二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 6話「プライドエリア」 ( No.106 )
- 日時: 2014/05/28 17:43
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
プライドエリアは、一言で言えば廃墟だった。
昨日訪れた無法の町も荒れていたが、ここはむしろ廃れているとでも言うよう、生活感が感じられないゴーストタウンの如き場所だ。
「恋、こんなところでなにをしてたんだろう……?」
「あまり穏やかな感じはしませんねー」
そんなことを言いながら進んでいく一行。そしてたどり着いた、エリアの奥地。
そこはゴミ捨て場だった。鉄くずや瓦礫や鉄骨、さらにはよく分からないスクラップなど、とにかくそれらが積み上がったゴミの山が形成されている。
そしてその山の頂に立つのは、一体のクリーチャー。
「なんだお前ら? この《傲慢の悪魔龍 スペルビア》様になんの用だ?」
蝙蝠のような翼を広げ、そのクリーチャー——スペルビアは威圧するように一騎たちを見下ろす。
「……実は俺たち、人間の女の子を探してるんです。この場所に来たって聞いたんですけど、知りませんか?」
「人間の女だぁ? なんか聞き覚えがあるような……」
スペルビアはなにか思い出すようにぶつぶつ言っていたが、やがて、
「まあ、知ってたとしてもお前らみたいなどこの馬の骨かも分かんねー奴に言うつもりなんざないがな! ヒャハハハハ!」
「なんかムカつきますねー、このクリーチャー。偉そうで」
傲慢の悪魔龍などと呼ばれているのだから当然かもしれないが。
「どうします、剣崎先輩。このままだとなんの情報もなく帰ることになりますが」
「せめて知らないなら知らないで正直に話してくれればな……」
しかしスペルビアの性格から考えると、それは難しそうだ。
そう思っていると、
「……気が変わった。ファンキー・ナイトメアどもを甚振るのも飽きて暇してたところだし、ちょうどいいカモが来た」
スペルビアはグイッと一騎たちに顔を近づける。
「俺様を倒せたら、教えてやらんでもないぞ」
「っ、本当ですか!?」
「ああ。俺様はライラライの野郎とは違うからな、嘘はつかねー」
その発言自体が正直信じがたいものであったが、ここは信じなければ先に進まないだろう。
「よし、じゃあ早速。テイン——」
「待ってください、剣崎先輩」
一騎がデッキに手をかけて前に出ようとするのを、美琴が制した。
「黒月さん……な、なに?」
「先輩は人が良すぎでまっすぐぎです。こんな見るからに怪しいクリーチャー相手だと、足元をすくわれかねません」
「そ、そんなことないと思うけど……」
「それについては僕も同意ですかねー。部長はお人よしが過ぎるところがあると思いますー」
「ほ、焔君まで……」
「なので、私が行きます」
そう言って、デッキを手にするが、
「……あ、でも《語り手》のクリーチャーがいないと神話空間は開けないんじゃなかったっけ」
「え……そうだったんですか?」
「神話空間とかいう場所でデュエマするのは聞いてましたけどー、それは初耳ですよー」
確かあの時、ミシェルはリュンの力でカードに神話空間を開くだけの力を与えていたが、今ここにリュンはいない。しかし、
「あ、それなら大丈夫・リュンさんから力の一部を預かってきてるから、それをカードに押し込めば神話空間を開けるって」
「そうなんだ……よかった」
「いや、力を預かってきたって、そこツッコむところじゃないんですか?」
「部長はたまにボケますよねー……」
ともあれ。
リュンの力の一部とやらを美琴のカードに押し込み、準備は完了した。
「もういいか? あんまり俺様を待たせるなよ」
「そんなの、こっちの知ったことではないわ。さっさと終わらせましょう」
「生意気な……後で後悔するなよ!」
刹那。
美琴とスペルビアを包む、神話空間が展開される——
美琴とスペルビアのデュエル。
美琴のシールドは四枚あり、場には《死神ギガアニマ》《滅城の獣王ベルヘル・デ・ディオス》。
スペルビアのシールドは五枚。場には《ボンバク・ボッボーン》と《ポーク・ビーフ》が一体ずつ。
「ヒャハハハハ! 見せてやるぜ、俺様のターン! 呪文《キリモミ・ヤマアラシ》!」
