二次創作小説(紙ほか)

30話「理英雄」 ( No.117 )
日時: 2014/06/15 22:50
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「《龍素王 Q.E.D.》の能力発動」
 浬のターン。まず最初に《龍素王 Q.E.D.》を発動させた。
「《Q.E.D.》は各ターン最初に召喚する水のクリーチャーを、コストを支払わずに召喚できる。海里の知識よ、結晶となれ——《龍素記号iQ サイクロペディア》を召喚! その登場時能力で三枚ドロー」
 一つの物事が証明されれば、それは次の証明の証拠となる。この場面で現れた《サイクロペディア》の能力も、次の繋がる布石となるのだ。
「さあ、次の証明を開始するぞ。《Q.E.D.》の能力は呪文にも適用される」
「つまり、各ターン最初に唱える呪文も、コストを支払わずに唱えられます!」
「そういうことだ。行くぞ、呪文《インビンシブル・テクノロジー》!」


インビンシブル・テクノロジー 水文明 (13)
呪文
自分の山札を見る。その中から好きな枚数のカードを選び、相手に見せてから自分の手札に加えてもよい。その後、山札をシャッフルする。


 コスト13の呪文サイクル、インビンシブル呪文。非常に重い呪文というだけあって、その能力は強烈だ。
 水文明の叡智が結集したインビンシブル呪文《インビンシブル・テクノロジー》。このカードの能力は単純明快、山札のカードを好きなだけ手札に加えられるのだ。
 普通なら13マナも払ってまで唱えるには割に合わない呪文だが、しかし《Q.E.D.》がいる今なら、その重いコストなど意味をなさない。
「山札から好きな数のカードを手に入れるぞ」
『認識——情報処理。認識情報入力。処理時間経過。読込中』
「お前の読み込みなんて待たないからな。勝手にやっていろ、その間に俺は、俺の証明を終わらせる」
 浬が手札に加えたカードを公開し、その情報を自身のデータバンクに入力する《デカルトQ》だが、浬はその読み込みを待たない。
 1ターンに重いカードを二枚も使用した浬だが、しかし忘れてはならないのが、そのカードの使用はどちらも《Q.E.D.》の能力によるもの。つまり、このターン浬のマナの支払いは今だゼロなのだ。
「ここからが本番だ。《Q.E.D.》と《インビンシブル・テクノロジー》で、俺は今、デッキに入れていたカードをすべて使うことができる。呪文《幾何学艦隊ピタゴラス》!」
 浬は《インビンシブル・テクノロジー》で手に入れた大量の手札から一枚を抜き取った。そして浬の背後に、無数の軍艦が浮かぶ。
「まずはタップされていない《デカルトQ》をバウンス! 続けてマナ武装5、発動! タップ状態の《フィボナッチ》をバウンスだ! さらに《アクア・ソニックウェーブ》を召喚し、《フラスコビーカ》もバウンス!」
「情報処理継続——処理速度上昇」
「行け《Q.E.D.》! 《フィボナッチ》を攻撃!」
「処理箇所変更。防御システム起動。《龍素記号JJ アヴァルスペーラ》ブロック」
 《Q.E.D.》のキャノン砲の一撃で、《アヴァルスペーラ》が消し飛んだ。結果としてデカルトQはアタッカーを残せたが、代わりにブロッカーを失ってしまった。
「ターン終了だ」
「情報処理——自ターン認識。ドロー。《理英雄 デカルトQ》召喚。能力発動。マナ武装7」
 今度は普通に召喚される《デカルトQ》。機械的な蒼の身体に、複数のレーザーピットが付属された翼が装着される。


理英雄 デカルトQ(キュー) 水文明 (7)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 7000
ブロッカー
マナ武装7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに水のカードが7枚以上あれば、カードを5枚まで引いてもよい。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、手札を1枚、新しいシールドとして、自分のシールドゾーンに裏向きにして加えてもよい。そうした場合、自分のシールドをひとつ選び、手札に戻す。ただし、その「S・トリガー」は使えない。
W・ブレイカー


『五枚ドロー。シールド交換』
「成程な。マナ武装で引いたS・トリガーを、シールドに仕込むわけか」
 元々《デカルトQ》の手札には《フラスコビーカ》がいたはずなので、もしS・トリガーが引けなくてもそちらをシールドに埋められるが。
『《龍素記号Pu フィボナッチ》攻撃。シールドブレイク』
 これで浬のシールドはゼロ。しかし、そんなことはなんの弊害にもならない。
 もう、浬の組み立てた勝利の方程式の証明は、完了しようとしていたのだから。
「俺のターン」
「……ご主人様」
「ああ、このターンで証明終了だ」
 《デカルトQ》を前にして、浬ははっきりと、そう宣言する。
「《Q.E.D.》の能力発動。最初に召喚する水のクリーチャーを、コストを支払わずに召喚する」
 刹那、《Q.E.D.》の放出する龍素を触媒とし、巨大な結晶が生み出される。そしてその結晶から、魔術を再生する龍素記号が誕生した——

