二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 11話「怠惰の城下町」 ( No.154 )
- 日時: 2015/08/02 01:18
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「——結局、これはなんなのかな?」
「さあな。氷麗も分からないつってたし、考えて分かるもんでもねーだろ」
まだ一騎とミシェルだけの部室にて。
一騎は先日、例の小部屋で手に入れた岩塊を掲げたり眺めたり触ったりしていた。
研磨されたかのように滑らかだが、しかし表面はどこか煤けているようにも見える。そして何より目を引くのは、柄まで深く突き刺さった刀剣だ。
「なんなんだろうなぁ……?」
どうしても気になって仕方がない。氷麗が言うには、リュンも同じようなものをいくつか発見しているが、《語り手》のクリーチャーとなにか関係があるだろう、ということくらいしか分からないらしい。しかも、それも憶測の域を出ない。
「いつまでも唸ってるなよ。それより、まだだれも来てねーし、揃うまで対戦してようぜ——」
と、その時。部室の扉が開かれる。
その奥には、残る四人の部員の姿。
「……揃ったね」
「……だな」
今回クリーチャー世界に向かうことになったのは、くじ引きの結果、空護と八ということになった。
そしてやって来たのは、闇文明の大罪都市の東端にある自治区の一つ、怠惰の城下町。
「なんか……ちょっと想像と違うというか……」
「クリーチャー世界にも、こういうところってあるんですねー……」
「うおぉー! 凄いっす! 時代劇みたいっす! 忍者とかでそうっす!」
一歩踏み出せば、土を踏み固められて作った道路。道の両側には、瓦の屋根と木造の家屋。今は隠れているが、月夜も相まって非常に情緒ある雰囲気がある。
闇文明はいち早く文明内で纏まり、巨大な大罪都市を築いた。しかしあまりに巨大すぎて、そのうえ急遽作り出された都市なので、統治などあってないようなもの。各地に自治区を作るも、各地でかなり好き放題やっている。
そのせいなのか、各地の自治区ごとに特色があり、かなり様相が違うものだ。
「前に見たプライドエリアはゴーストタウンみたいなところでしたが、今度は江戸時代の町並みみたいですねー」
「ここに、恋の手掛かりが……?」
「最近、光文明は他の文明に干渉することが多くて、この町へよく出入りしているって情報をつかんだんだ」
そこで、今回はこの場所へ転送したというわけらしい。
「ここは大罪都市の一角、怠惰の城下町……あの丘の上を見て」
「あれは……お城?」
ここからそう遠くない丘の上、闇夜で見づらいが、大きな城がそびえていた。
「そう。この城下町の城主が住まう、この区域の居城。怠惰城YO—2」
「なんでそこだけ英語……?」
「しかもラップ調ってどういうことですかー……?」
ちなみに少し前に城主は世代交代したらしく、その時の名はYO—1といったらしい。
「とりあえずどうするの? あの城に行くの?」
「ううん。とりあえずは、ここ最近の光文明のクリーチャーの出入りについて聞いてみた方がいいかも」
「情報収集は索敵の基本ですからねー。言うなれば城は敵の本丸みたいなものなわけですし、乗り込むのは最後の手段になりますかー」
別に闇文明のクリーチャーが必ず敵と決まったわけではないが、下手に乗り込みたくないというのは確かだ。城主の逆鱗かなにかに触れて、取り囲まれるという展開だけは避けたい。
「そんじゃー、行くっすよ!」
「そうだね、あんまりゆっくりもしていられな——」
と、その時。
一陣の風が吹いた。
「っ……!」
強い陣風に、腕で顔を押さえる一騎。風はすぐに止み、恐る恐る目を開ける。
「な、なに……?」
「部長! 氷麗さんがいないっす!」
「っ、なんだって!?」
確かに、気づけば氷麗が消えていた。周囲を見回しても、それらしき姿はない。
「……あそこです!」
空護が指差し、叫ぶ。その指の先は、民家の屋根瓦の上。
そこには人影のようなものが立っていた。暗がりでシルエットが辛うじて見える程度だが、ちょうど雲が晴れ雲間から月明かりが差し込み、シルエットが照らし出され、その姿が浮き上がる。
「……!?」
「これは……」
「うおぉーっ!?」
そして、一同は絶句した。
浮かび上がったシルエットは、青い肌、赤いマフラーに、口元を隠す覆面、そして闇に紛れる忍装束——正に、一騎たちのイメージする、正真正銘の忍者だった。
そして脇には、氷麗を抱えている。
「まさか、本当に忍者が出るとは……」
「…………」
「凄いっす! 自分、初めて本物の忍者みたっす!」
三者三様の反応を見せる一同。一騎は完全に言葉が絶えており、八は興奮がエキサイト状態。一番最初に声を上げたのは、空護だった。
「何者ですかー……? 氷麗さんを、どうするおつもりで?」
「……名乗るほどの者ではない。そして、使命を語る義理もない」
「ちょ、ちょっと、離して——」
「さらば!」
シュッ、と。
忍者は氷麗を抱えたまま、民家の屋根を跳躍し、逃走した。
「あ……逃げたっす!」
「追いかけましょう」
