二次創作小説(紙ほか)
- Another Mythology 4話「遊戯部」 ( No.12 )
- 日時: 2014/04/20 18:00
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
クリーチャー世界に行くという超常的体験をした暁だったが、彼女は翌日、なんの変哲もなく普通に登校していた。
いきなり地球とは違う星に飛ばされたというのにだ。
唐突に十二神話云々と押しつけられたというのにだ。
突然クリーチャーが襲ってきたりしたというのにだ。
それでも暁は、平然と学校に通っていた。
だが、平然としていない者もいる。
「あきらちゃん、あきらちゃん」
「んー? どーしたの、ゆず?」
「どうしたのじゃありませんよぅ。昨日のことですっ」
「昨日?」
「急にいなくなったじゃないですか。わたし、本当に心配で心配で……ゆーひさんに連絡しようかどうかとか、連絡してもなんていえばいいのかとか、すごく迷ったんですよ」
「そっかー、ごめんごめん」
軽く頭を下げる暁。勿論、柚が求めているのは謝罪などではない。
「いったい昨日、なにがあったんですか? あの男の人はなんなんですか?」
「なにがあったって言うとねー……あれ? でもこれって他の人に言っていいのかな?」
普通の人間ならクリーチャー世界に行ったなどと言っても信じてもらえないだろう。だが相手は柚だ。しかも暁の言うことなら、鵜呑みにするのも十分に考えられる。
それ以前に、あの出来事を軽々に人に言うのも憚られる。リュンは軽い調子ではあったが、あのクリーチャー世界を元に戻そうという気概は本物だった。あまり軽々しく扱っていいものではないだろう。
「……まあいっか、ゆずだし。昨日はクリーチャー世界に行ったんだよ。というか、連れて行かれたの」
軽々しく扱っていいものではない、と思いながらも軽く言ってしまう暁。しかし、
「そんな冗談言ってる場合じゃありませんっ。わたし、これでもちょっと怒ってるんですよ、ぷんぷんです!」
「おおぅ、珍しくゆずがマジでおこだ……」
あまり本気で怒っているという風には見えず、暁も怒られている自覚があるようには思えないが、これでも当人たちは真面目そのものだ。
「本当のことを話してください。昨日、なにがあったのかを」
「って言われても、本当のことだし……あ」
暁が思い出したように声を上げる。
「どうしたんですか?」
「忘れてた……早く一組に行かないと!」
「え? ちょ、ちょっと待ってください、まだ話は——あきらちゃんっ!」
手早く荷物をまとめて教室から飛び出す暁。その後を追う柚。
たとえ片方が一度日常からかけ離れたとしても、この二人の日常は変わらなかった——今のところは。
暁が一組にダッシュした理由は、昨日の眼鏡の生徒と対戦するためだった。たとえクリーチャー世界に行ったとしても、彼との対戦希望が消えたわけではない。
しかし、暁が一組に行った時には、その生徒はおらず、クラスメイトから聞くに部活に行ったそうだ。
そのため暁と柚は、目的の男子生徒を探すべく、学校中を歩き回っていた。
「部活って……なに部なのさ、あの眼鏡。科学部とか?」
「眼鏡だから科学って、ちょっと安直では……?」
「あ、あの教室、扉が開いてる。誰かいるのかな。ちょっと聞いてみよう」
「お邪魔じゃないですか……って、あ、あきらちゃんっ」
柚が制止する間もなく、暁はその教室の扉に手をかけていた。
「邪魔したらダメですよぅ……」
「邪魔じゃない邪魔じゃない。ちょっと聞くだけだって」
「関係ない部活だったら知らないですよ、普通は」
そう言って止めようとするも、暁は言うことを聞かず、ガラガラと教室の扉を開け放った。
「失礼しまーす。眼鏡をかけた一年生を見ません、でし、た……か……?」
「ん?」
「あら?」
中にいたのは、二人の生徒。一つの台を挟んで立っている。奥にいたのは、中学生のわりに背の高い、利発そうな顔立ちの女子生徒だ。そして手前にいたのは男子生徒。こちらも中学生とは思えないほど背が高く、上履きの色から判断するに同じ一年生。そして眼鏡をかけており、
「あ、いた! こんなところに!」
「お前、昨日の……!」
それは、暁が探していた男子生徒だった。
突然の出会いに驚く二人。そこに、疑問符を浮かべながら女子生徒が問う。
「カイ、その子たちは? 友達……じゃあないだろうし、クラスメイト? 入部希望者?」
