二次創作小説(紙ほか)

烏ヶ森編14話「一騎vsラヴァー」 ( No.185 )
日時: 2015/06/23 23:01
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 星々を剣に込め、銀河を盾に宿し、宇宙の彼方より現れた、火文明のドラグハート・クリーチャー。
 燃える志を忘れた火の軍勢に、熱血の心を注ぎ込んだ勝利の龍。
 大剣に宿る龍の魂が解放され、二重に勝利を重ねる戦闘龍は、熱血の闘魂のまま、咆哮する。
「《ガイギンガ》の能力発動! 登場時、相手のパワー7000以下のクリーチャーを破壊する! 《コッコルア》を破壊!」
 刹那、大剣が振るわれる。
 そして次の刹那、《コッコルア》が両断されていた。
 《ガイギンガ》の斬撃による衝撃波が、恋のブロッカーを薙ぎ払う。
「続けて、スピードアタッカーの《ガイギンガ》で、《ラ・ローゼ・ブルエ》を攻撃!」
「《エメラルーダ》でブロック……」
 シールドを追加できる《ラ・ローゼ・ブルエ》はまだ生かしておきたいようで、ラヴァーは《エメラルーダ》を盾に、《ラ・ローゼ・ブルエ》を守る。
「まだ終わらないぞ! 《ロイヤル・アイラ》でシールドをブレイク!」
 《ガイギンガ》に続き、《ロイヤル・アイラ》がシールドを斬る。
 だが、しかし、
「それは、失敗……S・トリガー、発動……《ドラゴンズ・サイン》」
 《ロイヤル・アイラ》が砕いたシールドが光の束となり収束する。
 そして、龍門が開かれた。
「私の世界の英雄、龍の力をその身に宿し、聖歌の祈で武装せよ……《護英雄 シール・ド・レイユ》」
 光の龍門から降り立つのは、聖なる賛美歌を一身に受け、武装する英雄、《シール・ド・レイユ》。
 白きマナの力を得て、かの龍は光の盾により自身を武装する。
 そして、内包した光を、解き放つ。
「マナ武装7、発動……《ガイバーン》と《ガイギンガ》を、超次元ゾーンへ——」
 《シール・ド・レイユ》が《ガイバーン》と《ガイギンガ》、二体の戦闘龍へと光を照射し、魂を盾へと封じこめようとする。
 と、こそで、ラヴァーはハッとするような仕草を見せた。
 まるで誰かに失策を教えられたような仕草だったが、直後、一騎が言葉を紡ぐ。
「失敗したのはお前だ、恋。《シール・ド・レイユ》に選ばれたことで、《ガイギンガ》のもう一つの能力が発動する」
 刹那、《ガイギンガ》の内から、銀河が膨張する。
 その銀河は無限に広がり続け、時間という概念すらをも飲み込んでしまう。
「《ガイギンガ》が相手に選ばれた時、このターンが終わった後、もう一度自分のターンを行う。つまり——」
 言い終わる前に一騎は、ターン終了、と静かに告げる。
 しかし、自分のターンの終わりが、相手のターンに直結するなどというルールは、デュエル・マスターズには存在しない。
 いやさ、そんな常識は、常識を破るような熱血の炎で、捻じ曲げてしまうのだ。
 膨張した銀河が、遂に収縮を始める。だがそれは力が弱まっているのではなく、圧縮されているのだ。
 圧縮された銀河は、時間という概念を吸収し、“未来”という形に変え、一騎の手元で弾ける。
 一騎は、デッキに手をかけた。それは降参を意味するものでは、当然なく——

「——もう一度、俺のターンだ!」



熱血星龍 ガイギンガ ≡V≡≡V≡ 火文明 (7)
ドラグハート・クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン 9000+
スピードアタッカー
W・ブレイカー
このクリーチャーが龍解した時、相手のパワー7000以下のクリーチャーを1体破壊する。
バトル中、このクリーチャーのパワーは+4000される。
相手がこのクリーチャーを選んだ時、このターンの後にもう一度自分のターンを行う。



