二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 5話「適正」 ( No.15 )
日時: 2014/04/20 21:49
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「また来ちゃったよ……」
 ゆっくりと体を起こす暁。この、自分の身体がどこかに飛んでいく感覚は、間違いない。
 またクリーチャー世界に来たのだ。
「ゆず、大丈夫?」
「ん……あきらちゃん……?」
 とりあえず暁は、近くで倒れていた柚を揺すり起こす。見れば、浬と沙弓も体を起こしていた。
「なんなんだ、一体……」
「ここは……岬、かしら……?」
 潮の匂いが鼻孔をつつく。波の音も聞こえる。そしてなにより、海が見える。沙弓の言うように、どうやらここは岬のようだった。
「ここは火文明と水文明の支配地域の境界線である沿岸地帯だ。陸に向かえば火文明、海に向かえば水文明の治める地域に入る。」
「あ、リュン」
 暁たちと一緒に来た、というより連れて来たであろうリュンが、そう説明しながら一歩踏み出す。
「話は後だよ。新しい十二神話の配下が封印されている場所を見つけたんだ」
「オレがな!」
「コルル! どこに行ってたの?」
 リュンの後ろからコルルが飛び出し、暁がそれを受け止める。
「どこ行ってたはこっちの台詞だ。一人でどっか行ったのは暁だろ」
「えー……私、ただ家に帰っただけなんだけど……まあいいや。ごめんね」
「あ、あの、あきらちゃん……」
「ん?」
 ここまでのやり取りを、呆然と眺めていた三人は、それぞれ度合いが違うものの驚きを隠せていなかった。
「えっと、その、それは……?」
「それ? コルルのこと?」
「いったい、なんなのでしょう、これって……」
「流石にちょっと急展開過ぎないかしら? 説明が欲しいわね」
「…………」
 どうやら柚たち三人も混乱しているようだ。なまじ暁よりも常識を備えているため、暁が最初に来た以上に混乱している。
「えーっと、どう言ったらいいかな……リュン」
「分かってるよ、連れてきたのは僕だし、僕が説明する。とりあえず歩くよ、一ヶ所にずっといたら、この前みたいに狙われかねない」
 そう言ってリュンは、速足で歩き始める。
 暁たち四人は、その後をついて行くのだった。



「——クリーチャー世界に十二神話、世界の荒廃とその復興、ねぇ……いまいちピンと来ないわね」
「はい……」
「…………」
 道中にリュンが説明したことをまとめ、呟く沙弓。柚もとりあえず今のこの状況は飲み込んだようだ。
「もうすぐ着くはず……ここだ」
 リュンが足を止める。そこには穴、岬から下へと——つまり海中へと続くであろう穴がった。
「この中だ」
「え、いやこの中って、海……」
「入るよ」
 そう言って暁を引っ張り込み、穴の中へと落ちていくリュン。そして暁。
「ちょ、待——」
「あきらちゃんっ!? ま、待ってくださいっ」
「……行っちゃった」
 無理やり引きずり込まれた暁の後を追って、柚も穴へと飛び込む。
「これは私たちも言った方がいいのかしら。ねぇ、カイ」
「……やめた方がいいと——」
「それじゃあ行こうかしら」
「俺の話聞いてます!?」
 あからさまに浬を無視して、沙弓も穴へと入っていった。最後に残されたのは、浬一人。
「……仕方ないな」
 そう呟くと、彼も穴の中に身を滑り込ませた。



