二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 9話「大番長」 ( No.110 )
- 日時: 2014/06/08 02:56
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
今回、一騎たちが向かったのは自然文明の領土だ。
闇文明は、半ば強引とはいえ、いち早く自らの文明を統制したが、一方で自然文明は、いまだなお文明内の勢力がかなりバラバラになっている。
そんな、自然文明の森の一角にて。
「わりゃあら、誰の許可貰ってわしの島に土足で踏み入っとるんじゃ?」
そのクリーチャー、《スーパー大番長「四つ牙」》は鋭い眼光で一騎たちを睨みつける。それは見る者を一瞬で竦み上がらせてしまうような厳つい視線だったが、
「……なんというか、凄くそれっぽいね……」
「はい……完全にイメージと一致しています……」
番長というよりは、その手の稼業の人っぽいが、一騎と美琴は感動にも似た感情を覚え、その厳つさもあまり気にならなかった。
しかしなにも一騎たちは感動するためにここにいるのではない。皆無に等しい恋の情報を掴むために、クリーチャー世界にまで足を運んでいるのだ。
「あの、俺たち人間の女の子を探しているんです」
「人間の女じゃとぉ? はんっ、知ってたとしても、われのようなどこぞの馬の骨とも分からん連中に教えるか」
一瞬で突っ撥ねられた。しかも、
「わしの島に勝手に入られて、このまま黙って帰すわけにもいかんでのぅ……さぁて、どうしちょるか……」
ますます眼光が鋭くなり、一騎たちを見下ろす。しかも、心なしか苛々しているようにすら見える。
いや、実際に気が立っているのだろう。今はまだ理性が勝っているようだが、これ以上神経を逆撫ですると面倒なことになりそうなので、とりあえずどう出るか、出方を窺おうとするのだが、
「あのクリーチャー、なんかイライラしてないっすか? ダメっすよー、イライラは健康に悪いっす」
(夢谷君!?)
一騎たちを考えをぶち壊す暴挙に出た八。心中で驚愕する一騎をよそに、八はさらに続ける。
「なにか悪いことでもあったっすか? よければ自分が解決のために協力するっす。あ、でも部長の妹さんも探さないといけないんで、手短に済ませてもらえると嬉しいっす」
(協力する気が中途半端……)
八本人は善意で言っているようで悪意は感じられないが、「四つ牙」の方は額に軽く血管が浮き上がっている。
「悩みの解決なんて簡単っすよ。原因を見つけてそれを取り除けば一瞬で万事解決っす!」
(悩みじゃないし、そもそもその原因って——)
その先は、続かなかった。
なぜなら、目の前の巨体がさらにこちらへと身を寄せてきたからだ。
「ほーぅ、そうじゃなぁ。問題の原因を潰しちまえば、確かに解決する」
「そっす。だからまずはその原因を見つけるっす」
「いや、その必要はなぁで」
もう既に見つけてるでの、と「四つ牙」は言い、そして、
「最大の原因は、われじゃけぇのぅ!」
凄まじい殺気を発しながら、咆哮した。
「な、なんすか? 自分に怒ってるんすか?」
「今更だよ……もう、しょうがないなあ。こんなところで暴れられても敵わないし、俺が鎮めるよ。テイン——」
「いや、待ってくださいっす、部長」
一騎がデッキを手に踏み出そうとするのを、八が止める。
「ここは自分に任せて欲しいっす」
「夢谷君……」
「あのクリーチャーが怒ってるのは、自分が原因なんすよね? だったらその落とし前くらいは、自分でつけるっす」
「でも……」
「……いいんじゃないですか、剣埼先輩」
八と、彼を引き留めようとする一騎の間に、美琴が割って入る。
「自分で起こした不祥事は、自分で解決する。自分の責任は自分で負うのが普通です。ここは彼にやらせましょう」
「いや、でもさ……」
「彼が余計なことを言いさえしなければこんなことにはならなかったんですから、当然の罰則ですよ」
「……美琴先輩って、意外と辛辣だね」
「黒月さんはこうなっちゃうと、なかなか首を縦に振ってくれないんだよなぁ……」
彼女が納得できるような理由を提示できればいいのだが、一騎が出ようとする理由は慈善と親切心と自己犠牲から来るもので、それに彼女を納得させ得る力があるとは思えない。一騎はそのことを去年から知っている。
なので、すぐに身を退いた。
「……分かったよ、夢谷君に任せる。でも、無理はしないでね」
「了解っす! 自分、頑張るっすよ!」
あまり了解しているようには見えないが、ともあれ八が戦うこととなった。
「じゃあ、カード貸して。力を注ぎ込むから」
「はいっす。よろしくお願いするっす」
