二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 10話「フォートレス」 ( No.141 )
- 日時: 2014/10/23 00:45
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)
「北部要塞でなにかの反応をキャッチしたよ」
一騎とミシェルが部室に入って早々、氷麗はそんな言葉を発した。
「……えっと、北部要塞って、俺とミシェルが最初に行ったとこ……テインが眠ってた場所だっけ?」
「はい。そこである反応があったの」
「ある反応ってなんだ?」
「そこまでは分からないけど、龍に近いもの……もしかしたら、《焦土神話》の配下たるクリーチャーが目覚めたのかもしれない」
《語り手》のクリーチャーが目覚めたことで、《語り手》が眠る地で共に封じられていた、神話の配下のクリーチャーも、時間が経てば目覚めるようになっている。この話自体は、一騎たちもリュンから聞いていた。
「というわけで、確かめに行きましょう」
「え、あ、うん。分かった」
「いいのかよ。お前、妹分探すんじゃなかったのか?」
「でも、テインの仲間が復活するんなら、放ってはおけないし……」
「相変わらずのお人好し……まあいいか。どうせ手探りなんだ、なにかしらの手がかりがあるかもしれないしな」
とりあえず、今日の方針は決定した。後は誰が行くかだが、
「こんにちは……あ、四天寺先輩と剣埼先輩、葛城さんも。もう来てたんですね」
「早いですねー。でもなんで同じ一年生の夢谷君の方が遅いのでしょうかー?」
「なんでっすかね? はははっ」
ちょうど良いタイミングで、全員が揃ったようだ。
本日の選考の結果、北部要塞へと向かうのは固定の一騎とナビゲーターの氷麗、そしてミシェル、美琴の四人となった。
「ここが先輩方が初めて訪れた場所……なんか、少し不気味ね」
「寂れた廃墟だしな。で、その反応ってのは前と同じ」
「最奥部の小部屋。なので、もうしばらく進むよ」
周囲に何者かの気配はないが、それでも不意に何か起こらないよう、細心の注意を払いつつ慎重に歩を進めていく。
やがて、一騎はふとつぶやいた。
「……なにか聞こえない?」
「怖いこと言わないでください。なんですか?」
「いや、足音みたいなのが聞こえるんだけど……ちょっと止まって」
一騎に促され、四人は足を止める。そして耳を澄ますと、確かに、微かだがなにか音が聞こえる。
「しかも遠ざかってる……? 俺たちと同じ方向に進んでいるみたい」
「よく分かりますね……」
「こんな寂れた廃墟になんの用なんだか。あたしらも人のことは言えないが、物好きだな」
「……もしかしたら」
氷麗がぽつりと言う。
「リュンさんから聞いたことだけど、以前この場所で龍素の実験をしていたリキッド・ピープルの集団がいたって話を聞いたことがある」
「なんのために?」
「それは分からないけど……もしかしたら、その一派がまたなにかするつもりなのかも」
さらに言えば、リキッド・ピープルは龍素の研究のために、眠りから覚めたり、封印が解けたりした、神話の遺産——《賢愚神話》の研究成果——を持ち出したこともある。ゆえにもしかしたら、今回も《焦土神話》の遺産を狙っているのかもしれない。
「それはやめてほしいなぁ……誰であってもそれは僕の仲間か、隊長の大切な武器。それをどこぞの者とも知らぬ他の文明のクリーチャーに渡すわけにはいかないよ」
「テイン……じゃあ、そのクリーチャーを止めないとね」
「普通の歩幅で、通常よりスローペースで歩いて追いつけたんだ。走ればすぐに追いつけるはずだ」
ということで、四人は周囲への警戒を忘れないままに、一気に駆け出した。
すると、一分もしないうちに何者かの背が見える。人型ではあるが、明らかに人間のそれではない。むしろ機械的で、ロボットかサイボーグを思わせる質感だ。
こちらの足音に向こうも気付いたようで、そのクリーチャーらしきものはバッと振り返る。
「何者だ!」
「それはこっちの台詞。あなたはここでなにをしているの?」
「貴様らにそれを教える筋合いはない。我々の作戦の邪魔をするのであれば消えてもらうぞ」
そのクリーチャーは、どこからともなく——というより、虚空から二丁の拳銃のような武器を出現させ、それを手に取り、その拳銃を床に向けて撃つと、今度はその弾痕から水飛沫が散り、その水が凝固する。そして凝固した水は結晶となり、水晶のように輝く、青と赤の一対の龍となった。
「我が名はガンバランダー! 我々リキッド・ピープルの新たな龍素記号、《ドロダブルBros.》と共に相手をしよう!」
高らかに名乗りを上げ、宣言するガンバランダー。
「……おい一騎」
「なに?」
「お前先に行け」
ミシェルはデッキを取り出しつつ、顎で一気に進むべき方向を示す。
「こんなところを一人でほっつき歩いているところから、こいつは単独行動っぽいが、仲間がいないとも限らない。ここはあたしらでなんとかするから、例の反応とやらはお前が確認しに行け」
「え、でも……」
「いいから行け。こんな奴相手に手間取ってもいられないしな」
「う、うん、分かった。ありがとう……テイン、氷麗さん」
「了解したよ、一騎」
「ミシェル先輩の言う通り。行きましょう」
一騎とテイン、そして氷麗の三名はガンバランダーの脇を通り過ぎて、そのまま奥へと向かおうとするが、
「っ、そう簡単に行かせると思うな! ドロダブルBros.!」
ガンバランダーの命令に応じてドロダブルBros.が一騎たちへと迫るが、一枚のカードが飛来し、その動きが止まる。
「そう簡単に止めさせもしないがな。美琴、そっちは頼んだ」
「はい! この得体の知れない者の行動、見逃せません!」
ドロダブルBros.の動きを止めたカードと、美琴が取り出したカード、それぞれを中心に神話空間が展開される。