二次創作小説(紙ほか)

38話「反省会」 ( No.137 )
日時: 2014/07/06 04:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 その時は夜だった。自分以外に誰も存在しない部屋、ベッドの中で身を抱えながら、暁は強く目を閉じている。
 蘇るのは、ラヴァーとの今日のデュエルの結果。
(また負けた……今度こそ勝つつもりで、デッキも組んだのに……《ドラゴ大王》や《ガイゲンスイ》もいたのに……!)
 なのに、負けた。
 デッキ構築について、暁とラヴァーの間に大きな差があったとは思えない。ならば、なぜ負けたのか。
 引きが悪かったとか、相手の運が良かったとか、そんな言い訳をするつもりはない。
 理由はただ一つ、はっきりしている。
(私がもっと強くならなきゃ……そのために、することは一つ——)



 翌日。
 ピースタウン、ウルカの工房にて。
「やっぱり、後半ももっと積極的に攻撃するべきだったのかな。相手のシールドがなくなってからとか、特に」
「それなら、オレが攻撃に加われてれば……」
『言うなコルル。俺なんて、むざむざ罠のあるシールドに突っ込んじまったんだ。しかもその後はシールドに埋められた』
『オレも、《バトライオウ》の勝利に続けただけで、それ以降はなんの能力もない役立たずだった……クソッ!』
『シールドと言えば、拙者もでござる。拙者がシールドに埋まってさえいなければ、流れを引き寄せられたかもしれないのに……無念』
『儂らも同じだ。折角《ジャックポット》が繋いでくれたというのに、面目ない』
『あの陰気な娘、やってくれる……小娘よりも癪に障る女だ。次こそは我が王権の前に跪かせてよう……!』
 暁はコンクリート打ちっぱなしの床に胡坐をかき、その周囲に自分のデッキのカードを並べていた。ちょうど自分を中心に、円形となるように。
「……なにやってるんだ? あいつは」
「反省会だって。昨日の敗北が、よっぽど悔しかったのね」
「向こうの世界に行ったら、いきなり『どっか落ち着いて会議のできる場所はない!?』とか言うから、何事かと思ったよ……」
「あきらちゃん……」
「それより君たち」
 そこで、机に向かってなにやら作業していたウルカが、ひょいっと顔を出す。
「あんまりうるさくしないでよ、ここは公民館じゃないんだからね。お金取るか、追い出しちゃうぞ」
「すみませんウルカさん……でも、少し大目に見てくれませんかね?」
「お金払うなら文句は言わないよ」
「それはちょっと……」
「うぁー!」
 唐突に叫び出す暁。一同の視線が彼女に集まる。
「あ、あきらちゃん……?」
「遂に頭のねじが飛んだか……」
「普段から頭を使ってないだけに、心配だわ」
 果てにはこんなことを言われてしまう始末。しかし当人はそんなことなど気にせず、
「あーもう! なんで勝てないの!」
『貴様が不甲斐ないからだ、小娘』
『勿論、俺たちを操っている暁の力不足もあるだろうよ』
『はっきり言って、精霊龍使いの娘の方が、暁殿よりも技量は秀でていた。そこは認めざるを得ないでござる』
『しかし暁ばかりの責任ではない。儂らの力も、奴の精霊龍たちと対等とは言い難い』
『つっても、オレたちの力はこれでほとんど完成形だから』
「もう一戦力欲しいよなぁ」
 《ドラゴ大王》や《ガイゲンスイ》を仲間にしてもなお、ラヴァーには届かない。ならば、暁の技術向上も兼ねて、新たなクリーチャーを手に入れたいところだ。
『……それならば、もう一人の英雄の力を借りるのが、良いかもしれんな』
「もう一人の英雄……え? 火文明の英雄って、《ガイゲンスイ》だけじゃないの?」
 暁の反芻に、《ガイゲンスイ》は(カード越しで分からないが)首肯する。
『なにも英雄は各文明に一体ずつではない。他の文明、例えば光文明や闇文明にも複数の英雄がいる。そして火文明には、《撃英雄》の名を持つ儂以外に、《怒英雄》と呼ばれる英雄が存在しているのだ』
「《怒英雄》……そのクリーチャーは強いの?」
『強いぞ』
 即答だった。
 《ガイゲンスイ》がここまで強く言うのなら、その力は相当なものなのだろう。もし仲間になれば、戦力として期待できる。
『恐らく、儂と同じ地に眠っているだろう。儂が目覚める時、奴はまだその時ではなかったが、そろそろ力を蓄え、目覚めてもおかしくはない』
「そっかぁ……よし! じゃあその英雄の所に行こう!」
「ちょっと待って」
 暁がバッと立ち上がり、今にも駆け出しそうなところを、沙弓が声で制した。
「部長? どしたの?」
「さっき、闇文明にも他の英雄がいるって言ったわよね?」
『そうだが』
「なら、私も行くとしましょうかね、英雄の所に」
「え? それは勿論、みんなで行くんじゃないの?」
「そうじゃなくて」
 火文明だけでなく、闇文明にも別の英雄が存在する。ということは、
「私も、闇文明の英雄を探しに行きたいのよ」
「えっ……じゃあ、あきらちゃんとぶちょーさんは、別行動……」
「そういうことになるな」
 暁が火文明の英雄を仲間にする間、沙弓は闇文明の英雄を探す。わざわざ四人で同じ場所に行く必要もないので、効率がいいと言えばいい。
「でも急ですね」
「ちょっと、気になることがあってね……とりあえず、二手に分かれましょうか。私はカイと月魔館に行くから、暁は柚ちゃんとサンライト・マウンテンに向かって」
 手早く部員を二分する沙弓。少々強引に思えたが、しかしその采配に文句はない。
「よーし、じゃあ早速行くよ、ゆず!」
「あ……あきらちゃんっ、待ってください!」
 そして暁は、颯爽と工房から飛び出して行ってしまった。柚も慌ててその後を追う。
「……じゃあ僕は、暁さんたちの方に行こうかな」
「頼むわ。あの子たちだけじゃ、ちょっと心配だから」
 そう言って、リュンも工房から出ていった。
 残されたのは、沙弓と浬。
「ゆみ姉……もしかして、あの時の……」
「ええ。ずっと引っかかってたのよね、あの声」
 沙弓は言いながら、デッキから一枚のカードを取り出す。それは、《凶英雄 ツミトバツ》のカードだった。
「このカードを手に入れた時、あの場所の獄卒だと言っていた声……その正体を突き止めてやるわ」
「確かに、有耶無耶にしておくのは気持ち悪いな」
「そういうわけだから、私たちも早く出ましょうか。暁たちよりも遅れたくないわ」
「それもそうだな」
 最後に工房を出る二人。
 かくして、暁と沙弓は、それぞれ柚と浬を連れ、各々の英雄を探すこととなったのだった。