二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【薄桜鬼】 夢幻泡沫 ( No.3 )
- 日時: 2014/04/13 10:46
- 名前: 瑠々 ◆sZgkRcXqJk (ID: G1aoRKsm)
第一話 京の都
星空には少しだけ欠けた月が浮かんでいるが、今は雲隠れして見えない。
暗い京の夜道を青年——否、少女・菊月楓は月明かりを頼りに歩いていた。
楓はハァ…とため息を吐くと呟いた。
「団子屋の娘さんの話、真面目に聞いとけばよかった———…」
———「新選組?」
楓は団子をゴクリと飲み込むと、団子屋の娘に聞き返した。
楓の横に立っている団子屋の娘はコクリと頷き、
「ええ、そうどす。半年前、今日の治安維持のため上洛してきた浪士集団どす。同士討ちしたり、道の真ん中で浪人と斬り合いしたり・・・。
とにかくおっかない連中なんどす」
「へえ……」
ハァ…とため息を吐いて話す娘の話を、楓は適当に聞き流す。
すると娘は「あっ」と声を漏らし、
「菊月はん、今夜の宿はとってはります?」
「?いや、まだだけど」
楓がそう返すと、娘が少し心配そうな顔で、
「夜は物騒やさかい、早めに宿をとっておいたほうがよろしゅうおすよ。最近は辻斬りが横行しとるし…」
(大丈夫だろうと思ってぶらぶらしてたけど、日が暮れるころには殆どの宿が開いてないとは…)
恐らく、仕事などで京を訪れた人はその事を知っていたんだろう。楓も京が物騒だとは聞いていたが、此処までとは思っていなかった。
先程より大きなため息を吐き、自分がしたことに後悔しながら歩を進める。
すると、前方に人影が現れた。
(誰?こんな時間に。まあ、私も人のこと言えないけど)
その時、楓の脳裏に団子屋の娘の言葉がよぎった。
——最近は辻斬りが横行しとるし…。
もし、前方にいる人物が辻斬りだとしたら今日は厄日だ、と苦笑し、前方の人物に用心しながら一歩一歩、歩を進める。
すると、先程まで雲隠れしていた月が顔を出し、相手の顔が明らかになった。
「!?」
相手の顔を見た瞬間、楓は目を見張った。
白い髪、爛々と光る赤い目。
そして血塗られた刀———。
(———アイツは、辻斬りなんかじゃない…)
自然と刀の柄に手が掛かる。
「危険だ」と、脳が信号を発している。
すると相手も楓の存在に気付いた、その刹那——、
「…血を……血をくれえええええええええええ!!」
悲鳴ではない。獲物を見つけた獣の、歓喜の叫び。
男は楓に向かって走り出した。
楓も抜刀し、構えた。が、
(速い!!)
男とはかなりの距離があったが、楓が構えた時には男は手が届くか届かないかの距離まで来ていた。
振り下ろされた刃を避けようとしたが、とても間に合わない。
かわせぬと判断した楓は、咄嗟に刀で受け止めたが、時間の問題だった。男の腕力は並みの男以上。女の楓に長時間持つはずがない。
瞬間、楓は男の太ももに蹴りこんだ。
男は体制を崩した。この機を逃すまい、と楓は男の胴に一閃。
男の胴から血が噴き出す。これで男は失血死するだろう。楓は刀を鞘に納め、その場を立ち去ろうとした。が、
「ひゃははははは!!!」
甲高い笑い声が背後から聞こえ、抜刀しながら振り向いた、その刹那、
「———っ!!」
楓の左腕に鋭い痛みが走る。
斬られた、と思った瞬間、楓は後方に飛び、男との距離を取るが、うまく着地できず、その場に倒れこむ。
「ひひ…血…血だ…」
男は手についた己の血を舐めている。男の赤い目の輝きが増したのは気のせいだろうか。しかもよく見ると、腹の傷が癒えている。
急いで体を起こそうとするが、左肩の所為でうまく起き上がれない。
やっとの思いで膝を地につけた時だった。
「ひゃははははは!!」
刀を振り上げた男が目の前にいた。
獣のような赤い目、血で汚れた体——鬼としか形容できないそれを、楓は慌てず、狂った男をじっと見ている。
再び、血飛沫が舞う。
しかし、血を流したのは楓ではなく、男の方だった。
楓の刀は、男の左胸に深々と突き刺さっていた。
「悪く思わないでよね。こうでもしないとアンタ死なないでしょ」
そして、男は事切れた。
男が倒れ伏すのを見届けると、楓は肩の傷を見た。
どくどくと血が溢れだしている。
楓は静かに倒れこみ、意識を手放した。