氷麗が八から受け取ったカードに、リュンの力を押し込んで準備完了。これで八も神話空間を開けるようになった。
「もうええかいのぅ?」
「待っててくれたんすか。かたじけないっす」
「意外と律儀なクリーチャーだ……」
ともあれ。
八と「四つ牙」を取り囲む空間が歪みだす。
「じゃ、始めるっすよ」
「ぐぅの音も出ないほどに、叩き潰してくれるわ!」
「《ヤッタレ・ピッピー》でシールドをブレイク! 先手は貰ったッすよ!」
「ぬぅ、小癪な!」
八と「四つ牙」のデュエルは、八が先手を取った。
シールドは八が五枚、「四つ牙」が一枚ブレイクされ四枚。
八の場には《ヤッタレ・ピッピー》と《斬込の哲》。「四つ牙」の場には《青銅の鎧》が一体。
「わしのターン! 小僧よ、わしの力でわれをぶっ潰してくれる! 《青銅の鎧》進化! 出でよわし! 《スーパー大番長「四つ牙」》!」
スーパー大番長「四つ牙」(クワトロ・ファング) 自然文明 (6)
進化クリーチャー:ビーストフォーク/ハンター 9000
進化—自分のビーストフォーク1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から2枚を自分のマナゾーンに置いてもよい。
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を自分のマナゾーンに置いてもよい。
W・ブレイカー
《青銅の鎧》が進化し《「四つ牙」》自身が大地に立つ。そしてその瞬間、割れた大地から眩い光が溢れ出た。
『わしがバトルゾーンに出た時、マナを二つ追加じゃ! さらにそのマナで呪文! 《番長大号令》!』
《「四つ牙」》は指を咥え、そのまま一気に息吹く。そして、ピィー! という遠くまで届く指笛を吹いた。
『《番長大号令》で、山札の上から五枚を見る。そしてその中のハンター一体を手札に加えるんじゃ。《諸肌の桜吹雪》を手札に加え、わしで《ヤッタレ・ピッピー》を攻撃!』
その時にも《「四つ牙」》の能力が発動し、さらにマナが増える。このターンだけで4マナ増やし、《「四つ牙」》のマナはもう9マナだ。
「《ヤッタレ・ピッピー》はやられたっすけど、まだまだ負けたわけじゃないっすよ! 《俊足の政》を召喚! 山札の上から五枚を見て、《若頭の忠剣ハチ公》を手札に加えるっす。《斬込の哲》でシールドをブレイクして、ターン終了っす」
『その程度、痛くも痒くもないわ! わしのターン、《野生設計図》を発動!』
野生設計図(ゲット・ワイルド) 自然文明 (3)
呪文
自分の山札の上から3枚をすべてのプレイヤーに見せる。その中から、コストが異なるクリーチャーを好きな数、自分の手札に加える。残りを好きな順序で自分の山札の一番下に置く。
最大で三枚ドローできる、自然の貴重なドローソース、《野生設計図》の効果で捲れたのは《霞み妖精ジャスミン》《無頼勇騎ゴンタ》《特攻の菊》の三枚。
『コスト2と5の《無頼勇騎ゴンタ》と《特攻の菊》を手札に! そして《ゴンタ》を召喚し、そのまま《諸肌の桜吹雪》に進化!』
大量のマナブーストから手札補充、そしてクリーチャーを召喚し即進化。流れるようなプレイングだ。
「進化クリーチャーが二体っすか……」
『《諸肌の桜吹雪》で《斬込の哲》を攻撃!』
「《斬込の哲》は破壊されてもマナに送られるっす! 無駄死にはしないっすよ!」
『だからどうした! わしでWブレイクじゃあ!』
《「四つ牙」》の武器が八のシールドを二枚、粉砕した。
だが、砕け散ったシールドのうち一枚が、光の束となり収束する。
「S・トリガー《ドンドン吸い込むナウ》発動っす! 捲った五枚から《狩猟のガイア・エッグ》を手札に加えるっすよ。自然のカードを手に入れたんで、クリーチャーを一体手札に戻せるっす」
進化クリーチャーとはいえ、やはりここは相手クリーチャーを除去したい。八は《「四つ牙」》と《諸肌の桜吹雪》を交互に見つめ、そして決断する。
「……よし、ここはパワーもコストも高いこっちっす。《「四つ牙」》を手札に戻すっすよ!」
神話空間の外で八のデュエルを観戦する一同。二体の進化クリーチャーに追い詰められる八は、S・トリガーを引いて相手クリーチャーを除去する選択するところだった。
「やっぱりまだ、プレイングに粗さがありますね、先輩」
「うん……別に俺たちはデュエマを専門にやってるわけじゃないし、彼が楽しければそれでいいんだけどね」
しかし、この世界ではそうは行かない。
そう思った矢先、
『《「四つ牙」》を手札に戻すっすよ!』
「!?」
「えぇ!?」
「これは……」
八のプレイングに、驚愕する一同。そんな彼に、一騎は思わず声を漏らす。
「違う、夢谷君……除去すべきは、そっちじゃない……!」