二次創作小説(紙ほか)
- 32話「牙英雄」 ( No.124 )
- 日時: 2014/06/21 22:49
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
かくして始まった、柚とオトマ=クット(とその頭の上に乗ったサソリス)とのデュエル。
互いにシールドはまだ五枚あり、柚の場には《エコ・アイニー》《緑神龍バルガザルムス》。オトマ=クットの場には《龍鳥の面 ピーア》《青銅の面 ナム=ダエット》。
どちらも序盤からマナを加速し続けており、それぞれ準備を整えているが、そろそろ動き出す頃合いだ。
「わたしのターンです。《バルガザルムス》で攻撃し、能力発動ですっ」
《バルガザルムス》はドラゴンの攻撃時、山札を捲り、それがドラゴンなら手札に加えられる。自然、特にドラゴンをメインとしたデッキでは貴重なドローソースとなるクリーチャーだ。
「山札を捲って……《緑神龍ミルドガルムス》を手札に加えます。そしてシールドブレイクですっ」
「S・トリガー《フェアリー・ライフ》だ。マナを増やすよ……じゃ、僕らのターンだね」
オトマ=クットの頭に乗ったサソリスが、陽気に言う。
基本的なデュエルの流れはオトマ=クットも理解しているようだが、今回の進行は主にサソリスが行っていた。彼の方が知能が発達しているからだろうか。
「そろそろこっちも攻めていくよ。まずは3マナで呪文《野生設計図》、山札を捲るよ」
そして、こうして捲った3枚の中のコストの違うクリーチャーをそれぞれ手札に加えられる。
サソリスが捲ったのは《龍覇 サソリス》《牙英雄 オトマ=クット》《連鎖類覇王目 ティラノヴェノム》。ちょうどコスト6、7、8のクリーチャーだ。
「おっと、いい感じに来たね。だったらこちらで攻めようか。この三枚を手札に加え、《ピーア》の能力でコマンド・ドラゴンの召喚コストが1下がる。よって6マナで《牙英雄 オトマ=クット》を召喚」
と、その瞬間、サソリスが跳躍する。そしてそれに合わせ、オトマ=クットも前へと直進し、バトルゾーンへと進出した。それから、サソリスが着地する。
「英雄さんが出ちゃいました……」
サソリスは何度もフォローしていたが、その恐ろしい形相を前にしては、やはり戦慄せずにはいられなかった。
「《オトマ=クット》の能力、マナ武装7、発動」
サソリスが静かに告げる。一体なにが飛んでくるのかと身構える柚だったが、しかし《オトマ=クット》が取った行動——というより、サソリスが取った行動、そして《オトマ=クット》がされたことに、吃驚するのだった。
「よいしょっと」
サソリスは地面に手を突っ込んで——というより、地面を叩き割って——地中より身の丈ほどもあるハンマーを引っ張り出した。酷く原始的な作りで、正に原始人が使っていそうな槌だが、どこか神秘的で、言葉にできない力を感じる。殴打部が龍の顔のようになっているのも、気にかかった。
「あれは……?」
疑問符を浮かべる柚。あのハンマーがなんなのかも疑問だが、それ以前にここでサソリスがハンマーなどというものを引っ張り出す意味が分からない。
だが、その意味もじきに分かる。そしてそれは、柚が吃驚する理由にもなった。
「——えいやっ!」
そんな掛け声と共に、サソリスは手にした槌を振り下ろした——
「っ!?」
——《オトマ=クット》に対して。
聞くだけで痛みが走りそうな、鈍い音が響いた。
思い切り殴られた《オトマ=クット》は顔を伏せ、身体を前のめりにした状態で静止する。
「な……なにしてるんですかっ!?」
「ん? なにって、これで殴ったんだけど? ……ああ、大丈夫だよ。こう見えて、腕力には自信がある方でね」
「そういうことじゃなくて……そんな、かわいそうじゃないですかっ。そんな、いきなり殴るなんて……」
「可哀そう……?」
柚の主張に対し、首を傾げるサソリス。最初は本気で柚がなにを言っているのか理解できなかったようだが、彼はビーストフォークの中でもかなり聡明だ。彼女の言い分も、すぐに理解した。
「そうか……君は、彼らのことを知らないんだね。じゃあいい機会だから、教えてあげるよ。古代龍——ジュラシック・コマンド・ドラゴンについて」
サソリスは手にした槌を肩に担いで、説明を始める。
「まず言っておくと、古代龍なんて銘打ってるけど、彼らが遥か昔、この世界に生きたという記録はない。実際は最近——君らの時代感覚ではかなり昔になるけど——生まれたような種族なんだ」
古代に生きたわけでもないのに、古代龍と呼ばれる。それはなぜか。その理由は彼らがどのようにして生まれたのかに、関わってくる。
