二次創作小説(紙ほか)

17話 ソンサクシティ・ソンサクジム ( No.87 )
日時: 2013/12/06 17:41
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 翌日。
 ソンサクシティはソンサク洞ほど寒くないので、リコリスは胸元に大きなリボンのついた黄色いプルオーバーと白いショートパンツというわりかしラフな恰好をしていた。
 この日はレストの二回目のジム戦。何回目だろうと同じだとは思うが、レストにも気合が入っている。ジムに向かって一直線に歩を進めていくが、
「あ、ちょっと待って。じゃなかった、ちょっと来て」
「は? お、おい!」
 その道中、リコリスに引っ張られ、どこかよく分からない店に入れられた。
「なんだここ……」
「ターミナルショップだよ。簡単に言うと、ホロ・ターミナルを売ってるとこ。せっかくだし、ついでに買ってこ」
「俺は早くジムに行きたいんだが……」
 というレストの苦言は聞き入れてもらえず、リコリスは勝手に契約を進めてしまう。
 とはいえ、手続きはかなり早く終わった。よく分からない書類はリコリスが書いていたので、レストはサインとトレーナーカードで身分証明をしたくらいだ。
 そんなこんなで、十分としないうちに店から出てしまった。詳しい説明など、レストは全く聞いていないのだが大丈夫なのだろうか。
「じゃあ、あたしは宿に戻ってこれの設定しとくね」
「あ? お前、ジム戦見ないのか?」
「うん、今回は遠慮しとく。インターネットに繋いだりするのも時間かかるし、レスト君がジム戦してる間に終わらせとくよ」
「そうか……悪いな」
 レストも決して機械に強いわけではないので、その辺はリコリスに任せるしかない。
「じゃ、ジム戦がんばってね」
「ああ、きっちり勝ってきてやるよ」
 そうしてレストはリコリスと別れ、ジムへと向かった。



「……ここか」
 ほどなくして、レストはソンサクジムに辿り着いた。カンウジムは教会そのものがジムとなっていたが、ソンサクジムは一応ジムの体裁は保っていた。外装こそ、周りの旅館と同じような木造ではあったが。
 レストは一度深呼吸をしてから、ジムの扉を押し開ける。
「よろしくお願いします!」
 すると、

「くちゅんっ」

 くしゃみが聞こえてきた。
 さらにレストの視界には、うっすらと雪が積もったフィールドと——こたつが飛び込んでくる。
「は……!?」
 開いた口がふさがらないレスト。ジムの一番奥にあるのは、紛れもなくこたつだ。赤い布団が掛けられ、コードがジムの端のコンセントまで伸び、テーブルの上にはご丁寧に木の実まで置いてある。
「なんだか、ちょっとさむい……?」
 恐らくジムリーダーだろう、先ほどのくしゃみの主はこたつに潜り込んでいて姿が見えないが、外から吹く風で誰かがジムに入ってきたということを感知したようで、もぞもぞと身を起こす。そして、その人物は、
「っ、シナモン、さん……」
 レストたちが宿泊している旅館『雪見館』の仲居で、昨日レストたちを部屋まで案内したり、料理を運んで来たり、そのほかにもいろいろと世話になった女、シナモンだった。
「あ……きみは、きのうリコリスちゃんと泊まりにきてくれた男の子……レストくん、だったけ……?」
「は、はい……」
 シナモンはぷるぷると震えながらこたつから這い出て来る。服装は昨日と同じ着物だが、その上からくすんだピンク色のカーディガンを羽織っている。
「……シナモンさんが、この街のジムリーダーだったんすか」
「そうなの。レストくんも、ジムめぐりしてたんだ……言ってくれればよかったのに」
 と言われても、言うタイミングがなかったのだ。仕方ない。
「えっと、とりあえず、ジムに挑戦しにきてくれたんだよね?」
「はい」
「それじゃあさむいし、さっそくバトルしよう。はやくあったまりたいな」
 レストはリコリスから、この街のジムリーダーは氷タイプの使い手と聞いた。ジムのフィールドに薄くではあるが雪も積もっているため、実際そうなのだろう。
 しかしその氷タイプの使い手が寒がりなのはどうだろうかと思ったが、思うだけで口には出さず、レストは所定の位置に着いた。
「ソンサクジムは二対二のポケモンバトル、交代はチャレンジャーだけなの。だいじょうぶ?」
「はい、それで構いません」
 どうやらレギュレーションはカンウジムと同じのようだ。
「そう、よかった……じゃあ、はじめよう?」

『ソンサクジム
   ジムリーダー シナモン
     コールド&マイルド・メイド』

 かくして、レストの二回目のジム戦が、始まるのだった。



今回はだいぶ短くなりましたが、とりあえずジム戦です。バトルを挟もうか考えたのですが、なんか中途半端になりそうだったのでやめました。内容に触れますと、ジムリーダーは、多くの方が推測されていたかもしれないですが、おっとり寒がりの氷タイプ使いで、旅館の仲居さんだったシナモンです。肩書の『メイド』は、家政婦やお手伝いさん的な意味というより、彼女が兼職している仲居さんという意味合いが強いです。ちなみにジムリーダーの肩書ですが、今作では若干韻を踏んだ形にしています。かなり無理やりだったり、そもそも音数が合っていなかったりと、結構適当ですけど。……なんかまだ2000字くらいしかないので、ついでにシナモンの名前の由来でも書いときます。まあ大体の方は名前くらい知ってると思いますが、シナモンはクスノキ科の常緑樹です。香辛料として有名なやつですね。決して白い謎生物ではありません。ちょっと意識してるところはありますけど。意識していると言えば、シナモンがジムでこたつに入っているのは、三作目で布団に入って寝ていたイチジクを意識しています。今作では今まで白黒が書いてきた作品の特徴をいたるところに散りばめているので、共通項を探すのも面白いかもしれません。ではあとがきもこの辺にして、次回、ソンサクジム、シナモン戦です。お楽しみに。