二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 7話「策略」 ( No.107 )
- 日時: 2014/05/29 03:28
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「……畜生、俺様が負けるとは……!」
「なににおいても慢心は命取り。これからは気をつけることね」
「それよりも」
デュエルが終わり、敗北して悔しさに唸るスペルビア。そこに一騎が割り込んだ。
「人間の女の子は? 見たことあるんですか?」
「知るわけねーだろ、人間なんざ普通は見ねーよ」
「えぇー……」
ガックリと肩を落とす一騎。美琴や空護はスペルビアの言動から大して期待していなかったが、一騎はそうではなかったらしい。
さて、スペルビアが人間を見ていないとなると、また行き詰ってしまう。
「どうしようか……一度エスポワールのところに戻る?」
「エスポワールだと? お前、今エスポワールって言ったか!?」
「え、うん……な、なに? エスポワールが、どうかしたの?」
エスポワールという名前に食いつくスペルビア。さらに、そのまま怒気を込めた唸りを上げる。
「あの野郎、人間どもをけしかけて俺様の領地を奪うつもりか……くそがっ!」
「ど、どうしたの……?」
急に憤慨するスペルビア。一同がその様子に戸惑っていると、
「お前ら全員騙されてんだよ! エスポワールはお前らを使って俺様の地位を落とし、闇の領地を削るつもりなんだ!」
「そんなこと分かるの?」
「ああ。エスポワールは光の連中の中でも、狡猾な奴だ。光の領地を広げるために、俺様たち闇の領地を削ろうとしたことが今までに何度もあった」
実際、闇の領地は既に一部が光文明に取り込まれてしまったらしい。
「ってことは、エスポワールがここで人間を見たって情報は……」
「全部でまかせだよ! くそっ、相変わらず気に食わねー……!」
よほどエスポワールに恨みでもあるのか、怒り心頭で悪態をつくスペルビア。
「こうしちゃいられねー。俺様の安息地のためにも手を打っとかねーと!」
そして、蝙蝠のような翼を開き、そのままどこかへ飛び去ってしまった。
「……どうする、みんな?」
「あのクリーチャーの言うことが真実なら、私たち、騙されてたみたいですね」
真実なら、とは言うものの、あの様子が演技だとは思えない。
やはり一騎たちは、エスポワールにいいように使われていただけなのだろうか。
「自分の領地を増やすために、他文明の領地を削り取るということ自体は、今の世界だと普通にあるって、リュンさんは言ってたかな」
だが、それは決してほめられたことではない。各文明の領土の広さもまた、最適なバランスが保てるよう十二神話の時代で規定されていたのだ。それが崩されるということは、回り回って見れば世界の調和を乱すことに繋がる。
「流石にこのまま黙って帰る、ということはできませんよねー」
「はい。もう一度エスポワールのところに戻りましょう」
「……氷麗さんは?」
「私は皆さんの意見に賛同するだけだよ」
リュンさんの代わりだからね、と付け足す氷麗。
「俺としては、あんまりこういうクレームみたいなことはしたくないんだけど……」
「剣埼先輩はそういうところが甘いんですよ。言うべき時にはビシッと文句を言わなくては」
「ですねー。そうでなくとも、このままなにも言わずに帰ると腹の虫が収まりそうにないですしー」
「……分かったよ」
一騎は乗り気ではないようだが、しかし後輩二人の熱烈な意向により、エスポワールの下へと戻ることとなった。
「あ……その前に氷麗さーん、ちょっといいですかー?」
「なに?」
「先に僕のカードを神話空間を開けるようにしておいて欲しいんですけどー?」
「それは構わないけど……どうしてですか? 必要な時にそうすればいいと思うけど……」
「ただの用心ですよー、こういうのは早い方がいいですしね」
「まあ、確かに……」
いまいち空護の真意が読み取れないが、ともかく氷麗はリュンから預かった力を空護にカードに押し込み、神話空間展開可能とする。
「……終わった?」
「ええ。そんじゃ、行きましょうかー」
こうして、一同はプライドエリアから出る。
そして再びエスポワールの座す、プルガシオンの街へと向かうのだった。
「……でもさ」
プルガシオンの街、その中央に建つ城を前にして、
「これって、もうただのクレームだよね? わざわざそんなこと言いに来なくても……」
「いいえ、こういうのはきっちりしないといけません。悪いものは悪いとはっきり言うものです」
「でもさ……」