「う、うん。そうだね。氷麗さんを助けなきゃ……!」
「御用だ御用だ! ってやつっすね!」
「それはちょっと違うと思う……」
一騎たちは駆け出し、忍者を見失わないように追跡する。幸いにも雲が晴れているので、月明かりが忍者を照らしてくれているため目視はできる。
「ちょ、ちょっと……!」
「あまり暴れるなかれ。取り落とす」
忍者に抱えられた氷麗はなんとか抵抗を試みる。その中で、相手の力を測っていた。
(……パワー5000ってところかな。だったら、私の方がパワーは上。ちょっと強引にでも脱出して——)
そう思い、氷麗は手に力を込め、強引に腕から抜け出そうとする。
しかし、
「あまり暴れられるのは面倒なり……呪文忍法! 《魔狼月下城の咆哮》!」
「え……?」
どこからか、狼の雄叫びのような声が聞こえる。
その声を聴くと、途端に氷麗の身体から力が抜けていく。暴れて抵抗するのも難しいほどに、脱力してしまった。
「うぅ……力が、出ない……?」
「少し大人しくしてもらった……む?」
忍者が気配を後方に向ける。そして刹那、キィンッ! という金属同士のぶつかり合う音が鳴り響いた。
「ぬぅ……」
「女の子を運ぶには、その抱え方は乱暴じゃないかな?」
「テインさん……!」
忍者を追跡しているのは、なにも一騎たち人間だけではない。はっきり言って生身の人間である一騎たちが、クリーチャーであろう忍者にそのまま追いつくのは無理だ。
ということでテインに出張ってもらい、忍者の足止めを任されたということだ。
「力は衰えども、僕だってマルス隊長の下で戦った戦士だ。負けないよ!」
「……忍ッ!」
テインは軍刀を抜き、忍者も忍刀を抜く。
そして互いに刀を振り、打ち合うようにして剣戟を繰り返す。甲高い金属音が何度も打ち鳴らされ、音が月夜に吸い込まれてゆく。
しかしその交錯も、長くは続かなかった。
「はぁっ!」
「!」
キィンッ! と一際強く打ち鳴らされた忍者の刀が、テインの軍刀に叩き落され、屋根瓦に食い込む。
そしてテインは二の太刀で、忍者刀を真っ二つに叩き割ってしまった。
「この僕に、剣術で敵うと思わないことだね!」
そもそも忍者は脇に氷麗を抱えている。それだけでも不利な状態だ。
テインさらに三度目の太刀を振る。が、
「……ならば、剣術でなければどうだ?」
「え……?」
「忍ッ!」
忍者の手元から、黒い物体が飛ばされる。薄く、回転しながら飛ばされたそれを、テインは反射的に叩き落した。
「手裏剣……?」
「もう一度!」
「っ!」
またなにかを飛ばされ、テインはそれを切り落とす。
しかし、今度は切り落とすべきではなかった。
テインが切った物体は爆発し、さらに白い煙をまき散らす。
「っ、爆弾、それに煙幕か……!」
「隙あり! 呪文忍法《デーモン・ハンド》! これにてさらば!」
「しまっ——」
爆発と煙で動きが止まり、テインに隙ができる。そして忍者の手元から悪魔の腕が伸び、テインを掴んで放り投げた。
「テイン!」
と、ちょうどその時、追いついてきた一騎が、投げられたテインをなんとかキャッチした。
「テイン! 大丈夫!?」
「問題ないよ、爆発は喰らい慣れてる……それよりごめん。時間、稼ぎきれなかったよ」
「いや、いいよ。なんとか追いつけたし、もうすぐそこにいるから」
一騎は、キッと忍者へ鋭い視線を向ける。
一方忍者は、顔色一つ変えず、
「……ふむ、これは少々面倒なり。仕方あるまい、奴を呼ぶか」
そう言って忍者は、シュタッと地面に下りる。そしてなにやら巻物をばっと広げ、
「召喚忍法! 口寄せの術! 現れよ《THE FINALカイザー》!」
広げた巻物から、もくもくと煙が立ち上る。
「なんですかこの忍者演出は……!」
「本物の忍者みたいっす!」
「っていうかもう、完全に忍者だよねこれ……」
本人も忍法と言っていた上に、忍刀やら手裏剣やら口寄せの術やら、どう考えても忍者だ。
立ち上る煙の中から現れたのは、巨大な龍。同じように巨大で禍々しい、大きく反った剣を口に咥えている黒き龍だ。
出現した龍は、一騎たちを妨げるかのように立ちふさがる。
「それではさらば!」
「あ! あの忍者、逃げるつもりっす!」
龍が道を塞いでいる間に、忍者は走り去ろうとしてしまう。このままでは逃げられる。
「くっ……焔君、夢谷君、君たちは先に行ってくれ」
忍者は足が速い。すぐに追いかけなければ追いつかない。なので一騎は即座に自分の中で選択肢を決定し、口にする。
「ここは俺が食い止める。だから、氷麗さんを頼んだよ」
相手はクリーチャー。なら、一人が相手をすればそれでいい。
ここは一騎が一人で相手をし、残る二人が忍者を追う。合理的な役割分担ではあるが、少々台詞に問題がある。
「いや部長、それ死亡フラグ——」
「分かったっす部長! ここはお任せしましたっす! 行くっすよ先輩!」
「あ、ちょっと——!」
空護が突っ込もうとするが、最後まで言わせてもらえず、八に腕を掴まれてそのまま忍者の後を追っていく。
二人の姿が見えなくなると、一騎はスッとデッキを取り出した。
「……さて。テイン、もうひと踏ん張りだよ」
「ああ。僕も、やられっぱなしは嫌だからね」
そして、目の前の龍と共に、神話空間の中へと入り込む——