二次創作小説(紙ほか)
- 8話です ( No.21 )
- 日時: 2014/01/13 11:20
- 名前: リーフ (ID: O72/xQMk)
今回、かなり長文になりました…。
8話
「逃げられた…この私が」
静かに波立つ黒い海を、リリィは静かに見つめた。
やがて、にぃいっと口角を持ち上げる。
「まあいいでしょう…次はありません」
踵を返し、藍色の髪が街の闇に消える。
それと同時に、深夜を告げる鐘が、シンドリアに静かに響いた。
*
シンドリア国高台に位置する、シンドリア王宮。
明かりの灯された宮中を兵や女官が忙しそうに動き回り、上階の広間には、9人の人間が、渋い顔で席についていた。
その面子即ち、2人欠けた八人将とシンドリアの食客であるアラジン、アリババ、モルジアナである。
「…どーすんだ、これ?」
「だから今話し合ってるでしょ?」
お手上げだと言うようにため息をついた褐色の剣士を、海色の髪を持つ
女魔導士が窘める。
いずれも、八人将のシャルルカンとヤムライハだ。いつもならここで罵り合いの一つや二つ起りそうなものだが、今はそんな状況ではない。
「ジャーファルが、連絡を怠るとは思えん」
「ああ。アイツに限ってそれはねえよな」
同じく八人将のドラコーンとヒナホホが、その竜のような体と二m越している大きな体を揺らして同意する。
「やはり、何か事件に巻き込まれたのでは…」
「ねえヤム。もう一回鳥さんたちに訊いてくるー?」
スパルトスは真剣に、一方ピスティは気だるげに意見した。
そんな二人に続き、シャルルカンがもう一度溜息をつく。
「どこ行っちまったんだろ…ジャーファルさん」
そう。シンドリアの要人であり守護天使と呼ばれる八人将が、どうしてこんな真夜中に顔を突き合わせているのかといえば。
ジャーファルが行方不明なのである。
実を言えば、彼の優秀な政務官が夜遅くまで皆の前に姿を現さないというのは、多くはなくも少なからずあった。
しかしそういう時は、執務室に籠っていたり、資料室を歩き回っていたりだ。しかも律儀な性格の彼は、外出の際は何時間ほどで戻る、というように、兵や女中に伝えていたのである。
しかし、今回は明らかに状況が違う。誰にも何も告げず、ひとりでに王宮から消えてしまった。
「ねえヤムさん。お兄さんは、何か用事があったのかい?」
「いいえ、私は聞いてないわ…どう、アリババ君?」
「用事って言ってましたけど…帰り、遅すぎますよね?」
「私もそう思います」
食客である3人の子供たちもそれぞれ意見するが、名案は出ない。
この3人は、バルバット国から来た子供たちで、アリババはその国の王子である。アラジンとモルジアナは二人の大切な仲間であり、その中でもアラジンは『創世の魔法使い』と呼ばれるマギという存在だ。
「俺たちが出て、国民を不安にさせるわけにもいかねぇし…」
「うむ。王であるシンドバットがいない今、問題を大きくはできん」
今島では20人ほどの兵がジャーファル捜索にあたっているが、真夜中という時間ゆえ海に面した崖や森は危なくて捜索できず、住民への迷惑も考え、大声も出せずにいた。
はっきり言って、捜索は難航していたのである。
「あの……私も捜索に加わります」
「!…モルさん?」
「私なら、崖や森も平気です。官服を着ていないから、目立ちもしません」
無表情な彼女でも、きゅっと眉を寄せて街をチラチラとみている。やはり、ジャーファルが心配な気持ちは周りと同じなようだ。
「モルさんが行くなら僕も!」
「俺も行くぜ!…どうですか、師匠?」
食客である3人なら目立つこともなく、しかも兵より自由に探せるかも
しれない。
不在の王シンドバットに代わり、ドラコーンが大きくうなずいた。
「頼めるか。アリババ、アラジン、モルジアナ」
『はいっ!!』