「一騎、ここは逆に考えてみようよ。プライドエリアで人間を見た情報が偽りでも、人間を見たという情報そのものが偽りだとは限らないよ」
「! そうか、そうだよね……!」
「納得早い……」
「あれがうちの部長ですからねー」
それより、と空護が言う。
「部長の言う通り、これって相手からしたらただのクレームなのには変わらないんですよねー。だから馬鹿正直に文句だけ言っても突っ撥ねられるだけだと思いますよー」
「ん……それもそうね」
「なのでちょっと荒っぽい方法ですけど、人間を見たという情報を聞いて、教えてくれなかったら神話空間に引きずり込んで無理やり白状させればいいんですよ。部長や黒月さんなら、そんじょそこらのクリーチャーに負けはしないでしょう」
確かにスマートなやり口ではないが、決して悪くはない。一騎たちを騙すようなクリーチャーだ、脅しっぽいが、こちらが戦う姿勢を見せれば臆するかもしれないし、逆に強気に出るかもしれない。相手の対応に対して、こちらの対応も変えるというのだ。
「んー……まあ、焔くんが言うなら、それでいいんじゃないかな……?」
「じゃあ僕は、エスポワールを倒した後に報復してくるクリーチャーが来ないよう、退路を確保しときますねー」
「君は行かないの!?」
「はい」
じゃないと作戦になりませんよー、と付けす空護。
「なんだかな……でもまあいいか。焔君を信じるよ」
こうして空護一人を残し、残る三人は城の中へと入っていくのだった。
そして残された空護は、三人が見えなくなると、
「……さて、僕も行きますかねー」
最初の時と同じく、すんなりと城の中に入れた一騎たち。そして通された、エスポワールの坐する部屋。
そこで、エスポワールと再び対面する。
「思ったより早かったですね。またここに来るとは、どうかなさりましたか?」
「えーっと、実はさっき言われたところに行ったんですけど、そこを治めてるっていうクリーチャーが人間は見てないって言ってて……」
「先輩、そんな曖昧な言い方じゃダメです。ここはズバッと言わないと」
と言って、一騎を押し退けて前に出る美琴は、まっすぐにエスポワールを見据える。
そして、ズバッと斬り込んでいく。
「あなた、私たちを騙しましたね?」
「その根拠は」
「プライドエリアで出会ったクリーチャー……スペルビアだったかしら。彼の証言よ」
「所詮は闇文明のクリーチャーが言うこと。それを真実と受け取ってよろしいのですか」
「彼の挙動が演技だったとは思えない。それに、彼は私に負けている。その上で演技までして私たちをあなたのところへけしかけるのはリスキーすぎる。以上の事から、あなたが光の領地を増やすために私たちに嘘の情報を吹き込んで、闇文明にダメージを与えようとしたと見るのが自然よ」
「……ふむ」
エスポワールがそう頷くと、
「そこまで理解しているのならば、このまま帰すわけにはいきませんね」
刹那、部屋のあらゆる物陰から一斉にクリーチャーが飛び出した。
「っ! これ……!」
「武力行使に訴えて来たみたいです……!」
クリーチャーは皆、翼を持ったジャスティス・ウイング。見るからにエスポワールの手のかかったクリーチャーたちだ。
「とりあえず、対処しないと……テイン!」
「多勢でかかってくる可能性は予想してなかったわね……!」
一騎はテインを呼び寄せ、美琴もデッキを構えて応戦しようとするが、
「……《アンドロム》」
「っ!」
次の瞬間、一騎の身体が硬直し、そのまま受け身も取れず地面に倒れ込む。
「先輩——」
振り返った美琴も、一騎と同じように体が崩れ落ちた。
「なに、これ……体、動かない……!」
「《アンドロム》の力ですよ。光の力を武装し、相手の動きを封じるのです」
《聖歌の翼 アンドロム》の能力は、マナ武装で相手クリーチャーをフリーズすること。その能力で、二人の動きを止めたようだ。
「そちらの方はどうしますか? 大人しくしていれば、なにもしませんが」
「……まあ、どうしようもないかな……」
エスポワールの視線が氷麗に向く。なにもしないというのは、氷麗自身というだけでなく、身動きの取れない一騎や美琴にも、ということもあるのだろう。氷麗は諦めたように両手を挙げた。
周囲をクリーチャーに囲まれ、一騎も美琴も動けない。
まさかこんな大量のクリーチャーで反抗して来るとは思わなかった。このままジッとしていてもまずいが、かと言って抵抗することもできない。
絶望的なまでに危機的な状況。だがこれが、もしも計画されたシナリオだった場合、その危機は危機ではなくなる。
「——予定通りというか予想通りというか、思った通りにことが進んでますねー」
その時、声が聞こえた——