二次創作小説(紙ほか)
- 40話「呪英雄」 ( No.140 )
- 日時: 2014/10/23 00:42
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)
『月魔館』最奥部。
かつてドライゼが眠っていた小さな部屋。他にも、彼の主たる神話がかつて従えていた同胞も眠る地である。
しかしそこには、彼女の最大の側近であったドライゼすらも知らない、深淵が広がっていた——
右も左も、上も下も、前も後も、すべての方向が有耶無耶になりそうな真っ暗闇の世界。
その世界に足を踏み入れた、男女が一組いた。
「なんだか特別な場所って感じだったけど……《ツミトバツ》のお陰で、思ったよりも簡単に入れたわね」
黒を基調とした意匠の、長身の少女——沙弓は、手に持った《凶英雄 ツミトバツ》のカードを仕舞いつつ呟く。
「なんというか、不気味なところだな……得体が知れないというか」
「その得体を知るために来たのよ、カイ。さてさて、あの獄卒とやらは出て来るかしら——」
——また来たか——
と、どこからか声が聞こえてくる。その声がどこから発せられているのか。何の声なのかは分からない。ただ、言い様もない、重苦しい声であった。
「出て来たわね。ちょっとあなたに聞きたいことがあってね。この世界、この真っ暗な空間について。そして前に言ってた、重罪によって投獄されているっていう悪魔龍たちについて、全部」
「直球だな……」
やや心配になる浬。前回、沙弓はこの空間で精神的にやられかけている。また同じことにならなければよいが。
——ここは監獄。罪を背負いし悪魔龍を封じる場所——
「じゃあ、その悪魔龍っていうのは、そもそもなんなのかしら? その罪っていうのは?」
——かつて、《月光神話》と謳われた者の配下たる龍だ。死線を越えた龍は、その行いのすべてが罪となる。罪には罰を。《月光神話》無き今、幽閉の罰以外を与えることは出来ぬ——
「…………」
顎に手を添え、考えるそぶりを見せる沙弓。
(要するに、一回死んで復活させたドラゴンは、それだけで罪がある。以前、その罪に罰を与えるのは龍の主だったけど、今はその主がいないから、代わりのこの声が罰を与えている、ってことなのかしら)
それだけではないような気がするが、表面的にはそういうことらしい。ただ、
(《月光神話》ってなにかしらね……確かドライゼの主人は《月影神話》って言ってたけど、違うクリーチャーなのかしら)
名前は似ている。少なくともなにかしらの繋がりはありそうだ。
「ねぇドライゼ、《月光神話》って——」
そう思ってドライゼに尋ねるが、
「…………」
「ドライゼ……?」
彼は険しい目つきで、黙していた。何かを悔やんでいるように、過去を噛みしめるように。
そんなドライゼにどう声を掛けようかと迷っているうちに、またあの声が聞こえる。
——罰の時間だ——
「え?」
——汝のへの罰、そして忌まわしき呪われた過去の罰。罰を与え、罰を享受する悪魔龍に応えよ——
「ちょ、ちょっと……」
「ゆみ姉、これは……」
まずい気しかしない。そう思った刹那、沙弓の足元になにかが現れた。
「っ」
「ハニー!」
現れたのは、錆付いた鉄の板。板はエレベーターのようにそのまま沙弓を持ち上げてたと思えば、今度は一気に四方八方へと広がった。最後に端から有刺鉄線が飛び出す。
気付けば、一瞬にしてドーム状のコロシアムのようなものが出来上がっていた。さらに向かいには、クリーチャーと思しき影が見える。
「あれは……」
「ウラミハデスだ。かつては《呪英雄》と呼ばれたクリーチャーだな」
「英雄のクリーチャーってことね。《ツミトバツ》と同じ」
前回は浬と戦わせられ、負けた方が投獄という無茶苦茶なルールであったが、この場にいるのは沙弓とドライゼ、そして目の前のウラミハデスのみ。
