二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 5話「プルガシオンの街」 ( No.105 )
- 日時: 2014/05/25 17:02
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「明日から、僕は君らとクリーチャー世界に来ることはないってことだよ」
リュンから唐突に告げられた、そんな言葉。リュンがいなくては、ではどうやってクリーチャー世界に行けばいいのだろうか。
そんなことを思ったりしたが、
「大丈夫、ちゃんと代わりの人は見つけてあるよ。僕は元々、違う人間たちをこの世界に導いてきてるんだけど、もう二日も黙って彼らのところに行ってないから、流石にそろそろ戻らないと」
ということらしい。
「で、その代わりとやらはいつ来るんだ?」
「リュンさんが言うには、そろそろ来ると思うんだけど……」
だが、来るにしてもクリーチャーなのだろう。どんな人物だろうか。リュンのように人型をしていればビジュアル的にはいいのだが、クリーチャーはその名の通り異形の怪物の方が多い。少なくとも性格はもともだといいのだが……
などと考えていると、
「——お待たせ」
「っ、いつの間に……っていうか誰……!?」
「女……?」
気付けば、見知らぬ人影がそこにはあった。
水色のドレスにと、片足だけのガラスの靴が目を引く女性。その恰好から見ても、烏ヶ森の生徒ではないように見える。
「ここが人間界……少し、息苦しいかも」
「剣埼先輩……もしかしてこの人」
「さっき言ってたリュンとかいう人の代わりじゃないんですかー?」
美琴と空護が口を添える。
そして、その女性も、
「あ、申し遅れました。リュンさんの代わりに先導としてクリーチャー世界から来ました、氷麗です。よろしくね」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「……普通の人間にしか見えねぇ……」
リュンの時もそう思ったものだが、クリーチャーというのは意外と人型が多いのだろうか。
「じゃあ早速だけど、向こうに転送するよ。三人ずつ連れて行けってリュンさんには言われてたけど、今日は誰が行くの?」
「固定の剣埼先輩と、私と」
「僕です」
今日のメンバーは事前に決めていた。毎回固定の一騎と、美琴と空護だ。
「じゃあ、あたしらは留守番してるから。頑張ってこいよ」
「健闘を祈るっす! 先輩方、ご達者で!」
「ハチ公、それ使い方間違ってるからな」
と、そんな見送りに見送られ、一騎たちはクリーチャー世界へと飛ぶのであった。
そこは、プルガシオンという街だった。道も壁も家も白く塗られた、清潔感溢れる町なのだが、
「白すぎて落ち着かないな……」
「もう少し黒っぽいところとかないんですかねー」
一騎と空護は、その白さに若干参っていた。右も左も真っ白で、違和感を感じるのだろう。
「ここは光文明よりの、光と闇の領地の堺にある街……リュンさんから聞いた話では、あなたたちの探している人は光文明使いらしいから、比較的安定しているこの街のクリーチャーならなにか知っているかと思ったのだけれど」
「……確かに、恋は光文明をよく使ってたな……」
「…………」
どこか憂うような一騎の言葉に、黙り込む美琴。視線を逸らせば、空護も同じような感じだった。
一昨日、一騎がリュンを連れて来た日、一騎が飛び出した後のミシェルの言葉を思い出す——
「——妹分だ」
ミシェルは剣埼一騎と日向恋の関係を、そう表現した。
「妹……分?」
「義理の妹とかではなく、ですか?」
「ああ。血縁関係はないらしい」
「そのわりには剣埼先輩、随分と日向さんのこと気にかけてますよね」
「そこはあいつの性分と、昔なんかあったとか言っていたが、詳しくはあたしも知らない。ただ」
「ただ?」
「『俺は恋を絶対に守らなきゃいけないんだ』とだけ言ってた」
あまり似ていない一騎の声真似だったが、その言葉だけで一騎がどれだけ必死なのかが、多少なりとも伝わってくる。
