二次創作小説(紙ほか)

Re: 【マギ】光と影−日常事件帳−コメ&ネタ募集 ( No.51 )
日時: 2014/03/11 19:27
名前: リーフ (ID: O72/xQMk)

22話

武術の鍛錬で使われる赤蟹塔は、シンドリア王宮軍事施設の一つだ。
ノエルは八人将・シャルルカンに会うため、ピスティの案内に従い一人赤蟹塔へ向かっていた。

「確かこの角を…あぁ、あれか。…ん?」

赤蟹塔だと思われる建造物に人影を見て、ノエルはその場で足を止めて瞬きした。
旅をしていたノエルの視力は、常人から見ればかなり良い。勿論ファナリスや七海の覇王シンドバッド等とは比べられても困るだけだが、それでも常人にしてみればかなり良い目だ。
その視力なら、高々数十メートル先に誰がいるのかなど、目をじっと凝らすまでもない。
そこにいる二人が見覚えのある顔だと分かり、ノエルは今度こそ赤蟹塔へ歩み寄った。
二人は剣術の稽古に夢中で、ノエルの接近に気付いていない。といってもノエル自身が二人に気を遣い、自身の気配を殺しているのだが。

「オラオラオラぁッ!!情けねーぜアリババ君よォっ!!?」
「ちょ、師匠ッ…危なッ!?てか、絶対睡眠多くとったでしょ!?」
「無駄口叩くなよバカ弟子がァっ!!」
「く、そッ…このッ…らあァっ!!」

稽古をしているのは、褐色の剣士シャルルカンと、その弟子アリババだった。弟子の一撃を、師匠はしなやかに受け流す。
シャルルカンさん…さすがは八人将だな。
ノエルが素直に感心していると、大きな鐘の音が響いた。島民たちに時間を知らせる大鐘だ。
それと同時に、シャルルカンの猛攻もストップする。

「うし、今日はここまでな!」
「はあっ、はあッ…!!」
「おいおい、1時間そこらでもうへばったのか?」
「に、二時間っすよ!師匠は寝てて遅刻したんでしょう!」
「あーそうだった。悪い悪い!」

チャラチャラと弟子の文句を交わし、シャルルカンは笑っている。そんな師匠の様子にアリババも無力感を覚えたのか、ため息をつき、明日は遅刻しないで下さいよと念を押して立ち上がった。
そして、ノエルと視線が交差する。

「あれ?貴女はたしか…」
「おう。さっきからいたな。えーと…何ルさんだっけ?」
「ノエルだ。稽古終了直後に失礼する。シャルルカンさん。アリババ王子。」

王子、という単語にシャルルカンの目が細められ、アリババの頬が引きつる。

「な、何で俺の事…?」
「ああ、語弊があったようで失礼した。バルバットの無血革命の噂は、
 私の知り合いから聞いたんだ。」
「えっ!じゃあその人、もしかしてバルバット国民…?」
「まあ……そんなところかな。」

自国バルバットと少しでも関係があると知り、アリババの表情は明るくなった。そんな彼を見つつ目を細めていたシャルルカンは、思い出したようにノエルに問うた。

「そーいや、何の用だ?」
「ああ。改めて自己紹介させてもらおうと思ったんだ。ほかの八人将の方々はもう回った。」
「なるほどな。俺はエリオハプトのシャルルカン。王様の剣術指南もしてる八人将だ。んでこいつが…」
「アリババです!よろしくお願いします。」

二カッと笑うシャルルカンと頭を下げるアリババ。対照的な二人に、ノエルは思わず微笑みを浮かべる。

「ノエルだ。よろしくお願いする。…それと、敬語はいいよアリババ」
「え、でも歳とか…。」
「17と19だ。大した差はないだろう?」
「んじゃー俺も敬語はいらないぜノエル。これからよろしくな」
「ああ。二人ともよろしく頼む。」

ノエルは祖国の礼法で指を組むと、ところで、と首を傾げた。

「シャルルカン、シンドバッド王に謁見はできるだろうか?」
「あん?あぁできると思うぜ。もうすぐ休憩時間だし…今日はバザールへの視察もないしな。」

もっとも、王様がジャーファルさんを怒らせてなきゃだけどよ…。と、シャルルカンは苦笑した。
隣から、アリババがノエルに訊く。

「ノエル、シンドバッドさんに用があるのか?」
「ああ。ずっと迷っていたんだがな…是非お話しさせて頂きたい事があるんだ。」

真剣な表情を浮かべたノエルを見やり、アリババはそっかと頷く。

「ところでノエル…」
「ん?」

スッと伸びた褐色の指が、トンとノエルの額をつつく。

「その堅苦しい喋り方は不要だぜ。俺らの王様は、ちょっと馴れ馴れしいくらいでちょうどいいんだよ!」

ニッと笑うシャルルカンを、少しの間見つめてノエルは笑った。

「…余計なお世話だ。」