二次創作小説(紙ほか)

Re: 【銀魂】はろー、幕府のお犬さま【企画開催中】 ( No.24 )
日時: 2014/08/07 20:25
名前: 春太郎 (ID: D7i.SwLm)

「消えてちょうだい。そして二度と私達の前に現れないで」


 マネージャーのおばさんが、おじさんに向けて冷たく言い放つ。


「あの娘に嫌なこと思い出させないでちょうだい。父親が人殺しなんて」



 当のおじさんは、そう言い残して去っていく元妻をちらりとも見ない。ただ黙って一点だけを見つめている。
 そんなおじさんを、私はただただ眺めることしかできなかった。





「ガム食べる?」

「んなガキみてーなもん食えるか」


 坂田さんが差し出したガムを一瞥すると、おじさんはすぐに目を反らした。坂田さんは代わりとでも言うように、手に持ったガムを私に渡してきた。
 私はそれを無言で受け取り、包み紙を開いてガムを口に放り込む。口の中にあるそれは、ほんのり甘い。


「人生を楽しく生きるコツは童心を忘れねーことだよ」

 ガムを膨らませようと奮闘する私をよそに、坂田さんは大きく膨らませたガムをパチンと割った。



「まァ、娘の晴れ舞台見るために脱獄なんざ、ガキみてーなバカじゃないとできねーか?」

「……そんなんじゃねェバカヤロー。昔約束しちまったんだよ」





 そう言うと、おじさんは柄の悪そうな顔をくしゃりと歪めて昔話をし始めた。

Re: 【銀魂】はろー、幕府のお犬さま【企画開催中】 ( No.25 )
日時: 2014/08/07 20:28
名前: 春太郎 (ID: D7i.SwLm)

 ○










「覚えてるわけねーよな。十三年も前の話だ」


 そこまで言ってから、おじさんは少しだけ悲しそうな顔をする。


「いや、覚えてても思い出したくねーわな。人を殺めちまったヤクザな親父のことなんかよォ」

「……っ! そんなこと……」



 思わず口を開いた私に、緩く首を振るおじさん。もちろん、縦にではない。無言の否定である。


「……帰るわ。バラ買ってくんのも忘れちまったし…」

「……帰っちゃうんですか」

「あァ。迷惑かけたな」



 ……本当にいいのかな。ちらりとおじさんの顔を盗み見ると、決して晴れ晴れとした様子とは思えない顔をしている。
 だからと言って、真選組の一隊士である私にはおじさんを屯所に連れ戻すと言う任務がある。

 仕方なく、おじさんをパトカーの停めてある方へと誘導していたら、突然なにやら騒がしい声が聞こえてきた。



 あれ? この声、徐々にこっちに近付いて来てるような……。それも、かなりのスピードで。





「銀ちゃァァァーん!!」

「神楽ちゃん!?」




 声の主は神楽ちゃんだった。神楽ちゃんはいつもの傘を担いで、こちらへと猛ダッシュしている。なにやら尋常でない様子。
 神楽ちゃんに気付いた坂田さんが、「どした?」と訪ねる。私も神楽ちゃんを静かに見守る。



「会場が大変アル。お客さんの一人が暴れだしてポドン発射」

「な、何ですってェー!?」

「普通にしゃべれ。訳わかんねーよ!」



 会場の様子をお通語を交えて説明する神楽ちゃん。しかし、その意味が坂田さんには伝わっていないらしく、青筋を浮かべた坂田さんが神楽ちゃんの頬をがしりと掴んでいる。



「坂田さん、分からないんですか? 会場に天人がいたんですよ!」

「ええ、そうです。これがまた厄介なことに食恋族…。興奮すると好きな相手を捕食するという変態天人なんです」



 私の見事な通訳っぷりと、神楽ちゃんの補足説明を聞くや否や慌てて飛び出して行ったのは、坂田さんではなく……。










 ○










「お通ぅぅぅ!! 早く逃げろォォ!!」










 ○









「あ…気がついた」


 レジ袋を被った男が、静かに瞼を上げる。

「無茶するねェ、アンタ。こんなバカな真似して…何者だい?」


 未だざわつく会場の中で、男が口を開いた。



「…ただのファンさ。あんたの」



 男が言い終わるのとほぼ同時に、坂田さんたちによって天人が倒される。うつ伏せになった天人の上には坂田さんと神楽ちゃんが、周りには新八くん率いる親衛隊たちがいる。

 相変わらず天人を踏みつけたまま、坂田さんがおじさんに向かって何かを投げた。
 それを受け取るおじさん。




「そんなもんしか見つからなかった。百万本には及ばねーが後は愛情でごまかして」





 そう言うと、会場を立ち去っていく万事屋の三人。私もそれに続くように、会場を後にする。扉を潜る瞬間にステージの方を振り返った。

 私たちを見送るおじさんの手には、タンポポのような花で作られた、小さな花束が握られている。










 ○










「よォ。涙のお別れはすんだか?」

「バカヤローお別れなんかじゃねェ。また必ず会いにくるさ、…今度は胸張ってな」




 涙で顔をぐしゃぐしゃにするおじさんを、今度こそパトカーの方へ連れていく。




「——…それじゃ、帰りましょうか!」