二次創作小説(紙ほか)

烏ヶ森編 8話「裏」 ( No.109 )
日時: 2014/06/08 02:56
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

ゲロ NICE(ナイス)・ハンゾウ 闇文明 (7)
クリーチャー:デーモン・コマンド/ハンター 5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選ぶ。そのターン、そのクリーチャーのパワーは−6000される。
相手の呪文の効果または相手のクリーチャーの能力によって、このクリーチャーが自分の手札から捨てられる時、墓地に置くかわりにバトルゾーンに置いてもよい。


 ハンターと化した《威牙の幻ハンゾウ》。《ゲロ NICE・ハンゾウ》は《テンサイ・ジャニット》の背後に回ると、忍者刀でその背を切り裂いた。
 《ハンゾウ》の刃には猛毒が塗られている。その毒に犯されると、力がみるみる落ちていくのだ。その毒により《テンサイ・ジャニット》のパワーが落とされる。
「さらに《バイケン》でWブレイク!」
「くっ……S・トリガー発動《DNA・スパーク》! 相手クリーチャーをすべてタップです! そして私のターン《聖歌の翼 アンドロム》と《救護の翼 フィルミエ》を召喚! 《アンドロム》のマナ武装3発動! 《バイケン》をフリーズ!」
 なんとかS・トリガーとブロッカーで守りを固めるエスポワール。これで次のターンは耐えられる。はずだが、
「《バイケン》で攻撃!」
「《アンドロム》でブロック——」
「おっと、ならこの瞬間にニンジャ・ストライク発動ですよー。《威牙の幻ハンゾウ》を召喚して、《フィルミエ》のパワーをマイナス6000!」
 《アンドロム》に《バイケン》の攻撃は止められるが、もう一体のブロッカー《フィルミエ》は破壊する。
「もう一体の《バイケン》でWブレイク! 《ユウナギ》でシールドをブレイク!」
「くっ、ぐぅ……!」
 S・トリガーの出ないエスポワール。空護のようにシノビもおらず、もはや防ぐ術がない。
 そして無防備な精霊龍に、狩猟の暗殺者が忍び寄る——

「《ゲロ NICE・ハンゾウ》で、ダイレクトアタック!」



 エスポワールが敗北し、神話空間が閉じる。同時に広間のジャスティス・ウイングたちの動きも止まった。
「氷麗さん! 部長と黒月さんを!」
 空護は神話空間から出るや否や、踵を返して抜け道の穴を塞いでいたタイルを足で蹴り上げる。氷麗は地に伏している一騎と美琴をそれぞれ片手で抱え上げてダッシュ、その穴の中に二人を放り投げ、自分も身を滑り込ませた。
「よっと」
 最後に空護が中へと入る。一応、タイルも閉めておき、数メートルほどの高さを飛び下りた。
 そして、着地する。
「ぐぇっ」
「あ、なんか……というか、部長踏んだ」
「これで、三人目……」
 一人目は美琴、二人目は氷麗、そして三人目が空護。フリーズ能力で動けない一騎は、穴に放り込まれ、その後は他三人が飛び降りるたびに、そのクッションとして何度も踏み潰されていたのだった。
「いたた……体、動くようになったみたい……」
「フリーズの効力が切れましたか……」
 よろよろと立ち上がる一騎と美琴。特に一騎の足元がおぼつかない。
「それにしても氷麗さん、意外と力持ちだね……俺と黒月さんの二人を抱えて走り出すなんて」
「一応クリーチャーなので、人間よりはね」
「それよりも」
 美琴が、どこか非難するような目つきで空護を見据える。
「焔君は、あの状況を予想していたの?」
「んー、まあ概ねは。何パターンか考えていたうち、もっともスタンダードなハプニングでしたねー」
「そう予想しておきながら、私たちをけしかけたのね……!」
「けしかけたなんて、人聞きの悪いこと言わないでくださいよー」
「でも、分かっていながらなにも言わなかったじゃない」
 結果としては空護に救われたわけだが、空護が最初の時にしっかりとエスポワールにクレームをつけるリスクを話しておけば、また状況は違っていたかもしれない。
「聞かれませんでしたからねー。それに、敵を騙すにはなんとやら、です。特に部長はなにも知らない方がスムーズに事が運べそうでしたし」
「ん……それは、確かに……」
「え? そこ納得しちゃうの? 俺、みんなからどういう風に思われてるの?」
「あの時、私から力を受け取っていたのも、この状況を想定してのことだったんだ……」
「そういうことですー。まあ場合によっては、僕の出番がない可能性もありましたが」
「ねえ、聞いてる? 俺って一体どういう認識されてるの? ねえ?」
「とりあえずいつまでもここにいてられないんで、早く地球に戻りましょうかー」
 一騎のことは無視して、元の世界へと戻る一向。氷麗が座標アドレスの入力に手間取ってしまったが、それでも無事に帰ることができたのであった。



