二次創作小説(紙ほか)

51話/烏ヶ森編 18話 「暁vsラヴァー」 ( No.189 )
日時: 2015/06/28 19:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 そこは、荒野のような場所だった。
 かつて自然文明が光文明に侵攻された森。
 かつて光文明が火文明と鎬を削った土地。
 かつて火文明が闇文明に怒りを向けた場。
 かつて闇文明が闇文明の力を略奪した地。
 今はなにもない、不毛の大地だ。
 そこで、二人の人影が向かい合っていた。
 どちらも、この世界には存在しないはずの、人間。
 一人は、黒髪をなびかせる、普遍的な少女。平凡で、普通で、少し元気が過ぎるだけが取り柄の、なんでもない少女。
 一人は、儚さすら感じさせる華奢な少女。昏き瞳に絶望を宿し、光を失った輝きを放つ、世界のすべてを捨てた少女。
「……懲りない……」
 少女は言った。吐き捨てるように、無感動に。
 日向恋——ラヴァーは言った。
 さらに、目の前の少女、さらに向こう——十人程度の集団を一瞥する。
「ギャラリーまで……」
「安心してよ。私も一騎さんと同じ——デュエリストは、私一人だから」
 少女は答えた。確かな意志と、決意を持って。
 空城暁は、はっきりと、言い放った。
 リュンがどのように手回しをしたのかは分からないが、再び暁たちはラヴァーと合い見える機会を得た。
 一騎の時の教訓もあり、今回は遊戯部も、烏ヶ森も総動員しているが、実際に対戦する者はただ一人。
 暁だけだ。
 これについては、一部の者——頭の固い浬や美琴など——は異議を唱えたものの、それ以外のほとんどの者は賛同の意を示し、多数決の原理によって押し切られた。
 それに、もし仮に反対意見が多かろうと、暁は止まらなかっただろう。
 今の彼女の決意を揺るがすことのできる者は、何人たりとも存在しない。
 それほどに、彼女の決心は固かった。
「……ねぇ、一つ、聞いてもいい?」
「…………」
 ラヴァーは反応を示さない。だが暁は、構わず続けた。
「なんで、一騎さんを拒絶するの?」
「…………」
 ラヴァーは答えない。それでも、暁は言葉を紡ぐ。
「あなたのことは、一騎さんから全部聞いた……一騎さんは、あなたのことを話す時、とっても申し訳なさそうで、悲しそうで、辛そうだった……一騎さんは今も昔も、そしてこれからも、あなたを思い続けている。なのに、なんで——」
「……つきにぃは関係ない」
「それだよ」
 暁は鋭く、彼女の言葉を拾う。
「つきにぃ、それって一騎さんのことだよね? 私もこのみさんに「きらちゃん」ってあだ名をつけられて、お兄ちゃんもその呼び方をしてた時期があったんだよね」
 恥ずかしいからって、すぐにやめちゃったけど、と暁は少し残念そうに言う。
「名前って、いつも私たちが思ってる以上に、すごく大事なものなんだよね。私もそんなことがあるから分かるの。あなたが一騎さんのことを、そうやって昔と同じように呼んでいるのは、あの人を拒みきれていないからじゃないの?」
「…………」
 ラヴァーからの言葉は、なかった。
 それが否定を意味する沈黙か、肯定を否定したい沈黙かは、この際どちらでもいい。
 彼女の本心がどうであれ、その果てにあるものがどうであれ、暁は一騎の意志を継ぎ、自分自身を貫き通すだけだ。
「……ねぇ」
「…………」
 再び暁は、ラヴァーに呼びかける。
 彼女はやはり黙殺するが、暁もやはり、そのまま続ける。
「デュエマをしよう」
 そうすれば、分かることがある、と。
 彼女はそんな期待を持ち、デッキを取り出した。
 彼女も同様に、カードを握る。
「……行こう、コルル」
「……キュプリス……」
「おう、いいぜ」
「……了解した」
 暁にはコルルが、ラヴァーにはキュプリスが。
 それぞれ、付き従った。
 そして、開かれる。
 戦いの場。かつての神話たちの戦場となった亜空間。
 熱血の火と、正義の光が、雌雄を決するために。
 意志を継ぐ少女と、何者もを閉ざす少女の、すべてを決するために。



 暁とラヴァーのデュエル。
 どちらも立ち上がりは静か。ただし、静かなまま、淡々と軍勢を築き上げるラヴァーに対し、暁の静かに燃える炎は、だんだんとその炎を燃え上がらせてゆき、果ては爆炎のような大火となる。
「《聖龍の翼 コッコルア》を召喚……」
 まず、ラヴァーは下準備として、ドラゴンの召喚を補助する《コッコルア》を呼び出すが、
「呪文《メテオ・チャージャー》! 《コッコルア》を破壊!」
 返しの暁のターン、隕石に押し潰されて、あっという間に破壊されてしまった。
 だがまだ序盤。たかだか一体のクリーチャーが破壊された程度では、ラヴァーは揺るがない。
「《ジャスティス・プラン》を発動……《龍覇 アリエース》《聖鐘の翼 ティグヌス》《高貴の精霊龍 ペトローズ》を、手札へ……」
「だったら私は、呪文《ネクスト・チャージャー》を発動! 手札をすべて入れ替えるよ!」
 手札を補充するラヴァーに対抗するかのように、暁は手札を交換し、手札の質の向上に賭ける。
 しかし同時に似たようなことをやっても、先行するのはラヴァーだ。
 彼女は暁に先んじて、動き出す。
「《龍覇 アリエース》を召喚……能力で、コスト2以下のドラグハートを、バトルゾーンへ。来て……《神光の龍槍 ウルオヴェリア》」
 軽量型だが、ラヴァーはドラグナーを呼び出した。光文明の一軍隊を率いるドラグナー《アリエース》。
 彼の登場と共に、天から一筋の光が落下する。
「《ウルオヴェリア》を、《アリエース》に、装備……」
 光は龍の槍となり、《アリエース》はそれを掴み取る。
 これで《アリエース》はパワー4000のブロッカーとなった。
「……私のターン」
 手札を入れ替えるも、暁の手はいまいちパッとしない。まだまだ十分戦えるが、今一つ、なにかが足りない。
 そう、思った時だった。
「! これは……」
 あのカードを、引き当てた。
 “彼”から受け取った、大切なカードを。

 ——このカードを、君に託す——

 ——俺の言葉は、恋には届かなかった——

 ——でも、暁さん、君なら——

 ——あいつを、恋を、救ってくれるはず——

 あの時の、彼の言葉を思い返す。
 彼の言葉と共に、思いと共に、託されたこのカード。
 暁は、願うように目を閉じた。
「……一騎さん、力を、貸してください……!」
 暁は迷わなかった。ここでこのカードを引いた意味。それは考えるまでもなく感じられる。
 自分の頭が良くないことくらいは自覚している。だからこそ、感覚で、自分の思うままに、戦う。
 そして、そうなれば、ここでこのカードを出さない理由はない。
 マナゾーンのカードを静かにタップすると、暁は激しく、力強く、そのカードを繰り出す。

「《龍覇 グレンモルト》召喚!」