二次創作小説(紙ほか)

烏ヶ森編 4話「無法の町」 ( No.100 )
日時: 2014/05/24 21:10
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「——とまあ、そういうわけで新しい人間がこっちの世界に来たというわけですよ」
「良かったじゃない。この世界の混乱もどんどん広がってるみたいだし、この前言ってた……ラヴァー、だっけ? っていう人間の存在もあるわけだし、人手が多いに越したことはないと思うけど」
「そうなんですけどね……ただ」
「ただ?」
「案内人の方が人手不足なんですよ。僕は彼女たちを導く役目もあるわけで、ずっと彼らに付きっ切りと言うわけにはいかないんです」
「成程……それで私が呼ばれたの」
「そういうことです。次回は僕が行きますが、それ以降のこと、お願いできますか?」
「……まあ、いいけどね。あなたの頼みじゃ、断りにくいし」
「ありがとうございます。詳しいことは後で話します……あ、あとウルカさんから携帯端末が届くはずなので、良ければ使ってください」
「ありがとう。じゃあ有効活用させてもらうね」
「それから……他にも色々と試したいこともあるんですよ」
「試したいこと?」
「詳しいことっていうのが、その試したいことなんですけど……僕らが人間の世界でどのくらい活動できるのかとか、少し知りたくて」
「知ってどうするの?」
「別にどうってわけでもないですけど、まあ色々あるんですよ」
「……あなたがそう言うなら、深くは聞かないけど。ともあれ承ったよ。明日までに準備は済ませる」
「助かります。じゃあ、僕はこれで」
「うん、ばいばい」



「——と、昨日はそんなことがあったんだ」
「……昨日はいきなり二人が消えて驚愕しましたが、まさかあの人の言うことが本当だったなんて……」
「部長と副部長が言うのなら間違いないんでしょうねー。僕らも二人とあの人が消えるところを見ちゃいましたし、戻ったと思ったら一騎先輩はボロボロだし」
「クリーチャー世界に行ったなんて羨ましいっす! 自分も行ってみたいっす!」
 翌日。今日も部室に集まった部員たちは、一騎やミシェルから昨日のことを聞いていた。
 その時は誰もが信じていなかったクリーチャー世界も、一騎とミシェルの言葉を通してなら飲み込めたようで、まだ疑っているところはあれど、信じてみる気にはなったようだ。
「それで昨日の男の人……リュンさん、でしたか? あの人は今日も来るんですか」
「うん。そろそろ来るって言ってた時間なんだけど……」

「お待たせ」

 と、声がした。
 気付けば、いつの間にかそこにリュンがいた。
「っ!? ど、どこから……!」
「座標さえ打ち込めば、僕はどこにでも行けるからね。それより、今日はどうする? みんなで行く?」
 完全に連れて行く気満々のリュンだった。
「うーん、流石に全員でっていうのはなぁ……」
「見回りの先生が来た時とか、困りますしね」
 全員で行くのは少々リスキーだと考える一同。それを見てリュンは、ふと漏らすように呟く。
「……あの子たちはこんなこと考えてなかったけどな……」
「とりあえず、言い出しっぺの一騎は確定にして、残り四人を半分に分けて、二人を留守番にさせるか」
「俺は確定でいいの?」
「おまえを置いていくと『恋! 恋!』ってうるさいだろうからな」
「流石にそんなことはないけど……」
 しかし常に唸っていそうなので、満場一致で確定となった。
 残り二人は適当にじゃんけんで決め、再びミシェルと八が行くこととなった。
「じゃあ行ってくるよ、黒月さん、焔君」
「留守番は頼んだぞ」
「先輩方には申し訳ないっすけど、自分行ってくるっす!」
 こうして一騎、ミシェル、そして八の三人は、クリーチャー世界へと飛ぶのであった。