 穴の中は海の中、と思ったが、そうではなかった。
 確かに海の中なのだが、そこは言うなれば海中トンネル。壁面がガラスのような材質でできた通路だ。
「凄い、海の中が見える……」
「水族館みたいですねぇ……」
「クリーチャーの世界にもこういうのってあるのね。びっくりだわ」
「…………」
 各々海中トンネルの感想を言う。ここに来てからほとんど口を開かず、仏頂面の浬だけがなにも言わない。
「ここは《賢愚神話》の支配地域でね、彼は十二神話で最も多くの知識を有していたと言われている」
「へぇ、頭いいんだ」
 酷く単純に捉えた表現をする暁。間違ってはいないのだが。
「彼はその知識を用いて、光文明にも負けないほど高度な技術を発展させた。これはその産物の一つだよ」
 トンネルを抜けると、今度は小部屋だ。壁面には画面のようなものが映し出され、チカチカと光が点滅し、四方向には通路が伸びている。
「こっち」
 リュンに導かれるままにその通路をまっすぐ進むと、また同じような小部屋。ここも直進し、次も小部屋。ここも直進する。
「さっきからずっとまっすぐ進んでるけど、大丈夫なの?」
「一本道だからね。横道にそれると、逆に時間を食う。直進が最短ルートなのさ」
「ふぅん」
 リュンがそう言うのならそうなのだろう。それ以上はなにも言わず、暁は歩を進める。
 十回ほど小部屋を抜けると、今度は今までの部屋よりも一回り大きな部屋へと辿り着いた。暁は、この部屋に見覚えがある。
「この部屋って……コルルが封印されていたところと似てる……」
 違う点と言えば、祭壇の台座に置かれている物体。そこには、綺麗な形をした水晶のようなものが置かれている。
「あれにクリーチャーが封印されているんですか?」
「うん。なんか別のやつだったけど、コルルもあんな感じのを触ったら出て来たし」
 既に一回経験していることだ。ならば、勝手は分かる。暁は誰に言われるでもなく祭壇に上っていった。
「さーて、今度はどんなクリーチャーが出て来るのかな?」
「《賢愚神話》の配下だろ? オレ、あいつ嫌いなんだよな……きっと嫌な奴だよ」
「そんなことないと思うけどなぁ……ま、やってみれば分かるか」
 あまり乗り気でないコルルと対照的に、上機嫌な暁。そして彼女は、目の前の台座に置かれている水晶に手を伸ばす。
 そして、
「……あれ?」
 なにも起きない。
「あれ、あれれ? おかしいな、クリーチャーが出て来ないよ?」
 ペタペタと何度も触ったり、撫でたり叩いたりしてみるが、うんともすんとも言わない。
「……もしかしたらと思ったけど」
 すると、リュンが静かに口を開く。
「やっぱり、十二神話の配下の封印を解くのは、誰でもいいってわけじゃないみたいだね」
「どういうこと?」
 暁が尋ねるとリュンは、初回が成功だったから気付き難かったけどね、と前置きしてから言う。
「あの十二神話が最も信頼していたと言われる配下の封印を、他世界の生命体ならなんでも解けるっていうのは甘い考えだったんだ。たぶん、封印を解くためにはなにかしらの条件があるのだと思う」
 もしくは適正か、と締めるリュン。
「条件……ってことは、私はここに封印されているクリーチャーの封印を解く条件を満たしてないってこと?」
「そうなるね。そもそも《賢愚神話》は十二神話でも飛び抜けた嫌われ者だったけど、特に《太陽神話》とはかなり険悪な敵対関係にあったから、《太陽神話》の配下であるコルルくんの封印が解けた暁さんとも、《賢愚神話》の配下は相性悪いんじゃないかな?」
「むぅ……じゃあどうするの? これ、このまま放っておいてもいいの?」
「それは困るなぁ……」
 暁ではこの水晶に封じられているクリーチャーを目覚めさせることができない。ならば、どうすればいいか。
 答えは簡単だった。
「ゆず、ちょっとやってみて」
「えっ? わ、わたしですか?」
 暁が柚を手招きする。
 暁と入れ替わりに台座の前に立った柚は、恐る恐るその水晶に手を触れる。だが、水晶に変化はなかった。
「わ、わたしではダメみたいです……」
「なら、今度は私がやってみようかしら」
 今度は何気に乗り気な沙弓が出て来る。腕まくりなどしながら腕まで回しているほどだ。
「部長……」
 そんな沙弓を、呆れたように眺める浬。勿論、沙弓はそんな浬のことなど意にも介さず、その水晶に触れた。
 しかし、またしてもなにも起こらない。
「ダメみたいね」
「じゃあ次は……」
 一同の視線が浬に集まった。
「な、なんだよ……」
「なんだよ、じゃないでしょ」
「次、霧島の番だよ」
 さも当然というような暁。そしてその態度に異を唱える者もいない。
 浬を除いては。
「なんで俺まで付き合わされなけなきゃいけないんだ」
「いいじゃん別に、減るもんじゃなし。一緒に来たんだから、ほら、ねぇ」
「知るか。俺はこんな得体の知れないことに首を突っ込む気はない」
「はぁ、まったくこれだからこの子は……ほら、駄々こねてないで行きなさいな」
「ちょっ、部長……!」
 拒絶する浬を、沙弓が強引に引っ張っていき、台座の前に立たせた。
「なんで俺がこんなことに……部室にいるところも見られたし、今日は災難だ」
 ぼやくように呟きながら、浬はジッと目の前の水晶を見つめる。
「……触るだけで、いいんだよな……?」
 そして、ゆっくりとその水晶に手を伸ばしていき——触れた。

 刹那、賢愚の殻が破れる——