二次創作小説(紙ほか)

46話「柚vs橙」 ( No.178 )
日時: 2015/06/11 01:10
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 《アラクネザウラ》に続き、橙が呼び出したさらなる古代龍——《仁義類鬼流目 ブラキオヤイバ》。
 見るからに強大な力を持つだろうクリーチャーだ。
「《ココッチ》の能力で俺のコマンド・ドラゴンはすべてスピードアタッカーだ。《ブラキオヤイバ》で《クアトロドン》を攻撃、そして能力発動」
 《ブラキオヤイバ》が《クアトロドン》の首をかっ切る、その直前。
 橙の古代龍が、その力を発揮する。
「《ブラキオヤイバ》は攻撃時、手札から非進化の自然クリーチャーをタダで呼び出す」
「え、そ、そんなすごい能力——」
「だが、俺は《ブラキオヤイバ》の能力を使う前に、先に《アラクネザウラ》の能力を発動させる」
「え……?」



仁義類鬼流目 ブラキオヤイバ 自然文明 (8)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 12000
このクリーチャーが攻撃する時、進化ではない自然のクリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
相手のクリーチャーが攻撃する時、そのクリーチャーは可能であればこのクリーチャーを攻撃する。
T・ブレイカー


節食類怪集目 アラクネザウラ 自然文明 (6)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 6000
自分のドラゴンが攻撃する時、クリーチャーを1体、自分のマナゾーンから手札に戻してもよい。そうした場合、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置く。
W・ブレイカー



 《アラクネザウラ》は、味方のドラゴンの攻撃に反応して、マナ回収をしつつ、失ったマナを補填する能力を持つ。
「《ブラキオヤイバ》の攻撃によって、《アラクネザウラ》の能力が誘発する。この能力で俺は、マナゾーンから《母なる緑鬼龍ダイチノカイザー》を回収する」
「……ん? 待って、つまりこれって……」
「そうね、これは……」
 この挙動で、暁も橙の目的を感づいた。沙弓や浬もそれを理解し、旋律を覚える。
 そして柚も、橙のコンボに気づいた。
「……マナゾーンから、好きなクリーチャーを呼べるコンボ、ですか……!?」
 非進化、自然クリーチャーのみという制約はあるが、《ブラキオヤイバ》と《アラクネザウラ》を組み合わせることで、橙はマナゾーンから《ブラキオヤイバ》で踏み倒すクリーチャーを回収し、踏み倒している。
 《アラクネザウラ》の能力でクリーチャーを回収した後は、《ブラキオヤイバ》の踏み倒しだ。橙の手札から、回収されたクリーチャーが飛び出す。
「《ダイチノカイザー》をバトルゾーンへ! そして《ブラキオヤイバ》の攻撃で、《クアトロドン》を破壊!」
「あ……《クアトロドン》が……」
 柚はクリーチャーを潰され、橙へのあと一撃が、遠のいてしまう。
 いや、遠のくどころではなかった。
「《ダイチノカイザー》はグリーン・コマンド・ドラゴン。よって《ココッチ》の能力で、こいつもスピードアタッカーだ! 《ダイチノカイザー》で攻撃、能力発動!」



母なる緑鬼龍(りょっきりゅう)ダイチノカイザー 自然文明 (7)
クリーチャー:グリーン・コマンド・ドラゴン/ハンター/エイリアン 7000
このクリーチャーが攻撃する時、相手とガチンコ・ジャッジする。自分が勝ったら、自分のマナゾーンにあるカードの枚数以下のコストを持つ、進化ではないドラゴンを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー



 《ダイチノカイザー》は、ガチンコ・ジャッジで勝敗を決め、勝利した場合にまなぞーんからドラゴンを踏み倒す能力がある。
 柚と橙は、それぞれ山札をめくる。
「あぅ……コスト2の、《霞み妖精ジャスミン》です……」
「俺はコスト5の《ガイアール・ベイビー》だ。つまりガチンコ・ジャッジは俺の勝利。よって、《ダイチノカイザー》の能力で、マナゾーンからドラゴンを呼び出す。出てこい、《永遠のリュウセイ・カイザー》!」
 《ダイチノカイザー》の能力でマナゾーンから飛び出すのは、《リュウセイ・カイザー》。
 これで橙の場に残るアタッカーは、現在攻撃中の《ダイチノカイザー》に加え、《ココッチ》《アラクネザウラ》そして《リュウセイ・カイザー》。柚にとどめを刺すだけの打点が揃ってしまった。
「《ダイチノカイザー》でWブレイク! 続けて、《リュウセイ・カイザー》でWブレイク!」
 橙は《アラクネザウラ》の能力で手札を増やしつつ、次々と柚のシールドを砕いていく。
 一枚、二枚、三枚四枚と、あっという間に柚のシールドは残り一枚に。
「ト、トリガーは……っ」
 割られたシールドに、S・トリガーを持つカードはない。
 橙は一呼吸おき、柚がシールドの確認を終えてから、《ココッチ》をタップする。
「《ココッチ》で最後のシールドをブレイク! そして、《アラクネザウラ》で——」
「あ、ま、待ってくださいっ! S・トリガーです!」
 橙が《アラクネザウラ》へと手をかけた直後、柚から声がかかった。
「S・トリガー《古龍遺跡エウル=ブッカ》ですっ! アンタップ状態の《アラクネザウラ》をマナゾーンへ! さらにマナ武装5で、《リュウセイ・カイザー》もマナゾーンに送りますっ!」
「……九死に一生を得たか。ターン終了だ」
 なんとか橙の猛攻を止め、このターンは生き延びることのできた柚。
 柚の場にクリーチャーはいない。シールドもないが、それは橙も同じ。
 つまり、このターンで勝負を決められれば、勝ち目はある。
(わたしの手札には、おにいさんが割ったシールドからきた《クアトロドン》がいます……今のマナなら、進化元のドラゴンを出して、すぐに進化して、そのまま攻撃が——)
「先に言っておくが」
「っ!」
 まるで柚の心中を読んで、それを先読みしたかのように、橙は鋭い一言を放つ。
「《ブラキオヤイバ》のもう一つの能力……お前は攻撃する時、可能であれば《ブラキオヤイバ》を攻撃しなくてはならない」
「え……そ、そんな……」
 つまり、柚の攻撃はすべて、《ブラキオヤイバ》に標的変更されてしまうのだ。
 《クアトロドン》のパワーは9000、パワー12000の《ブラキオヤイバ》には勝てない。それ以前に、通したい一撃を《ブラキオヤイバ》に向けられてしまったら、返しの橙のターンにやられてしまう。
 一気に八方塞がりとなる柚。橙は《アラクネザウラ》の能力で、マナからスピードアタッカーを回収している。このターン、仮に橙のクリーチャーを先滅したとしても、意味がない。
 柚の勝利条件は、《ブラキオヤイバ》を除去しつつ、《クアトロドン》の一撃を通すか、どうにかしかして負けないようにしながら、《ブラキオヤイバ》の壁を潜り抜けるしかない。
 現実味があるのは、ほぼ前者だが、
(でも、わたしの手札に除去カードはありません……どうすれば——)
 と、その時。
「ゆず!」
 すぐそこから、叱咤するような、それでいて応援するような、心が温まるような、心地の良い、聞き慣れた彼女の声がする。
「諦めちゃダメだよ! いつも言ってるでしょ! だいじょーぶ、ゆずならこっから逆転できるって!」
「あきらちゃん……」
 顔を上げると、そこにはなぜか笑顔の暁が視界に飛び込む。
 なにを根拠に大丈夫と言っているのか、どのような計画を持って逆転手があると言い張れるのか。
 彼女の言い分はいつだって、根拠がない。いや、そうではない。
 彼女は、柚への信頼を根拠に、そう言うのだ。
 柚には、それがすぐに理解できた。そして、
「……そうでした。わたしは、いっつもあきらめちゃうくせがあるから、直さないと……」
 そう言って、気持ちを切り替える。
 とはいえ、場の状態が変わったわけでもなく、状況が絶望的なのは変わりない。
 だから柚は手札を見る。ここから逆転に繋がる一手を探すべく。
「……あ、もしかしたら、これで……」
 そこで柚は一枚のカードを見つけた。
 一瞬、躊躇う。このカードを使っても、勝てる可能性を引き寄せることができるかどうかは分からない。
 しかし可能性がそこにしかないのであれば、今はこのカードに頼るしかなかった。そう思った瞬間、彼女の躊躇いは消える。
 マナゾーンのカードを一枚、横向きに倒し、柚はそのカードを場に出した。
「呪文《トレジャー・マップ》ですっ!」



トレジャー・マップ R 自然文明 (1)
呪文
自分の山札の上から5枚を見る。その中から自然のクリーチャーを1体選び、相手に見せてから自分の手札に加えてもよい。その後、残りを好きな順序で山札の一番下に置く。



