二次創作小説(紙ほか)

30話「理英雄」 ( No.115 )
日時: 2014/06/12 23:01
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 《撃英雄 ガイゲンスイ》が暁の仲間となった翌日。
 この日もクリーチャー世界へとやって来た遊戯部が訪れていたのは、海底トンネルを抜けた先にある祭壇——つまり、エリアスが眠っていた小部屋だ。
「大丈夫なのか? また変に警備システムとかを誤作動させたりしないだろうな」
「任せてくださいご主人様。あの時は少し寝ぼけていただけです」
 その小部屋の中で、エリアスは壁面にペタペタと触れていた。浬としては、彼女が目覚めた時と同じ轍を踏まないものかと、気が気でないが。
「あ、これですね」
「本当か?」
「私に間違いはありません」
 そう断言して、壁の一面に手をかざすエリアス。すると、その一面から淡く青い光が漏れだし、一つの形となる。
 水がうねり、蠢き、球状となって、それは浬の所へと向かっていき——その手に落ちた。
「……あれ?」
「…………」
 手に落ちたカードを見つめる浬。そしてその後、視線はエリアスへと向いた。
「……おい」
「な、なんでしょう?」
「このカード《アクア忍者 ライヤ》とあるが、これが英雄と呼ばれるクリーチャーなのか?」
「……間違えました。えへへ、失敗しちゃいました」
「えへへじゃねぇよ。どの口が『私に間違いはありません』なんて言ったんだ? あぁ?」
「痛い痛い、痛いですご主人様! 頭を鷲掴みにするの話やめてくださいぃっ!」
 エリアスの小さな頭部をアイアンクローする浬。頭身が低い分身体のサイズが小さいので、かなり掴みやすい大きさだった。
「……楽しそうだね、浬」
「あんなカイは初めて見たわ」
「なんだかんだで仲いいですよね、あの二人」
「ルー」
「プルさんもそう思いますか?」
「ルールー」
 と、外野がそんなことを言っている間に、エリアスはなんとか浬の魔手から解放された。
「うぅ、酷いですよぅご主人様ぁ……」
「変な声を出すな」
 アイアンクローの痛みに涙を浮かべながら、エリアスは再び壁面に手を触れていく。
 ややあって、またエリアスの動きが止まった。
「見つけましたよご主人様! 今度こそ本当です」
「……本当か?」
「本当です! ……たぶん」
 少し自信なさげだった。
「ま、まあ見れば分かりますよ」
 そう言ってまた壁面に手をかざすと、その箇所が青く輝く。
 その輝きは次第に強くなっていき、液状化する。と思ったら、直後には結晶となり、その結晶が飛び散っていく。
 そして最後に現れたのは、機械的な暗青色のボディを持つドラゴンだった。
「これが英雄、なのか……?」
「……ヘルメス様の傑作の一つ、《理英雄 デカルトQ》です」
 地に降り立ったデカルトQは、ジッと浬を見据えたまま、動く様子を見せない。
「どういうことだ、動かないぞ」
「デカルトQは、ヘルメス様が作り上げたクリスタル・コマンド・ドラゴンです。あの姿からも分かるように、身体のほとんどが機械化されていて、基本的にはプログラムに則って行動するはずです」
「プログラム……?」
 と、その時。
 ピピピ、という電子音がデカルトQから聞こえてきた。
「——状況認識。現在地確認。情報整理。機能準備。準備完了。索敵開始——」
「お、おい、なんかやばくないか……?」
「——外敵発見。排除開始」
 刹那、デカルトQの目つきが変わる。
「どうも、私たちのことを敵だと思ってるようです」
「そんなことは分かってるんだよ!」
「だったらやることは一つじゃないですか」
 珍しく、浬よりもエリアスの方が落ち着いていた。そしてエリアスの言葉で、浬もハッとする。
「……そうだな」
「そうです」
 デカルトQが、機械的ながらもはっきりと見て取れる敵意をぶつけてくる。ならば、
「こっちも迎撃するぞ。エリアス!」
「了解です、ご主人様! 神話空間、展開します!」
 刹那、エリアスを中心とした、浬とデカルトQを包む空間が歪み始める——