 ——新たなカードを引く、証左だった。
 再び、一騎のターンが訪れる。
「呪文《メテオ・チャージャー》で、《シール・ド・レイユ》を破壊!」
 クリーチャーもマナもアンタップし、追撃の準備は万端だ。
 まず、一騎はブロッカーを殲滅しにかかる。
 多くのクリーチャーに守られた彼女に届くためには、とにかくブロッカーを排除しなければならない。前の1ターンだけでは足りなかったが、この2ターン目があれば、それも叶わないことではない。
「さらに《龍覇 グレンモルト》を召喚! 《銀河大剣 ガイハート》を装備!」
 再び《グレンモルト》が地に立ち、銀河の果てより飛来する《ガイハート》を、掴み取った。
 大剣の柄をしっかりと握り締めた彼は、仲間と共に、戦場を駆け抜ける。
「《ロイヤル・アイラ》でシールドをブレイク! 続けて、《ガイハート》を装備することでスピードアタッカーになった《グレンモルト》で、シールドをブレイク!」
 一撃目は、《ロイヤル・アイラ》が切り捨てた。
 二撃目は、《グレンモルト》が《ガイハート》を振るう。
 そして一騎は、再び二本の指を突き立てた。
「ターン中に二回の攻撃! 龍解条件成立!」
 《ガイハート》が鳴動する。秘めたる魂が、再燃する熱血の心に触れ、銀河の果てまでも鼓動を響かせる——

「龍解——《熱血星龍 ガイギンガ》!」

 ——そして、火文明の根底に眠る熱血の心を、解き放つ。
「《ガイギンガ》の能力で、パワー7000以下の《ハレルヤ・ゾディア》を破壊! そしてそのまま、《ラ・ローゼ・ブルエ》を攻撃!」
 衝撃波が、《ハレルヤ・ゾディア》を真っ二つに両断する。
 斬撃が、《ラ・ローゼ・ブルエ》を横薙ぎに切り捨てる。
「最後だ! 《グレンモルト》でシールドをブレイク!」
 一騎の最後のアタッカー、《グレンモルト》の攻撃が、彼女の最後のシールドを打ち砕く。
「なんで……こんな……!」
 迫り来る猛攻を受けてか、彼女の顔には焦りが滲み始めているように見えた。
 冷徹なまでの無表情は崩れ、すべてを否定するような昏い眼も、虚無以外のなにかが灯っている。
 ほんの少しの、わずかな変化だが、彼女の鉄壁が綻ぶ。
 そして、口を突くように、言葉を漏らした。
「……なんで、なんで……あの女みたいに……!」
「え……?」
 刹那。
 《グレンモルト》によって砕かれたシールドが、収束する。光と讃美歌を伴って。

「S・トリガー……《聖歌の聖堂ゾディアック》……!」

 光の束がその力を放つと、聖なる讃美歌によって、一騎のクリーチャーの動きが封じられる。
「マナ武装5、発動……《グレンモルト》二体と、《ロイヤル・アイラ》を、フリーズ……!」
 聖堂から響き渡る讃美歌によって、一騎のクリーチャーは動きを封じられる。
 しかし《ガイギンガ》は選ばれていない——相手としても一度痛い目を見ているため選びたくないだろう——ので、まだ生きている。
 それでも、フリーズによって攻撃手を一気に減衰されてしまったことは確かだ。
「……ターン、終了だ」
 少々不利な部分も付きまといつつ、一騎はターンを終える。
「……私のターン……」
 少々落ち着きを取り戻したのか、彼女は静かにカードを引き、自身のターンを始める。
「呪文《ヘブンズ・ゲート》……《光線の精霊龍 カチャルディ》……《龍覇 エバーローズ》を、バトルゾーンへ……」
 天国の門扉が開かれ、そこから正義の執行者たる天使龍と、真の正義に最も近い存在である、《エバーローズ》が地上へと降り立つ。
 そして《エバーローズ》が現れたことで、天より一筋の光が差し、一つの槍となった。
「来て……《不滅槍 パーフェクト》……《エバーローズ》に装備」
 《エバーローズ》は不滅の槍を握る。現在、彼女の場にクリーチャーは四体。
 あと一体だ。
 そしてその一体は、容易く現れる。
「……《純潔の翼 メダロス》を召喚……ターン終了……」
 これで彼女のクリーチャーは五体以上。《パーフェクト》の龍解条件が達成された。
 ターン終了、という言葉を合図に、《エバーローズ》は手にした槍を、天高く撃ち上げる。