スペルビアが唱えるのは、次に召喚するクリーチャーのコストを1下げつつ、スピードアタッカーを付加する呪文《キリモミ・ヤマアラシ》。
要するに手札のクリーチャーにスピードアタッカーを付けるような呪文であり、手札消費は激しいが奇襲性は高い。
「そして次に呼び出すのは……この俺様だ! 《傲慢の悪魔龍 スペルビア》を召喚!」
「出て来た……!」
『《キリモミ・ヤマアラシ》の効果で俺様はスピードアタッカー! そして……Tブレイカーだ!』
直後、美琴のシールドが三枚砕け散る。
いくら他に能力のない準バニラ染みたクリーチャーとはいえ、この打点はきつい。しかし、割られたシールドの一枚が光の束となり収束する。
「っ……S・トリガー《地獄門デス・ゲート》! 《ボンバク・ボッボーン》を破壊!」
S・トリガーでアタッカーを潰し、追撃を許さないが、《ボンバク・ボッボーン》はコスト2。墓地に1コストのクリーチャーがいないのでリアニメイトはできない。
「私のターン……呪文《ボーンおどり・チャージャー》、さらに二体目の《死神ギガアニマ》を召喚。一体目の《ギガアニマ》の能力で、墓地の《死神盗掘男》を回収。そして《ベルヘル・デ・ディオス》で攻撃!」
《スペルビア》のシールドを二枚割り、ターンを終える美琴。今はまだこれだけだ。
『それだけか? もしかして、俺様がいるからお前の身は安全だとでも思ってんのか?』
「……? どういうこと?」
『なんだぁ? 俺様の能力を知らないのか。だったら冥土の土産に教えてやる。俺たちデーモン・コマンド・ドラゴンは、ファンキー・ナイトメアどもの罪に対して罰を与える存在なんだが、その与える罰ってーのが、俺たちに架せられた罪に対応している。特に俺様に与えられた罰っつーのが強烈でな、この俺《傲慢の悪魔龍 スペルビア》が場にいる限り、俺様はゲームに勝利できねーんだ』
傲慢の悪魔龍 スペルビア 闇文明 (6)
クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 15000
T・ブレイカー
自分はゲームに勝てず、相手はゲームに負けない。
それでこの破格のスペックなのだ。コストのわりにパワーも打点も高いが、代わりにゲームに勝てなくなる。それが《スペルビア》に架せられた罰。
『だから俺様が、この後いくらお前をぶん殴っても噛み千切っても、俺様の勝ちにはならない』
「…………」
《スペルビア》が饒舌に語る様を、美琴は黙って聞いていた。《スペルビア》はそれをどう取ったのか、さらに続ける。
『なんでそんなことを言うのか、っつー顔してんな。簡単な話だ、勝つのは俺様なんだからな!』
勝のは俺様、などと言っているが、それは《スペルビア》自身の能力で不可能だ。美琴が《スペルビア》を除去しないように気を配れば、安全にとどめを刺すことができる。
——などという考えは、流石に甘い。
『俺様のターン! 呪文《キリモミ・ヤマアラシ》! そして……《魔刻の斬将オルゼキア》を召喚!』
「っ!」
刹那、美琴は理解した。
《スペルビア》のデメリットは確かに大きい。勝利に辿り着けなくなるその罰は、ゲームの根幹に干渉するがゆえに、かなり手痛いデメリットだ。
そしてそのデメリットを打ち消すにはどうすればいいか。簡単な話だ——
『《オルゼキア》の能力で俺様を破壊! ヒャハハハハハ!』
——自分自身を破壊してしまえばいい。
幸いにも、闇文明は自壊するカードが多い。《スペルビア》のデメリットを効率よく打ち消すのは簡単なことだろう。
「さぁ、お前はクリーチャーを二体破壊しな!」
「……《ギガアニマ》二体を破壊」
「さらに《オルゼキア》はスピードアタッカーだ! 最後のシードをブレイク!」
《オルゼキア》の刃が、美琴の最後のシールドを切り裂いた。
「これで次のターンには俺様の勝利だ! ヒャハハハハハハ!」
高笑いするスペルビア。確かにこの状況はスペルビアが優勢だが、しかし高笑いするにはまだ早い。
なぜなら、美琴はまだ切り札を隠しているのだから。そして、
「……《電脳封魔マクスヴァル》を召喚。《ベルヘル・デ・ディオス》を進化——」
死神の明王が、奈落の底より這いずり出す——
「——死神よ! 戦場に蘇れ! 《死神明王バロム・モナーク》!」
死神明王バロム・モナーク 闇文明 (7)
進化クリーチャー:デーモン・コマンド 12000
