二次創作小説(紙ほか)
- 34話「ラヴァー再来」 ( No.128 )
- 日時: 2014/06/25 04:42
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
《始原塊 ジュダイナ》が龍解し、大地を割り、咆哮しながら現れるのは、古代龍の王——《古代王 ザウルピオ》。
緑色の巨躯に、蠍のような毒針のある尾、頭部はゴーゴンの如く数多の赤い毒蛇が禍々しく蠢いており、古の王たる威厳と共に、どこか毒々しさも感じられる。
しかし、なによりも目を引くのは、《ザウルピオ》が手にする巨大な槌だろう。打撃部から緑色の龍の尾が伸びており、原始的だが民族的で、どことなく神秘的な力も感じられる槌。
「龍解、完了です……っ!」
《サソリス》に加え、三体ものドラゴンを展開した最後の締めにしては、この上なく上等だろう。これで柚のクリーチャーが一気に五体も増えたことになる。
しかし忘れてはならない。今の柚にはシールドがなく、ワルド・ブラッキオの場にはまだ《二角の超人》が残っているのだ。
ワルド・ブラッキオは万全を期すためか、二体目の《二角の超人》、そして《二角の超人》のマナ回収能力で手札に加えた《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》二体をマナ進化。これで柚がシノビを握っていようとも、ブロックはできず、《ハンゾウ》などで《ハックル・キリンソーヤ》一体を破壊しても対応しきれない。
そして、《二角の超人》による、とどめの一撃が繰り出される——
——はずだった。
《二角の超人》の拳が、シールドのない柚へと向けられる。その拳が柚に当たらんとする、その直前で弾かれたのだ。
なににか。それは、《ザウルピオ》だ。
《ザウルピオ》がまるでシールドの代わりであるかのように柚の前に立ち、《二角の超人》の——いやさ、主人たる柚に対する攻撃をすべて、力でねじ伏せてしまっているのだ。
だがワルド・ブラッキオは一度では諦めない。《ハックル・キリンソーヤ》も突撃し、柚にとどめを刺そうとするが、
「無駄です。その攻撃は、わたしには届きませんっ!」
《ハックル・キリンソーヤ》も、《ザウルピオ》によって弾き飛ばされ、攻撃が無効化されてしまった。
「《古代王 ザウルピオ》の能力……わたしのシールドが存在しない限り、わたしはクリーチャーの攻撃を受けません……っ!」
古代王 ザウルピオ ≡V≡ 自然文明 (7)
ドラグハート・クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 12000
T・ブレイカー
自分のシールドが1枚もなければ、自分は相手のクリーチャーの攻撃を受けない。
つまり、ワルド・ブラッキオは《ザウルピオ》を除去しなければ、いくら攻撃しようとも柚にとどめを刺すことはできない。
そして、そうやってもたついているうちに、数多の龍が牙を剥くのだ。
「わたしのターン……これで、決めますっ」
次の瞬間、柚に応えるようにすべての龍が咆哮する。
「《緑神龍ドラピ》でTブレイクですっ! 続けて《ティラノヴェノム》でWブレイク!」
ついでにマナゾーンから《ブオン》を出しておき、シールドを二枚砕く。あっという間にワルド・ブラッキオのシールドはなくなった。
そして最後に、古代龍の頂点に君臨する王が、界王をも押し潰す鉄槌を下す——
「《古代王 ザウルピオ》で、ダイレクトアタックです——っ!」
神話空間が閉じる。森の中で佇む柚の手元には《界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ》のカードが収められていた。
その事実が、今の戦闘の結果を物語っている。
「……勝てました、プルさん」
「ルー、ルールー」
「でも、わたしだけの力じゃありません……なんていうんでしょう、とても、“みんな”で戦っている感じが、しました……」
「ルールー! ルー!」
「そうですね……わたしはまだ、デュエマを始めたばかりですけど……やっぱり、楽しいです」
「ルー、ルー!」
「そうなんですか……だったら、わたしと同じですね」
対戦後の感慨に浸っていると、木々の間に風が吹き抜ける。すると柚の手元の《ワルド・ブラッキオ》が、風に飛ばされてしまった。
「あ……待ってくださいっ」
幸いにもカードは遠くまでは飛ばなかった。小走りで追いかけると、すぐに追いつき、柚はそれを拾い上げる。
が、その時、《ワルド・ブラッキオ》のカードの下にあるものに、気が付いた。
「……? なんでしょう、これ……」
先端の、少し尖った桃色の部分だけが突き出しており、タケノコのように見える。
「ルールールー!」