「元々あいつと日向は、ここから少し離れたところに住んでたらしくてな。で、なんかあって日向がこっちに引っ越してきた時に、一騎の奴も一緒に引っ越してきたらしい。しかも、わざわざ日向の住んでるマンションの近くのアパートの部屋を借りてな」
「うわ、凄いっすね部長。あの子のために引っ越しっすか」
「流石にそこまで来ると軽く引きますねー」
「でもそれだと、剣埼先輩は一人暮らしということになりませんか? 話を聞く限り剣埼先輩の過保護で引っ越したみたいですし、ご両親とかは……」
「……あいつの両親は他界している。どっちもな」
刹那、部室の空気が静まり返り、重圧感を持つ。
「他界って、もういないってことですか……そんな大事なこと、本人がいないところで言ってもいいんですか……?」
「あいつもいつ打ち明けようか、とか言ってたから、ちょうどいいだろ。小学校の何年だったかの時に、事故で亡くなったらしい。そしてその時に世話になったのが、日向家だった」
「つまり、部長は日向家の皆さんにお世話になってるから、その子供である日向恋さんのことを大事にしてる、ってことっすか?」
「それもあるんだろうけど……それだけじゃなさげだな。それ以上はあたしも知らないが」
だが、恐らく今の一騎の過保護を形作っているのは、過去のことが関係しているはずだ。
日向恋と、剣埼一騎が転校して来る前の、過去の話が——
プルガシオンの街で情報を集めることが目的なので、そこは昨日と同じ理屈で、とりあえずこの街を取り仕切るクリーチャーに話を聞こうということになった。
なのでとりあえず、この街の中央にそびえる城を訪ねる一向。今回も門番はいたが、アウトレイジたちのように血の気が多いわけでもなく、氷麗の丁寧な対応で、すんなり通ることができた。
そして、
「あなた方ですか。私に会いたいという方々は」
玉座の間。その奥に坐するのは、一体の精霊龍。
《天団の精霊龍 エスポワール》だった。
「私に何用でしょうか」
「はい。実は私たちは、人間の女の子を探しているんです」
「こんな子なんですけど」
単刀直入に、一騎は恋の写真を見せる。
「見覚えはありませんか?」
「……今、人間と仰いましたよね」
エスポワールは少しだけ考え込むと、そう言った。
「私はこの人間を見た覚えはありませんが、人間を見たことがあるという報告を受けたことがあります」
「本当ですか!?」
「はい。この光文明の領地から少し離れた、闇文明の領地で見たそうです」
早くも見えてきた恋の手がかり。それを聞き一騎は、いても立ってもいられなくなる。
「ありがとうございました! みんな行こう! 急いで恋を——」
「行くのは自由ですが、気を付けてください」
駆け出そうとする一騎に、エスポワールは忠告する。
「人間を見たという報告は、闇文明の大都市、大罪都市グリモワールの一角でありました。最も光文明の領地に近い場所に位置する、プライドエリアで」
「プライドエリア?」
「リュンさんから聞いたよ。闇文明は、いち早くクリーチャーを集めて集団を形成し、都市を作り上げたと」
氷麗が言うには、その作り上げた都市は数多くの区画や町に分類されており、その場所を治めるクリーチャーの名前を冠しているらしい。
「でも、かなり強引にまとめた上に都市の政治はほとんど機能していないから、各エリアでほぼ完全な自治区になっているみたい」
「……なんでもいいよ。俺は恋を探す。そこで恋を見たというのなら、行くしかない」
「他に情報もありませんし、とりあえず行ってみるに越したことはなさそうですね」
一騎に加え美琴も賛同し、一同の方針はひとまずそのプライドエリアなる場所へ向かうということとなったのだが、
「…………」
「焔君? どうしたの?」
「いや、なーんかあのクリーチャー、キナ臭いというか胡散臭いというか、信用ならない気がしましてねー……」
「そうかな? 親切で丁寧なクリーチャーだと思ったけど」
城を出てから、そんなことを言う空護。しかし一騎には同意しかねる言葉だ。
「まあ、いいんですけど」
「?」
しかし最終的には、真意を読み取れない一言で片づけてしまう。
なにはともあれ。
一行は光文明の地から一旦離れ、闇文明の領地、大罪都市グリモワールの一角に存在するプライドエリアを目指すこととなった。