二次創作小説(紙ほか)

41話「勝利天帝」 ( No.149 )
日時: 2014/11/03 14:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

 暁がGメビウスとの激闘を繰り広げている最中、外で光文明のクリーチャーと相対していた浬、沙弓、柚の三人は、
「《零次龍程式 トライグラマ》でTブレイク! 《龍素記号IQ サイクロペディア》でダイレクトアタックだ!」
「《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》でWブレイク。《悪魔龍王 デストロンリー》でダイレクトアタックよ」
「《連鎖類覇王目 ティラノヴェノム》でWブレイク、《帝王類増殖目 トリプレックス》でダイレクトアタックですっ!」
 そのクリーチャーたちを蹴散らしていた。
「……終わったか」
「大したクリーチャーじゃなかったわね」
 神話空間から出て来る三人。それぞれの足元には、倒したクリーチャーのカードが散らばっていた。
「でも、なんで光のクリーチャーがここにいたのでしょう……?」
「リュンが言うには、光文明は他文明の領土への侵攻を繰り返しているらしいからな。恐らくその一環だろう」
「ま、この程度の強さなところを見るに、偵察っぽい感じもするけどね」
 ともあれ、これで問題解決。浬たちも暁の所へ向かおうか——とは、ならなかった。
 ザリッ、と。誰かが地を踏みしめる音がする。そして、か細く小さな、しかしはっきりとした、声がする。

「あんまりにも報告が遅いから来てみれば……まだいたの……」

 三人がその声の方へと目を向けると、そこには見覚えのある人影。
 いや、見覚えのあるなんて程度ではない。この世界の混乱の一端であるとも言える人間の少女——ラヴァーだった。
 思いもしない人物の登場に、一同は驚きを禁じ得ない。そんな中で初めて声を上げたのは、浬だった。
「お前、なんでこんなところに……!」
「……それを言う義理は、ない……」
 言ってからラヴァーは、ふぅ、と憂鬱そうな溜息を漏らす。
「面倒くさい……いちいち邪魔するの、やめてほしい……」
「ま、仕方ないと言えば仕方ないけどねー。向こうとボクらの思想は相反するものだし、衝突は避けられないよ」
 ひょっこりと、ラヴァーのポケットから一枚のカード、そしてクリーチャーが顔を出した。
「キュプリス……こういう時、どうすればいい……?」
「どうもこうも、ボクは主人に従うだけさ」
 ラヴァーの言葉にまったく答えになっていない答えを口にするキュプリス。すると、ラヴァーの目つきが、どことなくじっとりとした、それでいてほんの少しだけ鋭いものに変わる。
「…………」
「分かったよ。ちゃんと言うよ。と言ってもボクの考え程度じゃどうもね……そうだなぁ、邪魔なものはとりあえず取り除けばいいんじゃない?」
「……そう。じゃあ、今までと変わらないんだ……」
 ラヴァーは静かにデッキを手にした。それと同時に、彼女の纏う空気が変質する。
 言うなれば、今までは気配すらも感じ取れないような静の空気。しかし今は、どこか殺気にも似た気迫を感じる動の空気だ。
「誰でもいい……今すぐ地球に帰るか、私に叩き潰されるか……選んで」
 抑揚のない声ではあるが、しかし迸る気迫が三人を戦慄させる。
「ど、どうしましょう……」
「完全にやる気ね、あの子」
 今のラヴァーは、どこか気が立っているようにも思える。生半可な気持ちで挑んでも、彼女の言うように叩き潰されるだけ。
 そんな中、浬が一人、名乗りをを上げた。
「……俺が行く」
「かいりくん……」
「大丈夫なの? 暁でも一度も勝てていないし、言っちゃなんだけど、あなたもあの子には負けてるわ」
「だからこそだ。俺はあいつに負けている、このまま黙って引き下がれるかよ」
 負けたままではいられない。デュエリストの性か、浬はそう言いながら前に進み出た。
「そういうわけで、俺が相手だ」
「別に……誰でも構わない。早く、終わらせる……」
 そして二人の間に、神話空間が広がる——



勝利天帝 G(ガイアール)メビウス ≡V≡ 火文明 (10)
クリーチャー:ガイア—ル・コマンド・ドラゴン 12000+
スピードアタッカー
このクリーチャーが攻撃する時、相手のパワー6000以下のクリーチャーを1体破壊する。
このクリーチャーが各ターン初めてタップされた時、アンタップする。
バトル中、このクリーチャーのパワーは、自分の墓地にある火のカード1枚につき+1000される。
T・ブレイカー