 浬とデカルトQのデュエル。
 互いにまだシールドは割られていないが、状況はやや浬の劣勢だった。
 浬の場にはクリーチャーなし。しかしデカルトQの場には《アクア超人 コスモ》《アクア操縦士 ニュートン》《アクア隠密 アサシングリード》の三体がいる。
「なかなか鬱陶しい奴だな……!」
 呻く浬。序盤に軽量クリーチャーが引けなかったのもあるが、やっと出せたクリーチャーも《アサシングリード》に即バウンスされてしまった。
「自ターン認識。ドロー。《アクア操縦士 ニュートン》召喚。マナ武装3、発動」
 デカルトQは二体目の《ニュートン》を召喚。そしてマナ武装が発動する。
 《ニュートン》のマナ武装は、自分のマナゾーンに水のカードが三枚以上あればカードを引くことができる。ブロックされない能力もあり、マナ武装の条件さえ満たせれば、殿堂入りの《アクア・ハルカス》を超える性能となるクリーチャーだ。
「カード、ドロー。《アクア戦闘員 ゾロル》召喚。ターン終了」
「俺のターン」
 いまだにクリーチャーを並べられていない浬。だが、いくらなんでもそろそろ展開したいところだ。
「《アクア・ジェスタールーペ》を召喚! 連鎖発動! 山札を捲るぞ」
 連鎖能力により、山札の一番上を捲る浬。《ジェスタールーペ》のコストは4なので、コスト3以下のクリーチャーが出れば場に出せる上に、《ジェスタールーペ》の能力でさらにカードを引ける。
 そして、捲れたのは、
「っ! 《ザ・クロック》……!」
 《終末の時計 ザ・クロック》だった。
 コスト3で、確かに場に出せるカードだが、出した瞬間に浬のターンは終わる。
(もし《クロック》を出せば、カードは引けず、手札の2コストクリーチャーも出せない……)
 だが、ここで出さなければトップデックが《クロック》となるのだ。はっきり言って、シールドにいない《終末の時計 ザ・クロック》なぞに価値はない。
 出しても残しても邪魔になる《クロック》。その扱いを、浬はどうするのか。
「ここは少しでも手数を増やしておきたい……《ザ・クロック》をバトルゾーンへ! これで俺のターンは終わりだ」
 しばらく逡巡した結果、浬はクリーチャーを並べる方を選択した。そのまま《クロック》を場に出し、自分のターンを強制終了させる。
「自ターン認識。ドロー」
 デカルトQの場にクリーチャーは五体。数こそ多いが、アタッカーはうち三体で、しかも三体とも決して強力なクリーチャーとは言えない。なのでまだまだ対応はできるはずだ。
 そう思っていた浬だが、その考えは次の瞬間には吹き飛ばされる。
「呪文詠唱。シンパシー発動。リキッド・ピープル数五。コスト軽減値5。5マナ使用」
(なんだ、なにか来る……!)
 デカルトQは、自分の五枚のマナをすべて使い切る。そして、

「呪文《龍素開放》」


龍素開放(ドラグメント・フォーメーション) 水文明 (10)
呪文
シンパシー:リキッド・ピープル
自分のリキッド・ピープルをすべて破壊する。その後、山札の上から、進化ではないクリスタル・コマンド・ドラゴンが、破壊したリキッド・ピープルと同じ枚数出るまでカードをすべてのプレイヤーに見せる。こうして見せた進化ではないクリスタル・コマンド・ドラゴンをすべてバトルゾーンに出し、その後、山札をシャッフルする。


「なんだと……!?」
 驚きを禁じ得ない浬。どうやらデカルトQの展開は、この呪文のためにあったようだ。
 《龍素開放》は、端的に言ってしまえば、自分のリキッド・ピープルを山札にいるクリスタル・コマンド・ドラゴンに変換する呪文。つまりデカルトQのリキッド・ピープルはすべて、クリスタル・コマンド・ドラゴンとなるのだ。
「ご主人様、まずいです! クリスタル・コマンド・ドラゴンが大量に出て来ます!」
 エリアスが叫ぶが、そんなことは分かっている。
 デカルトQの五体のリキッド・ピープルがすべて破壊される。そして彼らは、龍素記号を生成するための糧となるのだ。
「山札確認。射出《龍素記号Pu フィボナッチ》《龍素記号St フラスコビーカ》——」
 《フィボナッチ》と《フラスコビーカ》がそれぞれ二体ずつ現れる。そして最後、五体目の結晶龍は——

「——《理英雄 デカルトQ》」