二次創作小説(紙ほか)

33話「界王類絶対目」 ( No.126 )
日時: 2014/06/24 04:26
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「…………」
 デュエルが終わり、神話空間が閉じる。
 虚空を見つめ、意識がないようにボーっと立ち尽くす柚。そんな彼女に、一枚のカードがひらひらと舞い落ちて来た。
「《牙英雄 オトマ=クット》……プルさん」
「ルー?」
「わたし……勝てたんですね……!」
「ルー!」
 柚の頭の上で、称賛するように声を上げるプル。そして、
「やっぱり僕の見込み通りだったよ。わざわざこんなまどろっこしいことする必要なんてなかったのに。ねぇ、《オトマ=クット》?」
 サソリスは、カードと化した《オトマ=クット》に呼びかける。
「まあ、なにはともあれ、君は《牙英雄》の力を手に入れることができたよ、良かったね」
「サソリスさん……」
「これで君がここにいる理由もなくなった。こんな黴臭くて古臭い場所から早く出た方がいい——と、言いたいところだけど」
「……?」
 サソリスは、どこか別の場所を見つめるように視線を逸らす。
「どうしたんですか?」
「ちょっと派手に暴れすぎたかも。君や僕の使役する龍の持つ古代の力に、“彼”が触発されたみたいだ」
「彼……?」
 と、その時。

