二次創作小説(紙ほか)

烏ヶ森編 12話「太陽山脈」 ( No.167 )
日時: 2015/06/28 19:54
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 前方に見えるのは、光文明と思しきクリーチャーの大群。足のあるものは地を歩き、翼を持つものは空を飛び、隊列を作って岩山を登っていた。
 だがさらにその先、ちょうど中腹の辺り。広場のように開けた場所に、大量の光クリーチャーが整列している。
 一騎たちは岩陰に隠れ、身を潜めつつクリーチャーたちの様子を窺う。
「偵察に出たヴァニエ、ラーブラショク、アキューラたちからの報告は?」
「それがまだ……主が先ほど、痺れを切らしたのか、様子を見に行ってしまわれましたが……」
「成程。ではもう少し様子を見て、なんの連絡もなければ、我々も動くよう進言してみよう」
 広場から聞こえてくるのは、そんなやり取りだった。
「これは……ビンゴか?」
「やはり光文明は、火文明に攻撃を仕掛けようとしているようですね」
 この太陽山脈は火文明にとっては重要な経路となりうる場所だ。そこを抑えてしまえば、ただでさえ統制が取れていない今の火文明を攻め落とすことはさらに容易になることだろう。
「それも大事だけどさ。あのクリーチャーたちの言ってる、主って誰の事かな?」
「そりゃこのクリーチャーたちを仕切ってる親玉だろ」
「僕たちの最大のターゲットですねー。その大将首を取ることが最優先事項になりえるでしょう」
「そんなことは当然だ。どうした? そのくらい、お前なら聞くまでもなく分かるだろ」
「う、うん、そうだね……」
 一騎が本当に聞きたかったことはそんなことではなかったのだが、しかしそれ以上はなにも言わなかった。
「さて、ではとりあえずの僕たちのすべきことは、この軍団の無力化ですが……問題は敵の戦力ですねー」
「流石にこの数全部を相手することはできないからな」
 ざっと見ても百体はいるだろうクリーチャーの数。それらすべてを相手することは、ここにいる四人だけでは荷が重い。流石に多勢に無勢だ。
「となると……大将を格下げして首を狙う必要がありますかねー」
「と、いうと?」
「統制の取れた部隊というのは、基本的に位の違うリーダーが複数人存在するんですよ。軍団全体としてのリーダーがいて、その下に各部隊をまとめる幹部がいるといったところですかねー」
「成程な。奴らの会話からするに、軍団全体のリーダーはいないようだから、今回はこの部隊を仕切っているだろう幹部を狙い撃つと」
「そういうことですー」
 指導者を失った群れはただの烏合の衆になり下がる。多勢に無勢なら指揮をとるものを落としてしまうのが、戦の定石だ。
 本当なら全体の指導者を倒したいところだが今は生憎いないようなので、位を繰り下げて幹部クラスの相手を落とすことにする。結局、本来しようとしていたこととあまり変わりはなかった。
「となると、とりあえずはどいつがターゲットかを見極める必要があるが……」
「……たぶん、あのクリーチャーだと思う」
 氷麗が指差す。その先には、明らかに他のクリーチャーとは異なる、威圧的なオーラを発している龍が仁王立ちしていた。
「……《聖霊龍王 ジーク・キャバリエ》か。また凄いのが出て来たな」
「ざっと見た感じでは唯一の進化クリーチャーですし、十中八九あのクリーチャーでしょうね」
「よし、じゃあ早速——」
「ちょっと待て」
 一騎が身を乗り出して岩陰から飛び出そうとするのを、ミシェルが制した。
「お前は妹が絡むとすぐに熱くなるきらいがあるからな。ここで待ってろ」
「え……でも……」
「まー敵の群れに飛び込むわけですし、デュエルを開始して速やかに無力化する必要がある以上、デッキタイプ的には四天寺先輩の方が適任ではありますかねー。部長と氷麗さんは退路の確保をお願いしますよー」
「焔君も……」
「そういうことだ。お前は少し頭を冷やせ。んじゃ、行くか」
「露払いとして僕も出ますねー……このデッキも試したいですし」
「あ、ちょっと……」
 一騎がそれ以上なにかを言う前に、二人は飛び出して行ってしまった。
「……大丈夫かなぁ」



 ミシェルと空護が飛び出すと、光のクリーチャーたちは一斉にそちらに振り向いた。
「誰だ、何者——ぐはっ!」
「弱い! 邪魔だ!」
 ミシェルは最も手近にいたクリーチャーを殴りつけると、そのままのしてしまう。
「……バイオレンスですね」
「速やかに無力化したんだ」
「そういう意味で言ったつもりではないんですがねー……」
 だがしかし、素手で処理できるのであれば、それはそれで構わない。わざわざ神話空間に引きずり込むのも手間だ。
 さて次はどいつが襲い掛かってくるのか、抜け道はどこかと二人が構えながら探っていると、
「如何な騒ぎか」
 ズンッ、と重苦しくなるような、低い声が響いた。
 その声を聴くや否や、低級のクリーチャーたちは恐れるように、その場から散開する。
 そうして姿を見せたのは、重厚そうな鎧を纏った、巨大な龍——先ほど、この集団のリーダー格だと当たりをつけていた、ジーク・キャヴァリエだ。
 ジーク・キャバリエはミシェルと空護、二人の姿を見下ろし、そして悟ったように続けた。
「成程……如何な文明の手先かは知らぬが、我々を邪魔だてする輩が現れたか。あの方の仰るとおりだったな」
「あの方ってのが誰だかは知らないが、ま、そんなところだ。お前らちょっと通行の邪魔なんだよ。道開けろや」
「それは敵わぬ。待機命令が出ているか否かに関わらずとも、敵対文明の要求などを聴きうけるつもりはない」
「だったら、力ずくでも退かしてやろうか?」
「よかろう。それができるのならば」
 と、意外なほどとんとん拍子に話が進んでしまった。しかも、ジーク・キャヴァリエ自身、かなりやる気満々である。
 相手としても、無駄な犠牲は出したくないということだろう。下級のジャスティス・ウイングをけしかけるより、自分自身が直接手を下した方が合理的と判断したのか。
「そちらは二名……ならばこちらも、両翼となりて相手を致そう、それが我が正義だ。ゴシック・ヘレン、参れ」
「御意に」
 ジーク・キャヴァリエがその名を呼ぶと、一瞬でもう一体の天使龍が現れる。やや派手な装飾を施した、巨大な龍だ。
「《救済の精霊龍 ゴシック・ヘレン》……」
「頭数を揃えるくらいは構わないさ、雑兵どもを掃除するより手っ取り早い。焔、あっちは任せた」
「四天寺先輩は、そっちのゴツイのを相手するんですか。大丈夫ですか?」
「問題ないな。あんまこいつらばっかに手間取ってもらんねーし、サクッと終わらせるぞ」
「了解ですよー」
 そんな風に話は纏まり、それに伴って構えていた周囲のクリーチャーたちが、少し掃ける。
 そうなると自然に、ミシェル、ジーク・キャヴァリエ。空護、ゴシック・ヘレンが向かい合うような形となった。
 そして目の前の敵と戦う覚悟ができた刹那、四名とも、神話空間の中へと溶け込まれる——