「……今度は、まともに戦えそうね。いきなり罰の時間だ、とか言われても困るけれど、これって勝てばあの子を私が貰えるのよね?」
「さてな。だが気を付けろ、相手は英雄。一筋縄じゃいかない」
「そんなことは分かってる……じゃ、始めましょうか」
「ああ!」
次の瞬間、その空間の空気が豹変する。
「呪文《超次元リバイヴ・ホール》。《特攻人形ジェニー》を回収し、《時空の斬将オルゼキア》をバトルゾーンへ」
「《ボーンおどり・チャージャー》を発動、さらに《コッコ・ドッコ》も召喚よ」
沙弓とウラミハデスのデュエル。
まだお互いにシールドは五枚。序盤は墓地肥やしやハンデスなどで大きな動きも見せていないが、そろそろ場も動き始めたようだ。
「出でよ、呪われし我が身——《呪英雄 ウラミハデス》」
禍々しき赤い大鎌と、数多の霊魂を従えた呪いの悪魔龍、《ウラミハデス》。
そのおぞましき声により、彼のマナからさらに大量の霊魂が姿を現した。
呪英雄 ウラミハデス 闇文明 (7)
クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 7000
マナ武装 7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに闇のカードが7枚以上あれば、《呪英雄 ウラミハデス》以外の進化ではない闇のクリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー
『我が力により蘇れ《狼虎サンダー・ブレード》』
マナ武装7により、《ウラミハデス》の墓地からさらなる悪魔が蘇る。
「やば……」
『《コッコ・ドッコ》を破壊』
《サンダー・ブレード》に切り裂かれてしまう《コッコ・ドッコ》。これで沙弓の場に残ったのは《ブラッドレイン》のみ。
『《オルゼキア》でWブレイク』
「っぅ……!」
さらに《ウラミハデス》はここで攻勢に転じたようで、沙弓のシールドを殴り始める。
「きっついわね……私のターン」
相手の場には、Wブレイカーが三体。沙弓の場にはブロッカーがなく、シールドは三枚。ブロッカーを出すなりクリーチャーを破壊するなりで次ターンは防げるも、ブロッカーはおらず、能動的に除去するカードもない。
「……《コッコ・ドッコ》を召喚。さらに呪文《インフェルノ・サイン》で《黒神龍オドル・ニードル》をバトルゾーンに」
ターン終了、と小さく呟いてターンを終える。
「おい……大丈夫か、ハニー」
「何度も言うけどハニーはやめなさい。大丈夫よ、たぶん。これで少なくとも1ターンは稼げるわ」
「だが、相手の場には《オルゼキア》がいるんだぞ……!」
普通に《オドル・ニードル》が除去される可能性もあるが、それ以上に厄介なのは《オルゼキア》だ。このクリーチャーは、他のデーモン・コマンドが破壊されることが覚醒するサイキック・クリーチャー。しかも覚醒時に手札を二枚捨てさせる能力を持つ。
つまり、このターン凌いでもその反撃の芽を摘まれてしまうのだ。
『我がターン。二体目の《ウラミハデス》を召喚、マナ武装7発動。蘇れ《雷鳴の悪魔龍 トラトウルフ》』
《ウラミハデス》はさらに二体のクリーチャーを展開し、次のターンで確実にとどめを刺す準備を整えた。幸いにもマナを使い切ったため、このターンにやられることはないが。
『《ウラミハデス》で《オドル・ニードル》へ攻撃』
「《オドル・ニードル》の効果で互いに破壊ね」
大きく鎌を振り降ろした《ウラミハデス》は、爆散した《オドル・ニードル》の棘に貫かれ、両者諸共墓地へと送り込まれたが、
『《サンダー・ブレード》でWブレイク、《オルゼキア》でシールドをブレイクだ』
「っ……!」
砕かれたシールドの破片が散る。これで沙弓のシールドはゼロ。
いよいよ、後がなくなってしまった。