彼らの力は太古からあったのではなく、太古の力を持つものによって、与えられた力なのだ。
「彼らはジュダイナ——このハンマー——に殴られることで、古代の力に目覚めるのさ。そしてこの《オトマ=クット》は——」
そう言ってサソリスは、ジュダイナをどこかに放り投げ、視線を《オトマ=クット》に向ける。
「——殴られた箇所から、原生林を発生させる」
刹那、《オトマ=クット》が起き上がり、カッと目を見開く。そしてマナから、大量の自然の力を身に纏った。
すると身体の各所に民族的な装飾が施される。頭部には鳥の頭のような飾り、そして肉体——ジュダイナに殴られたところからは、鬱蒼と植物が繁茂する。
「……!」
「ここで対戦に戻ると、《オトマ=クット》の能力はマナ武装7、マナゾーンに自然のカードが七枚以上あれば、マナゾーンのカードを七枚アンタップするのさ」
牙英雄 オトマ=クット 自然文明 (7)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 8000
マナ武装7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに自然のカードが7枚以上あれば、マナゾーンのカードを7枚までアンタップする。
W・ブレイカー
《オトマ=クット》から広がる植物は、このターン使われたマナに覆い被さり、そこに新たなエネルギーを流し込む。すると、マナが一気に起き上がった。
「マナがアンタップされるなんて、すごい能力です……」
単純に考えても、7マナの《オトマ=クット》を召喚するマナを復活させるので、マナ消費なしでパワー8000のWブレイカーが出ると考えれば強力である。
だがこの《オトマ=クット》は、《ピーア》の能力でコストを軽減して出て来ているのだ。さらに、
「《ピーア》のもう一つの能力、自分のコマンド・ドラゴンが出たことで、マナを一枚追加だ。これで残り9マナだね。残ったマナでこの僕を召喚するよ」
続けてサソリスが再び跳躍し、《オトマ=クット》と同じようにバトルゾーンへと出て来る。そして、
『僕の能力発動。僕が場に出た時、超次元ゾーンからコスト4以下の自然のドラグハートを呼び出す。呼び出すのは、さっきも見せた《ジュダイナ》だ』
《サソリス》は再び地面を叩き割って、地中より身の丈とほぼ同じ大きさの土を引きずり出す。
『そして、こうして呼び出したドラグハートがウエポンなら、ドラグナーたる僕に装備するよ』
「ドラグハート・ウエポン……かいりくんも使ってたカードです……」
浬の使用していたドラグハート・ウエポン《真理銃 エビデンス》は、水のカードを三回使用することで龍解したが、その前のウエポンの状態では、カードを引くだけの地味な効果だった。
ドラグハートの真価は龍解にある、しかしすべてのドラグハートがそうであるとは言い切れない。
特に《ジュダイナ》は、それ単体でも非常に強力なカードなのだ。
『《ジュダイナ》の能力で、僕は1ターンに一度、マナゾーンからドラゴンを召喚できる。よって、マナゾーンから《養卵類 エッグザウラー》を召喚するよ。これでターン終了だ』
「マ、マナゾーンからも召喚ですか……っ!?」
序盤に溜めたマナからドラゴンを展開する《サソリス》。このターンだけでも三体もクリーチャーが並んでおり、この状態が続くとまずい。
「わ、わたしのターン……」
《サソリス》が、というより《ジュダイナ》が存在する限り、《サソリス》は毎ターンマナゾーンからドラゴンが出て来る。豊富なマナを生かした展開が可能になるのだ。
「とりあえず、あの武器のカードをなんとかしないとです……呪文《父なる大地》! 《サソリス》さんをマナゾーンに送って、マナゾーンから《ナム=ダエット》を出してください。さらに《ミルドガルムス》も召喚ですっ。マナを増やして、マナゾーンの《サソリス》さんを墓地へ!」
「もう戻されちゃったよ、しかもマナから墓地に落とすなんて、君も結構やるじゃないか。ドラゴンを三体並べられなかったし」
《サソリス》と《ジュダイナ》、セットで除去されてしまったが、サソリスの場数は変わっていないので、サソリスの有利も変わらない。
(とりあえずマナゾーンからドラゴンは出ませんけど……やっぱり、強いです……)
気さくなサソリスもどこか怪しげで、目の前にそびえる《オトマ=クット》には威圧感で気圧されそうになる。
(でも、あきらちゃんも、かいりくんも、ぶちょーさんも……みんな、同じだけ頑張ってきたんです)
なら、自分だけ頑張らないわけにはいかない。
なんとか気を強く持ち、柚はサソリスの次なる一手に、身構えるのだった。