二次創作小説(紙ほか)

29話「撃英雄」 ( No.114 )
日時: 2014/06/23 03:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 暁が不安に駆られている中、ふと声が聞こえてくる。落ち着きのある、静かな声だ。
「っ、《ガイゲンスイ》……」
 ——暁よ、儂のことを忘れられては困る。まだ勝機は残っているだろう。
 《ガイゲンスイ》の声が、まるで暁の心に染み込むように響き、だんだんと暁も落ち着いて、冷静になってくる。
「……そうだ、まだ私は負けてない。まだ勝てるんだ! 私のターン!」
 《ガイゲンスイ》の言葉を受け、弱りかけていた暁の心の炎が、再び激しく燃え盛る。そして彼女が引いたカードは、彼女の炎を燃え上がらせ、その心意気に応えた彼だった。

「暁の先に立つ英雄、龍の力をその身に宿し、熱血の炎で武装せよ——《撃英雄 ガイゲンスイ》!」


撃英雄 ガイゲンスイ 火文明 (7)
クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン 7000+
マナ武装7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに火のカードが7枚以上あれば、そのターン、バトルゾーンにある自分のクリーチャーすべてのパワーは+7000され、シールドをさらに1枚ブレイクする。
スピードアタッカー
W・ブレイカー


 爆炎の中から飛び出すのは、鎧を纏いし《ガイゲンスイ》。
「来てくれたんだね《ガイゲンスイ》。ありがとう」
『儂は主のために戦う道を選択しただけだ。礼には及ばん』
「そっか……だったら行くよ《ガイゲンスイ》!」
『ああ、いつでも行けるぞ』
 刹那、《ガイゲンスイ》の周囲の大地が燃え上がる。そして燃え上がった炎が《ガイゲンスイ》の鎧や刀にまで燃え移り、より堅固な装甲と鋭利な刃を作り出す。
「《撃英雄 ガイゲンスイ》のマナ武装7、発動!」
 マナ武装とは、ドラゴン・サーガが生み出した力の一つだ。領土、即ちマナの力をその身に纏い、武装することで更なる力を得ることができる。
「私のマナゾーンに火のカードは七枚以上あるから、このターン《ガイゲンスイ》のパワーはプラス7000! 《フルボコ・ドナックル》を攻撃!」
 《ガイゲンスイ》は、武装した力を持って《フルボコ・ドナックル》へと駆ける。マナ武装で強化された《ガイゲンスイ》のパワーは14000、《フルボコ・ドナックル》を一刀両断にした。
『ウ、ウォォォォッ!』
 これでフルボコ・ドナックルの場のクリーチャーもいなくなった。手札もないので、数で攻められる心配もない。
「ウゥ……《熱血龍 クロブゼット》を召喚!」
「無駄だよ! 《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》召喚! マーシャル・タッチで《ガイゲンスイ》を手札に戻して、パワー4000以下のクリーチャーをすべて破壊!」
 《クロブゼット》のパワーはちょうど4000、《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》の炎に焼かれ、墓地へと焼け落ちる。
「ウゥゥ……! 《熱血龍 ジュリナレナ》を召喚!」
 今度は素のパワーが5000、《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》では焼かれないとでも言いたげだったが、しかし今更そんなクリーチャーが出て来ても遅い。
「このターンで決めるよ! 出て来て《ガイゲンスイ》!」
 前のターンに手札に戻した《ガイゲンスイ》を再び召喚する暁。スピードアタッカーでWブレイカーだが、フルボコ・ドナックルのシールドは残り三枚。ギリギリとどめまでは行けない、ように思われるが、
「もう一度マナ武装7、発動!」
『我らをさらなる高みへと昇華せよ!』
 またもや大地が燃え盛り、その炎が《ガイゲンスイ》と《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》を強化する。これでパワーがプラス7000。さらに、
「このターン、私のクリーチャーのシールドブレイク数が一枚多くなる! 《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》で攻撃!」
 本来《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》が持つWブレイクに、《ガイゲンスイ》のマナ武装によるブレイク数増加が上乗せされ、フルボコ・ドナックルの三枚のシールドがすべて砕け散る。
「S・トリガー《天守閣 龍王武陣》! 《フルボコ・ドナックル》を手札に! そしてパワー11000以下のクリーチャーを破壊!」
「残念! そんなの効かないよ!」
 最後のシールドから三枚目のS・トリガー《天守閣 龍王武陣》が飛び出し、《フルボコ・ドナックル》を手に入れたが、除去は発生しない。
 確かに《フルボコ・ドナックル》はパワー11000で、除去できる範囲は広い。しかし今の《ガイゲンスイ》はマナ武装でパワー14000だ。《フルボコ・ドナックル》では倒せない。
「さあ、これでとどめだ!」
 大空を浮遊する天守閣から撃ち出される《フルボコ・ドナックル》も、熱血の炎で武装した《ガイゲンスイ》に切り捨てられる。そして《ガイゲンスイ》は、大将たるフルボコ・ドナックルへとその刃を向けるのだ。

「《撃英雄 ガイゲンスイ》で、ダイレクトアタック——!」



 神話空間が閉じると、倒された《フルボコ・ドナックル》はカードとなり、暁の手元へと落ちて来る。
「《フルボコ・ドナックル》……強かったなぁ」
『そなたもだ、暁』
「《ガイゲンスイ》……」
 カードの中から、《ガイゲンスイ》の声がする。
『やはり、儂の目に狂いはなかった。そなたの力ならば、儂や、他の龍たちも使いこなせるだろう。なにより、そなたといると心が安らぐ』
「そ、そうなの……?」
「ああ、そうだぜ。みんなそう言ってる」
「《ドラゴ大王》も?」
『ふん、そのようなことがあるものか。我は龍世界の大王ぞ。安らぎなど不要であり——』
『要約すると、同意する、ということだ』
『《ガイゲンスイ》! 貴様……!』
「……なんか、楽しそうだね」
 ドラゴン同士の仲間関係。ただカードを操っているだけでは、そんなものは分からなかった。こうしてクリーチャーの声が聞こえるようになったからこそ、この温かで和やかな、それでいて熱い龍と共にあることができる。
「いいなぁ、こういうの……」
『暁』
 暁がしみじみとしていると、《ガイゲンスイ》の呼びかけが再び聞こえてくる。
「あ……なに?」
『そなたは合格だ。これから儂は、正式にそなたの手足となろう。そなたの盾となり、刃となろう』
「いや、いいよそんな大袈裟じゃなくて……私たちは仲間、それか友達だよ」
『む……そうか。ならばそれでも構わない』
 ただの認識の違いだが、暁にとっては部下とか配下とか、そんな関係は性に合わない。
 クリーチャーは仲間だ。共に戦う戦友だ。上下の関係など、存在しない。
 そんな関係性を確認すると、暁は姿勢を正して、まっすぐに《ガイゲンスイ》を見据える。
「それじゃあ改めて……これからよろしくね、《ガイゲンスイ》」
『ああ。こちらこそ、よろしく頼む』
 こうして、暁は《撃英雄》に認められた。
 空城暁の新たな仲間に、《撃英雄 ガイゲンスイ》が加えられたのだった。

 残る英雄は、あと三体——