 大きな地揺れが起こった。

「わっ……な、なんですかっ!?」
「彼が目覚めたんだよ。ちょっとやばいかもね、僕の力だけじゃ、彼を制御しきれない」
 ここが崩れたらまずい、とりあえず外に出ようと、サソリスに誘導されて柚とプル神殿跡の外へと飛び出す。
「ゆず!」
「あきらちゃん……ぶちょーさんも……」
 飛び出した矢先、柚を追っていた暁たちと遭遇した。しかし彼女たちの表情は、どこか焦っているようだった。
「二人とも、どうしたんですか……?」
「なんか、やばい感じのクリーチャーがいきなり現れてね……今、カイが応戦してるわ」
 言われてみれば、浬だけがいない。
「ふむ、大丈夫かね」
「うわっ!? なにこの仮面つけたリスみたいな生き物!」
「サソリスさんです。ドラゴンさんたちの……通訳、でしたっけ……?」
「概ねそんな感じだよ。それより、彼と応戦してるという人間は、彼のことを知ってるのかい?」
「あのクリーチャーのことを指して言っているのなら、たぶん知らないと思うわ。初めて見るクリーチャーだったし」
 沙弓がそう答えると、サソリスは少しだけ目を細める。
「そうか……じゃあ厳しいかもしれないね。彼の力は恐ろしい。この世界では神話の力が強かったから特に問題はなかったけど、彼は世界が変われば天頂の存在すらも飲み込んでしまうほどの力を持っている。力こそがすべてという、古代龍の理念を一番体現しているクリーチャーだ」
「そ、そんな強いクリーチャーなの? 浬、大丈夫かな——」
 と、暁が声を漏らした刹那。
「暁! 浬のデュエルが終わったぞ!」
「神話空間が閉じる気配がする……」
「ルールー! ルー!」
 《語り手》の三名が、口を揃えて言う。そしてそれと同時に、少し離れた位置の神話空間が閉じた。
 そして現れたのは、巨大なクリーチャー。
「……!」
 その姿に圧倒され、絶句する柚。
 巨体とか巨躯とか、そんな言葉が陳腐に思えてしまうほど大きい。巨大すぎて、そのクリーチャーがどのような存在かがつかめない。
「クリーチャーがカードに戻ってない、ってことは……」
「カイ!」
 真っ先に沙弓が駆けだした。その後に、暁と柚も続く。
 遺跡を飛び出し、森の中へと入る一行。木々に遮られてもなお、あのクリーチャーの絶対的な空気感が伝わってくる。さらに、移動しているのか、木々が押し倒されていく音も聞こえてきた。
 少し走ると、浬を背負ったリュンが見える。
「リュン! カイは?」
「生きてはいるけど、意識はまだはっきりしてないね。神話空間内でとはいえ、あれだけ巨大なクリーチャーの攻撃を受けて外傷がほとんどないなんて、相当上手く攻撃を避けてるよ」
「そんなのはどうでもいいよ! リュン、あのクリーチャーなんなの?」
「ワルド・ブラッキオだ」
 暁の問いの答えたのは、リュンではなかった。
 いつの間にかついてきていた、サソリスだ。
「《界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ》。《豊穣神話》が自ら封印をかけた、ジュラシック・コマンド・ドラゴン最強クラスの化け物だよ」
「《豊穣神話》が、自ら……確かにやばそうだ」
 リュン曰く、《豊穣神話》は自身が使役するジュラシック・コマンド・ドラゴンのほぼすべてを、《萌芽神話》へと付けたらしい。
 《萌芽神話》があらゆるクリーチャーと心を通わせる神話らしく、普段は凶暴なアース・ドラゴンも、彼女は難なく手懐けた。ゆえに、その能力を見込んだ《豊穣神話》は、自分が使役するよりも《萌芽神話》と共にある方がいいと考え、古代龍たちを彼女に預けたのだ。
 しかし、例外も存在する。《豊穣神話》はすべての古代龍を《萌芽神話》に渡さなかった。というのも、《萌芽神話》はまだ幼く、感性や感覚的なものでクリーチャーを支配できていた。
 だが、圧倒的な力を有するクリーチャーを彼女の近くに置くのは危険と考え、一部の強力すぎる古代龍は自身の手で使役したか、もしくは危険すぎると判断し封印した。
 その一体が、ワルド・ブラッキオなのだという。
「彼もこの近辺に封印されていたんだけどね、長い年月が経って、封印が甘くなってたのかな。僕らが呼び出した古代龍の力に影響されて、目が覚めちゃったみたいだ」
「覚めちゃったって、そんな寝起きで機嫌が悪いから暴れてる、みたいな言い方されても困るわ。どうするのよ、あれ」
「止めるしかないね。僕が言うのもなんだけど、ジュラシック・コマンド・ドラゴンっていうのは頭が化石並に古くて固いんだ。しかも脳筋ときている。力はあるけどおつむが足らない連中ばかりだから、力ずくで鎮圧するしかない」
「でも、じゃあ誰が止めるの?」
 暁の発言の直後、全員が黙した。
 相手は浬を倒すほどの力を持っている。そう簡単に勝てる相手ではない。
「……よし、じゃあ私が」
「いや、私が行くわ。カイを倒すほどなら、私が適任でしょう」
「いやいや、柚ちゃんが行くんだよ」
「わたしですかっ!?」
 叫ぶように声を上げる柚。
 サソリスはさも当然というように柚に振ったが、柚は遊戯部のメンバーでは最も実力で劣る。単純に考えて、浬を倒したクリーチャーに勝てるわけがない。
 しかし、サソリスの考えはそんな単純ではなかった。
「龍と心を通わせる者は数おれど、古代龍とまで通じ合う者は数少ない。君はその少数に属するんだ」
「で、でも、それって別にデュエマの実力と関係ないじゃないですか……っ」
 柚の言うことももっともだ。古代龍と心を通わせられたからと言って、どうなるというのだろうか。
「うーん、それをどう説明したものかな……口では上手く説明できないんだけど、彼らは意外と単純でね。とりあえず心が通じれば、話が通じるんだ。話が通じれば、それは君の力になる。つまり、彼に一番対抗できるのは君なんだよ」
 はっきり言って意味不明だ。話が通じることが力になるなどという言葉の意味が分からない。
 やはりここは、より実力の高い暁や沙弓の方がいいと思うのだが、
「まあ、確かにジュラシック・コマンド・ドラゴンのことなら、私たちよりも柚ちゃんの方がよく知ってるわよね」
「ゆずなら大丈夫だよ! 私が保証する!」
「ぶちょーさん、あきらちゃん……」
「ほら、みんなもこう言ってるわけだし、僕も力を貸すよ」
「サソリスさん……」
 そう言って、サソリスはカードとなって柚の手元へと収まる。
 皆に背中を押される柚。率先して戦いに臨むほどの自信は彼女にはないが、このようにお膳立てされて、それを突っ撥ねるほどの勇気も、彼女にはなかった。
「……わ、分かりました……わたし、やりますっ」
「さーすがっ。それじゃあよろしく頼むわ」
「頑張れ、ゆず!」
 二人の声援を背に、一歩踏み出す柚。刹那、目の前の樹木が押し潰される。
「……っ」
 見上げれば、そこにはワルド・ブラッキオの姿。その圧倒的巨大さに圧倒されてしまうが、後には退かない。
「わ、わたしだって……プルさんっ」
「ルー!」
 プルが高らかに声をあげる。
 その瞬間、彼女を中心とした、神話空間が展開された——



「——って、あれ? これ、わたしのデッキじゃないです……」
『ああ、それなら僕が他の古代龍や仲間を読んできたよ』
「そんな、このデッキ初めてですよ……」
 デュエルが始まった直後、柚は自身の手札を見てそう泣き言を漏らすが、
「あれ、でも……」
 不思議とそのデッキに未知の感覚はなかった。このデッキにどのようなクリーチャーがいて、どう動かすのかが、感覚で伝わってくる。
『それが君の才能だよ。その才のままに、戦ってごらん』
「は、はひ……」
 サソリスに言われたように、感覚のままにデュエルを進める柚。
 ワルド・ブラッキオのターン。《爆進 イントゥ・ザ・ワイルド》から《再誕の社》を使い、一気にマナをブーストする。
「わたしのターン、呪文《フェアリー・ライフ》でマナを増やして、《龍鳥の面 ピーア》を召喚です」
 とりあえず下準備を整える柚。しかしワルド・ブラッキオの方は、既に準備が整っていた。
「……っ」
『来るね……』
「ルー!」

 刹那、世界を破壊するほどの、古代の雄叫びが響き渡った——