二次創作小説(紙ほか)

Re: 【銀魂】はろー、幕府のお犬さま【質問受付中!】 ( No.37 )
日時: 2014/08/07 21:26
名前: 春太郎 (ID: D7i.SwLm)

「副長ォォォォ!!」

 屯所内に響く複数の叫び声。いつもうるさいこの場所が、今日はいっそう騒がしい。



 ……えっと、あの、皆さん。今は会議中なんですけど。


 
 とは、半分怒り半分パニックになっているみんなには言えず、私は黙ってお茶をすすった。


 …………熱かった。


 舌を火傷した私に気づく様子もなく、みんなは口々に局長がフラれただの、決闘で負けただの叫んでいる。その中には、いつもは大人しい山崎さんの姿もある。

 ちょっとちょっと、ザキさんどうしたんすか。普段はあんなに存在感ないくせに今日はすごい形相でまくし立ててますけども。ちょっと怖いんですけども!
 てか、いつになく存在感を発揮しているわりに全然目立ってないなんて、さすがっすねザキさん!! アンタやっぱ地味の鏡っすよ!



 なんて、舌の火傷を誰にも気づかれなかった空しさに任せてくだらないことを考える。べ、別に寂しいなんて思ってないんだからね!


 みんなが言ってるのは、たぶんこの前のアレのことだろうなぁ。
 近藤さんが川原で倒れていた、アレ。










 第十訓【最初はグー出すアホがいるって言うやつが一番アホ】










「女にフラれるのはいつものことだが喧嘩で負けたって信じられねーよ!!」



 次々とまくし立てるみんなの視線の先には、煙草をくわえて静かに構える土方さんがいる。私はそんな土方さんを横目に見ながら、お茶にふーふーと息を吹きかけた。



「銀髪の侍ってのは何者なんだよ!!」

 そんな中で聞こえた誰かの言葉。
 さっきまで静かだった土方さんが、それに反応するように口を開く。



「あの近藤さんが負けるわけねーだろが」


 そう言った土方さんの目は鋭い。私はちょうどいい温度まで冷めたお茶を、ぐいっと飲み干した。




「誰だ。くだらねェ噂たれ流してんのは」

「沖田隊長が!」

「スピーカーでふれ回ってたぜ!!」


 いまだ興奮が冷めやらない、といった様子の隊士たちが沖田さんの方を指さす。それにつられるように部屋中の視線が沖田さんへと向く。


 沖田さんはそんなことお構いなしに、ニタァと意地悪そうな笑みを浮かべ、

「俺は土方さんにききやした」

となんの躊躇いもなく言い放った。



 それを聞いたみんなの視線が、再び土方さんに戻る。
 土方さんは

「コイツにしゃべった俺がバカだった……」

と頭を抱えている。



「なんだよ! 結局アンタが火種じゃねェか!!」

「偉そうな顔してふざけんじゃないわよ!!」

「そうよ! なに簡単にしゃべってんのよ! 死ねニコチン野郎! まあアンタが言う前に私が言ってましたけどね!」


 事の発端が土方さんだと知り、ヒートアップするみんな。それに紛れて私も早口にまくし立てる。
 そんな私の手には、昨日苦労して作った号外が握られている。でかでかと貼られた写真には、川原でのびている近藤さんが写っている。



 ちなみに今持っているものはラスイチで、あとのものは沖田さんを始めとする隊士たちの手元にある。



「オメェの方がタチ悪いわ! てか今さらっと死ねって言ったよな? ニコチン野郎って言ったよなァ!?」


 私の方を指差して、青筋を浮かべる土方さんに向かってあっかんべえをする。ついでにダブルピースしてやったぜ!



「——って事は何? マジなのあの噂!?」

「うるせェェェぁぁ!!」


 土方さんの眉間がぴくりと動いたと同時にひっくり返った机。どうやらキレた土方さんが蹴ったらしい。


「会議中に私語した奴ァ切腹だ。俺が介錯してやる。山崎……お前からだ」

「え゛え゛え゛!? 俺……何もしゃべってな……」

「しゃべってんだろーが、現在進行形で」


 土方さんと山崎さんのやりとりで全てを悟ったみんなが一斉に黙りこむ。もちろん私もそのうちの一人。

 生け贄となった山崎さんの冥福を祈るため、両手を合わせた私に、土方さんが

「次はお前だ遥ァ」

とドスの聞いた声で言う。



 顔をこちらに全く向けずに言っているのが逆に怖い。



「いやいやいや! 私関係ないですし! 斬るんなら沖田さんの方がいいですよ!?」

「なに言ってるんでィ。俺よりお前の方が斬りやすそうな体してますぜ」

「アンタがなに言ってんだよ!?」



 一方では私と沖田さんが、もう一方では土方さんと山崎さんが騒ぐ部屋。
 周りのみんなは私たちと目を合わせないように下を向き、ただただ正座している。


 そんな異様すぎる部屋の襖がガラリと開き、みんなの視線が一気にそちらへと集まる。






「ウィース。おお、いつになく白熱した会議だな」



 部屋中の空気が固まる気配。実際にはそんなことないんだけど、部屋に入ってきた人物の姿に土方さんまで言葉を失っている。



「ん? どーしたの?」



 不思議そうに首を傾げる近藤さんの左頬には大きなガーゼか貼られている。ぷっくりと腫れた顔は痛々しいのを通り越して、いっそ笑えるくらいだ。
 けれど、誰も笑うことはなかった。






 ————固まった空気の中、土方さんの溜め息だけが部屋に空しく響いた。