「えっと、これを掘り起こすんですか? わたしだけで、できるでしょうか……」
そう思ったが、しかし柚が力を入れて引っ張ってみると、半ば地中に埋まっているそれは簡単に引っこ抜けた。
それは蕾だった。淡いが鮮やかな桃色の花弁が閉じた、大きな蕾。
どことなく、その蕾には見覚えがあった。細部は異なるものの、その姿はまるで、
「プルさんが生まれた時の、あの蕾みたいです……」
「ルー?」
「そういえば、あきらちゃんとかいりくんも、こういうの持ってました——」
「ゆず!」
その時、森の奥から暁と、沙弓、それに浬やリュンも駆け寄ってくる。
「あきらちゃん……みなさん」
「やったんだね、ゆず! さっすが私の大親友!」
「わっ、あ、あきらちゃん……っ!」
走って来た勢いのままに抱きつく暁。柚は少し戸惑いながらも、共に喜んでいるようにも見える。
「……ん? 霞、その手にあるのは……」
「これですか? わたしにも分からないんですけど、ここに埋まっていて……」
「なんか、私が《ドラゴ大王》に貰った奴っぽいね」
「俺も似たようなものを持っているが……なんなんだ、これは」
《語り手》たちは、強い力を感じる、としか言わず、暁も《ドラゴ大王》本人に聞いてみたが、彼はあれを預かっていただけで、あれがなんなのかは知らないらしい。
「《語り手》のみんなが強い力を感じるってことは、十二神話が残したなにかだと思うんだけど……さて、なんなのか」
「リュンにも分からないなら、私たちが考えても分からないでしょうね。とりあえず持っておきなさいな」
「そうだな……知識の有無だけが関わることだ、考えて分かるものじゃないか」
暁、浬に続き、柚も手にした謎の物体。
これは一体なんなのか、どのような意味を持つものなのか、それは今だ判然としない。
(でも、本当になんなんだろうなぁ……)
人並み程度の知識欲しかない暁だが、気になるものは気になるのだ。
ふとそちらへ思考をシフトしかけた、その時。
「……まだいたの」
背後から気配。そして声。
「大きな力を感じたから、来てみたけど……嫌なもの、見た……」
「まあまあ、そう言わないの」
振り返れば、そこには一人の少女と、一体のクリーチャー。
「……!」
「お前は……!」
「はぅ……っ」
「ここで来るか……」
「…………」
一同の反応は、総じて同じようなものだ。
そんな中、真っ先に前に進み出て、彼女の名を叫んだのは——暁だった。
「ラヴァー!」
「……なに」
目の奥に、メラメラと闘志を燃え上がらせる暁。対照的に、ラヴァーの目は冷ややかだった。
だからと言って、暁の燃え盛る闘争心が消えるわけがないのだが。
「会いたかったよ、ラヴァー……今度こそ私たちが勝つ!」
「なんか勝手に勝負をとりつけちゃってるよ。どうする、ラヴァー?」
「…………」
黙り込むラヴァー。ジッと暁を見据えながら、その手は自身の衣服の内にあった。
「……うん、分かった……その勝負、受けても、いい……」
ちょうどその手の位置にあったデッキケースを取り出して、ラヴァーはそう告げる。
「キュプリス……」
「分かってる。主人の決定とあらば、ボクが拒否する理由はないしね。やろうか」
「よしっ、行くよコルル!」
「おう!」
向かい合う暁とラヴァー、そしてその傍らに侍るコルルとキュプリス。
一触即発の空気が流れ、同時に二人を神話空間が包んでいく——
「《不屈の翼 サジトリオ》、召喚……」
「呪文《メテオ・チャージャー》! 《サジトリオ》を破壊! チャージャーでマナを加速!」
「……《サジトリオ》の能力で、山札から……《栄光の翼 バロンアルデ》を、バトルゾーンに。マナを追加……さらに、呪文《ジャスティス・プラン》を、発動……」
「だったら! 《コッコ・ルピア》を召喚!」
「《聖龍の翼 コッコルア》《鏡面の翼 リブラミラ》を、召喚……」
暁とラヴァーのデュエルは、まだまだ序盤。シールドも互いに五枚あり、大きな動きは見せていないが、
「私のターン! 《爆竜 バトラッシュ・ナックル》召喚!」
暁が先んじて動き始めた。
「《バトラッシュ・ナックル》の能力で《コッコルア》と強制バトル! さらに私の火のドラゴンがバトルに勝利!」
それにより、手札から暁の切り札が現れる。
「暁の先に、勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》!」
《バトラッシュ・ナックル》の勝利に雄叫びを上げ、続けて現れしドラゴン《バトライオウ》。
これで盤面は、暁の優勢となる。
「……少しはできるようになった、みたい……」
「だね」
ラヴァーとキュプリスは小さく言葉を交わす。
そして、彼女はそっと自身のデッキに手を添え、ゆっくりとそのカードを繰る。
「……私の、ターン」