 山札の上から五枚をめくり、その中の自然クリーチャーを手札に入れる呪文。
 本来なら、序盤の動きをスムーズにするために数枚投入しているカードだが、今この状況は、切り札を引き当てるための鍵だ。
 地図を広げ、柚は、勝利を導く宝物を探し出すべく、一枚ずつカードをめくっていく。
「山札を、めくります……っ」
 一枚目、《連鎖類転生目 ブロントヴェノム》
 二枚目、《緑罠類有毒目 トラップトプス》
 三枚目、《古龍遺跡エウル=ブッカ》
 四枚目、《霞み妖精ジャスミン》
 五枚目——《帝王類増殖目 トリプレックス》
「……! きました! 《トリプレックス》を手札に加えますっ!」
 パァッと柚の顔が明るくなり、彼女は切り札を、手札に引き込む。
 そして即座に、その命を吹き込む。

「増殖します、帝王様——《帝王類増殖目 トリプレックス》!」

 現れたのは、古代の帝王。
 三位一体を体現するかの如く、眠る同類の命を呼び覚ますものだ。 
「《トリプレックス》の能力で、マナゾーンからコスト7以下になるように、自然のクリーチャーを二体までバトルゾーンに出します! 出すのは、《連鎖庇護類 ジュラピ》! そして、《龍覇 サソリス》ですっ!」
 《トリプレックス》の咆哮は、古代の命を、太古の化石に眠る魂を呼び覚ます。
 古代の王者による雄叫びによって、地中から小さな庇護される古龍《ジュラピ》と、古龍たちと心通わすシャーマン《サソリス》が現れた。
 この時、《サソリス》の能力が発動する。
「超次元ゾーンから《始原塊 ジュダイナ》を呼び出して、《サソリス》に装備ですっ!」
 超次元の彼方にある、龍の魂が封じられた武器——ドラグハート・ウエポン。
 新たな古代龍を生む、大地の鉄槌、《ジュダイナ》。
 それが、《サソリス》へと装備された。
「《ジュダイナ》の能力で、わたしのターンに一度だけ、マナゾーンからドラゴンを召喚しますっ! マナゾーンから《双撃目 アロサウロ》を召喚!」
 クリーチャーを一気に展開する柚。だがこのターン召喚したクリーチャーはすべて、召喚酔い。このターンに決めることはできない。
 だが、それでいいのだ。
 クリーチャーを展開すること、より正確に言えば——“ドラゴンを三体揃えること”が、柚の目的なのだから。
「ターン終了——する時に」
 柚は、《サソリス》に装備された《ジュダイナ》に、手をかける。
「わたしのバトルゾーンには、ドラゴンが三体います。なので、《ジュダイナ》の龍解条件成立です……っ」
「なに……!」
 柚のバトルゾーンには、《トリプレックス》《ジュラピ》《アロサウロ》の三体。
 《ジュダイナ》が龍解するための条件を、満たしていた。

「《始原塊 ジュダイナ》、龍解——《古代王 ザウルピオ》!」

 《ジュダイナ》は裏返り、その真の姿——ドラグハート・クリーチャーとしての姿を現す。
「龍解、完了です……っ」
「く……っ!」
 歯噛みする橙。それもそうだろう、このタイミングで《ザウルピオ》は、都合が悪すぎる。
「《ザウルピオ》がいる限り、柚ちゃんはとどめを刺されない」
「このターンに、《ザウルピオ》さえ除去されなければ、だな……」
 柚のシールドはゼロ。よって《ザウルピオ》の能力が発動し、柚は今現在、攻撃されない状態にある。
 ゆえに橙が柚にとどめを刺したければ、どうにかして《ザウルピオ》を退かすしかないのだが、
「……《ボルシャック・クロス・NEX》を召喚……ターン終了だ……!」
 橙はクリーチャーを出すだけだ。
 柚自身へのダイレクトアタックは勿論、タップクリーチャーがいないのでクリーチャーへの攻撃もできない。
 なので《ブラキオヤイバ》をタップさせることすらできず、橙はターンを終える。
 そして、これで決まりだった。
 今の橙には、柚の一撃を止める手だてがない。シールドの盾も、《ブラキオヤイバ》の壁もない。彼を守るものは、なにもなかった。
 橙に、古代王の鉄槌が、降り下ろされる——

「《古代王 ザウルピオ》で、ダイレクトアタックです——!」