二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【マギ】光と影−日常事件帳− ( No.6 )
- 日時: 2013/12/20 16:51
- 名前: リーフ (ID: O72/xQMk)
2話
シンドリア王宮。昼飯時を過ぎ、殆どの人間が胃を休めているであろう時間帯。だが政務官室では、一人の男が黙々と文机に向かっていた。
緑色のクーフィーヤを被り白い肌を持つ、童顔の男の名はジャーファル。この国シンドリアの、政務官長である。
涼しげな顔でペンを走らせる彼だが、右側におかれたもう一つの文机に山積みにされた書類と巻物を見て、微かに顔をしかめた。
「……よし。これを回してくるか」
ふう、と一息つくと、ジャーファルはペンを手放した。案件の整理と書名は終わったが、仕事自体は終わっていない。次はこの書類を、各役所へ回さなければいけないのだ。
「よいしょ、と」
両手に目一杯の書類を抱きかかえ、ジャーファルは政務官室を出る。するとそこに、休憩を終えた政務官たちが戻ってきた。
「ジャーファル様、水道工事の書類は…」
「ああジャーファル様。例の移民の件ですが…」
「すごい量ですな…お手伝いいたしましょうか?」
声をかけてくる同僚たちに笑顔を向け、的確な指示を飛ばしていく。政務官長である彼だからこそできることだった。
「いえ、これは私一人で。ありがとうございます。それから、書類ができたら私の机の上に置いておいて下さい。明日までには目を通して、また何かあれば言いますので」
『はい』
「では」
さっと身を翻すと、ジャーファルは廊下を進んでいった。
*
ようやくすべての書類を配り終え、ジャーファルの今日の責務は終了した。時刻はもう夕刻である。
今日、王であるシンドバットは、この国にいない。護衛をつけて、貿易相手国との会談に応じているためだ。よって帰国は、早ければ数時間後、遅ければ深夜や明朝になるだろう。
「まあ、居てもいなくても仕事はしないんですが…」
一人呟き、思わず苦笑いを浮かべる。
あのお方のことだから、どうせ酔って帰ってくるが…護衛にマスルールがいるから、心配はないだろう。
王の護衛には、必ず一人、シンドリア最強の戦士、八人将がつく。その中でもマスルールの信用は折り紙付きだ。最強の戦闘民族である上に、彼なら泥酔したシンドバットでも片手で持ち上げて帰国するだろう。
そんなことを思うジャーファル自身が、実は八人将の筆頭だったりするのだが。
考えつつ夕陽を見ていると、まだ目を通していない書類があることを思い出した。夕飯までに、少しは減らしたいものである。
急いで政務室に戻ろうとした時、一陣の風が吹く。王宮の最上階でテラスとなったここは、風通しがとてもいいのだ。
「ん。……っ!!?」
その風の中、ジャーファルは久々にこの匂いを嗅いだ。
濃厚な、血の匂い。
元暗殺者だからか、こういった匂いには敏感だ。風に乗って運ばれるくらいなのだから、相当な出血が起こっているはずだ。しかし眼下の町はいつも通りで……いや。
「あれは………。」
ジャーファルを誘うかのように、人の居なさそうな裏路地で、美しい藍色が揺れていた。