「——今日もクリーチャー世界に行くんだよなー……」
 朝、一騎はいつものように登校していた。
 少し前までは恋の家の前に張っていたりもしたが、実は恋はとっくに登校した後だったようで、三限目の授業から受けて以来、張り込むのは自粛している。
 先日で三回目のクリーチャー世界への来訪。いまだに彼女の手がかりはなし。クリーチャー世界は地球よりも広大だと聞くので、二日三日程度ですぐに見つかるわけもないのだが、しかし一騎はどうしても気が急いてしまう。
「そもそも、あいつはどうやってクリーチャー世界に……それに」
 どうしてクリーチャー世界にいるのか、それが一騎には分からなかった。
 こればっかりは本人に直接聞くしかないのだが、その肝心の本人とはここ最近会えていない。向こうからこちらを避けているような節すらあり、そう簡単には会えそうにもないが、
 前方に、見慣れた人影が映る。
「あ……恋!」
「…………」
「待て、恋!」
 こちらを一瞥するや否や、彼女——日向恋は、スタスタと歩いて行ってしまうが、一騎はその後を走って追う。
「どうしたんだよ、最近ちょっと冷たいぞお前。俺のこと避けてない?」
「……別に」
「俺が家に行ってもいないし、いつもどこに行ってるんだ?」
「……いろいろ」
「デュエルロードにでも参加してるのか? 最近、新しい勝利賞が出たらしいからな。なんて言ったっけ、光文明の……てん、天、天えいゆ——」
「…………」
 なんとか会話を盛り上げようとする一騎だったが、恋はまったく一騎のことなど見ていない。いつものことでもへこむが、そんなことっていられない。
 意を決して、一騎は直接問うた。あまりにストレートで、重大なあの世界について。
「クリーチャー世界に、行ってるのか?」
「…………」
「そうなんだろ、恋」
 その問いに、恋は口をつぐむ。
 だが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……なんのこと」
「なんのことって……俺は知ってるんだぞ、お前のこと。リュンさんや氷麗さんから色々聞いて——」
「知らない」
「あ、恋! 待て!」
 恋は歩くペースをさらに上げ、スタスタと歩き去ってしまう。その後を追おうかとも思った一騎だが、そんな気にはなれなかった。
「恋……」
 最初に一騎がクリーチャー世界のことを言った時、恋は言葉を失っていた。ほんの少しだけ、眉も動いた。一騎は分かる、あの時の恋は一騎の発言に驚いていた。
 つまり、恋はクリーチャー世界について知っている。少なくとも、それだけは確かだ。
 その上で、そのことを隠し通そうとするのは、
「なにか、隠しておきたい理由でもあるのかな……」
 そしてその目的が、クリーチャー世界に向かう理由と繋がっているのだろうか。
 そこまでは、一騎には分からなかった。
「……そういえば、今日は氷麗さんがサプライズを用意するって言ってたっけ」
 一体どんなサプライズなのか、少しだけ楽しみだ。
 頭の中では陰りを見せるが、暗くなってばかりもいられない。無理やり頭の暗雲を振り払うと、一騎も学校へと走り出した。



「——というわけで、今日付けで1年D組に編入しました、葛城氷麗です。よろしくお願いします、先輩方」
 放課後、部室にて。
 部員一同は絶句していた。
 目の前には氷麗がいる。それはいい。だがその恰好は、紺色のセーラー服に赤いリボン。今年からデザインの変更された、烏ヶ森学園の女子の制服だった。
「……いやいやいや、どういうことだ、編入って」
「? 今日からこの学校に転校してきた、という意味だけど」
「そういうことじゃない! なんでお前がうちの学校に転校してるんだって言ってんだよ! クリーチャーだろ!?」
「まあこちらにも色々あって……試験的にというか、実験的にというか……」
 口の中で声をこもらせ、ともかく、と話を転換する氷麗。なにか誤魔化されている気がする。
「今日も向こうに行くけど、今日は誰が?」
「俺と——」
「自分っす! よろしくお願いするっす!」
「私もいます」
 一騎、八、そして美琴の三人が、今日のメンバーだった。
「じゃあ座標アドレスを入力して……」
 今日もその入力に手間取る氷麗。それなりの時間を要した後、その座標へと送信する。
 そして四人は、クリーチャー世界へと飛ぶのであった。