 《ドラグストライク》の死によって現れたのは、《Gメビウス》自身。
 その荘厳な姿に、暁は思わず後ずさる。
「で、出ちゃった……!」
 一体目の《ドラグストライク》では出てこなかったが、今度は出て来てしまった《Gメビウス》。
 そして、そのまま暁に襲い掛かる。
『呪文《勝負だ!チャージャー》。これで《Gメビウス》はアンタップ状態のクリーチャーを攻撃可能となる……スピードアタッカーの《Gメビウス》で《ドラゴ大王》を攻撃!』
「え……《ドラゴ大王》のパワーは13000、パワー12000の《Gメビウス》じゃ勝てないし、それとも破壊された時の効果があるの……?」
「違う! 暁、あいつ《ドラゴ大王》を破壊する気だ!」
 コルルが叫ぶと同時に、《Gメビウス》の飛翔によって発生したソニックブームが、暁たちにも襲いかかる。
『《Gエメビウス》が攻撃する時、相手のパワー6000以下のクリーチャーを破壊する……《コッコ・ルピア》を破壊!』
「っ……!」
『さらに《Gメビウス》が各ターン初めてタップした時、《Gメビウス》をアンタップ!』
 タップ状態だった《Gメビウス》が、再び起き上がる。この効果で、《Gメビウス》は1ターンに二回攻撃が可能となるのだ。
「で、でも《ドラゴ大王》とバトルじゃ、《Gメビウス》は勝てないはず。だからアンタップも無意味なんじゃ……」
 そう、思っていたが、
『《Gメビウス》の最後の能力発動! 自分の墓地にある火のカード一枚につき、《Gメビウス》のバトル中のパワーを+1000!』
 《Gメビウス》の墓地には火のカードが八枚。よってバトル時のパワーは20000、《ドラゴ大王》を上回った。
 超高速で飛翔する《Gメビウス》が《ドラゴ大王》へと迫る。
『くっ、ぬぅ……!』
 《ドラゴ大王》も羽ばたき、なんとか《Gメビウス》から逃れようとするも、振り切れない。最後には追い付かれてしまい、その二対の腕で破壊される。
『ぐおぉぉぉぉぉっ!』
「《ドラゴ大王》!」
 《Gメビウス》に破壊された《ドラゴ大王》は、はらりと墓地へ落ちて行った。
「そんな……《ドラゴ大王》が……」
 サァッと青ざめる暁。しかし悲嘆にくれている暇などは存在しない。
『《Gメビウス》でTブレイク!』
「っ……うぁ!」
 二回攻撃可能な《Gメビウス》の二撃目が繰り出され、暁のシールドが三枚砕け散った。
 クリーチャーゼロ、相手のシールドは三枚、そびえ立つは《Gメビウス》——絶望的な状況だった。
「うぅ……私の、ターン……!」
 しかし暁は諦めない。どんなに絶望的でも、まだ勝ち筋は残されている。
 その勝ち筋を、拾うことができれば。
「お願い、来て……!」
 祈るように、暁はデッキに手を掛ける。そして——
『——うっせぇな。言われなくても来てやらぁ』
「!」
 引いたカードを見て——否。そのカードからの声を聞いて。
 彼女は、勝利を確信した。
「《ガイムソウ》……! 来てくれたんだね!」
『あんまりてめぇがうざいもんだからな。おら、さっさとしやがれ』
「分かってる! まずは《爆速 ココッチ》召喚! 《ココッチ》の能力で、私のコマンド・ドラゴンの召喚コストを1軽減! 6マナでガイアール・コマンド・ドラゴンを召喚するよ!」
 ここで召喚するカードは決まっている。先ほど、手に入れたばかりのあのドラゴンだ。

「暁の先に並ぶ英雄、龍の力をその身に宿し、熱血の戦火で武装せよ——《怒英雄 ガイムソウ》!」

 爆発の中より、《ガイムソウ》が現れる。
 その召喚と同時に、暁のマナが爆発するように燃え上がった。
「《ガイムソウ》のマナ武装7発動! 手札から進化でない火のクリーチャーをバトルゾーンに! 出すのはこれ! 《撃英雄 ガイゲンスイ》!」
 続けて現れたのは《ガイムソウ》と同じ英雄のクリーチャー《ガイゲンスイ》。
 この《ガイゲンスイ》の登場にも、暁のマナは反応を示す。
「《ガイゲンスイ》のマナ武装7も発動だよ! 私のクリーチャーすべてのパワーを+7000! さらにシールドブレイク数も一枚追加!」
 燃え盛る暁のマナから炎が噴き出し、彼女のクリーチャーたちを包み込む。それは破壊の炎ではなく、力の炎。それにより暁のクリーチャーはすべて、マナの力を得て強化された。
『《ガイムソウ》よ……久しい光景だ。お主と戦場で肩を並べるのは、いつ以来か』
『うるせぇ、俺は昔話に花を咲かせる気なんざねぇ。今はただ、目の前の敵をぶっ飛ばすだけだ』
『ふっ、それもそうだな。では行こう……暁!』
「オッケー! 《ガイゲンスイ》で攻撃! 追加ブレイクも合わせてTブレイク!」
 暁の指示を受け、《ガイゲンスイ》は地面を蹴る。さらに刀を抜き、《Gメビウス》のシールドをすべて切り裂いた。
『さあ、道は開いた! 行くのだ《ガイムソウ》!』
『てめぇに言われるまでもねぇんだよ! 行くぜぇ!』
 本来《ガイムソウ》はスピードアタッカーではないので、召喚したこのターンには攻撃できない。しかし、暁の場には今《ココッチ》がいる。
「《ココッチ》のもう一つの能力……私のコマンド・ドラゴンはすべてスピードアタッカーになる!」
 これにより、種族ガイアール・コマンド・ドラゴンの《ガイムソウ》はスピードアタッカーとなったのだ。そして、シールドを失った《Gメビウス》に、怒りの刃が向けられる。

「《怒英雄 ガイムソウ》で、ダイレクトアタック——!」



「——よっと」
 神話空間が閉じると暁は、はらりと舞い落ちるカードを掴み取った。
「《勝利天帝 Gメビウス》……強かったなぁ」
「だけど、暁はその《Gメビウス》に勝ったんだぜ! お前の方が強いことを証明したんだ!」
「うん……ありがとう、コルル」
 暁はデッキと共に、手にした《Gメビウス》のカードをケースに収めると、くるりと踵を返した。
「じゃあ、みんなのところに戻ろっか。待ちくたびれてるだろうし」
「おう!」
 そして、洞窟の出口に向けて、駆け出すのであった——その先に、彼女が高みを目指す理由となる少女がいることを、知らないまま。