二次創作小説(紙ほか)

51話/烏ヶ森編 18話 「暁vsラヴァー」 ( No.194 )
日時: 2015/12/14 02:47
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「——《天命王 エバーラスト》!」
 再び、彼女の切り札が降臨した。
 一度は滅した光の王の姿が、そこにはある。
 ラヴァーの場には、天命の王と、王に従う五体のクリーチャー。
 《バラディオス》がいる限り、残り一枚のシールドを破ったが最後、こちらのクリーチャーの動きはすべて封じ込まれる。
 《ヴァルハラナイツ》により、小型クリーチャーの展開と同時に、こちらの攻め手も止められる。
 《エメラルーダ》で追加したシールドも、S・トリガーを埋められた可能性が高い。
 《メダロ・アンドロム》の能力で、すべてがブロッカーになり、その根源は選ぶことができない。
 守りも、戦力も、暁とは段違いだ。
 ちっぽけな《コッコ・ルピア》と、建っているだけの《巨星城》では、とても太刀打ちできないほどに、その差は圧倒的だった。
「……私のターン……」
 もはや盤面も、この流れも、暁の敗色ばかりが濃くなっていく悪状況。
 それでも暁は、一縷の望みに賭けて、カードを引くが、
(《竜星バルガライザー》……)
 引いたのは、そんなカードだった。
 このカード一枚では盤面をひっくり返すことなど到底不可能だが、《バルガライザー》で捲れるカード次第では、なんとかなるかもしれない。
(でも、《バルガライザー》で捲れるカードも一枚……たった一枚で、この状況をひっくり返せるカードなんて……)
 そんなカードを入れた覚えは、暁にはなかった。
 どうすればこの状況を打開できるのか。考えても無駄だ。もう詰んでいる。
 やはり、自分では彼女を救うことなどできなかったのだ。一騎の意志を継ぎ、彼の願いを聞き届けることなど、できなかったのだ。
(……あれ?)
 だが、暁は思う。
 ふと気づく。
 自分が今、ここに立っていることに。
(私……なんのために戦ってたんだっけ?)
 ここに立っているということは、ラヴァーと——日向恋と戦うためだ。
 なんのために? なにがために? 誰のために?
(私があの子の戦う理由。それは、一騎さんのため……だったはず。あれ、でも、なんか違う……)
 どうにも腑に落ちない。自分があの時、太陽山脈で決意した時の気持ちとは、なにかが違う。
 彼女と戦う意志を、あの時に固めた。だが、あの時に抱いていた思いと、一騎から受け継いだ思いは違う。
 似ているようで、決定的に違う。
(私が戦う理由、あの子を救いたい理由……それは)
 それは——

「——仲間……だから……?」



 ——その通りだ——



 どこからか声が聞こえる。
 とても熱く、しかし優しく、まるで自分を勇気づけるかのような、太陽のような声だ。
「……ここは?」
 気づけば、暁は赤い場所にいた。
 上も下も右も左もない、めらめらと燃え盛る炎のような、すべてが赤い空間。
 まるで、太陽の中にでもいるかのようだ。しかし暑くはない、むしろ、暖かい。
 優しいぬくもりを感じる。
「……神話空間……?」
 ふとそう呟くが、しかし違う。
 似ているが、違う。ここは神話空間ではない。
 少なくとも、先ほどまで自分が戦っていた場所と、同じ場所ではない。それだけは、暁にもわかった。
 すると、めらめらと、目の前で炎が揺らめく。
 陽炎のようにゆらゆらと。その炎は、やがて一つの姿を成す。
『——やっと会えたな、空城暁』
 それは、人のような、クリーチャーだ。
 燃える炎のように熱く、照りつける陽光のように輝く、太陽の翼。
 強靭な肉体は薄い民族的な一枚布では覆い隠せないほどに、その存在を主張している。
 暁はその姿を、思わず見つめてしまう。彼の放つ、言いようもない覇気に——心を打たれたかのように。
「……あなたは?」
 暁は、彼の名を問う。
『アポロン』
 すると、即座に答えが返ってきた。
 そして続ける。
『太陽神話——アポロン』
 それが、俺の名だ。
 と、彼は締め括った。
「アポロンって、確か……」
 暁にはその名に聞き覚えがある。
 幾度となく、耳にした名前だ。
 《バトライオウ》《ガイゲンスイ》《ガイムソウ》《ドラゴ大王》——そして、《コルル》。
 他にも、暁のクリーチャーの口から、その名が出ないことはなかったほどに、聞いた名だ。
 太陽神話、アポロン。
 かつてこの世界を統治した、十二の神話の一柱。
 コルルが、太陽の語り手が、語り継ぐ神話。
「……アポロンさん」
『コルル……久しぶりだな』
 感極まったようにアポロンを見つめるコルル。アポロンも、どこか懐かしむような視線を、コルルに送っている。
 だが、しかし、
『悪いが、時間がないんだ。コルル、お前と語らいたいことも多いが、それだけの時間はない。それに、ここにいる俺はただの残響——神核の中にほんの少しだけ混ぜた、俺の意志の欠片だ』
「しんかく……?」
『ドラゴ大王にはもう会っただろう。俺がコルルを封じ、この世界を去る前に奴に託した、俺の力の象徴だ』
 言われて、暁は気づいた。
 黒翼に抱かれた太陽。あれがアポロンの言う神核であり、今ここに、アポロンを呼び寄せているものだと。
 いや、呼び寄せているという言葉は不適切だ。彼が言うには、彼自身はただの意志の欠片——俗っぽく言い換えれば、ある種のビデオレターのようなものなのだから。
 ゆえに、制限時間もあるのだろう。現にアポロンの姿は、少しずつ、淡く陽炎のように揺らいでいる。
『……暁、お前は、何のために戦う?』
 唐突に、アポロンは暁に問う。
 あまりに突然だったために、暁は面食らうが、答えは決まっていた。
「仲間の——」
 と、言いかけて、暁は言葉を止めた。
 その言葉は適当じゃない。もっと、自分らしい言葉があるはずだ。
 そう思って、暁は言い換えた。