「違います」
カイと呼ばれた眼鏡の男子生徒は、はっきりと否定する。
「っていうかそれ、デュエマテーブルじゃん。やっぱりデュエマするんじゃん!」
「しないなんて一言も言っていない」
「じゃあなんで私と対戦してくれなかったのさ!」
「お前には関係ない」
「あ、あきらちゃん……」
「なんか、二人の仲、悪いっぽい感じ?」
柚と女子生徒をよそに、険悪な空気を流し始める二人。二人の睨み合いがしばらく続いたが、それを打ち破ったのは女子生徒だった。
「はいはい! とりあえずそこまで!」
「っ……はい」
「むぅ……」
パンパンと手を叩いて、女子生徒は二人を引き剥がす。
「なんかよく分からないけど、とりあえず話をしましょう。私は卯月沙弓、この遊戯部の部長よ。あなたは?」
「……空城暁です。あの、遊戯部ってなんですか? 私にはデュエマしてるようにしか見えないんですけど」
そんな部活は知らない。入学してすぐ学校説明会があったが、その時には名前すら挙がっていない部活だ。
「そのまんまの意味よ。表向きは世界各国の遊戯と呼べる文化に触れあうのが主な活動。同時に現代における流行も追っていくの。それが」
デュエル・マスターズというわけだ。
「えっと、つまり、デュエマをする部活ってことですか?」
「ぶっちゃけるとそうね。人数が足りないから、正確には同好会だけど」
遊戯とは、言うなれば遊び。そして遊びも文化の一つと言えなくもない。
それを遊び=文化などとこじつけて、デュエマを部活動として行っている、というのが遊戯部の実態のようだ。実態と言っても、案外あっさりとばらしたが。
「……で、なにしに来たんだ?」
男子生徒は眼鏡越しでも分かる鋭い視線で、暁を睨みつける。口調もどこか低い。
そんな彼を、沙弓がなだめる。
「まったくもう、ガン付けないの。せっかくの入部希望者なんだから」
「別にまだ入部希望と決まっては……」
「いや、入ってもいいよ?」
「あきらちゃんっ!?」
あっさりと首を縦に振る暁に、柚が驚愕の眼差しを向ける。
「なんだかんだで部活ってやってみたかったし、それでデュエマできるならいいかなーって」
「そう、それは良かったわ。これで部員二人確保、部活に昇格できるわね」
「あれ? わたしもカウントされちゃってるんですか?」
「……はぁ」
色々しっちゃかめっちゃかになりながらもどんどんことが進んでいき、男性とは溜息を吐く。その様子を見た沙弓は思い出したように、
「あー、そうそう。言い忘れてたけど、この眼つきの悪い眼鏡は霧島浬。さんずいに里って書いて、かいりって読むの。変な名前でしょ?」
「へー、確かに変ですね」
「本人がいる前で堂々と言うな。部長も、変なこと言わないでください」
「事実じゃない」
言い合う浬と沙弓。その時、また教室の扉が開かれる。
しかし入って来たのは、生徒でも教師でもなかった。
「ここにいたかぁ……やっと見つけたよ」
「リ、リュン!?」
入って来たのは、リュンだ。四人のうち沙弓と浬は生徒でも教師でもないその男に怪訝な目を向け、柚は昨日のことがあるからかなにか言いたそうにしている。そして暁は、
「なんでここにいるの!?」
「君を探してたんだよ。僕の端末、持って行っちゃっただろう。あれがないと僕は星間移動ができないんだ」
「あ、あぁ……そうだったね。ごめんごめん」
非難がましい視線を向けるリュンに、暁は軽く謝りながら古ぼけた携帯電話を渡す。
「あれ? でもそれがないと移動できないなら、どうやってここに来たの?」
「……知り合いにエンジニアというかメカニックというかブラックスミスというか、まあそんな感じの人……じゃないか。クリーチャーがいてね。頼んでこっちの世界に飛ばしてもらったんだ」
お陰で痛い出費をしたよ、とまた非難の眼差し。
「あ、あの、あきらちゃん……その人は……?」
「えっとねー、教室でもちょっと話したけど、こいつは——」
「お、それは」
おずおずと尋ねようとする柚と答えようとする暁を無視して、リュンはデュエマテーブルに置かれているカードを見遣る。
「カードのクリーチャー……へぇ、この世界でクリーチャーを扱えるのは暁さんだけじゃないのか。だったら人では多いに越したことはないし……よし、一緒に連れて行こう」
「リュン? どうしたの?」
急に携帯を操作し始めるリュンを覗き込む暁。そして次の瞬間——四人の姿が消えた。