二次創作小説(紙ほか)
- 19話 ソンサクジム終戦・雪隠のユキメノコ ( No.91 )
- 日時: 2013/12/07 16:01
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「でてきて——ユキメノコ」
シナモンの最後のポケモンは、白い振袖を纏った雪女のような姿をしていた。
雪国ポケモン、ユキメノコ。
「氷とゴーストタイプ、なら大丈夫か。フォッコ、火の粉!」
フォッコは大きく息を吸い、多量の火の粉をユキメノコ目掛けて発射するが、
「っ!? 消えた……?」
火の粉はユキメノコを捕えず、どころかユキメノコは姿を消してしまった。
レストとフォッコは周囲を見渡すが、霰で視界が悪いこともあり、ユキメノコは見つからない。
「ユキメノコ、ウェザーボール」
するとフォッコの背後から、氷の球体が飛来し、フォッコに直撃した。
「後ろか! フォッコ、ニトロチャージ!」
フォッコはすぐさま身を翻すと、炎を纏って攻撃が飛んできた方向へと突っ込むが、
「ウェザーボール」
また後ろから右から氷塊が飛び、フォッコを吹っ飛ばす。
「ユキメノコの特性はね、雪隠れっていうの」
ユキメノコの姿を捉えられないレストに、シナモンはぷるぷると震えながら、しかしどこか余裕を持って言う。
「雪隠れ……?」
「そう。雪隠れは、霰がふってるとき、霰の中にかくれて回避率をあげる特性。だから今のユキメノコに攻撃をあてるのは、すごくむずかしいの」
アカシアのミツハニーとのバトルでは、レストのポケモンの回避率が下げられ、攻撃が躱せなかった。しかしこのユキメノコはその逆で、自らの回避率をあげることでこちらの攻撃を躱している。
ラクライのように必中技が使えれば問題ないが、生憎ながらフォッコに必中技はない。なのでシナモンの言うように、ユキメノコに攻撃を当てるの困難だろう。
「だったら、この霰を吹き飛ばす! フォッコ、炎の渦!」
フォッコは大きく息を吸い込むと、体内で激しく燃焼させた炎を渦状に解き放つ。炎の渦はフォッコを中心としてフィールド全域を駆け抜けるが……やがて消えてしまった。
「いくらなんでも、霰を消すのはむりだよ……一時的でも天気をかえちゃうんだから、おなじ天気をかえる技か特性じゃないと、消せないよ」
どうやらシナモンの言う通りのようだ。
「ユキメノコ、怪しい風」
「っ! フォッコ、来るぞ!」
今度は正面から、妖気を含む突風が吹き荒ぶ。
「目覚ましビンタ」
さらにユキメノコは、霰に身を隠しながらフォッコの背後へと接近し、鋭い平手打ちを繰り出し、フォッコを吹っ飛ばした。
「くそっ、フォッコ、炎の渦!」
フォッコは急いで体勢を立て直し、真後ろへと炎の渦を放つが、手応えはない。
「やっぱ相手が見えねえと、どうしようもねえ……!」
姿が見えなければ、こちらの攻撃が届かないどころか、相手がどのタイミングで攻撃を仕掛けるのかも分からない。
「ユキメノコ、目覚ましビンタ」
「! フォッコ、前に飛べ!」
フォッコはほぼ反射で正面にダイブするように飛び込み、そのまま転がるようにして背後を向き、
「火の粉!」
多量の火の粉を噴射する。
「あ……っ」
攻撃直後で、流石のユキメノコもこの攻撃は躱せず直撃を受けてしまう。目覚ましビンタで接近したのが仇になったようだ。
「あうぅ、あぶなかった……すごい、レストくん。霰がふってるときのユキメノコに攻撃をあてられた人は、あんまりいないのに……」
「そりゃどうも。つっても、これじゃユキメノコを攻略したことにはならないか……」
「そうだね。もう目覚ましビンタでちかづくのはやめとこう。ユキメノコ、怪しい風」
霰の中から、妖気を含む突風が放たれ、フォッコの体力を奪っていく。
外面では平静を保っているレストだったが、実のところはかなり焦っていた。
(くそっ! なんだよこの戦い方は、こんなの勝ちようがねえだろ!)
