二次創作小説(紙ほか)
- 29話「撃英雄」 ( No.112 )
- 日時: 2014/06/08 20:49
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
ラヴァーとの戦いに備えるため、戦力を強化しようと考える暁たち。そこにリュンが持ってきた、英雄の情報。かつて十二神話と手を結んでいた彼らの力を得ることができれば、頼もしい戦力となるはず。
十二神話と強い血に眠っている可能性が高いとされる英雄を探すべく、遊戯部一同はクリーチャー世界に飛んだのだが、
「やっぱりここなんだ……」
ぼそりと、暁が呟く。
これで何度目になるのか、と思いながら暁は先々へと進んでいく。
そこは、今は活動を休止している火山帯、太陽山脈サンライトマウンテンの一角。そう、コルルが眠っていた、あの山だ。
「つながりが強いもなにも、ほとんどダイレクトだな」
「分かりやすくていいんじゃない?」
「あきらちゃんっ、ちょっと速いですよぅ」
一人先走ってたったか走っていく暁。後ろの部員たちを置き去りにして、真っ先に例の小部屋へと辿り着いた。
「一番乗りぃ! だけどコルル、本当にここに英雄がいるの?」
「オレもここに封印されているクリーチャーをすべて知ってるわけじゃないけど、《撃英雄》はアポロンさんも認める凄い奴だ。そんな奴は、あの人ならここに封印するはずだ」
「へぇ……でも、どんなのかなぁ、英雄って。格好良いといいな」
「少なくとも、ドラゴ大王みたいな堅物じゃないぞ」
「あははっ。それはドラゴ大王が可哀そうだよ」
などと言いながら、コルルはペタペタと小部屋の壁面を触っている。そうこうしているうちに、浬たちがやっと来た。
「あきらちゃん、速いです……英雄さんは?」
「今コルルが探してる。でも、あんな壁を触ってるだけで見つかるの——」
「あった、ここだ」
「……見つかるみたいね」
「どういう原理なんだ……?」
コルルは英雄が眠っているらしい壁面の一部に手をかざす。すると、その箇所が燃えるように光り出した。
光はやがて炎となり、人型に近い形を作り出す。身体のあらゆる箇所に和風の鎧や籠手が取り付けられ、腰には刀が差さっている。
そんな武者を思わせるクリーチャーは、龍の目をゆっくりと開いた。
「……目覚めの時か」
そして、重くどっしりとした、落ち着きのある声を響かせる。
「そなたが儂を目覚めさせたのか。儂の名はガイゲンスイ、《撃英雄 ガイゲンスイ》だ」
「わ、私は暁。空城暁だよ」
そのまっすぐすぎるほどにまっすぐなガイゲンスイの眼差しと立ち振る舞いに圧倒される暁だが、ガイゲンスイの声は不思議と和やかに感じる。声に落ち着きがあるだけでなく、こちらも落ち着かされるような、そんな感覚にとらわれる。
「儂を目覚めさせることができるということは、そなたが儂の新しい主ということか」
「う、うん。そうなのかな……?」
「そうだぜ!」
クリーチャーを仲間にするという目的で来た暁だが、逆に正面切って「お前は自分の主なのか」と言われると、流石に首を縦に振るのを躊躇ってしまう。
だがコルルは勢いよく飛び出し、それを肯定する。
「コルルか、久しいな。そなたがいるということは、やはりこの娘がアポロンの……」
「そういうことだ。でも、オレだけじゃない。《バトライオウ》や《バトラッシュ・ナックル》、《GENJI》や《サンバースト・NEX》……《ドラゴ大王》も、みんな暁の仲間だ」
「ほぅ、あの《ドラゴ大王》を……奴を従えるとは、相当な技量の持ち主と見た」
「なにを言う、ガイゲンスイ」
と、その時。
暁のデッキケースから、また重く、こちらはひたすら重圧感のある声が響く。
「我はこのような小娘などに従ってはいない」
「《ドラゴ大王》……デッキから出そうか?」
「好きにしろ」
このままでは声がくぐもって喋りにくそうだったので、暁はドラゴ大王のカードを抜き取った。するとドラゴ大王は、カードから顔だけ出してガイゲンスイと相対する。
「そなたも久しいな、ドラゴ大王」
「先に言っておくが、我は昔話に花を咲かせるつもりなどない。貴様は龍、ゆえに我の世界で生きる権利を得ているものだが、龍世界の王は我だ。それだけは忘れるな」
「無論だ。儂の力では、武装しなければそなたには勝てんよ。しかし儂はそなたの世界で生きる以前に英雄であり、アポロンと共に戦う戦士だ。そなたもそうであったろう?」
「……ふんっ。アポロンなど知らぬ。我は我の王権を行使するまで」
「変わらんな、そなたの意地っ張りは」