進化—自分のデーモン・コマンドまたは名前に《死神》とあるクリーチャー1体の上に置く。
自分のデーモン・コマンドまたは名前に《死神》とあるクリーチャーがバトルに勝った時、クリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。
T・ブレイカー
《バロム》と《モナーク》の血統が混じり合い、地獄の底で死神の力を得て明王となった悪魔神、《バロム・モナーク》。
その深淵の唸りが響き渡る。
「なに……!?」
「《バロム・モナーク》で《オルゼキア》を攻撃!」
「ちっ、《ポーク・ビーフ》でブロック!」
アタッカーを消されてはまずい。そう考えたスペルビアは《ポーク・ビーフ》で《オルゼキア》を守るが、その時《バロム・モナーク》の能力が発動する。
「私のデーモン・コマンドか《死神》がバトルに勝った時《バロム・モナーク》の能力発動! 墓地から《死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル》をバトルゾーンへ!」
「くそっ、俺様のターン!」
大型クリーチャーを出されて焦りを見せるスペルビア。ここで《マクスヴァル》を除去できればとどめまで行けるが、
「……《ボンバク・ボッボーン》二体と《ポーク・ビーフ》を召喚! 《オルゼキア》でダイレクトアタックだ!」
「《マクスヴァル》でブロック!」
除去カードが手札になかったようで、とどめまで刺せずにターンを終える。
「私のターン。さあ、ここから反撃よ」
手札が切れているスペルビアとは対照的に、序盤からしっかりと地盤を固めていた美琴の手札は潤沢、マナも豊潤で、大抵のことはできる。
「まずは《ボーンおどり・チャージャー》を発動。続いて《死神の邪険デスライオス》を召喚して、《デスライオス》自身を破壊。そっちも一体破壊して」
「なら俺様は《ボンバク・ボッボーン》を破壊する! 破壊時能力で《ベル・ヘル・デ・ガウル》のパワーをマイナス2000!」
「だけど、相手クリーチャーが破壊されたことで《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力が発動!」
死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル 闇文明 (7)
クリーチャー:デーモン・コマンド 6000
相手のクリーチャーが破壊された時、自分の山札をシャッフルした後、上から1枚目を表向きにする。そのカードが進化ではないデーモン・コマンドであれば、バトルゾーンに出す。それ以外の場合、自分の手札に加える。
W・ブレイカー
相手クリーチャーの破壊に反応し、山札から後続の悪魔を呼び出す《ベル・ヘル・デ・ガウル》。《ボンバク・ボッボーン》の死に反応し、美琴の山札が捲られる。
「……捲れたのは二体目の《デスライオス》よ。再び《デスライオス》を破壊!」
「くっ、二体目の《ボンバク・ボッボーン》を破壊! 《ベル・ヘル・デ・ガウル》のパワーをマイナス2000!」
「この時《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力発動! 山札を捲って、《狼虎サンダー・ブレード》をバトルゾーンに! 《オルゼキア》を破壊!」
「ぐぬぬ……!」
再びスペルビアのクリーチャーが破壊され、山札が捲られる。
「……これは手札へ。さらに、三体目の《デスライオス》を召喚!」
能力で美琴の《デスライオス》と、スペルビアの《ポーク・ビーフ》が破壊され、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力で山札から《ベルヘル・デ・ディオス》が現れる。
気付けばスペルビアの場は全滅、美琴の場は悪魔だらけとなっていた。
「《バロム・モナーク》でTブレイク!」
「S・トリガー《デーモン・ハンド》! 《ベル・ヘル・デ・ガウル》を破壊だ!」
なんとかS・トリガーで凌ぐスペルビア。しかし、たった一体のクリーチャーを破壊した程度では、戦況は変わらない。スペルビアは返しのターンに軽量ファンキー・ナイトメアを並べるだけで、ターンを終えた。
そして、そんな傲慢の悪魔龍に、死神明王の罰が課せられる——
「《死神明王バロム・モナーク》で、ダイレクトアタック——!」