二次創作小説(紙ほか)

烏ヶ森編 11話「怠惰の城下町」 ( No.157 )
日時: 2014/11/09 20:33
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「え……結婚? 結婚ってなに?」
 いくらなんでも、氷麗が結婚という言葉を知らないわけではない。ただ、この場で発せられたその言葉の意味が理解しがたいだけである。
 いや、理解したくない、と言うべきか。
 しかしそんな氷麗の心情など考慮せず、ニンジャリバンは続けた。
「殿は見ての通りの性格、それは殿自身も重々承知しておられることだ」
「あー、面倒くせぇ。徴税とかマジだりぃ……でも税は取らねぇと……いくら取ればいいいんだ? 計算すんのかったりぃ、適当でいいか……」
「…………」
 流石、怠惰の名を冠しているだけはある。正にその名の通りの性格だった。しかもそれを隠そうとか、上に立つ者としての威厳を見せようという気さえ感じられない。恐らくそれも、彼にとっては面倒なのだろう。
「ゆえに、殿は早くに次世代に繋げることを考えたのだ」
「つまり自分で政治するのが面倒になったから、次の世代に丸投げしよう、ってこと?」
「そうとも言う」
 なんてことだ。なぜこいつはこの町の当主なんかになれたのか、甚だ不思議である。
「拙者は殿に、奥方となる女を見繕って来い、と命じられた。そこで町を巡回している中、貴様を見つけた。だから連れて帰って来た。以上だ」
「女なら誰でも良かったんだ……」
 呆れた話である。同時に、困ったことになった。
(まだ力は戻らないし、どうしよう……)
 パワーが下げられたままである以上、今の氷麗では抵抗してもニンジャリバンに返り討ちにされてしまう。パワーが元に戻るまで時間を稼ぎたいが、
「殿、これより式の準備を」
「あー……? かったりぃから適当にやっといてくれ」
「他の闇領からの来賓は?」
「挨拶とかだりぃし、他の領土の連中とあーだこーだするのも面倒だなぁ……いらねぇ」
 コシガヘヴィだけなら一生動きそうにもないものの、ニンジャリバンが優秀すぎてとんとん拍子で話が進んでいく。力がいつ戻るかも分かったものではないので、時間を稼ぐのも難しそうだ。
 と、思ったその時だ。
「ここっすかぁ!?」
 後ろの襖が吹っ飛んだ。
 同時に、二つの人影が部屋の中に突入してくる。
「氷麗さん、発見ですねー。無事ですかー?」
「やっと当たりっす! もしかしたらまだ上への階段があって、ここが罠かと思うと冷や冷やしたっすよ!」
 突入してきたのは、空護と八だった。見慣れた二人の登場に胸を撫で下ろす氷麗と、ジッと二人を見つめているニンジャリバン。
「氷麗さん、大丈夫ですかー? 立てますー?」
「なんとか……動くくらいの力はある、かな……?」
「しっかし、なんすかこの部屋。殺風景っすねー」
 氷麗を近くに寄らせたり、部屋をキョロキョロと見回す二人に対し、ニンジャリバンは、
「……貴様ら、もしやこの城の罠をすべて突破したのか?」
「なかなか骨が折れましたけどねー」
 あっけらかんと答える空護。表情にこそ出さないが、ニンジャリバンは驚きを禁じ得ない様子だ。
「……拙者の罠を掻い潜り、ここまで来たことは誉めてやろう。しかし拙者とて矜持はある。貴様らを素直に帰すわけにはいかん」
「でしょうねー……なんか分かってましたー」
 でも、と空護は少しだけ目を鋭くし、
「貴方一人じゃ、僕ら二人の相手は無理ですよー。そちらのお殿様? も戦うのなら話は別ですがー」
「……確かにな。申し訳ございませぬ、殿。殿の力も借りたく存じます」
「えぇー……面倒くせぇなぁ。でも、ここで逃がしたらまた探すのも面倒くせぇし、仕方ねぇか。あー、よっこいしょっと」
 コシガヘヴィは、だるそうに腰を持ち上げる。
「だりぃけど、やってやっか……あぁ。でもやっぱり面倒になってきた……」
「なんなんすか、このクリーチャー……?」
「殿はこのような性格なのだ」
 ともあれ、これで二対二の構図が出来上がった。
「……おい、貴様」
「僕ですかー?」
「場所を変えるぞ。殿の邪魔はしたくない」
「……別に構いませんよー。確かにここは狭いですからねー」
 どうせ神話空間に入るのだから関係ないが、しかし気分的な問題だ。五人も狭い部屋に入っていて窮屈に感じていたのは確かである。
「では殿、行って参ります」
「おぅ……」
 ニンジャリバンはコシガヘヴィに一礼すると、窓枠に足をかけ、一息で跳び上がった。
 それに続き空護も、同じように窓枠に足をかけて跳んだ。
 瞬く間に、二人は場所を変えて消え去ってしまった。
「って、空護先輩凄いっす! 先輩も忍者っすか!?」
「クリーチャーならおかしくないけど、人間であの跳躍力って……」
 かなり人間離れした身体能力だ。どこかで特殊な訓練でも積んでいたのだろうか。
 そんなことを思いつつ、氷麗は目の前の八と、その向こうにいるコシガヘヴィへと視線を向ける。
「さぁ、お殿様の相手は自分っすよ! 庶民な身分なんで恐縮っすけど、手は抜かないっす!」
「ぜーんぜん恐縮そうには見えねぇんだがなぁ……あー、でもなんでもいいや、面倒くせぇし。とっとと始めようや。かったりぃ……」
 いつも通りのハイテンションでやる気に満ち満ちている八と、対照的にダウナーでやる気のないようなコシガヘヴィ。次の瞬間には、二人は神話空間へと飲み込まれていった。



 空護とニンジャリバンの対戦の舞台は、城の屋根の上だった。瓦の上を歩き、最頂部まで来たところで、空護は呟く。
「こんな場所で戦うだなんて、如何にもですねー。逆にべたべたですー」
「……貴様、只者ではないな」
 唐突に、ニンジャリバンはそんなことを言う。
「最初から、貴様からは拙者とどこか似た匂いを感じていた。どこの村の出身だ?」
「なんのことですかねー? まさか僕がシノビのデッキを使うってこと知ってるんですかー?」
「……はぐらかすか。確かに、我々はその素性を隠すのが常。貴様の判断は正しい」
 どこか噛み合っていない二人の会話。ニンジャリバンは思うことをただ言っているだけのようだが、空護はあからさまに話を逸らしている。
 そして今度は、空護が語りかけた。
「それよりも、殿様を一人にしても良かったんですかー? 夢谷君は少しうおっちょこちょいですけど、実力は確かですよー?」
「それはこちらの台詞だな。貴様らは殿の性格を見て、その力を過小評価しているのかもしれないが、あまり殿を見くびらない方がいい。まがりなりにも、この怠惰城の城主であるぞ」
 言葉を交わしながら、間合いを測るように一歩、また一歩と、ジリジリ寄り合う二人。
「……御託はこのくらいでいいですかねー」
「そうだな。そろそろ、こちらも始めよう」
 そして遂に、その足を止めた。
 次の瞬間、二人は神話空間へと誘われてゆく。