なにやら親しげに会話を繰り広げるガイゲンスイとドラゴ大王。あの威圧感たっぷりのドラゴ大王に対しても、ガイゲンスイはまったく物怖じしていない。
「ガイゲンスイはその名の通り、火文明率いる部隊では『元帥』と呼ばれて慕われてたんだ。それぐらい凄いんだぜ」
「そうなんだ。あのドラゴ大王と対等に話してるし、これはますます私のデッキに入れたいよ」
暁が何気なくそんなことを言うと、ガイゲンスイは耳聡くそれを聞いていたようで、
「デッキ……儂の力を欲しているということか?」
「聞いてた? うん、まあ、そうかな……そのために私はここまで来たんだ」
光文明の精霊龍を操る少女——ラヴァーを倒すため。強くなるために、暁はガイゲンスイの力が欲しい。
そんな暁の目をジッと見つめると、ガイゲンスイは頷き、
「いいだろう。今から儂はそなたに従う」
「え!? そんなあっさり!」
意外なほどに即答だった。
「そなたの力量は既に見切った。まだ粗削りだが、そなたになら儂の力を託してもいいと思ったまでだ。それに、あのドラゴ大王を従えるほどの人望があるのなら、文句のつけようがない」
「ガイゲンスイ、だから我は——」
「だが」
ドラゴ大王の苦言を遮って、ガイゲンスイは続ける。
「そなたの力が儂の読み通りなら問題ないが、そなたはまだ可能性を残している。その可能性が残ったまま、すべてを判断することはできない。だからそなたの戦いを見せてもらいたいのだ」
それはつまり、
「儂の他にもう一体、目覚めるクリーチャーがいる。そやつを倒してみよ」
「いいよ」
暁も、即答だった。
「そういうのなら分かりやすい。いくらでも受けて立つよ」
「いい返事だ。ならば儂もそなたと共に戦う。そしてそなたの刃となろう。よろしく頼むぞ、暁」
「こっちこそよろしくね、ガイゲンスイ」
すると、ガイゲンスイが赤い光に包まれカードの姿となり、暁はそれを掴み取る。
「じゃあ、早速デッキに入れないと……」
「コルルよ、右面の縦五、横七の点に、奴が眠っている。目覚めさせてやってくれ」
「おう」
暁がデッキを入れ替えている間に、コルルは壁面を再びペタペタ触り出す。
「右の縦五、右七……ここか」
そして、目的の地点、目的のクリーチャーを見つけたようだ。だが、
「あれ、このクリーチャーって……なあ《ガイゲンスイ》、こいつ……」
「構わん。奴も我らの同胞。いずれにせよ、いつかは目覚めさせるべき存在なのだ」
「そうだけど……まあ、《ガイゲンスイ》が言うならいいか」
そう言って、コルルは壁面の一地点に手をかざす。すると《ガイゲンスイ》の時と同じように、燃えるような光が溢れ出た。
その光は、これもまた同じように一つの姿、手足を持つ人型を形作るが、しかしその身体の大きさは《ガイゲンスイ》の比ではない。《ガイゲンスイ》はまだスマートさがあったが、このクリーチャーはシルエットだけでも相当巨体であることが窺える。
そして遂に、炎は完全なクリーチャーを形成した。
「うわっ、なにこのクリーチャー……なんか凄い金ピカでマッチョなんだけど……」
そのクリーチャーは、龍とも人とも取りにくい姿をしていた。筋骨隆々の巨体は金色に輝き、巨躯と比例するかの如く大きく膨れ上がった拳には、巨大な突起の突き出たナックルダスターが装着されている。
全体的にとにかく巨大で、厳つい顔つきも相まって非常に威圧的なクリーチャーだ。
「こいつは《超熱血 フルボコ・ドナックル》だ」
「フルボッコ……?」
「フルボコ・ドナックルだよ。火文明きっての暴れん坊で、敵も味方も恐れる猛者だ」
「味方も恐れるんだ……なんかヤバそうなんだけど」
「だが、奴の力は本物だ。少々周囲への気配りや見境がないのが玉に瑕だが、奴の拳は摩耗することなく、永遠に殴り続け、すべてを破壊し尽くすまで止まることがない」
「なんかよく分からないけど、強そうだね。相手にとって不足なしだよ」
最初はその巨躯に驚いていた暁だが、すぐにその意識は前向きにで、好戦的な方向へと変わっていく。
「うむ、その意気だ」
「やろうぜ、暁!」
「うん! コルル、お願い!」
暁の声に応じて、コルルが飛び出し、フルボコ・ドナックルと暁の間で神話空間を展開する。
「あきらちゃん……」
「頑張ってね、暁」
「ゆず、部長……私、行ってくるよ」
神話空間に飲み込まれる中、暁は柚と沙弓に向かって親指を突き上げる。
「浬、行ってきます」
「……分かってる。さっさと行け」
「ははっ、冷たいなぁ」
浬のつっけんどんな反応に、軽く笑う暁。
そして遂に、彼女は神話空間へと突入するのだった——