二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【マギ】光と影−日常事件帳−コメ&ネタ募集 ( No.134 )
- 日時: 2014/04/29 17:42
- 名前: リーフ (ID: O72/xQMk)
38話
腕と背中に圧迫感。日常生活では感じることのない四肢への痛み。
薄暗い空間に、わずかに広がる橙の光。夕方だ。
「お目覚めですかな、姫?」
「………最悪の寝起きよ。」
「それはそれは。くくくっ…。」
まだぼんやりとしている頭を働かせ、サエは現状把握に努める。
まず、彼女が今いる、正確には連れてこられたこの場所は、小汚い敷物の敷かれた岩屋だった。しかし天井は風化してしまったらしく、木の板が屋根代わりに使用されている。波の音が聞こえることから、海沿いの洞窟なのだろう。この時期のシンドリアは引き潮で、普段は行くことのできない崖の下にも入れるのだと聞いた。
柱のように大きく縦長の岩に回され縛られた胴体と両腕。揃えて縛られた両足。目口が塞がれていないのは、彼らの作戦かはたまた油断の表れか。
男はざっと見えるだけで5・6人。だが、見張りや実行の際に見た人数からしてあと5人はいるはずだ。
いいえ、この男が主犯ならば、10人どころではない…。
そう思い、サエは顔を隠そうともせず自分を見下している男を見上げ睨み付けた。
「私が誰だか、わかっているわよね?」
「勿論ですとも、レイファル国の尊き王女様よ。」
「そう。記憶喪失になったわけではなさそうでよかったわ。…近衛隊長アベル!」
そう。そこにいる、サエを誘拐した男たちは信じられないことにレイファル国の近衛隊だったのだ。
王の身辺を守る近衛隊は、シンドリアでいえば八人将だ。そんな国の重鎮たちが、主の娘に対し誘拐を働いている。
「どういうことだか説明なさい。」
「おやおやぁ、姫はご自分の現状を理解されていらっしゃらないのですか?」
まあいいでしょうと頷き、下卑た笑みを浮かべて語り始める。
「この国で客人の、しかも姫君の貴方様が行方不明となり、しかも大怪我でもして見つかったとなればどうなるでしょう。…そう、まずはシンドリアに対する他国からの失墜!そしてレイファル国を始めとする各国からの貿易の打ち切り…聡明なサエ姫ならばお判りでしょう?」
「シンドリアの失墜…それが目的ね。何のために?」
「近年、この国は急速に力をつけている。いいえそれだけではありません! 東の煌帝国、西のレームともに、ここ南のシンドリア…。厄介な眼は、早めに摘んでおかにゃならんのですよ!」
彼の口振などから、この計画が1か月そこらのものではないと見当がついた。少なくとも3か月は前から、シンドリアの失墜を狙っていたのだろう。サエ姫達のシンドリア行きが決まったのもそのころだ。
「目的はわかったわ。…でも、どうしてあなたがそんなことをするの? まさか、自分が王になれるとか、そんなことを考えているのかしら。」
「まさか。…ただ、ある男に言われたのですよ。シンドリアを失墜させることが、我らのためなのでね!」
同意を求めるようにアベルが仲間を見回すと、力強く頷いて見せる。どうやら近衛隊すべてが正当ではなくなっているようだ。
「ある男…それは誰?」
「話すとお思いですか。…しかしまあこれだけは言っておきましょう。それは、世界を真なる世へ導く者達ですよ。真なる闇へね!」
「真なる、闇…?」
「そうです。…正義など掲げたところで、どうせ最後には闇にのまれるのだ…ならば、初めから『暗黒に染まればいい』!!」
「なんて、愚かなことを…!」
「愚かかどうかはそのうち分かりますよ姫。…さて、我々はあなたを無傷で返すわけにはいきません。どうしましょうかねぇ?」
ギラリと日の光を照らすナイフを手に、アベルはサエの顎を持ち上げる。嫌悪差を感じながらも、サエは頭を回転させて手段を講じていた。
「無駄です姫、ここには誰も来やしない。」
自分が捕まったのは昼過ぎで、今は夕方。また、目覚めて早々気だるさがしたのを思い出す。これほどまで眠りを誘い神経を鈍らせる薬の類は一つしかない。そう、非合法薬、つまり麻薬。
今回のシンドリア失墜の計画も、その謎の男とやらが関係しているのだろう。シンドリアを失墜させれば、麻薬取引を手伝ってやるとでも言われたか。
麻薬は人を惑わす。だから儲かる。悲しいがそれは事実だ。サエは初めて、この男たちに憐れみを抱いた。そんな約束、後から反故にされるに決まっている。
「アベル…私、あなたの事は少しだけ信用していたのよ?」
「それは嬉しいですねえ。…姫、あなたはすべてわかっておられるようだ。申し訳ありませんが」
「信用していたからこそ…」
アベルがサエの頭をつかみ上向かせる。目に入るのはよく切れそうなナイフだ。
狙いは、がら空きの首と胸元。
「潔く死んで頂こう!!」
「……とても残念。」
その時、爆音とともに天井が貫かれた。