胸中で毒づくレスト。だが実際、今のフォッコに勝てる見込みはほとんどない。
ユキメノコの攻撃と霰で体力を削られ続けるフォッコに対し、ユキメノコは雪隠れでことごとくフォッコの攻撃を透かしていく。体力が減る一方のフォッコと、ダメージをほとんど受けないユキメノコ。どちらが勝てるかなどという問いは、子供でも分かる。
「! フォッコ!」
怪しい風が吹き荒ぶ中、ずっと踏ん張っていたフォッコは、遂に踏ん張り切れずに吹っ飛ばされてしまう。
「もうフォッコの体力もすくないはず……からだも冷えてきちゃったし、ユキメノコ、終わらせよう。ウェザーボール」
霰の中に姿を隠しながら、ユキメノコは地に伏したフォッコ目掛けて、霰を吸収して肥大化した氷塊を放つ。
「フォッコ!」
もはや絶体絶命だ。いくら効果いまひとつの技でも、フォッコの体力は限界近い。この一撃で戦闘不能になる恐れがある。
そして氷塊がフォッコへと襲い掛かる——その時だ。
フォッコの体が光り輝いた。
「えっ? な、なに……っ?」
「これは……!」
光の中で、フォッコはその姿を変えていく。小さな子狐はすらりと伸びた二本の足で直立し、どこからともなく取り出した木の枝を携え、その姿を現す。
狐ポケモン、テールナー。
「テールナー……フォッコの、進化形……?」
図鑑を取り出し、進化したフォッコを認識するレスト。見たところ、技も変更されている。
テールナーは手に持つ細い木の枝の先端をスカート状になった体毛に擦りつけて発火し、迫り来る氷塊を溶かしてしまった。
「進化……フォッコが、進化した……!」
まだいまいち実感が湧かないが、しかしテールナーはこちらを見つめ、力強く頷く。それだけでテールナーの力を信じるには十分だった。
「わぁ……あったかそうなポケモン……」
対するシナモンはと言うと、進化したテールナーを見て、そんな場違いなことを呟いていた。
「ユキメノコ、怪しい風」
だがすぐに気を取り直し、指示を出す。ユキメノコは妖気を含む突風を放った。
「来るぞテールナー、炎の渦!」
テールナーは木の枝をぐるぐると回して炎の渦を発生させ、襲い掛かる怪しい風をシャットアウト。進化して特攻が上がっており、さらに特性、猛火も発動しているためかなりの火力だ。
「これなら行けるか……? テールナー、フィールドに炎の渦!」
テールナーは怪しい風を打ち消した炎をそのままフィールド全体へと解き放つ。その火力はフォッコの時とは比べ物にならず、フィールドを縦横無尽に駆け廻り、霰を降らせていた雲が消えてしまった。
「えぇっ? そんな、霰が消えちゃった……」
目を見開いて上空を見つめるシナモン。ユキメノコの姿も視認でき、今がチャンスだ。
「テールナー、ニトロチャージ!」
全身に炎を纏い、テールナーはユキメノコへと突っ込む。ユキメノコも霰が消えて驚いているのか、反応が遅れた。
「行け、テールナー!」
テールナーの渾身の突撃がユキメノコに当たろうかという、その時だ。
消えたはずの霰が再び降り出した。
「っ!?」
そのせいでテールナーはユキメノコを見失ってしまい、攻撃を外してしまう。どうやら一時的に霰を吹き飛ばしただけで、実際に消したわけではないようだ。
「ふぅ、よかった、消えてなくて……ユキメノコ、ウェザーボール」
そして、ユキメノコの放つ氷塊が飛来し、テールナーに直撃。
「怪しい風」
「ぐっ、テールナー……!」
さらに妖気を含む突風も放たれ、テールナーは吹っ飛ばされてしまう。地面に叩きつけられたテールナーは完全に姿勢を崩しており、格好の的となっていた。
「ユキメノコ、目覚ましビンタ」
それをユキメノコはテールナーに近づくチャンスと思い、霰に紛れながら接近する。そしてテールナーの背後へと忍び寄り、大きく平手を振りかざした刹那——
——霰を降らせていた暗雲が消え去った。
「っ! 後ろだ! サイケ光線!」