「海里の知識よ、再生せよ——《龍素記号Sr スペルサイクリカ》!」


龍素記号Sr(エスアール) スペルサイクリカ 水文明 (7)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト7以下の呪文を1枚、自分の墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。そうした場合、唱えた後、墓地に置くかわりに自分の手札に加える。
W・ブレイカー
このクリーチャーが破壊される時、墓地に置くかわりに自分の山札の一番下に置く。


 偶発的に発見された《龍素記号Sr》、その力は失われた知識を取り戻し、魔術の力として解き放つものであった。
 この記号を割り当てられた結晶龍こそが《龍素記号Sr スペルサイクリカ》だ。
「《スペルサイクリカ》の能力で、墓地からコスト7以下の呪文を唱える。唱える呪文は《幾何学艦隊ピタゴラス》! 《デカルトQ》と《フィボナッチ》をバウンス!」
 再び場に舞い戻って来た《デカルトQ》は、一瞬でまた手札に戻されてしまった。しかも、
「《スペルサイクリカ》の能力で唱えた呪文は手札に戻る。よってコストを払い再び呪文《幾何学艦隊ピタゴラス》! 《フラスコビーカ》をバウンスだ! さらに《アクア忍者 ライヤ》を進化! 《超閃機 ジャバジャック》!」
 ブロッカーをすべて排除し、アタッカーも並べられた浬。これで、すべての論拠は出揃った。
「行くぞ! 《ザ・クロック》でシールドをブレイク! 《ジャバジャック》でWブレイク! 《サイクロペディア》でWブレイク!」
 浬のクリーチャーが一斉に攻撃を開始する。展開されたクリーチャーによる怒涛のシールドブレイクで、デカルトQのシールドは瞬く間になくなった。
 だが、忘れてはいけない。いくら手札に戻されても、デカルトQにはシールドを入れ替える能力があるのだ。
 最後に《サイクロペディア》によって砕かれた二枚のシールドが、光の束となって収束する。
「S・トリガー発動。《龍素記号St フラスコビーカ》《幾何学艦隊ピタゴラス》」
 デカルトQによって入れ替えられたシールドは、どちらもS・トリガーだった。まず《フラスコビーカ》が登場し、守りを固める。そしてマナ武装も発動する《幾何学艦隊ピタゴラス》によって、浬の残るアタッカー《Q.E.D.》と《メタルアベンジャー》がバウンスされる。
 そう、なるはずだったのだが。
 数多の軍艦の砲撃を受け、手札に戻るはずの《Q.E.D.》と《メタルアベンジャー》は、いくら砲撃を受けても微動だにしない。
「——システムエラー、エマージェンシー。状況解析。認識不可。システムエラー、エマージェンシー——」
「残念だが」
 ピー、ピー、と明らかに非常事態を知らせる音を鳴らしているデカルトQに向かって、浬は宣告する。
「《Q.E.D.》も《メタルアベンジャー》も、呪文では選ばれない。だから《幾何学艦隊ピタゴラス》で除去することはできないぞ」
 なので仕方なく呪文の対象は《スペルサイクリカ》と《サイクロペディア》となり、肝心のアタッカーが残ってしまう。
「頼みの綱も、無意味だったな。行け《メタルアベンジャー》!」
「《龍素記号St フラスコビーカ》ブロック」
 相打ちとなる《メタルアベンジャー》と《フラスコビーカ》。これでデカルトQの場にクリーチャーはいなくなった。
 しかし、浬の場にはまだ、アタッカーが残っている。そのことが、彼の組み立てた勝利の方程式が、正しい解を導き出すということを証明していた。
 最後に、すべての龍素を統べる王が咆哮し、力のすべてを発射する。

「《龍素王 Q.E.D.》で、ダイレクトアタック——!」

 この瞬間、浬の証明は、終了した——



 神話空間が閉じる。そこにいたのは、直立する浬と、その傍らのエリアス。そして浬の手の内に収まった、《理英雄 デカルトQ》のカード。
「……終わったか」
「はい。お疲れ様です、ご主人様」
「いつものことだし、慣れているが……また眼鏡が壊れたか」
 そろそろなんとかしないとな、とぼやきながら、浬は自然な流れでカードとなった《デカルトQ》を仕舞い込む。
 これでめでたく、浬も英雄のクリーチャーの力を手にすることができたのだ。

 残る英雄は、あと二体——