二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 11話「怠惰の城下町」 ( No.156 )
- 日時: 2014/11/08 08:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
忍者を追っているうちに、空護と八は例の丘の上の城に辿り着いた。
「城か……ということは、あの忍者さんはこの城の城主に仕えてる、ってところですかねー」
「そうなんすか?」
「忍っていうのは、主に忠誠を誓い、奉仕するものですからねー」
「へぇー、物知りっすね」
「……一般常識ですよ」
なんにしてもこの城に氷麗がいることはまず間違いなさそうだ。
「よーし、そんじゃー行くっす——」
「待った」
八が走り出そうとするのを、空護は彼の首根っこを掴んで制止する。
「こういう城は、なにかしらの罠が仕掛けられているもの。下手に突っ込むのは得策とは言えませんねー」
「忍者屋敷ってやつっすか。じゃあ、どうするんすか?」
「そうですねー……」
空護はそびえ立つ天守閣を見上げる。丘の上に立っているので高く見えていたが、実際はそこまででもない。普通の城だ。
しかし、普通であるがゆえに怪しい。必ずなにかあるはずだ。
この城を攻略し、氷麗を攫った忍者の下へ向かう。そのためには、どうすればよいか——
「……突入しますかー」
音も立てずに、板張りの廊下に降り立つ影。その影は、目の前のふすまをゆっくりと開いた。
「——殿。不肖ニンジャリバン、ただいま帰還しました」
(ニンジャリバン……それがこのクリーチャーの名前……?)
いまだ力が抜けて抵抗できずにいる氷麗は、自分を抱える影——忍者、いやさニンジャリバンを見遣る。
(殿って、この城の城主……?)
首を回して、開けた襖の向こうへと目を向ける氷麗。
質素な部屋だった。汚れており、煌びやかな装飾とか、広い座敷とか、そういうものはない。最低限の生活用品が置かれているだけで、とても殿と呼ばれる者が住む部屋とは思えない。
部屋の奥には、影があった。月明かりに照らされているが、ここからでは逆光で姿が見えない。
だがやがて、その影はゆっくりと振り返る。そして、その姿を露わにした。
「あぁ、腰が重い、腰が痛い。身体を回すのも面倒くせぇ……」
振り返ったのは、龍。ドラゴンだ。鎌のような爪、鋸のような牙、槍のような棘、悪魔の如き角、漆黒の翼、赤く煌めく眼光、鈍く光る金の装飾——非常に攻撃的で禍々しい姿をしているが、それは下半身の龍の頭が、だ。その上に乗っている龍の半身は、どことなく間抜けづらを晒している。
しかも台詞が開口一番、腰が重いだの面倒くさいだの、とても家来が帰って来た時の城主とは思えない反応だ。
「……《コシガヘヴィ》」
氷麗はそっと呟く。
このクリーチャーは、コシガヘヴィ。正式な名前で言えば《怠惰の悪魔龍 コシガヘヴィ》だ。
七つの大罪と呼ばれる悪魔龍の一体であり、怠惰の名が示すように物臭な性格であるとは聞いていたが、まさかこの城の城主になっているとは思わなかった。
(まあ、怠惰の城下町なんてもっともな名前で、気付くべきではあったんだけど……)
こんな奴が相手なら、素直に城に乗り込んで、光文明の動きを聞き出しても良かったかもしれないと思いながら、その時ふと思った。
「なんで私、こんなところに連れてこられたの……?」
「殿の奥方となるためだ」
淡々とニンジャリバンは即答する。
奥方、即ち妻。殿の奥さんということだ。
つまり、つまりだ。嫌な予感が氷麗の中に芽生え始める。そしてその芽は異常なスピードで成長し、膨張していく。
「貴様には殿と結婚してもらう」
城の三階にて。
空護と八は走っていた。
「なんなんすかなんなんすかなんなんすかーっ!」
「口じゃなくて足を動かしてください! 死にますよ!」
二人が走る後方には、巨大な石の塊がゴロゴロと転がっており、漫画にあるような展開となっていた。
この城は、八が言うように忍者屋敷でもあった。一歩中に入ればカラクリ仕掛け罠が満載の城だった。
しかし、それでもここは、人が住まう城だ。必ず上へ行く手段は存在しているはず。そもそも、忍者屋敷というのはそういうものだ。
なのでここまで、空護の知恵でそんなカラクリを回避しながら来たのだが、八が変なものを触ったりするせいで仕掛けが発動してしまい、現在こうなっている。
ちなみにこの回想は□型の通路だけの部屋となっており、どういう仕組みになっているのかは知らないが、一度回り始めた石球が止まらない構造になっていた。さらにここまで登って来た梯子の戸は閉められているので、後戻りも出来ない。
「やばいっすよこれ! 自分らなんで忍者ハウスでマラソンなんすか!?」
「君のせいですよ! だから変なとこ触るなって言ったじゃないですか!」
「だってなんか珍しい楽器があったもんで見てみたかったんすよ! さっきあの石に潰されたっすけど!」
エンドレスでこの階層を走り続ける二人だが、そろそろ体力的にもきつい。
しかし、このマラソンを四週ほどして、空護には気付いたことがあった。
「夢谷君! あの角を曲がってから三つ目の板がある壁にダイブしますよ!」
「え!? なんすか!? 三つ目の板ってなんすか!?」
「とりあえず僕の後についてきてください!」
そう言って空護は、グンッと八を抜かす。そして曲がり角を曲がると、板張りの壁の板の継ぎ目、その継ぎ目を数えて三つ目の板へと、空護は思い切り横っ飛びする。それに続き、八も訳が分からず飛び込んだ。
「ふぅ……黒月さんがいなくて良かったですねー、これは」
「いたた……なんすか?」
「隠し扉、みたいなものですねー」
本来扉がないと思われるところに出入りできる穴を用意しておき、強度の低い壁で覆ってカモフラージュする。この手のカラクリでは常套手段だ。
「そしてここに階段が……とりあえず上に行きますかー」
「はいっす」