「君たちの目的は、あの女の子を探すこと。だから各地で勝手に自治区を形成しているクリーチャーを倒しつつ、情報を集めていこうか」
 というリュンの方針の下、やって来たのは一つの町。
 コンクリート打ちっぱなしの質素な建物が立ち並び、路地の奥の闇は暗く、周囲に見える人々の視線も非常に鋭い。
「いやまあ、人じゃないけどな」
「でも、人間とあんまり変わらないような見た目してるよ?」
「アウトレイジだからね」
 リュンは歩きながら、一騎たちだけに聞こえる声量で言う。
「ここはアウトレイジの町なんだ」
「アウトレイジって、《ザ・クロック》とか《チョロチュー》とか、変わった効果を持つカードが多い種族っすよね?」
「マフィア染みてるクリーチャーだよな。なんでそんな物騒なとこに」
「アリス」
 リュンは短く答えた。
「この町には《侵入する電脳者 アリス》っていうクリーチャーがいるはずなんだ。彼女はかつて《賢愚神話》が拠点とする海底都市のデータベースにハッキングを仕掛けて、彼らの保有するデータの30%ほどを流出させた凄腕ハッカーだ」
 そんなアリスに頼めば、もしかしたら恋の場所も分かるかもしれない、ということらしかった。
「成程……で、そのアリスはどうやって探すの?」
「とりあえずこの町のボスに聞いてみるしかないよね。あ、たぶんあそこだよ」
 この町のボスがいるのは、と指差したのは、他の建物とは明らかに違う外観をした屋敷だった。
「なんでここだけ和風……」
「それを突っ込むのは野暮ってもんだよ。さあ行こうか」
 クリーチャーなので当然なのかもしれないが、特に反応を示さずにリュンはスタスタと行ってしまった。突っ込んでいても始まらないので、一騎たちもその後に続く。
 そして門の前には、門番らしき二体のクリーチャーの姿。
「すみません。ちょっとこの屋敷の主に用があるのですが」
「はぁ? 何者だよ、お前ら」
「ジャッキーさんからはなにも聞いてねえぞ」
 リュンは努めて丁寧な口調で訪ねるが、門番は逆に荒っぽい口調で通そうとしない。
「お尋ねしたいことがあるんです。とりあえず通してくれませんか?」
「ダメだ。お前らみたいなどこの馬の骨か分からないような奴らを通せるかよ」
「第一、お前らアウトレイジか? 身体のどこも武器になってるようには見えねぇが——」
 と、門番の一人が一番近くにいたミシェルの頭に無造作に触れた、次の瞬間。

 ダァンッ!

 という地面になにかを叩きつけるような音と共に、門番の片割れが地面に倒れていた。完全に白目をむいており、気絶している。
「気安く触んな」
「な……こいつ!」
「ふんっ」
 もう片方の門番も拳を繰り出すが、半身になってそれを避けると、そのまま腕を掴んで捻り上げる
「痛だだだだだだだ!?」
「クリーチャーの癖に大したことねーなー。その辺の不良と変わんないじゃん」
「ちょっ、ミシェル、それやば——」
 一騎の制止は、しかし手遅れすぎた。
「このっ!」
「おっと」
 門番は無理やり腕を振るってミシェルを引き剥がすと、大声で叫び始める。
「狼藉者だ! ジャッキーさんに喧嘩吹っかけて来る奴らが現れたぞ!」
「狼藉者って……人を呼ばれたらまずいよ……」
「人じゃないけどな」
 しかし、門番の一声で一騎たちは完全に指名手配犯のお尋ね者扱いされている。
「どうするんすか? 逃げるっすか?」
「いや……こんなの下っ端が騒ぎ立ててるだけだし、強行突破しよう。ボスのところまでたどり着ければ、話くらいは聞いてくれるはず」
「リュンさん……」
「あたしはリュンに賛成だ。こういうのは、下っ端ばかり血の気が多いもんだ」
「ミシェルまで……ああもう! しょうがないな」
 などと言っている間に仲間が来てはまずい。そのまま門を突破しようとするが、
「ここは通さねえ! 大人しく捕まりな!」
「……テイン」
「やるんだね。いいよ」
 立ちはだかる門番に、一騎が前に出た。
「ここは俺に任せて。三人は行って」
「おい一騎、それ死亡フラグ——」
「よし、任せたよ一騎くん!」
「部長、格好良いいっす! ここはお任せしました!」
「いや止めろよ!」
 しかしそんなミシェルの叫びは虚しく、リュンと八に引っ張られて屋敷の奥へと突入するのだった。
 そして一騎は、テインの展開する神話空間に飲み込まれていく。