「——《天命王 エバーラスト》」

 これで、場にブロッカーが三体。
 一騎の場で、攻撃できるクリーチャーは《ガイギンガ》のみだ。
「俺のターン」
 相手のシールドはゼロ。一撃でも通せれば勝ちだが、そのためには立ちふさがる防壁を突破しなければならない。
 その突破は酷く困難なものだが、しかし、
(もうすぐ、もすうぐだ……もうすぐ、恋に届く……!)
 もはや一騎には、目の前のことしか見えていない。
 ただひたすらに、彼女へ向かって行く。
「……《爆冒険 キルホルマン》を召喚! 山札の一番上を墓地へ!」
 そしてそれが、ドラゴンかヒューマノイドであれば、《キルホルマン》はスピードアタッカーとなる。
 果たして、捲れたのは、
「……ヒューマノイド爆、《爆鏡 ヒビキ》! これで《キルホルマン》はスピードアタッカーだ! 続けて《禍々しき取引 パルサー》召喚! 二枚ドロー!」
 手札は既に切れているので、《パルサー》の能力はカードを引くのみ。
 引けるのはたった二枚だが、ブロッカーが並ぶ中を掻い潜り、剣を振るうには十分だ。
「頼むよ……! 《焦土の語り手 テイン》を召喚! その能力で、《エバーローズ》を破壊だ!」
『了解したよ。一騎、君のその志は、絶対に絶やさない。僕が繋げて見せよう!』
 一騎の手札から飛び出した《テイン》は軍刀を抜き、その一振りで、武器を持たない《エバーローズ》を斬り捨てる。
「…………」
 これでラヴァーのブロッカーは二体。相手にシールドはないので、《キルホルマン》と《ガイギンガ》で、その二体は突破できれば、もう一打点。
 そしてこれが、その最後の一押しだ。
「G・ゼロ! 呪文《暴龍警報》! 《テイン》をスピードアタッカーに!」
 動きを止められた《グレンモルト》の力を受け、《テイン》はスピードアタッカーと化す。
 これで、相手ブロッカーは二体、こちらのアタッカーは三体。
 とどめに届くまでの戦力を、揃えられた。
 攻め込むだけの兵士を揃えれば、あとは、攻めるだけだ。
「頼むぞ——《キルホルマン》、《ガイギンガ》!」
「……《エバーラスト》……《カチャルディ》……」
 一騎のクリーチャーたちが、一斉に飛び出した。
 《キルホルマン》の突撃は、《エバーラスト》によって防がれ、槍の一突きで消滅する。
 だが、まだ終わらない。
 続けて、《ガイギンガ》の巨大な剣が《カチャルディ》を一刀両断にする。
 しかし、やはり終わらない。
「これで、とどめだ——恋!」
 最後に、軍刀を携えた《テイン》が駆ける。
 もはや彼の進軍を妨げるものはいない。研ぎ澄まされたその白刃をもって、彼は、彼女を討つ。
 己の主人である、彼のために。
 その刃を、振るう——

「《焦土の語り手 テイン》で、ダイレクトアタック——!」












「……ブロック」

「——え?」
 キィン、と。
 渇いた金属音が、鳴り響いた。
 そして、直後、彼女の静かな声が、届く。
「——《慈愛の語り手 キュプリス》」



慈愛の語りハートフル・ストーリー キュプリス 光文明 (5)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/アポロニア・ドラゴン 4000
自分の光のクリーチャーがブロック中に破壊された時、このクリーチャーを手札からバトルゾーンに出してもよい。
ブロッカー