「——友達のためだよ」

『……ふっ、プロセルピナみたいなことを言うな、お前は』
 アポロンは笑った。とても神話と呼ばれるような、大仰な者とは思えない、普通の笑みだった。
『いいだろう、合格だ。ドラゴ大王に託した俺の力、今のお前たちなら、その力の本質を感じることができるはずだ』
 アポロンの姿が、どんどん揺らいでいく。
 今にも、消えてしまいそうなほどに、淡く、ゆらゆらと。
「あ……」
「アポロンさん……っ」
 暁とコルルは思わず手を伸ばすが、その手が彼に届くことはない。
 消えゆく中、アポロンは告げる。
『俺は、お前たちを信じる』
 そして、彼は、太陽の如き明るい火をもたらす。
『コルル、暁。お前たちに、俺の神話の力を託す。そして、コルル』
「はい……!」
『お前には、枷を外そう』
 パキン、と。
 どこかで、何かが外れるような音が聞こえた気がした。
『さぁ、行け。今のお前たちなら、どんなに高い壁であろうと乗り越えられる。どんなに強固な守りでも、打ち砕ける。お前たちが、お前たちの光を放つというのならば、それはあらゆる万物を超越する、輝く太陽となるだろう』
 だから、
『お前たちの熱き意志を、陰気な光の小娘に見せつけてやれ』
 最後にアポロンは、微笑んだ。
 太陽の光を残して——



 気づけば、暁は神話空間の中にいた。
 先ほどまでの、太陽のように赤く燃える場所ではない。
 目の前にはシールドが、手元には手札が、真下にはマナが、両横にはデッキと墓地が、それぞれあった。
 そしてずっと先には、一人の少女。
「——まだ……?」
「え、あぁ、うん。ごめん……」
 どのくらいこうしていたのだろう。彼女は痺れを切らしたかのように催促し、思わず普通に応答してしまう。
 だが、それでいいのかもしれない。自分は普通で、彼女もまた、普通の少女なのだから。
 そんなことを思いながら、暁は手札に残るたった一枚のカードを繰る。
「……《コッコ・ルピア》でコストを2、下げて、6マナで《竜星バルガライザー》を召喚。そして——攻撃」
 暁はデッキに手をかける。
 あたたかい。めらめらと燃えているような、それでいて勇気を与えるようなぬくもりがある。
 さっきの空間での出来事を、アポロンとの邂逅を思い返す。
 そして、彼女はその手に力を込めた。
「コルル……行くよ!」
「おぅ、暁!」
 彼女の呼びかけに、コルルは答えた。
 そして、一体の龍が飛翔する。
「《バルガライザー》の能力発動! 山札の一番上を捲って、進化でないドラゴンをバトルゾーンに!」
 迷いはない、不安もない。自分を、仲間を信じて、彼女はカードに呼びかけるだけだ。
 龍の咆哮がデッキに、彼女の心に響く。
 そして、

「進化——」

 暁の先へと、突き進む。
 勝利を刻むように。
 世界を創るように。
 歴史を残すように。
 武装を為すように。
 彼女は前へ進む。
 すべてを照らし、あらゆるものに輝く希望を与える。
 神話の太陽のように。
 彼女は——暁の太陽となる。



「——メソロギィ・ゼロ!」












 炎が晴れる。
 そこにあるのは、漆黒の翼。
 強靭な肉体。
 そして、仲間と共に戦う、受け継がれた神話の力。
 かの者は《太陽神話》の継承者。
 かつての神話にはなかった黒翼を羽ばたかせ、灼熱の太陽となりて、輝きを放つ。
 そう、かの者こそは——



『——《太陽神翼 コーヴァス》!』