その一瞬でユキメノコの存在を感知したレストの指示を受け、テールナーは木の枝を逆手に持ち、先端から念力の光線を射出。ユキメノコを吹き飛ばした。
「どうやら霰も時間切れみたいっすね」
そう、レストの言う通りだ。
霰は氷タイプに様々な恩恵をもたらし、シナモンを有利に、レストを不利にしてきた。しかしその効果は永続するわけではない。やがては消えてしまうのだ。
そしてシナモンにとっては運悪く、それが今だったようだ。
「うぅ、はやく霰をふらせないと……ユキメノコ、あら——」
「させるか! 炎の渦!」
ユキメノコは上空へ冷気を放とうとするが、テールナーの炎の渦がそれを妨害。さらにユキメノコを渦の中に閉じ込める。
「これで終わりだ! テールナー、炎の渦!」
再びテールナーは渦状の炎を放つ。猛火によって強化された炎は二重螺旋となってユキメノコを縛り、焼き尽くしていく。
「ユ、ユキメノコ……!」
炎の渦が消える。しかしその時には、ユキメノコも戦闘不能となっていた。
「負けちゃったぁ……でも、あったかいくて、いいバトルだったぁ……」
どこか幸せそうなシナモンはユキメノコをボールに戻すと、ほっこりとした面持ちでレストへと歩み寄る。
「それじゃあ、私に勝ったから、ポケモンリーグ公認のジムバッジをわたします」
そう言ってシナモンは、着物から小箱を取り出すと、その中身を露わにする。
それは小さな氷塊のようなバッジ。不規則だが少々尖っており、表面もざらざらとした質感だ。
「ソンサクシティ制覇の証、フロストバッジ。うけとって」
「はい! ありがとうございます!」
かくして、レストはシナモンに勝利し、二つ目のジムバッジを手に入れることができたのだった。
「これで二つ目か……まだ先は長いが、着実に前に進んでるな」
とはいえ、このまま漠然とジムバッジを集めているだけというのもどうなのだろうか。レストがふとそんなことを思った、その時だった。
「見つけた!」
鋭く、そして耳に強く響く大きな声がレストには聞こえた。
そしてそれは同時に、聞き覚えのある声でもあった。
だが、その声はここで聞くはずのない声。レストは恐る恐る、その声の方へと視線を向かわせる。
そこに立っていたのは、一人の少女。レストと同年代くらいだろうか。細身で、長い金髪を後頭部付近で二つに振り分けた、やや変則的なツインテール。それを妙に大きな白いリボンのようなもので結んでいるものだから、頭に頭巾が被さったようになっている。服装も白を基調としているようだが、上はチューブトップのようなもので下はミニスカートでというように、上下が分かれている独特な出で立ちの上から、年季の入った男物のコートを羽織っている。個性的で民族的と言えば聞こえはいいが、はっきり言って田舎臭い。どこぞの山奥にでも住んでいそうな服装だ。
「な……あ、なぁ……!?」
レストは声にならない声をあげる。困惑のあまり、声をまともな言葉にすることすらできないでいる。
しかし、頭の中では理解してしまった。まさか、ここで出会うとは思ってもいなかった人物。というより、こんなところで会うはずのない人物。レストのよく知った人物が、そこにはいた。
驚愕はいまだ収まらないが、レストはなんとか、彼女の名前を絞り出す。
「ラ、ラルカ……!」
それは、レストが最もよく知る少女。本来なら故郷にいるはずの——レストの幼馴染だった。
というわけで、ソンサクジム戦、終結です。シナモンのエースはユキメノコ、霰を利用した戦術でレストを追い詰めますが、フォッコがテールナーに進化し、逆転します。ちなみにフロストバッジのフロストは、霜と言う意味です。最初はブリザードバッジという名称でしたが、それだとシナモンの性格と合わない気がしたので、変えました。そして最後、遂に謎の少女の名前が明らかに……なんか、こういうあとがきを書くのは久しぶりな気がします。それはともかく、次回、ラルカとなんやかんやあります。お楽しみに。