 《テイン》の攻撃を止めたのは、《キュプリス》だった。
 《ガイギンガ》の攻撃によって消滅した《エスポワール》の声を受けて、《キュプリス》は守りを繋ぐ。
 ブロッカーの死によって綻んだ守りは、《キュプリス》が埋める。
 それが、《慈愛の語り手》の役目だった。
『あはは、ごめんね。ボクもラヴァーに仕える身……彼女に刃は向けさせないよ』
『くっ……そこを、退け!』
 《テイン》は軍刀を横薙ぎに、袈裟懸けに、唐竹割りに振るうが、その斬撃はすべて《キュプリス》に受け止められてしまう。
『この……! 僕は、一騎のためにも、一騎の思いを彼女に繋げるんだ! それが僕の役目だ! 僕は自分の使命を全うしたいだけだ! だから、そこを退け!』
『残念だけど、それはボクも同じなんだ。僕の役目は主を守ること……火文明の君とは逆だね。だから、ここを通すわけにはいかない』
 やがて、《テイン》の身体になにかが纏わりついた。
 それは鎖だ。淡く光る鉄鎖が、《テイン》の動きを封じている。
『ぐっ、これは……!』
『悪いね、少し、大人しくしていてくれ。君の刃は代わりにボクが受けるからさ——』
 そう言って《キュプリス》は、鎖の先端を掴む。そして、鋭利に尖ったそれを《テイン》に向ける。
 直後、《テイン》を縛り付けていた鎖と、《キュプリス》の鎖が一斉に引き寄せられ、二人はぶつかり合うように密着する。
 同時に、《テイン》の握っていた軍刀が《キュプリス》の胸を貫き、《キュプリス》の向けていた鎖の先端が、《テイン》の首を抉るのだった。
『——君も一緒に、眠ってくれ』
『あ……が……』
 そうして、《焦土の語り手 テイン》と《慈愛の語り手 キュプリス》は、同時に墓地へと落ちて行った。
 これで、一騎はアタッカーがいなくなった。
「テイン……そんな……」
 あと一撃。あと一手。
 あと一歩で届いたはずの手は、いとも簡単に振り払われてしまった。
「……私のターン」
 そして、無情にもラヴァーのターンが訪れる。
「……《サリヴァン》を進化……私の世界を照らし出す——《聖霊龍王 バラディオス》」
 ラヴァーは《バラディオス》の能力で、一騎のクリーチャーの動きを完全に封じる。
 これで、一騎の逆転の芽は、万に一つもなくなった。
 あとはただただ、光という重圧に、押し潰されるだけだ。
「……《ヴァールハイト》でWブレイク……《バラディオス》でTブレイク……」
 天使龍たちによる制裁が、一騎に下される。
 次々とシールドは砕け散った。S・トリガーは出たような気もするが、そんなものは関係ない。
 この状況をひっくり返すようなカードは元来入れていないのだ。シールドをいくらチェックしても、無意味である。
 それ以上に、一騎は、すべてが虚無だった。
 彼自身の意志、そして、心さえも。
 彼女に手が届かなかった。その事実を知ったこの時だけは。
 剣崎一騎は、鎮火した戦火のような、ただ焼け焦げただけの焦土のような、虚無だけがそこにはあった。
 虚無は言葉を発する。

 ——恋

 当然ながら。
 その儚く惰弱な言葉は、光の防壁で覆われてしまった彼女に、届くことなどないのだが。 

「《天命王 エバーラスト》で、ダイレクトアタック——」

「恋——」

 果たして、剣崎一騎の思いは、ラヴァーには届かなかった。
 一騎の意志は、日向恋という少女には届かなかった。
 届くことがなければ、響くこともなく、彼女に拒絶された。
 彼の伸ばした手は、彼女に振り払われた。
 そして彼女は、この一戦において、なにも救われなかったのだ。
 最後の、最後まで——