまでは、思わなかった。
 素人目で見ても、トイロの指示は的確で、ケロマツの動きもよかった。同じ新人トレーナーとは思えない。
「……レストくん」
「っ……何だ?」
「これ、フォッコに」
 トイロが差し出したのは、欠片だった。硬質で、光を反射して薄い金色に光っている。
「これは?」
「元気の欠片っていってね、えっと、瀕死になったポケモンの体力を、回復させるもの、だよ」
 つまり、フォッコがこの場ですぐ元気を取り戻す道具だ。これを使えばまたテイフタウンに戻らなくても先に進めるが、レスト敵に情けをかけられた気分になった。トイロにそんなつもりはないのだろうし、自分が勝手に思っていることだというのは分かっている。だが、受け取りたくないと思ってしまう。
 思ってしまうが、戦闘不能になったフォッコの姿を見ると、それを受け取る。それでも一応、確認を取った。
「いいのか、俺が使っても」
「うん」
 即答だった。
「……悪い」
 謝りながら、欠片をフォッコに触れさせる。すると欠片は溶けるように、吸い込まれるように消えていき、なくなった。代わりに、フォッコの目がぱっちりと開き、全快ではないようだが元気を取り戻したようだった。
「……それにしても、トイロ。お前強いな、全然敵わなかった」
「そうかな」
 トイロの強さには何か秘密がありそうだと読むレストだが、トイロはそれ以上は語らず、また無言で歩く時間が始まった。
 しかし、ほどなくして分かれ道に差し掛かる。
「二手に分かれてるな。どっちに行ってもリョフシティには着くみたいだが……どうする?」
「…………」
 返事は来ない。トイロもどうするか決めかねているのか、それともレストに一任するつもりなのか。どちらにせよ、レスト自身がどうしたいかは決まっていた。
「なら、ここで一旦別れるか。このままずっと一緒にいてもしょうがねえし、いい機会だからな。それに同じ地方を旅してるんだったら、またどこかで会えるだろ。それでいいか?」
「……うん。いいよ」
「そうか。じゃあ俺は右に行く」
「なら、私は左、だね」
 言葉数は少なく、別れの言葉も言わずに二人はそれぞれの道に向かっていく。
 この時レストの中には、確固たる一つの思いがあった。
「トイロ……次バトルする時は、俺が勝ってやるからな……!」
 燃え上がるトイロへの対抗心。これがトレーナーになったということなのかと思いながら、レストは歩を進めていくのだった。



はい、というわけで今回はトイロとのバトルでした。しかし惨敗ですね。相性が悪かったのもありますが、作中でも触れているようにトイロはバトルに関しては図抜けています。それには理由があるのですが、それはまた今度ということで。それと、トイロはレストの神経を逆撫でするようなことを言っていますが、悪気はありません。これが素です。まあバトル後の展開を見れば、悪い奴とは思わないでしょうけど。さてそれでは次回、リョフシティに到着です。恐らく次回からがアニメっぽい展開になる所以だと思われます。お楽しみに。