『そしてこのターンの終わり、デーモン・コマンド・ドラゴンである《ウラミハデス》が破壊されたことで、《オルゼキア》は覚醒する——覚醒せよ、《魔刻の覚醒者 G・オルゼキア》』
魔刻の覚醒者 G(ギャラクティカ)・オルゼキア 闇文明 (14)
サイキック・クリーチャー:デーモン・コマンド 12000
このクリーチャーが覚醒した時、相手の手札を2枚見ないで選び、捨てさせる。
T・ブレイカー
『《G・オルゼキア》が覚醒したことで、手札を二枚墓地へ』
手札まで削り取られてしまい、逆転の芽は薄くなってしまう。
「…………」
が、しかし、
「……うん、これならまだなんとかなるかしら」
沙弓の目からはまだ、敗北の色は見えていなかった。
「ここからならひっくり返せるわね」
「どうするんだ?」
「こうするのよ」
あっさりと答えた沙弓は、手札のカードを返す。
そして、彼女のマナが漆黒に染まった。
「終生に抗う英雄、龍の力をその身に纏い、罪なる罰で武装せよ——《凶英雄 ツミトバツ》!」
黒いマナの力を得て現れた、全身を鋭利な刃物で武装した悪魔の龍。あらゆる罪と罰を司る英雄、《凶英雄 ツミトバツ》。《ブラッドレイン》と《コッコ・ドッコ》の力も借り、僅か4マナで召喚された。
《ツミトバツ》は沙弓のマナゾーンから闇の力を吸収し、その吸収した力で武装した無数の刃物を、《ウラミハデス》のクリーチャーへと解き放つ。
「《ツミトバツ》のマナ武装7。あなたのクリーチャーのパワーはすべて、マイナス7000よ」
これにより、ウラミハデスの場は半壊。辛うじて残ったのは《G・オルゼキア》と《トラトウルフ》のみだが、
「さらに呪文《魔狼月下城の咆哮》。《トラトウルフ》のパワーをマイナス3000、マナ武装5発動で《G・オルゼキア》を破壊」
その残ったクリーチャーも、根絶やしにされる。
これで、一気に戦況はひっくり返った。
「《ブラッドレイン》でシールドをブレイク……ターン終了よ」
「……我がターン。呪文《超次元ミカド・ホール》、《ブラッドレイン》のパワーをマイナス2000、破壊。さらに超次元ゾーンより《時空の封殺ディアス Z》をバトルゾーンへ」
とはいえ、ウラミハデスもまだ価値の目が消えたわけではない。クリーチャーゼロの状態からでも、なんとか巻き返そうとするが、
「永遠なる死に逆らい、抗え——《永遠の悪魔龍 デッド・リュウセイ》!」
時空の扉より現れた悪魔は、悪魔龍の咆哮で無残に掻き消されてしまった。
「《ツミトバツ》でWブレイク!」
「ぬぅ……《墓標の悪魔龍 グレイブモット》《西武人形ザビ・バレル》を召喚」
「残念。呪文《魔狼月下城の咆哮》、《ザビ・バレル》のパワーを落として破壊、マナ武装5で《グレイブモット》も破壊よ。そして、《ツミトバツ》でWブレイク!」
召喚しても召喚しても、次々と墓地に追いやられてしまうクリーチャーたち。守り手すらも、その使命を全うすることなく死に向かう。
ウラミハデスのシールドが、数多の刃物で切り裂かれる。最後の奇跡も起こらず、もはや無力な英雄に、《デッド・リュウセイ》が牙を剥く。
「《永遠の悪魔龍 デッド・リュウセイ》で、ダイレクトアタック——!」
神話空間が閉じ、沙弓たちが戻ってきた先は、あの真っ暗な空間ではなく、『月魔館』最奥部の小部屋だった。
「……どういうカラクリなのかしらね、これ。一度戦ったらここに戻されるって」
「さあな。だが、無駄足ではなかっただろ」
「そうね……少しは、あの場所についても分かったかしら」
実際のところはまだ何かあるような気がしてならないが、少なくとも表面的にはどういう場所かは分かった。無論、あの声が嘘をついていなければの話だが。
この直後に、《ツミトバツ》や新しく手に入れた《ウラミハデス》のカードをかざしてみたが、あの空間へ行くことはできなかったので、二人はとりあえず、暁や柚たちと合流するために、町へ戻ることにした。