二次創作小説(紙ほか)

Re: 【薄桜鬼】  夢幻泡沫 ( No.5 )
日時: 2014/05/06 13:57
名前: 瑠々 ◆sZgkRcXqJk (ID: CqswN94u)

第二話 壬生の狼

人の気配を感じて、楓は目を覚ました。
左腕に鋭い痛みを感じながら、人の気配がする方を見ると、そこには50代くらいの一人の男が座っていた。

「おや、気が付いたかい?」

穏やかな声で微笑む男を見て、楓は少しホッとしたように息を吐く。
そして、顔だけを動かし、辺りを見回す。どうやら深夜のようだ。障子の向こうは暗く、部屋の行燈の明かりが部屋をぼんやりと照らしている。
「まだ寝ていた方がいい」と止める男の言葉を無視して、左腕に気を遣いながらゆっくりと起き上がる。

「あの、ここは何処ですか?私確か——…」
「ここは新選組の屯所だよ。ああ、自己紹介がまだだったね。私は井上源三郎」
「菊月楓です」

誤魔化したなコイツ、と内心で毒づきながら自己紹介をする。
すると、廊下から足音が聞こえたかと思うと、二人の男が入ってきた。
一人は大柄で、もう一人は楓と同い年くらいだ。

「原田君、藤堂君、丁度よかった。トシさんたちを呼んできてくれないかい?」

原田と藤堂と呼ばれた二人の男はチラリと楓を見る。すると大柄な男が、

「わかった。おい平助。源さんと一緒にコイツの事見ててくれ」

大柄な男は平助と呼んだ男にそう告げると部屋を出て行った。
楓は井上と藤堂の顔を見る。二人とも真剣な顔をしている。
面倒なことになったな、と思っていると、突然平助と呼ばれた男が口を開いた。

「そうだ!俺、藤堂平助。お前は?」
「…菊月楓です」

恐らく暗い雰囲気が嫌いなのだろう。藤堂平助と名乗った男は明るい声で名乗った。
すると、廊下から複数の足音が聞こえてきた。
大柄な男——原田が部屋を出てから少ししか時間が経っていないことから考えると、いつ呼ばれても良いように近くの部屋に待機していたのだろう。

スッと襖が開き、原田の他に六人の男が入って来て、それぞれが好きな場所に座る。
楓は布団から出ると、井上に手伝ってもらいながら布団を片付けた。
楓と井上が布団を片付け、井上が部屋の隅に、楓が部屋の真ん中に座ると、上座に座る三人の男のうち真ん中に座っている男が穏やかな表情で、

「傷の具合はどうだ?」

と尋ねた。ここは新選組の屯所だと井上が言っていたことと、上座の真ん中に座っていることから、新選組の局長・近藤勇であることが推測できる。

「まだ痛みますが…、まあ大丈夫です」

穏やかな表情の近藤とは全く逆の、無表情で楓は答えたが、近藤は人がいいのだろう。「そうか、それはよかった」と笑顔で言う。
すると、近藤の右側に座っている男が口を開いた。

「単刀直入に聞く。——お前は何を見た?」
「聞かなくても分かってるでしょう?」

楓が笑みを浮かべながら——目は笑っていない——返すと、もともと鋭かった男の眼光はますます強くなった。
恐らくこの男が新選組の副長・土方歳三なのだろう。京に近づくにつれ、聞こえてきた新選組の話。そして新選組の中で最も恐れられている新選組の鬼の副長なのだろう、と。

暫くの間楓と土方は無言で睨み合っていたが、突然土方が口を開いた。

「どう解釈されても、文句は言わねえか?」
「もちろん」

相変わらず笑みを浮かべている楓を最後に一睨みすると、壁にもたれ掛かっている細身の男に顔を向けた。

「総司。こいつの事見張ってろ」
「はいはい。っていうか、この子、殺さないんですか?」

チラリと総司と呼ばれた男ーー恐らく沖田総司だろうーーが楓を見る。楓は沖田の台詞を聞いても平然としている。
土方は近藤と、土方の反対側に座っている眼鏡をかけた男を見る。
二人ともコクリと頷くと、土方は部屋にいる者全員に告げた。

「こいつの処分は明日下す」

そして楓を睨みながら、

「逃げるなよ。逃げようとしたら斬る」

それだけを告げると、沖田と楓以外の全員が立ち上がり、部屋を出て行った。